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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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新婚旅行の場合 29

 ダブル記者会見は一見すると粛々と進んでいた。国王の長年の片想いとついに実った恋という美談として話はまとまりつつあった。そしてリツの額が光り始めると、結婚式の日取りと懐妊の話題になり一気にお祝いの雰囲気は加速した。問題はストラスの方だった。


「エストリエさんが異世界でご懐妊との噂は本当ですか?その際にルイさんとはすでに結婚する意思があったのでしょうか?」


 記者の質問にストラスは苦笑した。


「あぁ本当だよ。異世界にいたときルイは少年だったから、元々は結婚するとかそういった話ではなかったんだ。最初はルイを悪魔に変えて魂と肉体を所有する契約を結んだ。でもそのうちにエストリエが妊娠して…ルイとの関係性も徐々に変わっていった。悪魔になって俺の子どもが欲しいと言うルイの希望を叶えたくて最終的にはエストリエと三人で話し合ってルイを第二夫人に迎え入れることにした…」


「エストリエさんも納得済みで第二夫人に迎え入れたということでよろしいのでしょうか?それは本当ですか?」


 記者の女悪魔は実は第二夫人で第一夫人との仲は険悪だった。妻の座の権力争いは苛烈を極めることも多々ある。ストラス国王補佐官の言葉はにわかに信じられなかった。この場合、悪魔の男は知らないだけで女同士は水面下で争っている場合も多い。そこのところをハッキリさせねばと彼女は思った。


「私はルイのことが好きで、ルイにならストラスを任せても大丈夫だと思ったから、むしろ私から第二夫人にならないかと持ちかけたわ」 


 エストリエは微笑んでそう答える。記者の悪魔はとても奇妙な物を見るような目でエストリエを見返した。本当に?とその目は疑っていた。


「私、おかしなこと言ったかしら?私とストラスとルイは…共にいることが当たり前になっていて家族の愛情は先にあったのよ。だからもっと繋がって本当の家族になりたいとルイも望んでくれた。だからルイは魔界に来てから女の子に変わったわ。可愛らしいでしょう?私、ご存知だと思うけれど元々が吸血鬼だから、大好きな人の血は飲みたいの。ルイの血もストラスの血もとても美味しかったわ」


「ルイさん、それは本当なんですか?」


「えっ?あ、はい。本当です。仲良しなのも本当です」


 ルイは頬を染めて恥ずかしそうに答える。なぜかその様子に記者の悪魔は苛立ちの表情を浮かべた。アルシエルが記者の表情を見て口を開く。


「ルイはリツとも良き友人でいてくれて、たまたまストラスとエストリエとの間にも愛情が生まれた。それだけのことだ。何もわざわざ事態をややこしい方に持っていく必要はない。世間一般的に一夫多妻の場合、第一夫人と第二夫人以降の夫人の不仲が多いと言われているが、何事にも例外はある。エストリエとルイはその例外だ。現に私も第二夫人以下の夫人はこの先も不要と考えている。リツのお腹の中に新しい命も宿ったことだし、国王の妻としては申し分ないと思っている…これもまた例外と言えば例外だろう」


「ですが…彼女の転生前の身分は天使だと伺っていますが」


「あぁ、だから何だと言うのだ?彼女は無実の罪で堕天使となり、天界で起きた火事で翼も焼けてしまった。今現在堕天使たちの管轄は魔界に譲渡されて私の手の中にある。元天使フィランジェル司令官の魂も全てだ。元天使でも悪魔の子を授かれば天界には戻れない。それは昔から変わらない。彼女もまた私の子どもを望んでくれた。私は彼女の望みを叶えた、ただそれだけのことだ」


「リツさん、そうなのですか?真実がもしも別のところにあるのならば…本当の胸の内を明かして下さい…」


 リツはやれやれと思った。けれども口を開こうとした次の瞬間に身体が光って女性の姿のフィランジェルが姿を現した。銀の髪の美しい女性に記者の悪魔はポカンと口を開ける。まぶしいと思った。


「あら、ごめんなさい。あまりにも疑われるから転生前の姿に戻ってしまったわ。私の心は天界にいたときから、すでにもうアルシエルのものだったのよ?だから彼の子どもが欲しいと思った。堕天したのは冤罪だけれど、気持ちの上で言うなら堕天しても仕方のない罪だったのかもしれないわ。だって私は悪魔に心を奪われてしまったのだから…」


 フィランジェルはそう言うと立ち上がって隣のアルシエルを抱きしめる。アルシエルも彼女の頭を抱き寄せて唇を重ねた。シャッター音が鳴り響く。


「彼女が私を愛しているのは紛れもない事実だ。それでも彼女が私を裏切っていつか天界へ行くとでも思っているのなら、随分と逞しい想像力だと褒めてあげよう…そろそろお開きにしないか?腹の子も魔力を欲しがっている。父親が誰かちゃんと分かっているんだ」


 アルシエルは立ち上がるとフィランジェルを抱き上げた。そのまま口付けを交わしながら国王と王妃は退場する。


「ルイ、行きましょう。私の子は欲張りだから、ストラスとルイの両方の魔力を浴びると喜ぶのよ?いつもは魔力が足りてるから光らないのに、会見が長引いたから光ってきちゃったじゃないのよ。もう…」


「エストリエ、魔力をあげるよ」


 わずかに光った額を抑えたエストリエのお腹にルイが手を当てると本当に光が和らいで消えた。記者の悪魔はポカンとする。第一夫人に魔力を与える第二夫人など聞いたことがない。


「本当に…懐妊されていたのですね…」


「あら、失礼ね。王妃を探している間に色々あって私も悪魔に変えてもらったのよ。元々が戦闘要員の吸血鬼だからって私に生殖能力がないなんてどこの誰が言ったのよ?」


「額が光らないのは俺がマメに魔力を与えているからだよ。腹の子は大食いなのか、放っておくとしょっちゅう光ってエストリエの仕事の邪魔をするんだ。時空管理官は目を使うから額が光ると支障が出るんだよ。でもこういうときは、職場が同じっていうのは魔力が与えやすくて助かるな。君は第一夫人から嫌がらせを受けてるのか?だったら婚姻関係相談課にその胸の内を一度打ち明けてみるといい」


 ストラスは名刺を記者の方に飛ばす。


「それを持って窓口に行くといいよ。年中無休で開いてるから、不規則な仕事終わりでも立ち寄れる。自分の境遇を変えるのは案外その勇気ある一歩だったりするんだよ。ルイは一歩どころか何歩も踏み出して俺の元にやってきた。エストリエと一緒に大事にするつもりだよ」


 ルイとエストリエはストラスの両腕に手を絡めると仲良くその場を後にする。三人の打ち解けた様子と安定した魔力の気配から本当に信頼し合っているのが伝わってきて、記者は自分の結婚生活との差を見せつけられるような気持ちになった。


「お前、随分と攻撃的な質問してるからヒヤヒヤしたけど…陛下も結婚して丸くなったし…補佐官も失礼なことを言ったのに怒らなかったよな…って、おい、どうしたんだよ」


 同業者の悪魔は、彼女の目から流れた涙に気付いて慌てた。ポケットからハンカチを出す。少しシワシワになっていたが使ってはいない。


「疲れてるんじゃないか?結婚して…仕事も続けられて幸せだったんじゃないのかよ…あぁ、撤収作業はこっちでやっとくからお疲れ様」


 彼は同僚に声をかける。彼は魔力を使って機材を片付けて小さなカバンに収納する。持ち運びやすいサイズになるまでにさほど時間はかからなかったが、気付けば二人きりになっていた。


「私…結婚することにばかり気を取られて…偉い人の第二夫人だから…大丈夫って…思ってたツケが回ってきたんだわ…本当に愛されなきゃ…意味がないのに…」


「…俺でも良ければ話くらい聞くよ?婚姻関係相談課に顔を出しにくいなら…ついてってやる…」


 いつもライバル視していた相手から予想外の言葉をかけられて彼女はポカンとした。


「だって…あなた、奥さんは…?」


「あぁ?いつの話してるんだ?こんな不規則な仕事してたら愛想尽かされてとっくに離婚したよ。そりゃそうだよな。記念日だって一緒に過ごしてやれねぇんだ…そのときも婚姻関係相談課の世話になったよ…」


「私、記念日なんて気にしない…それに彼は第一夫人としか記念日だって祝わないもの…子どもができちゃったから第二夫人にしただけ。激務で…結局ダメになっちゃったけど…魔力も貰えなかった…エストリエさんも忙しい仕事なのに…ちゃんと愛されてて…羨ましかった…」


「お前…魔力が貰えないのに…激務続きで…それで…身体は大丈夫なのか?」


 彼は一歩踏み出して記者の肩に触れると抱きしめた。彼も疲れてはいる。それでも身体も心もボロボロな自分よりはマシだと思った。


「…ったく…調子狂うなぁ…あの強面の国王陛下が天使と濃厚なキスなんかしてるのを見たせいか…弱ってる同期を見ると柄にもなく優しくしたくなったりしてさ…補佐官も言ってたしな。勇気ある一歩が自分の境遇を変えるって…」


「勇気ある一歩か…私…離婚しようかな…」


「おう…こっち側に来い…それに職場が同じ方が魔力は与えやすいっていうのには俺も同感だな。王宮勤めの悪魔に聞いたんだが、各階に個人的に過ごせるブースがあってそこで魔力を与え合ったりもできるらしい。王妃は会議中に魔力の相性の良い悪魔を選ぶのに出席した悪魔の膝から膝に移動してたとか…ストラス補佐官とも親密な様子だったらしいよ」


「…どっちにしても、羨ましい話ばかりだわ…」


「疲れてんなぁ…少し肩の力抜けよ…愛なら…まぁ…当てがなくもない」


「…誰?」 


「俺だよ、今の旦那より魔力は少ないけど、愛に関してはまぁ自信がある。何年の付き合いだと思ってんだ…」


「えぇ…癪だなぁ…でも…ありがと。少し…疲れちゃった…」


 彼女は彼の肩に額を当てると小声でつぶやいた。

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