表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

182/193

新婚旅行の場合 21

 やがてダンタリオンは出勤の時間になり穏やかで人当たりの良い副校長の顔に戻ると王宮から出かけていった。出て行く直前までケビンに何度も口付けをして愛を交わし合っていたとは思えない豹変ぶりだった。それは紛れもなく学生に信頼されている副校長の顔付きで、ケビンを執拗に貪っていた相手とは乖離(かいり)していた。ケビンはその現実を目の当たりにしとても奇妙な感覚を味わった。急に静まり返った部屋でケビンは裸のままベッドに横たわりしばらく呆然としていた。気だるく甘い朝の名残が部屋中に感じられる。たった一夜で女の姿になり相手に初めてを捧げてしまった。ようやく一人になって自分を見つめ返す時間が訪れると、どうかしている、としか思えなかった。ぼんやりしていると、不意に扉をノックする音が聞こえた。やっとのことでかすれた声を出すとルイが軽食を片手に部屋に入ってきた。


「ケビン…陸に打ち上げられたマグロみたいだよ?って言っても実物なんか見たことないから完全なる比喩だけどね。それにちょっとした感染症にでもなったみたい。ダンタリオン先生の方が陛下よりもたくさん所有印を残すタイプだったんだね…すごいや」


「言ってろよ…あー喉も腰も痛ぇ…マジで底無しの性欲なんだよ…あんな穏やかな見た目でさ。猛々しいったらない…詐欺だよ」


 ケビンは寝転がったままで言う。別にルイには今更隠すところはないと思う反面、美少女姿のルイにこんな醜態を晒しているのは男としては不本意だと思う自分もいた。


「それは奇遇だね。僕も生理で腰まで痛いんだよ。早くケビンも生理になんないかな。そしたら生理中のあるあるトークで女子会ができるのに。とりあえず何でもいいから服着てよね。目のやり場に困るよ。まずは換気だね。この部屋…媚薬の匂いがすごいよ。もしかして…部屋にあるの全部使ったの?うわーよく無事だったね、ケビン」


 ルイは空になった瓶を木製の扉の奥に隠されていたリサイクル用の回収ボックスに入れる。しばらくするとまた同じ媚薬一式の入ったものが現れた。やけに手慣れていると思ってまじまじと見ているとルイはストラスが全部実演して見せてくれたと言った。ルイは窓を開ける。少し風が入ってきて部屋の中に残っていた重く甘い匂いが次第に消えてゆく。ルイはテーブルに軽食を置いて椅子に座ると何やら謎のドリンクを飲み始めた。ケビンの好きな卵サンドもある。ケビンはバスローブを羽織ると、卵サンドに手を伸ばして頬張った。何かを言いかけたルイは一瞬口を開いて諦めたかのように微笑んだ。


「今のうちに食べて寝ておかないと、またオールの勢いなんでしょ?朝もお腹に入れたの血のみだし。あんまり他の悪魔が魔力を流すと嫌がりそうだからって、ストラスが特製ドリンクをくれたから寝る前に飲みなよ…」


「はぁぁ…ルイってやっぱいい女だよな…」


 ケビンが言うとルイは上目遣いに少しケビンを睨んだ。


「他の悪魔に抱かれておいて何言ってんの。それに言うほど悪い経験でもなかったんでしょ?実際のところどうなの?」


 ケビンは妖精だと言われたら信じてしまいそうな透けそうで透けない軽やかな布地の重なったドレスを着た美少女姿のルイを見返した。


「その可愛い見た目で猥談しに来たの?なんかギャップがすんごいな」


 ケビンは卵サンドをぺろりと完食する。


「まぁね。気にはなるし。その卵サンド美味しいよね。味も鶏の卵とほとんど変わんないから…」


「ルイ…?」


 含みのある言葉にケビンはたった今食べた卵が何だったのか聞きたくない気分になった。


「だってケビンったら、説明する前にモリモリ食べちゃうんだもん。僕も食べたけどさ。羽化したらでっかい蝶になるみたいだよ」


「……」


 ケビンは無言のまま、ストラスの特製ドリンクを飲み始める。何が入っているのかまったく分からないが美味しかった。この際味が良ければそれが何なのかは気にしない方が良さそうだ。飲み終わったケビンは何となくいつもの習慣で歯を磨く。隠し扉の向こうに洗面所とシャワーが設置されていた。ついでに身体を洗って新しいバスローブを着ると気分はマシになったが、鏡に映る自分の姿に絶句する。全身に鬱血した跡が点々と散っていて、ダンタリオンの魔力の気配を放っていた。


「早くベッドに入った方がいいよ?」


「なに焦ってるんだよ…ん?」


 ケビンは急に眠気を感じた。ルイがケビンを支えてベッドに押し込んで布団をかける。いつの間にかシーツも布団も新しくなっていた。


「ケビンと猥談も楽しそうだけど、体力回復が優先だよ。汚れたシーツも布団もベッドの下にシューターがあって放り込めば回収してくれて新しいのが出てきて設置されるシステムだから。便利だよね」


「ルイ…あのシーツ……見たのか?」


 ケビンはとても気まずそうな表情になる。


「別に気にする必要ないよ。僕だってあんな感じだったし。でもケビンも昨日の夜は本当にただの女の子になってたんだなって思った…それに、媚薬使い切って朝までコースだった割には汚れてない方だと思うよ…ほら、もう限界でしょ?おやすみ、ケビン」


 ルイはケビンの髪を撫でて魔力で乾かした。炎の精霊の力は使い方次第で程よい熱を利用してドライヤー代わりにもできる。元は精霊の力を悪魔になってそんなことに使うのは本当にしょうもない使い方をしているようにも思えたが、ルイも自分の魔力の使い方を模索している最中なのだった。ケビンはすでにもう深い眠りに落ちている。ストラスの特製ドリンクは眠りの質を向上させてその間に身体の回復を図るものだった。ルイはゴミを分別して入れると静かに部屋を出た。



***


 

 部屋を出るとストラスがいた。と言ってもシトラス・オレンジがもっと若くなったような姿で彼を国王補佐官のストラスと結びつけて考えられるのは、よほど彼のことを知っているアルシエルくらいだろうと思った。


「どうだった?効いたか?」


「うん、今はぐっすり夢も見ない深い眠りに落ちてるよ?」


「ルイは寝なくて大丈夫なのか?」


 ストラスはルイの腰に手を当てると魔力を流す。


「それよりも、ほんとに一部分裂してて大丈夫なの?」


「あぁ…向こうの記憶を山程持ってても、そこまでこっちの会議では使える訳じゃないからな。こっちはオフにしたよ。一応は俺らだって新婚旅行なんだからさ。エストリエは今更魔界を観光したって珍しくもなんともないから、ルイに新婚らしいサービスでもしてこいだってさ。いい女だよな」


「エストリエは間違いなくいい女枠だと思うよ?僕もさっきケビンに言われたけどさ?」


「…ルイ…ケビンのこと…本当に大丈夫か?」


 不意に真面目な顔をしたストラスに頭を撫でられる。ルイは首を傾げた。


「うん?そうだなぁ…多分、大丈夫だけど、最近はずっと一緒にいたから、いないとすごく変な感じはするよ?ダンタリオンさんの気配もすごいし。今のケビンとはちょっとキスはできないかな。リツならできるんだけどなぁ…それってやっぱり相手が許容してるから?ダンタリオンさんのは、今は触るのも許さないって感じ。ケビンを支えただけなのにこれだもん。やんわり微笑みながら首を折ってきそうな気配がするんだよね…」


「ルイも気配に敏感になってきたじゃないか。いい傾向だよ。今日はルイが元気なら魔界の動植物園にでも行こうかって思ってたんだよ。陛下…じゃなかった、シエルとリツさんも一緒にダブルデートするから、その前にルイにも魔力を流すとするか…あーどこも埋まってんなぁ。さすがに無人のとこはないか」 


 ストラスは片手でスマホをチェックしてからルイの手を引いて階段を降りた。そして少し先にある緑の空間にルイを連れてゆく。王宮はあちこちに緑化されたスペースがあって、そこで数人の悪魔たちが打ち合わせをしていた。ストラスが手をかざすと扉が開いて、中の数人が振り返る。


「あー気にしないで続けて」


 ストラスがルイの手を引いて通り過ぎると、誰だ?という顔付きで猫化の動物顔をした悪魔は首を捻っていたが、上司と思われる不機嫌なアルシエル並に仏頂面の悪魔は何かを見て急に慌てた表情になった。ルイは振り返って室内に使用中のランプが点灯しているマップを見つける。恐らく生体認証で誰が使っているか分かる仕組みになっているのだろうと予想した。新たに点灯したランプの色が金色に光る。ルイはその下の文字がまだ読めないが、恐らくストラスの名前なのだろう。ストラスは一番奥の部屋に入ると扉が自動的に閉まって空間と一体化し、そこはもう完全に森の中だった。


「不思議なところだね…会議でも使うんだ」


「あぁ。森の方が過ごしやすい悪魔もいるからな。その辺に座っても寝転んでもいいよ」


「え?どの辺?」


 言っている間にストラスの手によってルイは芝生の上に横たえられる。ストラスはルイの頬を撫でると両手に指を絡ませた。両手からストラスの魔力が流れ込むのを感じている間に顔が近付いてきてキスされた。ルイはしばらく夢中になってストラスと舌を絡めていたが、近くで別の悪魔たちは仕事中なのに、と思った途端にここで自分はこんなことをしていていいのだろうか、と恥ずかしくなった。


「急に照れてどうした?声を上げても聞こえないから心配するな」


 そういうことじゃない、と言おうとして開いた唇をまた封じられる。ルイを悪魔に変えたのがストラスだからなのか、ストラスの魔力はルイにとってはとても受け入れやすく馴染みがあって安堵する感覚だった。先ほどダンタリオンの異質な魔力に触れたことでルイは更にそれを実感していた。


「ストラスの…魔力は…気持ちいい…」


「そうか?」


「うん…」


「しばらく気持ちよくなってな」


 ストラスは微笑むとルイを抱きしめて自分も横になる。ルイは本当にストラスと二人きりで森の中にいるような気分を味わった。頭上の木々から葉擦れの音が聞こえ、時折風が吹いて木漏れ日が芝生を煌めかせていた。ルイは小さく頷くと、ストラスの腕の中でそっと目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ