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ジーン&リツの場合 11

「うわーすごーい!広い!」


 ストラスの車で一緒に帰宅したルイはハイテンションで家を見回していた。


「おかえりなさいませ」


 黒木が一礼する。


「いいなぁリツはこんな素敵な家に住んでるんだね」


「まだ片手で数える程度しか住んでないけどね…」


「おかえりなさい。あら可愛い子。お姉さんと遊ばない?あ、私の名前はエリーゼよ」


 金髪にピンクの瞳のエストリエがルイの顎に人差し指で触れる。ルイは顔を赤らめて固まった。


「エストリエ、誰でも彼でも誘うな。あぁ…これは俺の妻だ。こっちでの名前はエリーゼ」


 ストラスが苦笑する。


「ねぇ、交換条件はどう?あなたの血を飲ませて。そうしたら私の魔力を分けてあげるわよ?」


 クスリと笑ってエストリエはルイの頬に音を立てて口付けをする。ルイは赤くなって固まっていた。


「だってリツを食べたら怒る人がいるでしょ?私だってたまにはストラス以外の若い子の血も飲みたいわよ」


「なんだよ、俺をジジイみたいに…」

 

 ストラスが眉をピクリと上げる。


「大丈夫?ルイ?」


 リツがぼんやりと動かないルイの顔を見ると急に顔色が悪くなっていた。さっきまでは赤かったのに青褪めている。


「ジーン、ルイが本当に魔力切れ起こしてる!」


 リツは不意に思い出して制服のポケットから医務室で貰った小瓶を取り出す。


「これ…使える?」


 ジーンに聞くと頷いた。


「ルイ、飲んで!」


 蓋を開けて渡すと、ルイはやっとのことでそれを受け取り口に含んだ。エストリエが額に手を当てる。徐に顔を近付けて首の辺りの匂いを嗅いだ。


「少し横になった方がいいわよ?ひょっとして…あなた…食事制限でもしてる?成長期なのにあなたの匂い…栄養が全然足りてない感じがするわ…」


「昼も…お肉…食べてなかったよね。ルイはベジタリアンなの?」


 リツが思い出して言うとルイは首を横に振った。


「…これ以上…大きくなると…ダメって言われたんだ…それで…なんとなく抵抗を感じるようになっちゃって…」


 小さく呟いてルイは顔を覆った。



***



 やがて夕飯の時間になった。様々な料理が並ぶ。


「自分の好きなものを食べていいのよ?」


 エストリエがルイを促す。ルイは頷いたが、やはり皿に取るのは野菜だった。エストリエが皿に鶏ハムを取って、ナイフで切り分ける。フォークに刺してルイの口元に差し出した。


「はい、あーん、ってして」


「え?」


 開いた隙間に素早くエストリエは鶏ハムを入れる。


「これはヘルシーだから太る心配もないし大丈夫よ」


 ルイは口から出す訳にもいかずモグモグしていたが飲み込んでため息をついた。


「おいしい…」


「ホラ、リツくらいにモリモリ食べなさいよ。リツもまだまだ細いけど…」


「一日一食生活だったから仕方ないよな」


 リツに向かってジーンが言うと、いい食べっぷりだったリツは頬を膨らませた。


「四十九区の生活なんて、一区に来た悪魔には想像もつかないとは思うけど、自活してる転生者なんてみんな似たり寄ったりだと思う」


「冷蔵庫はほぼ空で電気も水道もガスも切れて…街灯の明かりで照らされたワンルームだったな…」


 ジーンのつぶやきに、ルイは目を見張る。


「うわぁ…壮絶…」


「食事が終わったら風呂で隅々まで身体を洗ってやる。どうせその手の傷だと洗いにくいだろう?」


 平然と言い切るジーンの言葉にリツは慌てて首を横に振る。


「だっ…一人で大丈夫だからっ!」



***



 断ったはずなのに何故こうなった…と、リツは左手を水につけないようにしながら、泡風呂に浸かっていた。完全に弄ばれている気がする。リツが明るいと恥ずかしいと言ったせいで少し薄暗く設定した浴室は何やら逆に間接照明によって怪しいムードが漂う空間と化していた。同じ風呂にジーンが浸かって寛いでいる。


「何故そんなに離れてるんだ?何もしないからこっちに来い」


 チラリと振り返ると筋肉のついた引き締まった腕や胸が視界に入る。


「む、無理…」


「まったく…」


 水音と共に背後にジーンが近付いてくるのが分かった。リツは可能な限り細くなって浴槽にへばりつく。


 浴槽から出した左肩から腕に向かってジーンの掌が触れてきた。ゆっくりと撫でられる。右手が腰に触れて、リツは固まったままバクバクと鳴る心臓の音を意識していた。


「リツ…そう固くなるな。楽にしろ」


 背後から耳元で囁かれる。


「だから…そう言われても緊張するから…無理っ!」


 ジーンに背中を見せたままリツは勢い良く浴槽から立ち上がる。不意に鼻の中にピリピリした違和感を覚えて指で触れると血が垂れてきた。


「あ…血…」


 そこからはもうバタバタで慌てて身体の泡を流して、ジーンに右手で鼻を押さえるように言われた。


「少しうつむけ」


 恥ずかしがる間もなくバスタオルで身体を拭かれる。バスローブで身体を覆い抱きかかえられた。そのまま二階の寝室に運ばれる。運悪く二階の浴室を使ったルイが出てきて鉢合わせしてしまう。呆気に取られた顔と目が合った。


「ちょっと…のぼせただけ…」


 聞こえたかどうか。寝室に入ると椅子に座らされる。バスローブはかろうじてかかってはいるものの左手は怪我しているし右手は鼻を押さえているので自由が利かない。


 ティッシュ片手にジーンがやってきた。


「私が押さえるから手を離せ」


 右手を離すとすぐにジーンの指で圧迫された。何だか間抜けだなと思う。こんなタイミングで鼻血を出すなんて。


(いや、私ったら何考えてるの…?)


 これではまるで何かを期待していたみたいだ。ジーンは呆れているだろうか。うつむいているので相手の表情は伺い知れない。気まずい沈黙が続く。


「…そろそろ止まったか?」


 ジーンがそっと手を離す。鼻の下に添えられたティッシュは白いままだ。


「よし止まったな」


 ぽんぽんと濡れた頭に手をやってジーンは髪を乾かしてくれた。リツはようやくバスローブを着る。


「こっちの傷は魔力では治してやらないからな」


 左手人差し指と中指の擦り傷に高価な絆創膏を貼りながらジーンが低く笑う。


「少し怪我を大袈裟にしておいた方が、今野泉の本来の残忍さが浮き彫りになるだろう?」


 貼り終えると指を絡めながらそんなことを言ってくる。


「…悪魔な思い付き…」


 リツが呟くと嬉しそうな顔が近付いてきて唇が重なった。


「そろそろ…充電の時間だな…ゆっくりと昼の続きをしようか」


 ジーンはそう言ってリツをベッドへと運んだ。

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