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ジーン&リツの場合 10

「まず伊集院くんの件だが、君が本気で養子縁組の解除を望むなら、そこの暇人にも協力してもらって証拠を集めることも可能だ」


 ジーンはタブレットを操作する。


「ガブリエル、君のここでの名前は何なんだ?」


「そんなのないよ。喫茶店のしがないマスター。え、ひょっとして暇人って僕のこと?」


 はぁぁとジーンは呆れたように深いため息をついた。


「天界は身分の差し込みすらしないのか。動くときにある程度の身分がないのは不便極まりない。勝手にこちらで申請するぞ?立ってるものは天使でも使わせてもらう。カミリキト…と。お前に試験養育人としての資格も付与しておく。伊集院くんを一時保護できるように」


「ねぇ…フィランジェル、君の旦那さんはいつもこんなに仕事が早いの?」


 コーヒーを運んできたガブリエルが呆れたように言う。


「うん…そう…」


「はぁぁ…ん?一時保護って何?大事になってない?」


「僕は基本的にどこをほっつき歩いてようが放置なんだけど…金曜日は…家にいないとダメなんだ…」

 

 ぜんざいを食べ終えたルイが諦めたような笑みを浮かべる。


「罪深い札付きの転生者に反省を促すのが金曜日だから…」 


「一応元天界のそれなりにまともだった軍師としてのお前を信用して、しかるべきときには避難させるから、そうなった場合は子ども相手に変な気は起こすなよ」


「あぁ…悪魔に言われるとは実に心外だな。君だってこの子に色々してるんだろ?魔力切れのときはこの国の法とやらの年齢に応じた対応をさせてもらうよ。当たり前じゃないか」


「それこそ心外だな。私は天使ほど適当ではないから人の世に従った契約と合意の下で全て行っている。悪魔の方が契約好きなのを知らない訳でもないだろう。それに、適当過ぎる欲深い天使も何人か知っているから言ってるんだ」


 ジーンはタブレットの画面を変える。画面に三柱冬真の写真が表示される。ルイはハッとしたように顔を変えた。


「トウマは…今のトウマはやっぱり…別人なの?」


「憑依だな。異世界の別人が表に出てる。冬真もいるが…滅多に出てこないし、こちらが接触しようとしたら母親に拒絶された」


「トウマは…前は読書が好きで大人しくて…他人には打ち明けられない悩みも打ち明けてくれて…でも、その悩みに僕は上手いこと言ってあげられなかったんです。そうしたら突然人が変わったように活発な男子になっちゃって…」


「その悩みとは?他言はしないから教えてくれないか?」


 ジーンが言う。壮年の整った顔立ちの男性に見つめられて、ルイはためらった末に口を開いた。


「その…トウマは僕がこんな格好をしてるから…僕のことも女の子になりたい男の子なんだって勘違いしちゃって…トウマは自分の性別について悩んでいました。僕を仲間だと思ったのに違うと知って…ショックを受けたのかもしれないと思ったりもして…」


「なるほど。それで佐伯凛が出てきた訳か」


「やはり佐伯凛と話がしたいな…何かしらの理由をつけて医務室に呼び出すしかないか…」


「あの…入れ替わる前はトウマも医務室にもよく相談に行ってました…最近は行ってませんけど、別に先生の方から呼び出しても不自然ではないと思います」


 では何故医務室にその履歴が一切ないのか。ジーンは考える。前任者の元天使が消したか履歴を残さなかったかのどちらかだ。何か裏がありそうだ。


「なるほど。いい話ができて良かったよ。で君は今日どうする?このやる気のなさそうな天使の所で過ごすかい?それともうちに来るか?ガブリエル、端末は使えるのか?」


「この世界に何年いると思ってるの。それは一通り使えるよ。だいたい違法のだけど」


 しれっと言ってガブリエルがジーンと連絡先を交換する。変な構図だと思いながらリツはそれを見守る。


「ねぇ、女の人に聞いていいのか微妙だけど、リツって何歳なの?」


 ルイが言う。


「十八だよ。でも先週の金曜日に悪魔になったから、正直なところこの身体を含めて年齢とかもほぼ意味をなさなくなったと思う」


「えっ…金曜に…?もっと悪魔歴長いのかと思った…」


「堕天使歴は長いよ。五百五十年くらいらしい。金曜にパートナー契約のみと見せ掛けて魂も契約しちゃって悪魔になって…土曜日に婚姻届を出してきたばかりで…」


「結婚もしてるの!?」


 ルイが驚愕する。


「うん…一応…そういうことになってる。あぁ…今はリツ・フォスターなのか。変なの」


 リツはふわりと笑う。


「で、どうする?」


 ジーンが振り返る。


「夜も三十二区にいるってバレたら面倒なんだよね…一応そういう世間体だけは気にする養父母だから、学校にいる体でGPSを切ったままだとまずい…」


「じゃあ一区なら問題ないだろう。友人の家に泊まると連絡を入れておけ。名前を出して構わない。もうじき迎えが来るな。この路地には入れないから外に出よう」


 いつの間にかジーンは全員分の支払いも済ませていた。


「やれやれ悪魔と仲良く連絡先を交換する日が来るとはね」


 ドアの横に立ったガブリエルが手を振る。


「フィランジェル」


 突然手を引かれてリツはガブリエルの胸の中に飛び込んでしまった。


「悪魔になっても…君の魂は綺麗だね…不思議だ」


 リツの腰骨の下あたりからピシッと音がした。


「痛っ!」


 ガブリエルが飛び退く。


「痛いなぁ…もう。何をつけてるの?」


 先を歩いていたジーンが振り返ってニヤリと笑う。


「異世界の友人が結婚祝いにくれた贈り物…虫除けだ」


「えぇ!?酷いなぁ。そんな邪な思いなんてないよ」


「さて、どうだか」


 ジーンはリツを手招く。ちらりとガブリエルを見て会釈して、リツはジーンの方に駆け寄る。自然とその手を繋いで歩き出す悪魔の後ろ姿を見ながら、ガブリエルは銀髪のウェーブヘアーをかき上げた。


「何だか数百年振りに面白いことになってきたな…」 

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