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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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イチカ&樋口巡査部長の場合

 差し入れを持って行くと、きさらぎきりとはちらりと見て一瞬嫌そうな顔をしたが、中身を二度見してからニヤッと笑った。


「その辺の安い弁当かと思ったら違うんだ。いい匂いがするし、旨そうだ」


(せいぜい胃袋を掴まれるといい)


 そう思ってジーンは渡すとドアを閉める。苦手な食材は把握済みだ。廊下の会話が室内には全く聞こえないことを知らされたので、樋口巡査部長はホッとしていた。少し遅い昼食を食べようとしていると、どういう訳かランチをトレーに乗せた美少女が歩いてきた。樋口巡査部長は目を見張る。なぜかどこかで見たことのある顔だと思った。けれども相手の方も驚きの顔付きになってニコリと笑った。


「刑事さん、やっぱりめっちゃ美人だね。元天使ってみんなそうなの?あ、俺はイチカ。この家の居候」


 イチカはテーブルにトレーを置くと近くの部屋から椅子を出してきた。そうして隣に座る。


「一人で食べるとつまんないかと思って。邪魔だった?」


「そんなことないよ。ありがとう」


「俺さ、拾われてここに来るまでけっこう色々やらかしててさ、施設飛び出して…」

 

 アールは袖をめくって肩を見せた。樋口巡査部長はその鷲の入れ墨にハッとなる。


「あなた…銀の枝にいたの?それ…痛かったでしょう…」


「うん…その時は格好いいってバカみたいに思ってた。でも浅はかだったなって…過去の自分が嫌になるくらいには後悔したよ。やってきたことも含めてさ…」


 銀の枝はストリートキッズの集団の中では比較的統制も取れていて、ギリギリ犯罪に抵触するかしない線を攻めるところのある集団だったが、それでも少年少女たちの売春は後を絶たず、検挙しても検挙してもイタチごっこの繰り返しであることには変わりがなかった。


「今は…抜けたの?」


「うん…一応は。でもまだ探してる連中もいるかもしれないから、ここに(かくま)ってもらってる…刑事さんみたいにまともに働いてお金稼いできちんと生活してる人を見てるとすげーなって思う…」


 二人で彩り豊かなお弁当を食べながら樋口巡査部長はイチカの話を聞いていたが、イチカのような少年少女たちは他にもたくさんいて、自分が救えたと思っているのはほんの一握りの氷山の一角でしかないことも承知していた。そうしてこの家に匿ってもらえるのなら、この子は幸運な方と言えるとも思った。少女らしくお洒落もしているし肌の艶も良くて怪我もしていない。不意に階段を上ってくる気配がして、二人分の食事をトレーに乗せた金髪の美女がこちらを見て微笑む。


「あら、イチカここにいたの」


「うん、ハルは大丈夫?」


「えぇ。でも知らない人が多いと警戒するのか、部屋にいたいって言うから、私はハルの部屋で仕事をするわ。何かあったら来ても大丈夫だから。天使のお姉さんもお疲れさま。子どもの面倒をみるよりもワガママな大人は大変よね」


 美女は微笑んで去ってゆく。


「綺麗な人ね…」


 樋口巡査部長はつぶやいた。イチカはニッと笑う。


「美人だよね。この家で一番強いのはエストリエかもしれないって思うときがある。ハルって子もここのシェルターを利用中なんだ。まだ俺より小さいのに人生過酷だよ。俺も色々されたけどさ、タバコを押し付けられたり薬注射されたり…そこまで酷いことはされなかったからさ」


 ハルの養父母はすでに逮捕されていた。五十嵐警部から話を聞いて送られてきた資料も見たから樋口巡査部長も情報としては共有している。添付写真の画像には十三歳にしては細くて小さな少女が映っていた。そうしてイチカの顔を見て、どこか顔立ちが似ていることに気付く。それで既視感があったのだと思い至った。少女を見つけたのはガブリエルになっている。悪魔とまた何か関係があるのだろうかと思ったが、深入りは危険だとも感じた。自分は記憶を思い出して魔力も増えたが転生している以上、悪魔並みに強いかと言ったらそうではない。それに目の前の少女もどことなく悪魔の気配はするが、強いようには見えなかった。


「その子の養父母なら逮捕されたわ…出所して来たらもう養父母にはなれない…でも…」


「知ってる。そういう奴らが今度はストリートキッズを金で買うんだよな…一度味を占めたら、なかなか止めらんないってことも…多分薬と一緒なんだよな…」


 イチカは弁当を完食して、椅子を持ち出した部屋に消えると、どこからともなく食後のデザートにプリンとエクレアを二個ずつ出してきた。使い捨てのスプーンを添えて樋口巡査部長の前に置く。本当はこういったものは受け取らない決まりだったが、四角四面には守らないのが樋口巡査部長だった。


「やっぱり食後は甘いものだよなー珈琲飲みたいから取ってくる。飲むよね?」


「ありがとう」


 イチカは階下に消える。そのときドアが開いて、きさらぎきりとが顔を覗かせた。


「あーズルい、俺も食べたいそれ」


 樋口巡査部長の前のプリンを彼は指差す。仕方なく樋口巡査部長が渡すと彼はニヤッと笑って受け取って引っ込んだ。珈琲を持って戻ってきたイチカがプリンが一つ消えているのに気付く。ドアの方を指差すと、イチカは笑ってまたプリンを持ってきた。


「この家は甘い物常に完備されてるんだよね。プリンなんかちょっとしたお祝いの日とか、まとまったお金が手に入った日じゃないと買えなかったなー。あとはコンビニでバイトしてる奴から廃棄処分になるのをうまいこと渡してもらったりはしたけど…」


 イチカはプリンをすくって一口入れると幸せそうな顔をした。プリンもエクレアも食べ終わって珈琲を飲み始めてからイチカは言った。


「俺がプリン好きなのを知ってるのにさ、ソーシったら魔界の幼虫の卵で作ったプリンの話始めるの。緑とかカラフルなやつ。ほんと、そういうとこ、やっぱり悪魔なんだなと思うよ。俺も悪魔だった頃は食べてたはずなのにさ、鶏の卵に慣れちゃったせいなのか、昆虫って言われると何か嫌だなって思っちゃうんだよね。異世界転生って感覚もバグっちゃうんだなって実感してる」


「…プリンが作れるほどの昆虫の卵って…あぁ…悪魔と戦ってた頃に魔界で見たことがあるかも。言われて思い出したわ。猫くらいのサイズの羽が生えたやつ…」


 樋口巡査部長は思わず両腕をさすった。確かにラファエルだった頃はそれすら平然と退治していた。巨大なクモもいた。けれども今となってはゴキブリですら嫌だ。五十嵐警部に退治してもらっている。


「イチカちゃんの言うの分かる…記憶として思い出してはいても、今の感覚だと平気で向き合える気がしないわ…」


「そっか、元天使のお姉さんもそうなんだな…ちょっと安心した…」


 イチカは珈琲を飲んで笑った。可愛らしい悪魔だなと樋口巡査部長は思った。

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