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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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樋口巡査部長&俳優Kの場合

「あぁ、よく寝たわ」


 エストリエはストラスが誰かと話している声に目が覚めた。この気配は天使だと思った。ハルも目を開けていたが、エストリエにまだくっついていた。母親の温もりを知らない子なのだろうと思った。この世界の転生者は概ねそうだ。ハルが眠っている間にエストリエは記憶を操作した。子どもが覚えていていい記憶とは思えなかった。それでも殴られた記憶は残した。全て消し去ろうとすると(ひずみ)が出る。


「お客さん?」


 ハルは不安そうな顔をしてエストリエを見上げた。エストリエは微笑んだ。


「大丈夫よ。ハルを助けてくれた人だから」


 ハルはそれでもエストリエにくっついて不安そうな顔をしたままだった。ニンフが飛んでくる。ハルは起き上がるとニンフを抱きしめた。


「…私…ここから…またどこかに行かなきゃダメ?行きたくない」


「いきなりどこかに連れて行ったりしないから大丈夫よ。それに誰かに会いたくないなら、このままこの部屋にいて大丈夫。一人が嫌なら私はここで仕事をするわ」


 エストリエがそう言うとようやくハルはホッとした表情を浮かべた。年齢の割には少し幼い印象を受けた。パソコンを取りに行くとストラスの他に花咲もいた。ガブリエルはエストリエを見て人懐こい笑みを浮かべる。ガブリエルは花咲の肩を抱いていた。魔力を流しているのだと思った。


「今まで記憶が戻った子はいないはずなんだけどねぇ…でもよくよく考えたら、子どもには使ってないんだよね。よほど強烈にインパクトに残る体験だと無理なのかもしれない…」


 ガブリエルは空いている方の片手を見る。この手で記憶を全て消したつもりだった。リーの痕跡は執拗で暴力的だった。


「あの子さ…ヤバい注射されてたから…多分一回とか二回とかそんなレベルじゃないと思うんだ…だから注射器もトラウマになってるかもしれない。記憶は消してるけど、見たら思い出す可能性は否定できないよ」


 ストラスは苛ついたようにため息をついた。そのとき突然スマホが振動する。ちらりと見て、すまないと言ってストラスは席を立った。


「はい…はい…え?はぁ…いや…なんと言うか社長の安請け合いはある程度想定済みですけど…くれぐれもマスコミに嗅ぎ付けられないようにしないと、色々と厄介そうですね…はい、了解です」


 戻ってきたストラスは、はぁぁと再び盛大なため息をついた。


「どうしたの?って聞いてもいい案件?」


「あぁ…別に…。ラジオパーソナリティもやってる毒舌キャラでおなじみの俳優で、きさらぎきりとって知ってます?どうやらまた殺害予告文が出たらしくて…。毎回みたいですね。前回もイタズラで今まで何も起こってません。で、今回も一応保護する予定のホテルがあったんですがワガママ過ぎて警察もうんざりしているところに、うちの社長がシェルター貸しますかなんて気軽に言っちゃって…今から担当の貧乏くじを引いた警察とうちに来るそうです…」


「あぁ…あの、ぶっちゃけトークしちゃってるあの人ね。主張は嫌いじゃないけど…万人受けはしないよねぇ…」


「え!?きさらぎきりとが来るんですか?本当に!?ホンモノ?」


「あら、楓ちゃんひょっとしてファンなの?」


 ガブリエルが笑う。


「私、あの人の死にたがり探偵のドラマ好きだったんですよ。毎回死にそうになるのに、ギリギリのところで死ねないってあの演技が…」


「コミカルな演技するよね。でもワガママなのかぁ。面倒起こさないといいけど」


 ガブリエルは花咲に魔力を流し終えると帰ってゆく。ついでに注文していたらしい料理を人数分置いていった。ストラスに好きなのを選んでいいと言われて花咲が迷っていると、玄関の方で物音が聞こえた。不機嫌を通り越して無理矢理笑みを張り付けたような顔付きの主と貧乏くじを引いたらしい警官、そしてにこにこしている本物のきさらぎきりとが入ってきた。


「あ…!」


 思わず感動して口元に手を当てた花咲を見て、きさらぎきりとは破顔した。


「どうも、今日はお世話になるねー」


 そうして片手を差し出して花咲と握手する。けれども彼はしばらくして首を横にひねった。


「君、もしかして男?うわーいくら可愛くても女装してる男は無理!生理的に受け付けない」


 花咲は凍りついた。ストラスは嫌な予感がして反射的に花咲を引き離すと二階へ連れてゆく。花咲と宮森の寝室に入ると花咲はすでにどす黒いオーラを身にまとっていた。低い声で花咲がつぶやく。


「なんだアイツ…ちょっとでもファンだった過去の自分をぶん殴りたい気分だ…」


「ちょっと、花咲さん、男が出ちゃってるって!」


 これではせっかく補ったガブリエルの魔力が帳消しだと思って、貧乏くじを引いた人物の顔を思い出す。


「あとで天使を連れてくるから、ちょっとここで心を静めててくれ…何なら食後に冷蔵庫のスイーツでも食べてさ。ランチも今取ってくるから」


「…ロコモコ丼でお願いします」


「りょーかい」


 ストラスは部屋を出ると再び階下へと向かった。



***



 さて、その貧乏くじを引いた樋口巡査部長は常務が案内した部屋を見て、その辺のホテルよりも設備の行き届いた高級感溢れる内装に絶句していた。きさらぎきりとも満足気にベッドにダイブする。そうして笑いながら樋口巡査部長の顔を見た。


「刑事さんも一緒に俺と楽しもうよ。下手なホテルよりゴージャスだしさ」


「勤務中ですから、ご遠慮します。勤務中じゃなくてもご遠慮しますが」


「もう、俺一人だと眠れないんだけど…」


「そんなの、知りません!」


「まぁまぁ、刑事さんも困ってしまいますから、戯れはその辺にお願いします」


 常務は微笑みを絶やさずに告げる。これ以上手を煩わせるようなら、しばらく気絶させておこうかと思ったが、ようやく相手は引き下がった。


「仕方ないなぁ…」


「いいですか!前回のように居場所を特定されるような発信は絶対にしないで下さい!」


「分かってるよ。だいたいスマホも取り上げられたのに無理だってば」


 きさらぎきりとはニヤニヤ笑う。樋口巡査部長は大きなため息をついた。とりあえず部屋にはスクリーンもあるし、各種映画やドラマも見放題となっていて退屈はしないようにしていた。ドアを閉めて常務と共に部屋を出た樋口巡査部長は頭を下げた。


「ありがとうございます。助かりました」


「いや、君を指定してくる辺り明らかに女好きだし、まともに構っていたら日が暮れる。とりあえず廊下にソファーとテーブルを置いておいたから、座って休むといい。各部屋の窓は防弾ガラスだし開閉不可能にしてある。侵入者のみならず部屋から勝手に出てどこかに行こうとしても警報システムが作動するので問題はない」


 樋口巡査部長は再度頭を下げた。


「正直なところ…ホテルも前回の件もあって部屋を貸すのにもあちこちから渋られまして…ランクを下げたら下げたで文句を言われて…八方塞がりだったんです。本当にありがとうございます」


「いや、何か必要なものがあったら言ってほしい。昼も食べていないだろう。リビングにガブリエルの料理があったから、好き嫌いがなければ何か持ってこよう。彼にも…必要だな…」


 樋口巡査部長はそう言われてお腹が減っていることに気付いた。


「何から何まで…本当にありがとうございます」


 樋口巡査部長は細かい所にまで気配りのできる相手に感動しながら頭を下げた。

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