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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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ジーン&リツの場合 48

 ジーンは仕事の合間にリツを覗きに行った。リツは眠っていた。無防備でどこかあどけない寝顔を見ながら、ジーンはそっと髪を撫でて魔力を流した。


(守るための手段は選ばない…)


 ジーンは思った。可能性は低いとはいえ自分に何かあった場合でもリツさえ助かればいいと思った。そうして自分がいなくてもリツが生きる道を選んでくれるならそれでいいとも思った。一方で何を弱気になっているのかと思う自分もいる。


「アルシエル…?」


 不意にリツの目が開いて、彼はリツが自分を見つめていることに気付いた。考え事をしている間にアルシエルの姿に戻っていたらしい。


「起こしてしまったか?」


 リツは首を横に振る。そうしてリツはふわりと微笑んで手を伸ばした。


「夢を見たの…子どもが…出てきた…私も…アルシエルの子どもを産みたいって思った…エストリエみたいに…」


 その言葉はあまりに唐突でアルシエルは驚いてリツの顔を見つめてしまった。


「リツ…?」


「私…変なこと言った?本当は前々から思っていたんだけど…なかなか言えなかった…アルシエルは…子どもは苦手?」


「いや…そんなことは…ただ…リツはまだ若いからまだ楽しみたい時間もあるんじゃないかと思っていたんだ」


 むしろ彼はリツが妊娠しないようにかなり気を付けていた。欲望に任せて抱いているようでいて、その辺りはきっちりと己を律していた。


(私がいなくてもリツが生きる道…?子どもがいれば…リツはより生きる選択をするか?)


 突然浮かんだ今まで避けていた選択肢が浮上して彼は動揺しつつもそれを受け入れた。他ならぬリツが望んでいるのだ。彼はリツの頭を撫でた。


「分かったよ…リツと私の子どもなら、きっと可愛いだろうな…」


 彼はアルシエルの姿のままでリツに口付けをした。細い腕が伸びてアルシエルの肩に絡みつく。


「リツ…愛してる…」


 アルシエルは囁いた。



***



「あらあら、どうしたのリツったら。身体は大丈夫?」


 しばらくして少し赤い顔でリビングに現れたリツに向かってエストリエは微笑んだ。仕事も一段落してエストリエはリビングのソファーで麦茶を飲んでいた。


「うん…大丈夫。ジーンが魔力を流してくれたから…」


「そうなの。良かったわね」


 エストリエは微笑む。リツはキッチンで麦茶を少し飲むとエストリエの隣に座った。エストリエはリツの肩に手を回す。リツはそっとそのもたれかかった。


「そのわりには顔が赤いけど?何かいいことでもあった?」


 リツは小さく頷いた。そうしてそっとエストリエのお腹に手を当てて撫でた。


「ジーンの…子どもが産みたいって…言っちゃった」


「あら、私の影響?」


「ううん、それだけじゃないけど…でも、少しは影響されたのかも…」


 まだ触れても分からない。でもここに命が宿っていると思うと不思議だった。


「それで?何て言ってた?」


「分かったって…二人の子どもならきっと可愛いだろうなって…」


「良かったじゃない」


 エストリエはリツの頭を撫でた。リツは頷く。


「ストラスは…何て言ってた?その…妊娠してるって分かったときに…」


「どうだったかしら?」


 エストリエは思い返して小さく笑った。


「あの人…すごく困ったような…照れたような顔して…おめでとうって言ったの。でもごめんとも言ってた。悪魔になって間もないこのタイミングで私に負担をかけるからって。子どもができたことは嬉しいけど、大変なのも分かるからって」


「そうなんだ…そっか、そうだよね。夢の中に子どもが出てきて…思わず言っちゃったんだけど…簡単なことじゃないもんね…」


「だから魔界じゃ一人目の出産で大変だった悪魔の女性は、次は男になって夫に赤ちゃんを産んでもらって出産の痛みを共有することもあるのよ?性別を自由に変えられるから…同性のカップルで子どもが欲しい場合もどちらかがその期間だけ性別を変えて産むこともあるわ…」


「えー!?」


 リツはジーンが女性になっているところを想像できなかった。少女のライラになってしまう。ということは自分が男性になるということか。そこまで考えてリツは思考が停止した。ジーンを抱く?想像がつかない。


「魔界に行ったら、ルイは女の子になってストラスの子を産んでみてもいいかも、なんて言ってたわよ。私の胸を触りながら」


「えっ…ルイがそんなことを?でも私も何気なく胸を揉まれたから、それはちょっと想像がつく…」


 リツの言葉にエストリエは吹き出した。


「ストラスに夢の中で抱かれたルイはリツの胸を再現してたらしいわよ?触り心地を再現するのに確認したのかしらね?」


「え…それはちょっと…ルイったら…何やってるの…なんか恥ずかしい…」


 リツは自分の胸を見下ろしてから横目でエストリエの豊満な胸を見た。


「エストリエの胸を再現すれば良かったのに…」


「バランスの問題みたいよ。大きければいいってもんじゃないわ」


「それでも…ストラスが…私の胸を見たみたいで…ちょっと恥ずかしいじゃない」


「気にし過ぎよ。それに私はリツの胸も好きよ」


 エストリエに触られてリツは赤くなる。そのときリビングのドアが開いてストラスが入ってきた。


「おっ…って、エストリエ、何をしてるんだ?」


 エストリエは微笑んでリツの胸を触り続ける。


「リツの胸もいいわよって話よ?可愛らしくて食べちゃいたくなるわ。我が君だってそう思ってるわよ」


「リツさんが困ってるだろ…あんまりやり過ぎると主に叱られるぞ?」


 そう言ってリツを見たストラスの様子がどこかいつもと違う気がしてリツは違和感を覚えた。


「リツも赤ちゃんが欲しいって言ったんですって。そのうち妊婦仲間が増えるかしら。楽しみだわ」


 エストリエはリツを抱きしめて笑う。けれどもストラスはなぜかとても驚いた顔をしてリツを見た。


「リツさん…そうなんですか?」


「え?あ、うん…言ったけど…」


「それはつまり、王妃としての役目を果たすという意味になります。リツさんの場合は…世継ぎを残すという…」


「う…うん…?そういうことに…なるのか…」


 ストラスの言い方に何か引っかかりを覚えたがリツは頷く。


「それで、ですね…その場合…その…つまり子作りをする期間は、主以外との男性と会うことは一切禁じられます…物理的に…」


「え…?」


「ストラス、その話はいい。そんな前時代的な決め事は議会で廃止に持ち込む」


「ですが…そう簡単には…」


「あの…ジーン、ちゃんと説明してくれる?」


「…魔界のしきたりなんだ。すまない。王妃の妻が子をもうける場合には、物理的に…夫である王以外には足を踏み入れることができない部屋に実質軟禁状態にされる…その期間は夫以外には会うことができない…あまりに馬鹿げた話だから言えなかった…この世界でそんなことを実施する意味がどこにある?私とリツの子だとの証明が必要ならDNA鑑定でもすれば済む話だ」


「そう…なんだ…ごめんなさい、ジーン…簡単に…子どもが欲しいなんて言っちゃって…そっか、よく考えたら国王陛下だもんね。私の方が王妃って自覚がなかったんだ…」


 ジーンは足早に歩いてくるとリツを抱きしめた。


「いや、リツがそう言ってくれて私は嬉しかったんだ。それは本当なんだ。だから、少しだけ待って欲しい…」


「うん、分かった。ありがとう、教えてくれて。私

…知らないことばかりだね。少しずつ魔界のことも教えてほしい。ジーンにふさわしい王妃になりたいから…」


 リツの言葉にジーンはホッとしたが、軽くストラスを睨んだ。余計なことを言ってしまったとストラスは慌てたが、それでも国王の補佐官の仕事を忘れてはいないからこその発言だった。時折主は魔界のしきたりを簡単に破ろうとしてしまう。主にそれはリツに関することで度々起こりかけたが、正式な王妃として発表するならば、最低限守らねばならない手順があるのも事実だった。もう一つ言ってはいないが、魔界の王宮に申請した期間外にもうけた子は世継ぎとは見做されない。それは男女の性を自由気ままに変えることが可能な魔界ならではの決まり事でもあった。王妃としての役目を果たす者はその部屋にいる間は姿を自由に変えることもできなくなる。そして一度始めたら懐妊が分かるまでは部屋から出ることも不可能になる。ルシフェルの母となった悪魔はもう二度と経験したくないと言って、ルシフェルの兄弟を望んだ国王を拒絶した。そのくらい王妃に精神的負担をかけるものだとストラスは知っていた。変えたいと言う主の気持ちも分かる。が、主の意向一つで動かせない物事が存在するのも事実だった。ストラスは国王ではないから、エストリエの懐妊についてもそれほど大事にはならなかったが、逐一報告をしなければならないのは変わらなかったし、ルイがこの先本気でストラスの子を産む気があるのなら、第二夫人として正式に届け出を出す必要もあった。異世界にいることで、曖昧に済ませていた部分もある。だがいずれ魔界に帰ることを考えるなら、筋を通しておかねば後々厄介な事態に陥らないとも限らない物事も存在している。先手を打てる部分は確実に打っておきたいのがストラスだった。


「それじゃこれから少しずつ魔界についての勉強会でも始めますかね…イチカだって全部を思い出した訳じゃないですし、成瀬くんだって魔界についての知識はない。猫サイズの虫の話で真っ青になってましたし…」


「それ…やっぱり本当なの?猫サイズの虫って…それはもはや虫じゃない…」


 リツがジーンの腕の中で脱力する。


「王宮内には出ないから安心しろ。それに、そのうち見慣れる」


「…そうかなぁ…」


 リツは自信なさげにジーンの顔を見上げると情けない顔をした。

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