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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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ニンフ&少女の場合

 リーの顛末(てんまつ)を報告されたジーンは思わず渋い顔をしてニンフを見てしまった。ニンフは気まずそうにシャワシャワと小声で鳴いて青い目を伏せた。ジーンとしては、もう少し泳がせてリーと繋がっている異世界の悪魔を把握したかったというのが正直な気持ちだったが、ニンフの見た状況を共有したジーンはなぜニンフが命令以外のことをしたのかが分かってしまい、彼女を責めることはできなかった。


「で…どうするんだ、拾ってきた少女は」


 ガブリエルは口に残っていたみたらし団子を飲み込んだ。そうして玄米茶をすすりながら肩をすくめた。


「だって、置いてくる訳にもいかなかったしさ」


 本日の天使と悪魔の饗宴(きょうえん)は和菓子がメインだ。黒糖まんじゅうも美味しかった。目の前の悪魔は甘党だ。そう思いながらもガブリエルは塩豆大福に手を伸ばす。どこから取り寄せたのか分からないが旨い。


「だったら、拾った責任を取って引き取るのか?」


「いやぁ…正直なところ、色々とこじらせてる六季でも手一杯よ?」


「無責任だな…」


 悪魔はお茶を飲んで一口サイズの草餅を口に入れた。あんこも好きらしい。悪魔は肩の上で項垂(うなだ)れているニンフの口に丸い飴のような物を差し出した。ニンフは掌からペロリとそれを食べてシャワシャワと鳴いた。悪魔はニンフの頭を撫でる。目を細めたニンフの顔は嬉しそうにも見えた。使い魔というよりはペットのようだと思って、ガブリエルはそれを見ていた。


「それこそ…慈善家の暮林夫妻の出番なんじゃない?それに、あの子…僕の勘が正しければ…見えてるよ?」


「は?」


 そのとき、別室にいたリツがドアを遠慮がちにノックして顔を覗かせた。ガブリエルが微笑む。ジーンは舌打ちしたいのを我慢してリツの顔を見た。


「ジーン、あのね…ちょっと…あの子目が覚めたんだけど…目玉ちゃんはどこ?って聞かれちゃって…ニンフのことだと思うんだけど…」


 ジーンは勝ち誇ったような顔つきのガブリエルを見てため息をついた。確かに天使の勘は当たっていたようだった。



***



 その少女はすぐには名前を名乗ろうとはしなかった。けれども、リーの近くで様子を窺っていたニンフのことは覚えていた。記憶を消したはずなのに、ニンフのことは消えなかったらしい。ガブリエルは自身の記憶操作術を初めて疑った。そんな訳はないと思ったが、現に目の前の少女はニンフを忘れてはいなかった。


「私が痛くて泣いていたら…床から目玉ちゃんが出てきてなぐさめてくれたの…最初は幻覚かなって思ったんだけど…違う気がして。青いキレイな目玉ちゃん…どこに行っちゃったの?」


 ジーンは再びため息をついた。リーでも気付かなかったのに、なぜこの少女には見えるのか。仕方なくジーンは別室に置いてきたニンフを呼び出した。


「君が目玉ちゃんと呼んでいる者には、ニンフという名前がある。できれば君の名前も教えてほしい。この先どうするかについても話さなくてはいけないからね」


 ジーンの言葉に少女は怯えた表情を浮かべる。けれどもニンフがパタパタと飛んで少女の側に行くと彼女はニンフを抱きしめた。


「あぁ…良かった。やっぱり幻覚じゃなかった。ニンフって名前なんだね。可愛い」


 細い手がニンフを撫でる。ニンフは大人しく撫でられるままになっていた。気持ち良さそうに目を閉じる。およそペットとして認識するには可愛いという感覚からはかなり懸け離れた見た目だと思っていたが、この少女には可愛いものとして映るらしい。


「助けてくれてありがとうございます…私の名前は…ハルです」


「ハルちゃんは…何歳かな?」


 ガブリエルが聞くとハルは一瞬口ごもったが小声で答えた。


「十三歳です…養父母のところから…逃げてきました…」


「おやおや、それじゃあセラヴィ株式会社の案件じゃない。一次避難シェルター」


 ガブリエルが笑う。ジーンは嫌そうな顔をしたがいつも持ち歩いている名刺を少女に向かって丁寧に差し出した。ハルは驚いた顔をして名刺を受け取った。


「私はこういう者です。株式会社セラヴィの異世界転生対策本部、転生撲滅推進課の常務のジーン・フォスター。よろしければお話を伺って、養父母にされた虐待について話してもらえますか?ハルさんも転生者ですね?」


 少女はニンフを撫でながらこくりと頷いた。



***



「僕、ちょっとやり過ぎちゃったかなぁ?」


 ストラスに寄りかかったルイは不安そうにストラスを見上げた。


「いや。悪夢としてはいい出来だったと思うよ」


「…でも…その…リーって奴…死んじゃったんでしょ?」


 ストラスはルイの頭をげしげしと撫でると少し乱暴に片腕で抱きしめた。


「ルイが殺ったんじゃないよ。リーに乱暴された子がサバイバルナイフで刺して、乱暴されるのを見て怒ったニンフが最終的に心臓をぶち抜いたんだよ。要するに女子を怒らせると怖いって話だ」


「ちょっと…怒ったくらいで私は心臓ぶち抜いたりはしないわよ?でもあの穏やかなフルミリエがそんなことをするなんて…ちょっと驚きだわ」


 ベッドで横になっていたエストリエの言葉にストラスはニヤリと笑って空いた方の手でエストリエの頭を撫でる。


「普段は優しい奴の方が怒らせると怖いってのはあるだろ…俺もエストリエの優しさに甘えてるからな…」


「僕も甘えよーっと!」


 ストラスの手から逃れたルイはエストリエの隣に寝転がるとピタリと寄り添う。


「あらあら、ルイったら赤ちゃんになるの?よしよし」


 エストリエに頭を撫でられたルイはまんざらでもなさそうな顔をして、不意にエストリエのお腹に触れた。


「ここに…赤ちゃんがいるんだよね…」


 ルイは優しくお腹を撫でる。


「そうよ?不思議?」


「そりゃあね。だって僕は産めないから…」


「あら?」


 エストリエは急にクスクスと笑い出した。笑いながらストラスを見上げる。ストラスは片方の眉を上げた。


「…なんだよ?」


「あなた、教えてないの?」


「…必要ないだろ…」


「そんなの、分からないじゃない。あのね、魔界に行ったら男性の姿にも女性の姿にも自由に変われるでしょ?ちゃんと生物学的に正しい女性の姿になれば、ルイだって子どもを産むことは可能なのよ?」


「…え?そうなの…?」


 ルイは驚いてそう言って、不意にストラスの顔を見つめた。何を想像したのかだいたい想像のついたストラスは、思わずルイの真っ直ぐな瞳から目を逸らしたくなったが踏み留まった。


「まぁ…そういうことだよ。でもお勧めはしないぞ?出産は大変だからな。妻に出産を交代しろと言われて渋々ながら引き受けたインキュバスがつわりでゲーゲー吐きながらめちゃくちゃ後悔してたからな…」


「そうなんだ…でも、一回くらいなら経験してみてもいいかな…そうしたら女の子の大変さも分かる訳だし」


「…ルイ…殊勝なこと言いながらその手はなぁに?」


「あ、ごめん、つい…大きさの確認というか…女の子になるときに参考にしようかなと思って」


 ルイはエストリエの胸から慌てて手を離す。エストリエは笑いながらルイを抱き寄せてストラスを見上げた。


「この可愛い小悪魔をどうしようかしら…ちょっと味見しちゃおうかな…」


 エストリエはルイの首筋に唇を寄せるとゆっくりと血を飲み始めた。ルイはうっとりとした表情でエストリエの髪を撫でる。ストラスはエストリエとルイの満たされた表情を見ていたが、この状況にとても満足している自分がいることに気付いて心の片隅ではわずかに動揺した。床からケビンが遠慮がちに顔を出したのでストラスは無理矢理引っ張り出して、動揺を隠すかのようにわしわしとその頭を撫でた。


「わ!なんだよ、急に」


「うん?別にいいだろ。たまには」


「あー…まぁね」


 気味悪がられることの多かったケビンはケビンで、悪魔たちに触れられることに最初は違和感を感じていたが、最近はようやく慣れてきたことに自分でも気付いていた。何よりも痛いことや酷いことをされないのは楽だった。再生するからと言って痛みがない訳ではない。わざとケビンを壊すような品のない遊びを、この悪魔たちはしない。ストラスの膝に頭を乗せてケビンがニヤリと笑うと、大きくて優しい手が頭を撫でる気配がした。


「うん…悪くないな…」


 ストラスの魔力も慣れると心地良い。自分を傷付けない強い悪魔の側で眠るのは悪くなかった。ケビンは安堵して目を閉じた。

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