表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/127

社長&ラウムの場合

 程なくして四人の使い魔は初めて王妃と対面することになった。並んだ四人を見て主は不審そうな表情になった。


「…その姿だとまるで私がリツに嘘をついたようになるではないか…黒木の仕業か?気の利き過ぎるのも困ったものだな。まぁ、いい。久方ぶりだな」


 主の隣に立つほっそりとした少女を見たラウムの最初の感想は、悪魔になっても元天使は天使なのだな、という妙な感慨に近いものだった。自分ならあまり近くにいると変な影響を受けそうで、できれば近寄りたくない。感覚としては自分の魂が薄汚いものだと突き付けられるような透明さに気後れがするような感じだった。フルフルは上気した顔でぼんやりとリツを見つめ、ネビロスは何を考えているのか伺い知れない無表情になって固まっていたが、恐らく彼は今、感激しているに違いないとラウムは思った。何しろ主の追い求める天使が本当に実在したのだから。一つ目から二つの目の視界に慣れない様子のマゴトは相変わらず目を瞬いていたので、主が手を振って片目に眼帯をつけた。


「マゴト…無理をするな。楽にしろ」


「申し訳ありません…」


 四人の使い魔の紹介が終わったところで、ストラスとエストリエが現れた。見知った顔にラウムはホッとする。だがその後ろから何とも奇妙な二人組が現れて、ラウムは再び何者かと身構えた。


「お、久し振りだな。なんだよ。随分と人間らしい格好しちゃって。その気になればなれるんだな」


「筆頭使い魔のせいですよ…」

 

 ネビロスがため息混じりに伝えるとストラスは笑った。そうして、後ろの金髪の少年を紹介する。


「こいつはルイ。そろそろリツさんの使い魔に仕立て上げようかと思っているところだ。元々は炎の精霊だな。フルフルはすでに顔見知りだろ?夢の領域で」


「あールイルイ!」


「…その、呼び方止めてよ…ってフルフルなの?」


 フルフルはツインテールの少女姿のままルイに近づいてハグをした。花咲に化けて戯れに秋村の指を食い千切って見せたのはフルフルだった。小物のくせに女を食い物にしていたあの男が悲鳴を上げて、これまで弄んできた女の顔をした獣に寄って(たか)って復讐される様は滑稽で楽しかった。発案はルイだ。なかなかに悪魔的発想で面白い。


「フルフル、なにその可愛い格好。せっかく来たなら、また尻尾の炎を見せてもらおうと思ったのに」


「それは、また今度ね」


「こいつはケビン。ダンピールだ。こいつも悪魔にするかどうかについては保留中だな。何しろ悪魔並みに再生力が強い。何なら下級悪魔よりも…な」


「ケビンとルイルイは付き合ってるの?でもルイルイからはストラス補佐官の気配もするわ…」


 フルフルが悪気なく尋ねるので、ストラスは苦笑するしかなかった。


「ルイを悪魔にしたのは俺だからな。ケビンはまぁ…途中でうっかり拾ってきてしまった感じだから、ルイとは仮契約ってところだな」


「ふぅん、ま、いいわ。どっちもいい男だし、王妃さまの使い魔には遜色ないんじゃないかしら」


 フルフルは笑ったが、ラウムの方は思わずエストリエの顔をちらりと見てしまった。ダンピールと元吸血鬼の悪魔が近くで平然としているのは、見ているラウムとしてはどうにも落ちつかない。戦闘の激しかったエストリエの故郷の探索の際にはラウムも同行していた。だからどれだけ両者が相容れない存在だったかは見ていて知っていた。


「ラウム、ここは異世界だからな。吸血鬼はほぼ存在しないしダンピールだって恐らく同じくらい珍しい存在だ。だから互いが生存を賭けて争う必要もないんだ」


 主に思考を読まれてラウムは恥じ入る。エストリエは微笑んでいた。この余裕は何なのだろうと思っていたら、主が再び口を開いた。


「エストリエは今ストラスの子を身籠っている。今後は戦闘要員としてはカウントしないことにした。それもあって君たちを呼び寄せたんだ。それはそうと…そろそろ…社長が会社を覗きに行く時間だな。まったく、土日も無関係に気軽に働いている部下の顔を見に行くのだから困ったものだ、ラウムついて来なさい」


 指名されたラウムは居住まいを正す。ついにこの時間が来てしまったと思った。ストラス補佐官と楽しげに談笑する仲間を背に、ラウムは主と王妃の後ろからついてゆく。リビングに入ると、会いたかったような会いたくなかったような相手の姿があった。小柄な少女と口付けを交わしていた相手が顔を上げる。少女の方も驚いたようにこちらを見て目が合った。


「…ラウムなのかい…?」


 姿は変えているが確かにルシフェルの気配がするとラウムは思った。その近くに控えているのは黒豹の使い魔のハウラスだ。こちらも姿形がまったく違う。お互いに緊張が走ってラウムは動けなかった。先に動いたのはルシフェルの方だった。


「ラウム!!すまない。本当に…あんな別れ方をしてしまって、申し訳なかった」


 ルシフェルは頭を下げると大股にラウムに歩み寄り彼を抱きしめた。こんなことで騙されるものかと思っていたラウムは、けれども久々の元主の魔力に包みこまれて、身体から一気に力が抜けてしまった。生きていた。もう会えないかと思っていた。


「…そちらに…いらっしゃるのは…ひょっとしてリリスさま…なのですか?」


 ラウムは混乱していた。リリスが突然行方をくらました当初はルシフェルに嫌気が差して出奔したとの噂も流れていたし、他の悪魔が攫ったとも、他の悪魔を誘ってリリス自らが消えたとも、まことしやかに様々な憶測で魔界は溢れかえっていたからだった。


「そうだよ…僕は…リリスに捨てられた悲しみのあまりハウラスに走って共に異世界に逃れた…そういう話で広まるように…あの日…君を騙したんだ…君を利用した。あえて一番最低な噂を広めてもらうために…本当は…リリスを探しに行きたかった、ただそれだけだったんだ。でもそんな理由で玉座から簡単には離れられないのも分かっていた。僕はアルシエルのように有能じゃないから、あのとき同時進行は無理だと、簡単に諦めてしまったんだ…」


 その日、おかしな時間に人づてに呼び出されたとラウムは思って、主の執務室に行ったところで、彼はその現場を目撃してしまった。主とハウラスはふしだらな行為に没頭しており、ラウムが入ってきたことにも気付かなかった。ようやく彼に気付いた主は慌てふためき、ハウラスがそれを抱きしめるようにして異界への扉を開いた。強引に開いた裂け目に彼らは吸い込まれるようにして消え失せた。あっという間の出来事だった。ラウムは見たままを駆け付けた他の悪魔に語った。


「それじゃ…あれは…嘘だったんですか…?」


「ごめん。君が傷付くだろうことも分かっていたのに、僕は君に嫌な役を押し付けた」


「謝罪はラウムにだけなんですか?僕だって相当嫌な役を押し付けられた気がしているんですが」


「あぁ悪かったよ誠司。僕が君の好みではないことは分かっていたんだけどね」


 大して悪いとも思っていない素振りでルシフェルは謝りハウラスこと宮森誠司はため息をついた。


「…だいたい…僕が断ったらラウムにその役を押し付けると言うから仕方ないじゃないですか。ラウムは愛の逃避行の方がしたかったですか?おまけに異世界の扉を開いたら予想外のところに飛ばされて魔力どころか記憶まで失うし…ま、本当に大変でした」


 ハウラスの言葉を聞いたラウムは自分がルシフェルを攫って逃げるところを想像してみたが、うまくいかなかった。やはりハウラスでなければ周囲を騙せなかっただろうと思って首を横に振った。それに。


「ラウムなんだな?本当に?」


 近付いてきた少女もラウムを抱きしめる。


「リリスさま…大変お久しゅうございます。リリスさまは…ルシフェルさまを…見捨てた訳ではなかったのですね?」


 ラウムの言葉にリリスは笑った。


「俺以外にこいつの面倒を誰が見れるっていうんだ?それに、これだけ懐かれて異世界にまで探しに来るんだ…可愛いところもあるじゃないか」


「俺…?なんだかリリスさまは…昔とは少々話し方が変わりましたね」


 ラウムの言葉にリリスは眉をひそめた。


「…今さら、ワタクシ、なんて言ったら気持ち悪いんだよ。この世界ではイチカとして生きてたからな。誰もワタクシなんて言わねーんだよ」


 何やら元魔王の妻は、豪快な話し方になってしまったとラウムは思ったが、懐かしい魔力に触れてどこかホッとしてもいた。主が消え去り魔界に取り残されて右往左往していたルシフェルの使い魔をとりまとめたのはアルシエルだった。彼は不本意ながらも玉座に座り、一人残らず自身の配下に置いた。掠め取ろうとしていた他の悪魔の介入を許さなかった。


「社長…今日の外出にはラウムを同行させて下さい。使い魔が二人いればさすがに異世界の悪魔が来ても対応できるでしょう」


 アルシエルが告げる。そうしてラウムに向かって言った。


「今はまだ契約を反故(ほご)にはできないが、いずれは解放して元に戻す。君さえ良ければまたルシフェルの使い魔に戻るといい。正直なところ使い魔が多過ぎて中には暇を持て余して、魔界で事務職に転向してしまった者もいるくらいだからな。有能だからそれはそれで良かったのだが…」


「ありがとうございます。それではきっちりと使い魔の役目を果たしてきます」


「ちょっと待ったラウム!その格好で外をうろつくと悪目立ちするから、スーツに変えて!!」


 和装のままで家を出ようとするラウムに社長が慌てて声をかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ