ジーン&リツの場合 45
ジーンとゆっくりお風呂に浸かった後でリツは寝室にいた。一昨日のケンカの理由が理由だっただけに、昨日は抱きしめ合うだけで眠った。不意にデジタル時計の表示を見てリツは気付く。明日は休みだ。隣の悪魔は寛いだ様子でベッドに座ると、リツの腰に手を回した。
「そういえば、ルイはバスケ部に入ったようだ。体育の授業で試合をしていたら、スカウトされたらしい。サッカー部からも声が掛かったが、暑い外での試合は嫌で最終的にバスケットボールに決めたと言っていた」
「え?…全然…知らなかった…」
「まぁ…その…金曜は私たちの間で色々あって…翌朝は翌朝でカメムシ騒動があったし…。ルイとケビンの関係を進めることにしたのは部活動を始めたからでもあるんだ」
「そうだったの…?」
リツはケビンの働きに対する褒美だとしか思っていなかったので、少し意外だった。
「激しい運動をすると、知らず知らずのうちに魔力を使ってしまうことがある。ケビンは言ってみればそのストッパーだ。ルイにあまりに常人離れした動きをされてしまうとまずいからな」
そこでジーンはなぜかリツに口付けをし始めた。そんなタイミングではないと思ったが、手を握って否定するほどのことでもないと、リツは受け入れる。ジーンはするりとバスローブの中の素肌にも触れる。
「ジーン…?」
唇が離れた隙に名前を呼ぶと彼は微笑んだ。
「今までのような口付けだけでなく…二人は更にこの先の関係にも進む…私とリツのように…ルイとケビンがそうなっても…リツは平気か?」
「…え?どうして…私に聞くの?だってそれは…ルイとケビン二人のことだから…私がどうこう言える立場じゃないよ…」
ジーンはリツをそっと横たえた。上から静かに重なって抱きしめる。
「ルイを使い魔にする…だから、ルイが誰と深い仲になるかについて…リツは管理できる立場になる…ルイと混ざって良い影響を与える魔力と、そうではない魔力…むしろ悪影響を与える魔力もある…ケビンがルイを安定させるかどうかは…しばらく慣らしてみるしかないが…」
「それじゃ…ルイの…気持ちは…?」
ジーンの与える刺激に飲まれそうになりながら、リツは途切れ途切れにつぶやいた。
「ルイはストラス以外には…今のところ特別な恋愛感情を抱いたりはしないよ。ただ今は…悪魔に変わったことで沸き起こる衝動を解消する必要が生じてきただけだ。要するにルイには日常のみではもう刺激が足りないんだ。ケビンもその辺りは納得している…ケビンは、契約と報酬で動く…見合っていれば問題はないようだ…」
「私…には…分からない…」
「うん?そうか?理解したくないだけだろう。この行為と愛情は必ずしもイコールで結び付いているものではないと…。愛がなくとも継承者を残す為に必要な場合もあるだろう…それに…ルイとの行為に愛情を示してやれるのはストラスだけだが…ケビンがそれを与えられるかはケビン次第…そうしてケビンが与えたからといってルイが享受できるかと言えば…必ずしもそうではない…」
悪魔は愛おしいという目付きでリツを見下ろしながらそんなことを嘯く。しばらく悪魔は押し黙るとリツとの行為に没頭した。リツは次第に快楽に支配されながらも、悪魔の言った言葉の意味を考えようとしたが無理だった。頭が働かない。わざと言ったに違いない、とぼんやりした頭の片隅で思った。リツがあまり思い悩まぬように。ただ情熱的にリツを煽っているのに、彼の頭の中のどこかは常に冷静なのだとも思った。思考を続けながらでも、悪魔はリツを悦ばせることができる。リツは悪魔の腕の中でとうとう自身の思考を手離してしまった。身体が勝手に痙攣する。そうしてその姿がフィランジェルに変わったのが分かった。
「アルシエル…」
赤く美しい瞳がフィランジェルを見下ろしている。天使の姿をした悪魔が白い腕を伸ばして悪魔の男を掻き抱いた。
***
その頃、ルイとケビンはストラスが見守る中、次の段階に突入しようとしていた。以前はルイが暴走しかかったので二人きりにするにはまだ危険だと判断した上でストラスが同席した。悪魔にはよくある話だが、ルイにとっては奇妙な感じがした。それはケビンも同感だったらしく、妙に照れた顔をしてルイの身体に触れていた。
「ルイ、もうちょっと太れよ」
「そんなこと言ったって…これでも最近は体重も増えてきたんだよ」
二人とも先ほどから無駄に言い合いばかりしていてちっとも進まない。何を見せられているのかとストラスは思いながらも戯れる二人の様子を笑いながら見ていた。とは言っても、ストラスが見ているのは彼らの姿そのものではなく魔力の質の変化だった。
「ルイ…そろそろ、本気で魅惑の力を使ってみろ」
ストラスに言われて、ルイはニッと笑うと急に可愛らしい顔付きでケビンを見上げた。
「ケビン…じゃあ…真面目にいくよ…」
「なんだよ、真面目って…」
言いながらケビンも切り替える。ふざけた調子が消え失せて意外にも真摯な顔付きでルイを見つめた。ケビンはケビンでダンピールの力を使っていた。獲物を狩るときの力だ。互いの力が拮抗してどちらを絡め取るのが先かと思ったところで、ケビンが折れた。
「無理だ…!それ以上流すなって!鼻血出る…」
ケラケラ笑いながらケビンはルイを抱きしめて唇を重ねると共にベッドに倒れ込んだ。笑いながら二匹の猫のようにじゃれつく二人を見ながらストラスは呆れる。友だち以上恋人未満の状況を楽しんでいるようにも見えた。
「ケビン、吸い取られ過ぎるなよ?流し過ぎないように少し閉じておけ」
「分かってるんだけどさ…ルイ!ちょっ…待てって!」
ルイはクスクスと笑いながらケビンの掌に指を絡めて、小鳥のようにケビンをついばむ。ケビンは身をよじらせて笑っていたが、次第に呼吸が乱れていった。ルイの唾液に含まれる成分が思いのほか効いてきたようだった。結局全て開放したままでルイのペースに飲まれたケビンの隣にストラスがやってくると腹の辺りに片手を乗せた。
「少し閉じるぞ…そのままだと、前回の二の舞だ」
素直に頷いたケビンはストラスに任せる。弛緩していた身体に力が戻る。ケビンはルイを抱きしめるとゴロリと転がって上になり少し怒ったような顔でルイを見下ろした。
「こら、また俺からしこたま吸い取ってヨボヨボのジジイにする気かよ」
「そんなつもりはないよ…でもケビンの魔力は美味しいんだ…クセになる感じ…?」
「…変わってるよな。ルイも。気持ち悪いって思わないのがさ…」
「閉じたから少し外すぞ。好きなだけ絡まってろ。俺だって、別にそこまで鑑賞する趣味はない」
ストラスはニヤリと笑って二人の頭を撫でると部屋を出てゆく。その背中を見送ったケビンはルイを抱きしめたまま、小さく笑った。
「なんだかんだで、あの悪魔も面倒見がいいよなぁ…」
「うん。最初からストラスは親切だったよ。アルシエルも…僕を助け出してくれたからね。あのまま…あそこにいたら…僕は…誰かを殺すか…自分を殺すか…してたから…」
ケビンは無言のままルイの頭を撫でた。ストラスとは違うがケビンも面倒見がいいと、ルイは思う。本人にそれを言ったら怒りそうなので口に出しては言わなかったが。
「ルイが死んでなくて良かったよ」
ケビンはそう言ってルイの顔を覗き込む。金髪に青い瞳は天使のようなのに、その本性は小悪魔だ。ケビンはアルシエルに言われた通りに、ルイにちょっとした刺激を与えることにした。やり過ぎないように慎重に。
「可愛がってやるよ。どうせ明日は休みだろ?」
「望むところだよ」
ケビンの宣言に、ルイは挑戦的な瞳でケビンの美しい緑の瞳を覗き込んで微笑んだ。




