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ジーン&リツの場合 6

 こんな日に限って体育はバスケの試合だった。ジャージを着たまま途中まで耐えていたが、ついに我慢しきれなくて脱いでしまった。動いているから大丈夫だろう。シュートを決めてルイとハイタッチする。ホイッスルが鳴り試合終了となった。


「リツ、上手いじゃん!」


 リツよりも長身のルイはけれども、突然首に腕を巻きつけてくっついてきた。


「…丸見えだよ…リツのパートナーって歳上?」


 耳元で囁かれる。


「こら、そこイチャつかない」


 体育教師が苦笑する。


「センセーそこは目の保養になるって言ってよ」


 ルイがふざけて言い返しながら、そのまま体育館の隅に移動してリツを座らせる。


「少し下向いてたら見えないから」


 ルイはリツの脱いだジャージを取ってくると、給水器から水まで持ってきてくれた。自分も飲みながら片方のコップを渡す。


「ありがと…」


 リツの水を飲む様子をルイは見ていたが不意に目を逸らしながら言う。


「僕が言うのもなんだけど、なんかリツって水飲んでてもエロいよね…」


 リツは思わず飲んでいた水を吹き出しそうになりギリギリで耐えて飲み込む。


「…どこが?」


「うーん。具体的にどこって訳じゃないんだけど、パートナーの気配がなんかすごい。あぁ、リツがってよりは向こうの牽制がダダ漏れなせいなのかな?これだって狙ってつけてるよね、キスマーク」


「…なんか、その点に関しては…ホントごめん…」


 確かに相手は悪魔だからどうこう言って理屈が通じるとも思えない。が、苦情くらいは入れてやろうとリツは思った。果たして聞き入れられるか。次の試合で活躍するトウマの俊敏な動きを目で追いながらリツは思わずため息をつく。気付けばルイもトウマを目で追っているようだった。


「前は…トウマと…仲良かったの?」


 リツが言うとルイは驚いたような顔でこちらを見ていた。


「いや、ロッカールームでルイの言ってたことが…ちょっと気になってそう思っただけ…なんだけど」


「リツってぼんやりしてそうなのに変なとこ鋭いよね。それってやっぱり転生前の影響?ねぇ放課後時間ある?今レトロ喫茶に嵌ってんの。付き合ってくれない?」


「うん…家の人に聞いてみてオッケーだったら、いいよ」


 調査のためならこのくらいは許可されるだろう。次に医務室に行くのは昼食後なので、ジーンに聞いてみようとリツは思った。



***



 体育の後の気怠い専科の授業を経てリツは学食へと向かう。音楽は何故か古い映像の鑑賞だった。半数以上が眠っていたが、オペラは面白かった。こちらの学食も会社同様のビュッフェ形式で食べ放題なのが有り難い。ワクワクしながら向かうとすでに混み合っていた。並んでなんとか料理を取る。どれも美味しそうだった。


「あ!リツ!こっちこっち」


 席を取っていたらしいルイが手を振ると周囲の学生がこちらを一様に振り返った。注目されて気まずい中、ルイのテーブルへと向かう。テーブルにはアサヒともう一人のクラスメイトがいた。名前は確か、一ノ瀬光輝だ。アサヒも大きいが彼は更に長身だった。クラスメイトの顔と名前は概ね把握している。


「リツ、意外」


 山盛りの皿を見てルイが笑う。そんなルイの皿は少量のパスタと山盛りの野菜サラダとフルーツとプチデザートで構成されていた。


「エネルギー効率が悪いからこのくらい食べてもすぐにお腹が減っちゃうんだよ」


 リツが言うと同じくらい肉で山盛りの一ノ瀬光輝が笑った。


「大食い仲間としても、よろしく。俺はコウキ。ごく一般的平均的な家庭出身」


「コーキは特待生なんだよ。頭いいの。転生組でもないしね。金に物言わせる親に放り込まれた僕とは大違い」


 ルイはサラダをつつきながら言う。食べ方は綺麗だ。


「また、そういうことを…」 

 

 アサヒが苦笑する。


「だってそうじゃん。富裕層なんてペットを飼うのと大差ない感覚で見た目と知能指数で転生者を引き取るんだよ?ねぇ!それより、リツのパートナーの話聞かせてよ。何歳?性別は?パートナーになったのはいつ?」


 キラキラした目でルイに訊かれ、リツは仕方なく事前打ち合わせした架空の設定を話す。


「五歳歳上の女性…パートナーになったのは…一週間前」


「それは実に羨ましいな…」


 何を妄想したのか、コウキが唐揚げにグサリとフォークを突き刺す。


「あーそれで…なるほど」


 ルイが勝手に納得してニヤニヤし始めたので、リツはスープを飲んでから訂正する。


「多分みんなが想像しているようなことはしてないと思う。多分…」


 言いながら途中から自信をなくしたリツにルイが追い打ちをかけた。


「でもキスはたくさんしてもらえるんでしょ?僕だってそのくらいはするし。あーあ、早く大人になりたいよ」


 青少年保護条例により、パートナー契約は十五歳から可能となってはいるものの、その内容は細かく定められていた。十七歳までは魔力を補うにしても経口摂取のみの許可となっている。要するにキス以上の行為は禁止だ。


「リツだってもうキスじゃ補えないから、医務室に行ってるんでしょ?必要な魔力量に応じて少しは臨機応変にしてほしいと思わない?」


 ルイはパスタを食べ終えてコーヒーを飲みながら言った。


「俺の横でその格好して、キスがどうとか何回も言うなよ…腹立たしい」


 コウキがモリモリご飯を頬張りながら横目でルイを睨む。アサヒは苦笑しながらきれいに魚を食べ終えていた。残った骨が標本のようだ。早食いのリツも食べ終わる。タブレットと連携した手首の時計が振動した。ボタンを押す。医務室へ行く時間の三分前だった。


「もうこんな時間なんだ。医務室に行ってくる」


 リツは立ち上がる。


「ホラ言ったばかりじゃん。リツも毎回大変だよね」


 ルイがコーヒーを飲みながら手を振る。リツは目についた個包装のバニラとココア味のパウンドケーキをポケットに入れると医務室へ向かった。

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