ストラス&ルイの場合 7
六季をゲストルームのベッドに寝かせたストラスは別室で眠るルイの元へと戻った。ストラスはルイの額に触れて目を閉じる。ルイは夢の領域で遊んでいた。
(悪夢の方はどうだ?首尾は上々か?)
夢の領域に悪魔の姿で降りてきたストラスを振り返ったルイは長い金髪で何故か少女の姿をしていた。ルイはクスクスと笑って何もない空間に大画面を呼び出す。途端に男性の泣き叫ぶ声が響いた。出来の悪い映画のようなアングルだが、逃げようとする男は鎖に繋がれて拷問されていた。それは昼間会社から逃亡した秋村だったが、ルイはその名前も知らなかった。知ることにはあまり意味がなかった。
(悪夢からは逃げられないのに、必死で逃げようとしてるよ。それにしてもアルシエルの使い魔もノリノリでびっくりしちゃった。途中まで僕がやってたけどさっき交替したんだ)
ストラスは何もない空間に大きなソファーを呼び出すと座ってルイを手招いた。ルイは空間を飛んできてストラスの膝の上に乗った。
(どう?どこか変じゃないかな?女の子としてって意味だけど…)
(なんだ?身体検査でもされたいのか?)
(うん)
ふざけて言ったのに嬉々として頷かれてストラスは苦笑するしかなかったが、言った手前何もしないのも悪魔としてはあり得ないと思い直して一気に服そのものを消し去った。
(えぇ?脱がしてもくれないの?)
瞬時に裸にされたルイは不服そうに言いながらも自分の胸の形を確認していた。
(ストラスの好きなサイズ感が分からなくて、リツのを参考にしてみたんだ)
ストラスは思わずむせ返る。確かにさっきソファーでどさくさに紛れて触っていたのは見たが、だからと言ってここで再現する必要性は全くない。
(…なんでリツさんなんだよ。エストリエならともかく)
(えぇ?だって、エストリエのはちょっと大き過ぎて重そうなんだもん。今のこの姿だとアンバランスかなって。こうしてみると胸ってけっこう邪魔だね…)
ルイは言いながらもストラスの肩に両腕を回す。小振りだが形の良い胸が密着してストラスは落ち着かない。当然のようにルイはストラスの唇にキスをし始めた。ルイの首にはストラスのつけた首輪が現れて、ご丁寧に細い鎖までがついていた。その鎖はいつの間にかストラスの掌の中にある。
(…お前は…まったく…夢だからって好き勝手に…)
(うん、夢だからだよ。女の子のルイにストラスは興味ない?)
(…なかったら、こんなことしてないだろ)
ストラスは囁いてルイを望み通りに押し倒す。視界の横の画面では秋村が、複数人に分裂してそれぞれ違う女の顔をした使い魔に寄って集って貪られていた。中には花咲の顔もある。秋村は自分が食い物にした女たちに文字通り喰われていた。花咲の口には食いちぎった指が一本ぶら下がっている。画面に血が飛び散り断末魔が響く。ストラスは画面を消し去った。ルイはすでにストラスしか見ていない。
(俺を誘惑する悪い小悪魔にはお仕置きが必要だな)
首輪の鎖を少し引くと、ルイは蠱惑的なため息を漏らした。
(ストラス…来て…僕をもっと…繋いで…)
これはルイの望む夢だ。あえて少女の姿を選んだのは、漠然と抱え込んだ不安を取り除くためのルイなりの着地点なのだと理解していた。恐らくルイが正気を保ち続けるためにも、その変化は必要だった。
(この姿は初めてだろう?あまり急かすな。夢の中でもルイを傷付け過ぎると、起きた後で俺がげんなりするんだよ)
(ストラスは夢でも優しいよね…僕は…ムツキには…僕みたいになってほしくないんだよ…こんなことしながら…言ってて矛盾してるけど…)
ストラスに抱きついたままルイはつぶやく。ストラスは静かにゆっくりとルイの中に入ってゆく。今は紛れもない少女だ。悪魔のくせに背徳感が過ってストラスは痛みに耐えるその顔を見下ろした。
(痛いのは嫌なのに…痛みがないと…不安になるんだ…僕の身体は…頭は…おかしい…?)
(ルイのその不安は伊集院家で洗脳されたせいだ。そのときの感覚がまだ抜けないからだよ…今はその鎖は俺が握ってる…)
少し強めに鎖を引くとルイはわずかに顔をしかめながらも、やがてどこかホッとしたような表情を浮かべた。魔力での拘束を少し強める。ルイは息を飲む。まだだと思った。この程度ではルイは満たされない。切り替えが必要だった。
(一人前の悪魔になって…使い魔になりたいなら…それまでルイの求める痛みには俺が付き合ってやるよ。気の済むまでな!)
まるでその言葉が合図だったかのようにストラスは残忍な悪魔の顔付きでルイを見下ろし本気で責め始めた。ルイは痙攣し悲鳴を上げた。苦しげに歪んだ顔を見下ろしながらストラスはあえて痛みの在り処を執拗に追求する。細い腰に爪を立てて血を滲ませ乱暴に絶え間なく責め立てる。
(もっと泣き叫べ!夢だからな。我慢するな!)
(っ…痛いっ!…ああっ!僕は…こんな風に…なりたくなんか…なかったのにっ!)
ストラスの腕の中でルイは仰け反り悲鳴を上げ続けた。快感よりも痛みが押し寄せる。ルイがそれを望んだからだ。ルイは苦痛に苛まれ泣き叫び無様な姿を晒した。ルイを激しく乱暴に抱いた後、ストラスは煙草に火をつけた。少し甘く苦い香りが仄暗い空間に漂う。今日の悪夢は長い。ソファーの上に点々と飛び散ったルイの血痕を見ながら、ストラスは憂鬱そうに長い髪をかき上げた。まったくたちの悪い夢だ。そっとルイの背中を撫でる。気絶したと思っていたルイの瞳がいつの間にか開いていた。
(…吸うか?)
ストラスが言うとルイはこくりと頷く。現実のストラスならこんなことは言わないだろうと思いながら、ルイはゆっくりと起き上がろうとして失敗した。力が入らない。身体に残る痛みまでがやけにリアルだ。顔をしかめると、ストラスの腕に抱き起こされた。渡された煙草を吸う。香りから想像したよりもクラクラする濃さだった。少しむせるとストラスが笑った。
(ここから先は俺の夢だ…)
無機質な景色が一変する。異国情緒漂う美しい部屋の中にルイはいた。髪は長いままだが少年の姿に戻っていた。ルイはストラスに抱き寄せられる。先ほどとはうってかわって優しく愛撫されながら口付けを交わしていると、どういう訳か奥の扉が開いて誰かが入ってきた。
(無粋ですよ…アスモデウス元帥…)
ストラスがルイを抱きしめてその顔を大きな手で覆った。目隠しされたルイは相手の姿を確認できなかったが、時折聞く名前だったので実のところは気になっていた。
(悪魔として不能になったかと心配していたが杞憂だったな。それが例の若い悪魔か。数多の夢をかいくぐってせっかく顔を見にきてやったというのに)
ストラスよりも低い美声が響く。ずっと聞いていると酔いそうだ。
(まだお披露目するつもりはありませんよ。躾の途中ですから)
(顔を見せるくらい、いいではないか。何も手を出そうって訳じゃない)
(…そう言った元帥が顔だけを確認して済んだ試しがないからですよ…)
だが、その言葉とは裏腹にストラスは何かを諦めたかのようにルイの目隠しを外す。ルイが辺りを見回すと、長身の軍服姿の人物がそこに立っていた。顎髭をたくわえた、ストラスよりは柔和な顔立ちの男性だ。だが恐ろしく大きい。彼は赤紫に見える瞳に黒い髪を短く切りそろえていた。彼は歩み寄りルイの顔を見ると首輪を乱暴に掴んで上を向かせた。
(私を見ても怖がらないな。この姿は好みか?なるほど…これは確かに躾中だな。お前好みに仕立て上げるのか?ストラスに飽きたなら私のところに来るといい…望み通りに狂わせてやろう…)
そう告げて彼は呆気なくルイの唇を奪った。唇をこじ開けて舌先で何かを押し込んでくる。ようやく唇が離れたときルイはそれがチョコレートだと気付いて嫌な予感がした。中から熱い何かが溢れ出て喉に流れ落ちる。胃の中に燃えるような熱を感じた。
(ルイ…?)
(ふふ…悪魔のチョコレートだよ。なに、フィランジェルが食べたものより効果は薄い…だが、元炎の精霊ならこの程度の刺激でも美しく燃えるはずだ…)
片手でルイの頭を優しく撫でて、アスモデウス元帥は姿を消す。顔を赤くしてすでに呼吸の乱れ始めたルイが、ストラスを困惑したように見上げた。
(なに…これ?熱い…頭が…変になりそう)
(…ったく、どいつもこいつも…俺はこういうのを使うのは好きじゃないんだよ…悪いな、口開けろ)
ストラスはルイを抱き寄せる。彼はおもむろにルイの口に長い指を突っ込んだ。込み上げる吐き気に耐えられずルイは嘔吐する。むせ返るルイが身体の中にあったものを吐き出すと、ストラスはすぐに水を飲ませた。
(少し多めに飲んでおけ。それでもムラムラするだろうけどな)
ストラスは唐突に両手を叩いた。景色が変わる。と思ったらルイはゲストルームで目が覚めた。ルイの目の前で手を合わせたストラスが覗き込んでいた。
「大丈夫か?起き上がれそうか?」
「う…ん」
起き上がろうとしたが、なんとなく身体が火照っているような気がした。口の中にまだ甘い味が残っている。
「悪魔の…チョコレート?あれ…夢で食べても…効果あるの?」
ルイの言葉にストラスはため息をついた。
「あぁ…通常だと残らないが、相手が元帥だからな…むしろチョコレートよりキスをしたことの方が身体に影響を及ぼす。色欲の悪魔だからな…吐かせたからまだこれで済んでるけどな」
ストラスはルイの頭を撫でた。ルイは潤んだ瞳でストラスを見上げる。すでに下半身が疼いて仕方なかった。燃えそうだ。
「ストラス…助けて…」
ルイの懇願にストラスは頷いた。
「夢でも現実でも、とことん付き合ってやるよ」
抱きついてきたルイをしっかりと抱き留めてストラスは耳元で低く囁いた。




