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第8説 喜び

怪物の襲撃を何とか防ぎ切り、ついでに仇まで討てたジーク

その後、館のメイド達を学院の保健室にまとめて連れて行った。

そこには色々な手術方法に対応した設備が完備されており

ヴァイスの腕の見せ所でもあった。

激戦の末、怪物を倒したジーク達はメイド達をまとめて馬車に乗せて学院目掛けて走らせた。幸いにも今は夜中だった為、人通りが少なかったので時間を取ることも無く学院にたどり着いた。


「早く医務室・・いや、保健室へ!」

ヴァイスが、呼んでおいた助手や生徒にメイド達を運ばせた。その後を追うようにヴァイスも全力疾走で保健室に向かって行った。その後にフラフラしながらも降りたジーク達は、改めて学院を見渡していた。すると、校舎側から聞き覚えのあるいかにもやんちゃそうな声が聞こえてきた。


「やっぱり!・・・やっぱりジークだ!」

その声の主は、予想を見事に的中してルイズだった。そのルイズがジークに飛びつこうとしたが、いつもなら手で止めていたジークが、今回は何もできなかった。そのまま飛びついたルイズだが、何処かつまらなさそうな顔をしていた。


「ジーク?ねぇ、ジーク!どうかした「うるさい!」・・ごめん・・」

何度もジークに話しかけていたルイズだったが、急にジークに怒られて黙り込んでしまった。ジークも自分が悪いとは思っていたが、謝る気になれないでいた。無理もない。自分の家の使用人の大半が大けがを負ったのだ。それを心配しない主人など、主人とは呼べない。


「・・・悪かったな、怒ったりして。ちょっと今は止めてくれ・・・」

悲しいような表情をしたジークだが、それでも必死に元気づけようとルイズは張り切っていた。流石は水の妖精だ。その特性の通りの事を遵守しようとしている。しかし、ジークにはそれがいつもと同じように子供がじゃれてくる程度にしか感じられていなかった。


「ごめんね・・ルイズ。ジークも色々と考えてるの。邪魔はしないであげましょう?」

ウラヌスが、眠たそうにゆっくりとルイズを説得した。すると、ルイズは素直に頷いてそこから口をとじていた。そして、心を決めたジークは保健室へと向かった。



一方その頃、ヴァイスはまるでパフォーマンスでもしているかのようにメイド達全員の治療をまとめて一気に行っていた。


「・・次!二番メス!「ハイ!」・・そっち!輸血パックの用意!「ハイ!」・・縫合頼む!」

物凄いハイペースで治療をして行ったヴァイス。その成果もあってなのか、手術開始から30分で全員の手術が終わった。そのスピードに、助手たちも唖然としていた。しかし、唖然としていたとは言っても、ちゃんと手伝いはしていた。


「オペ終了!皆!お疲れさん!」

ヴァイスが最後の一人、イグニスの怪我の縫合を終えてマスクを外した。これで全員の無事が確保された。それを知らせようとしたヴァイスは、保健室(現状はまんま手術室)から出てジークに無事を伝えようとした。


「・・・あれ?ジークは?」

部屋を出たヴァイスは、隣で座っているであろうジーク達を見た。しかし、そこにジークの姿は無く代わりにウラヌスとルイズが待ちくたびれたのか眠っていた。それも仕方がない。今の時間は夜中だ。普通だったら、こんな時間に起きている人物など少ない。それこそ夜行性のドワーフなどは別だが、この時間に起きている人物はヴァイスや助手たちだった。


一方ジークは、改めて懐かしく感じた学院の中を歩いていた。


「此処もかなり変わったなぁ・・・」

ジークが見つめているのは、樹齢3千年を超えているといわれる大きなマナ(エネルギー)の木だった。ここには、ジークにとって大切な思い出がある大事な場所だった。そのことを語るのはまた今度となる。昔の記憶を思い出していたジークだが、不意に背後から誰かの気配を感じて振り返った。


「あらら・・見つかっちゃった・・・」

そこには、箒に乗ってフワフワと浮かんでいる女性がいた。見た目からしてジークと同じか一つ下くらいだった。なんにせよ、不審な女性がジークの背後に浮かんでいた。少々苛立っていたジークは、その少女を無視して立ち去ろうとした。


「あれれぇ?いいのかなぁ?・・仇を討ちそびれた英雄さんにぃ・・・何が守れるというのかしら?」

一瞬何のことか分からなかったジークだったが、後ろに出現した召喚陣に驚いて振り向いた。そこには、先程ウラヌスが倒したと思っていたあの怪物が立っていた。その瞬間、ジークは悟った。この女性が、さっきの襲撃の張本人であり、同時に昔におきた襲撃事件の首謀者であることが。


「この・・・なんでこんな時に・・・」

憎しみに身を任せていたジークだったが、こんな時に限って恐怖から足が動かなかった。どうやらこの恐怖は、この怪物を消滅させない限りは消え去ってくれないようだ。


「行きなさい!主人に忠実な怨霊(オルトロス)!」

女性が怪物に指示を出した。すると、怪物が女性の指示に従って走り出した。その速度はかなり早い。あっという間にジークとの間合いを詰められた。まずいと思ったジークは、オルトロスの爪撃を間一髪でかわした。


「まだよ!おるとr・・うにゃ!」

続けて指示を出そうとした女性だったが、何かが彼女の乗っていた箒をたたき落とした。見れば軽く700mは離れている校舎から、狙撃銃を構えているエカテリーぜの姿が見えた。そのことに感謝しながらも、ジークはその隙をすかさず突いて彼女の腕を使えないようにがっしりと掴んだ。


「あぁん・・仲間がいるなら先に「黙れ!」・・ケチ・・」

手が塞がれた状況では動く事がまずいと分かっているのか、オルトロスは動こうとしなくなった。それにしてもこの女性には驚かされる。セリフや口調を聞いていると、どうやら遊びの感覚でこんなことをしでかしているらしい。そんなことが分かってしまうと、ジークは呆れそうになってしまった。


「はぁ・・・だいたいなんでこんな「強いね!貴方!」・・・なんだと?」

ジークがため息をつき、説教を言おうとしていた時、不意に女性から声が掛かった。その内容は、短くはあったがとにかく褒め言葉だった。一瞬罠かと思ったジークだったが、女性はジークがうっかり手を放してしまっても抵抗はしなかった。それどころか、話を潤滑に進めたいためなのかオルトロスを戻していた。いつの間にか姿が消えていたので間違いないだろう。


「私の名前はミリア。ミリア・ホークアイ。実は今、金銭的に困っているの。だから・・「・・雇ってほしいと?」話が早い!流石は私の認めたマスターd「断る!!」・・・」

自己紹介を済ませたミリアは、いきなり自分の要求を言ってきた。かなりふてぶてしいと思ったジークだったが、話を聞くと何が言いたいのか直ぐに分かった。そこでその要求を聞いてみたジークだが、どうやら当たりだったようで、ミリアは喜んで子供のようにジークに抱きついた。これではどちらが勝負に勝ったのかわかりゃしない。


「お前なぁ・・人の気持ちって考えたことあるのか?普通、自分の使用人を殺されかけて、その前には自分の信頼していた使用人たちが殺された。その張本人を雇うやつが・・「しょうがないじゃない。私に身近な人間なんていなかったし・・」・・・すまん・・・」

いつものように説教を開始していたジークだったが、途中でミリアが身の上話を話し始めて嫌な気持ちになったジークは、なんだか分からずに謝っていた。すると、校舎の方からウラヌス達がこっちにやってきていた。すると、ミリアが「お願い!私が主犯だってことは内緒に・・」と言い出したので、ジークは皆に聞こえるように大声で叫んだ。その時、涙目になるミリアが見えたがジークは放っておいた。その後、ミリアが全員から説教を受けたことは言うまでも無かった。というか説教で済んだことに感謝すべきだとも思う。


「・・でね、ジーク。これからあの子、ジークの屋敷で雇ってあげてくれない?」

不意にウラヌスから頼まれたジークは驚いた。仮にも殺されかけていたウラヌス自身がそんなことを口にしたのだから。しかも、ミリアが言うと簡単に断れることを、ウラヌスが言うとジークは断りきれなくなってしまった。


「・・・仕方ない・・・分かったよ・・・」

難しそうな顔をしてしぶしぶ了承したジークだが、いつの間にか後ろにミリアが立っており、その言葉を聞いた時に凄く良い表情で笑ってジークに抱きついてきた。それを見たウラヌスもジークに抱きついていた。いつもの光景を取り戻していた所で、3人は校舎の中に向かって歩き出した。


本来ならば殺人などの罪で処罰されるべきなのであろうミリアだったが

悪気が無かったという理由、そしてとびっきりの笑顔に負けたジーク

そして、ミリアはそれぞれの人たちに謝りに行くのだった。


次回 第9説 謝罪

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