第7説 再現
眠くなっていたジークは、食事を簡単に終わらせて自分の寝室へ向かった。
しかし、今回は一人では無くウラヌスも一緒に寝ることになった。
嫌がろうとしていたジークだったのだが、ウラヌスの瞳に負けてしまう。
諦めたジークは、寝室に入るとウラヌスが速攻でベットに飛び込んだのを見た。
しかし、二人には気付けなかった。
この近くで召喚魔法が行われた事実を・・
寝室に入ったジークとウラヌスは、ベットに入ろうとしたがウラヌスがベットに飛び込んだので止むなくジークは、壁にもたれかかって眠ることにした。
「ねぇ!ジークぅ!一緒に寝ようよぉ・・」
不思議に思えるほどに純粋な瞳でジークを見つめていたウラヌスだったが、ジークは無視を貫き通すつもりでいた。しかし、ウラヌスの一言にジークは動揺していた。と言うより男の子なら普通は「一緒に寝よう?」なんて聞いたら気が気で無くなりそうになるだろう。ジークにも同様の事が言えた。
「もう・・・・ジークのケチ・・オヤスミ・・・」
ジークが無視を貫き通していると、そのうちにウラヌスが折れてベットに横になった。すると、狸寝入りを決め込んでいるんじゃないかと思うくらい素早く眠りについてしまった。そこでジークも眠ろうと思っていたが、部屋の開けていた窓から一匹の蝶が入ってきたのを見て立ちあがった。
「・・もう入り込むなよ?」
何の苦労も無く蝶を捕まえたジークは、もと来た窓から蝶を逃がして部屋の中に戻って行った。しかし、ジークはこの時には気づかなかった。窓から見える森の中で、光が飛び出ている場所があることを
「・・よぅし・・・俺も寝るか・・!!?」
ジークが再び壁にもたれかかって眠ろうとしていると、ベットからウラヌスの腕が飛び出していた。このまま寝がえりを打ったら落ちてしまう。とっさに感じたジークは、慌ててベットに行ってウラヌスを元の場所に戻した。
「さて・・今度こそ・・「じーくぅぅ・・」・・なんだ?」
ジークがウラヌスを元の場所に戻し、再び眠りに就こうとしていたが不意にウラヌスに呼びとめられた気がした。振り返ると、ウラヌスは眠ったままだった。どうやら寝言だったらしい。しかしこれは困った。ウラヌスは相当寝ぞうが悪いらしく、これまた1回転していた。このままでは、数分後にはまた寝がえりで落ちそうになっているだろう。
「・・なんて手の掛かる将軍なんだ・・」
ため息をつきながらベットに入ったジークだったが、やはりそうなってくると胸が異様にドキドキしていた。隣にはいつものようにウラヌスがいる。しかし、今は状況がかなり違っていた。彼女は眠っている。此処はベットの上。起きているのは自分だけ。部屋の中で二人きり(片方は眠ってる)。その他にも幾つか状況を説明する言葉はあったが、今のジークにはそれだけでもう十分だった。
「・・ふにゃぁ・・じーくぅぅ・・」
寝ぼけているのか、ウラヌスがまた寝がえりを打ってきた。そして、隣で寝ていたジークに抱きついた。ようは抱き枕のようにしているのだ。ジークからすればとても動きづらい。と言うより、ウラヌスに動きを遮断されたといった方が正しいだろう。
「・・ウラヌス・・・」
また嫌な記憶を思い出してしまったジークは、ウラヌスに近づきたく無くなって行った。しかし、その思いは消えてほしい願いから消え去った願いに変わった。ジークが記憶を思い出していた頃、屋敷の扉の方向で、扉が破壊される音が響き渡った。
「!?なんだ?」
慌ててウラヌスの呪縛から逃れて部屋を出たジークは、壁に飾ってあったひと振りの刀を取りだして下の階へ向かった。因みに言うとこの屋敷「現ジークフリート邸」は3階構造になっていて、ジークの寝室や仕事部屋は3階になっていた。リビングルームや調理室、食糧倉庫などは2階にあった。そして1階には、メイドや執事達が寝泊まりする自室があった。つまりはそこが一番危険なのだ。
「あっ!お兄ちゃん!」
ジークが階段を下りていると、下からイヴが昇って来た。どうやらジークよりも早く動いていたらしい。流石はメイド長だ。しかし、イヴの報告「なんか変な怪物が飛び込んできて・・ヤバそうだったから、安全そうなリビングルームに避難させたよ。」と聞いて、顔色が真っ青になって行った。
「くそっ!(これじゃあまるで・・)」
ジークの頭の中には嫌な想像しか連想されなかった。後ろからイヴが「お兄ちゃん!!何処行くの!」と叫んでいたが、今は構ってやれなかった。急いで階段を駆け降りたジークは、開け放たれたリビングルームに入った。その時、ジークの目の前にはあの時の光景が映し出されていた。それこそ池は無いものの、何人かの体が転がっているのを確認できた。その先には、血しぶきを浴びて真っ赤に染まった巨大な猫の姿があった。
「なんだと・・・こいつは・・」
ジークが猫の姿を見ていたが、一瞬で過去の記憶がよみがえって動けなくなってしまった。すると、猫はまるでジークをあざ笑うかのように横を通り過ぎると、階段を駆け上がっていった。その時、ジークには嫌な予感が、これまでにないくらい激しく駆け巡った。この上には、何も武器を持っていないイヴと、眠ったままのウラヌスがいる。しかし、ここを離れてしまえば此処で瀕死になっている子供たちを救うことが出来なくなってしまう・・一生懸命考えていたジークだが、コクコクと時が流れていく。その時、リビングルームの扉の辺りから声が聞こえた。
「ジーク!」
その声はヴァイスの物だった。そして、その惨状をみたヴァイスは、急いで魔法を組み立てた。その間、ヴァイスが中心部に立ってから1秒。流石だ。これで安心出来たジークは、急いで怪物を追いかけた。本当なら、もうイヴが切り捨てられている。しかし、ジークが3階に上がると、そこには想像していた風景とは違う場面があった。
「・・手を出すなぁぁぁ!!!」
そこでは、アダムと怪物が戦闘を繰り広げていた。その直ぐ傍では、イヴが腕を抱えて座っている。どうやら怪物に嬲られていたらしい。傷跡は浅く、自分で処置を施していた。しかし、イヴの再生魔法で回復するスピードがおかしい。なかなか塞がらなかったのだ。見れば怪物の爪から微量な液体が流れ出ていた。恐らくは毒だろう。
「・・!アダム!気をつけろ!」
とっさに叫んだジークだったが、その言葉もむなしくアダムが怪物に叩き飛ばされた。壁に当たって停止したアダムは、気を失っていた。すると、怪物がゆっくりとアダムに近づいて行った。
「・・させるかぁぁぁ!」
持っていた剣を持ち上げて、怪物に斬りかかろうとしていたジークだったが、怪物はニヤリと笑ってその場を離れた。そして、ジークの寝室の方向へ向かった。
「!!マズイ!!!!」
ジークの胸ははち切れそうなほど高鳴っていた。そして、たどり着いた頃には怪物がウラヌスに爪撃を喰らわせようとしていた。こんな所で悪いが、作者はこんな時にはこう言いたい。「獲物を前に舌舐めずり・・三流のしそうなことだな。」
「やめろおぉぉぉぉ!」
大振りで怪物に斬りかかったジークだったが、間に合いそうに無かった。寝たままになっているウラヌスの首に爪が掛かった次の瞬間、その手にナイフが刺さって怪物は手を引いた。見ると、部屋の入り口にイヴが血を吐きながら立っていた。
「イヴ!大丈夫か!」
そう言おうとしたジークだったのだが、先にアダムがそのセリフを叫んでいた。一瞬気絶したのでは?と思ったジークだったが、そんなことは後で良かった。ジークが剣を見ると、その刀身が削られていった。すると、アダムの周りに剣が円を描くように並んでいた。更にはアダムの後ろから剣が無数に現れた。
「喰らえ!化け物!」
アダムが剣を操作して全てを怪物にぶち当てた。しかし、怪物は全ての剣を覇気だけで抜き取ってしまった。これでは全く意味が無い。しかも怪物も遊ぶ気が無くなったのか、また腕を振り上げた。
「させねぇよおぉぉぉ!」
怒りに満ちた瞳で、ジークが怪物の腹部に削れた剣を突き刺した。しかし、削れていたからなのか怪物の体に刺さり始めた所で折れてしまった。
「こんちくしょおぉぉぉ!!」
悔しさのあまり叫んだジークだったが、怪物は腕を振り落とした。その先にはウラヌスの顔が無防備になっている。もう駄目かと思ったジークだったが、とつぜんにウラヌスの手がそれを阻止した。結構な力を入れているであろう怪物の手を片手でだ!
「危険を察知・・これより、護衛対象の防衛に入ります。」
寝言のように呟いたウラヌスだったが、その力は強大だった。アッという間に怪物の尻尾をねじ切ってしまった。その時の血しぶきが部屋中に飛び散ったが、怪物は痛みに悶えていた。どうやら死にそうでは無いらしい。すると、すかさずウラヌスが怪物の首をねじ切った。どうやらもう終わったらしい。それにしてもあっけなかった。以前この館を襲った時には対処も出来なかったのが、今ではこのザマだ。そして、ジークは喜びと悲しみ、ついでに恐怖の感情を同時に感じていた。あの時のメイドの仇が、自分で討ったわけでは無かったが、代わりにそっくりのウラヌスが刺していた。だが、こんなことをしてもメイドが帰って来ないと知っているジークは、少し哀しんだ。同時に、こんなことが出来たウラヌスに驚きもしていた。
「・・殲滅目標の沈黙を確認・・ウラヌスモード(完全絶対防衛機能)・・解除します・・」
そう呟いたウラヌスは、力が抜けたように倒れこみそうになった。しかし、倒れたりはしなかった。ジークが素早く受け止めたのだ。すると、ウラヌスは眠っていた。しかし、ジークが受け止めたことによって目を覚ました。
「・・うぅん・・あれ?皆どうしたの?」
そのウラヌスの声には、先程の機械的な喋り方は感じられなかった。しかし、ジークには今更気づいた危険信号があった。ウラヌスの寝間着は、薄い素材でできたワンピースだった。それがジークの視線に飛び込んできたときには、殆どはだけて胸が見えていた。しかし、この状況を打破するすべはジークには無かった。
「・・ジークぅ・・貴方から抱きついてくるなんて・・ウフフ・・」
嬉しそうな表情を浮かべるウラヌスだったが、ジークは不安要素を思い出した。リビングルームで倒れていた子供たちだ。あの中には、イグニスやチェリスの姿もあった。急いでリビングルームに行こうとしていたジークだったが、下からヴァイスがやってきた。
「みんな無事だぜ?・・もう何の心配も・・あ・・え~と・・ごゆっくり!」
無事を伝えたヴァイスが目を開けると、そこには抱き合うアダムとイヴの姿と、同じように見えなくもないジークとウラヌスの姿だった。そして、それに何故か怖気づいたヴァイスは、セリフを選ぶように一拍置いてから階段を駆け下りていった。
「はぁ・・変なうわさが広まりそうだし・・こいつの片付けも・・?」
ジークが振り返ったが、そこには怪物の姿は無かった。まるで煙のように消えていた。それに戸惑ったジークだったが、あまり気にしないことにしていた。
「ふぅん・・あいつもやるようになったわね・・さっ!お遊びも終わったことだし帰ろっと!」
ジーク達がため息をついていた頃、部屋の外では一人の少女が箒に乗りながら宙を舞っていた。部屋の中を覗き込んでいた少女だったが、飽きたのかそのまま方向を変えて帰って行った。その少女を、ジーク達は認識することが出来なかった。
メイド達を全員、学院の保健室に運びこんだジーク達
そこには機材が豊富に積まれており、どんな治癒でもきっと可能だった。
そこから、ヴァイスの医師としての本領が発揮されていく。
次回 LAGNNALOK 第8説 喜び