第6説 宴
ジークが皆と打ち解けて
今となっては宴会状態になっていたリビングルーム
そこに近づく足音が一つあった。
使用人たちがたくさん作っていた料理を食べていたジークだったが、次々と使用人(殆どがメイド)が自分で作ったであろう料理を持ってきて、テーブルの上に並べて行った。その所為で、ジークの座っているテーブルの上は料理で埋め尽くされていた。
「・・・無理無理!こんなの(子供の純粋な瞳)・・・よし!お兄ちゃんはがんばるからな。」
ジークが、無理矢理に自分の口に食事を運んだ。本当ならばもう腹がいっぱいで何も食べられないのにだ。しかし、ジークは子供には弱かった。何故なら。昔の自分が思い出されて動きが緩慢になってしまうのだ。
「やったぁ!お兄ちゃんに食べてもらえたぁ!」
ジークが食事を口に運ぶと、メイドが飛び跳ねて喜んだ。どうやらこの子が作ったらしい。ジークからすればまだまだ料理として店に出すことは出来なかったが、十分に美味しいと思っていた。すると、とつぜん扉が開いた。その中からは、まるで子供のように髪の毛が乱れた状態のウラヌスだった。
「ふあぁ・・ジークぅ・・美味しそうね・・」
ウラヌスはよだれを垂らしながら、料理では無くジークを見ていた。その瞬間に、ジークの背筋に悪寒がマラソンをしていた。かなりヤバいと思ったジークだったが、全方向をメイド達に囲まれていた。逃げ場を失ったジークは、助けを求めようと執事長であるアダムを探した。しかし、当のアダムの姿は何処にも見当たらなかった。それどころかイヴの姿も見えないでいた。どうやら二人で出掛けているらしい。何故二人がばらばらの行動に至るか想像がつかないかと言うと、二人はまるで兄弟のようにいつも一緒に行動しているのだ。
「ぐぬぬ・・助けは無し・・逃げ場もなし・・戦場なら確実に・・ぐはっ!」
色々と試行錯誤していたジークだったが、遂にウラヌスが目の前にやってきた。そして、ジークが座っている状況にも関わらずジーク目掛けてダイブした。そのダイブは、見事にジークの腹部を直撃した。ウラヌスの事だから、ただ抱きつきたかっただけなのだろうが、とにかくジークの腹部にアタックが通ったことにより、食事の詰め込みすぎで膨らんでいた胃が揺れまくった。
『私のお兄ちゃんから離れて!!』
ウラヌスがジークに抱きついていると、メイド達が一斉にウラヌスを退かしにかかった。その中には、先程までジークを変態呼ばわりしていた筈のイグニスや、泣きわめきそうな顔をしていた筈のチェリスの姿があった。どうやらすっかり気に入られたらしい。
「やだよ~~っ!放さな~~い・・・・ふふふ!!」
ジークに抱きついていたウラヌスが、満面の笑みを浮かべながら笑っていた。しかし、ジークには苦渋の他の何でも無かった。ウラヌスが離すまいとして強く抱きついていた為に、ジークは吐きそうになっていた。しかし、こんな所で醜態をさらすわけにはいかないと情熱を燃やしたジークは、上って来た物をそのまま呑みこんだ。
「・・・・ご主人・・・一体これは・・」
そこに丁度、買い物を終わらせて帰宅してきたアダムが見えた。助けを求めようと思ったジークだが、それよりも早くアダムが全員の頭にげんこつを喰らわせた。しかし、客人にだけは手を出すなと言う常識を守り通して、ウラヌスだけはそのままにした。その後にメイド達がアダムとイヴにこっぴどく怒られたことは言うまでも無い。その後、眠くなってきたジークは自分の頭を掻いていた。
「ジーク・・私ね・・今日は此処で泊って行くからね!」
なんだかそわそわしながら言ったウラヌスだったが、ジークは表情を変えるほどに嫌な顔をしていた。それほど嫌なことでは無かったのだが、どうしてもウラヌスの顔を見ていると、あの時のメイドの顔が重なって見えるのだ。しかも、それをウラヌスに伝えたら自分から命を絶ちかねないと考えているジークは、一層否定する言い訳を考えた。しかし、いい案は思い浮かばなかった。
「・・強制かよ・・」
今のジークには、それだけしか言えなかった。
パーティーも終わり、メイド達も眠った頃
ジークは自分の寝室でドキドキしていた。
しかし、そこへ戒めの獣が近づいてきていた。
次回 第7説 再現