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第4説 記憶

人ごみの中を、眠ったウラヌスを背負ったまま歩いていたジーク

彼の目指す場所は自分の住んでいる屋敷だった。



ジークが道沿いに歩いていると、広い大通りに出た。その奥に、ひときわ大きな屋敷があった。


「数週間振りか・・・皆元気にしてるかな・・」

ジークはここ数週間の間は国境の防衛線に参加しており、その間は屋敷は開けっぱなしになっていた。同時に衛生管理も滞り気味な結果、ジークの髪は少し伸びていた。とにかく、ジークは館の使用人たちに会うのが久しぶりだったのだ。


「よし・・・カギは・・・これだな・・よっと・・」

ウラヌスを背負ったまま器用に館のカギを取りだしたジークは、それをそのまま門の鍵穴に差し込み回した。すると、鍵が開けられると扉がひとりでに開いて行った。


「流石はエルフ族だ。見事な仕事っぷりだな。・・家にも技術部置こうかな・・」

そう呟きながらジークが門の中に入った。すると、これまたひとりでに門の扉が閉じられた。エルフ族の技術力は本当に凄いものだ。


「皆!今帰った・・・・挨拶もなしか・・」

ジークが館に入ったが、そこには誰も立ってはいなかった。いたとしても、せいぜいお飾りの石像や武器の類の物ばかりだった。


「・・ウ・・うぅん・・あれ?ジーク?」

館の扉をジークが閉めると、同じようなタイミングでウラヌスが目を覚ました。ウラヌスは意識がはっきりとしていれば、さぞ喜んでいただろう。なにせ好きな人物をいつの間にか抱きしめていたのだから。そう思ったウラヌスは、いつものようにまたジークを強く抱きしめた。しかし、背負われてる。[俗に言うおんぶ]状態だと、腕は何処を囲んでいる?そう、首だ。ウラヌスが思いっきり抱きしめた為にジークの呼吸機能は著しく低下、もとい窒息しかけていた。


「・うふふ・・ふふ・・あれ?・・・ジーク?・・・・・きゃぁぁ!」

やっと異変に気がついたウラヌスだったが、時は既に遅かった。ジークは顔色を悪くして、何とか立っていられる状況下にいた。しかもウラヌスは異変に気づいても力を緩めなかった。限界に達しそうになったジークは、勢いよくウラヌスを上方に放り投げた。勢いが良かったためウラヌスは高く舞い上がった。その間に思いっきり深呼吸をしたジークは、素早くウラヌスをお姫様だっこで受け止めた。


「・・ふふふんふうふん・・・うにゃ!!」

その時、奥の廊下から一人のメイドが姿を現した。ジークが見たことのない人物とすれば最近になって入ってきたのだろう。ということはそのメイドもジークの姿を知らないわけだ。そうなってくると、ジークにもメイドの気持ちが楽々と分かった。「知らない男女がこんな所でイチャイチャしてる・・・変態だ!報告しなきゃ」という読みが当たったかのようにメイドはもと来た廊下を掛けて行った。


「ちょっと待て・・もう居ない・・」

ジークがメイドを止めようとしたのだが、既にメイドの姿はどこにもなかった。しかも、ずっとウラヌスを抱えたままなので腕が疲れてきていた。さらに運の悪いことに、安心しきったのかウラヌスは眠りについていた。いつもこの調子でされていてはその内戦闘中にも眠りそうだ。ジークは背中にそんな嫌な予想を仕舞い込んで自分の部屋に向かった。


「ここだ。・・・それにしても、誰とも出会わないな。・・全員そろってストライキ・・ありうる。」

そんなことを考えながら、以前まで自分がぐっすりと眠っていた自室に足を踏み入れた。すると、少しくらい汚れていてもおかしくない筈なのに、部屋はまるでついさっき掃除をしたかのように綺麗だった。それこそ光が飛び散っている程に。


「とりあえずは此処に横にさせて・・・・横にさせて・・」

とりあえずは自分が以前まで使っていたダブルはあるくらいのベットにウラヌスを横にさせた。すると、ウラヌスの着ていた薄手のシャツがはだけて、胸の半分が見えてしまった。慌てて元にもどしたジークだったが、胸のドキドキが収まりそうに無かった。暫くはこの状態が続いたが、ウラヌスの気持ちよさそうに寝ている顔を見たジークは嫌なことを思い出してしまった。



それはジークがまだ幼かった頃、ジークの屋敷[テスタロス邸]には、使用人は勿論、ジークの他に父と母がいた。


「父上!見てください!今回も僕が最優しゅ・・・父上?」

ジークが見つめる先には、いつもそこに座っているはずの父の姿はどこにも無く、代わりに置手紙が置いてあった。それを取ったジークは、読めない字を省いて声にだして読み始めた。


「テスタロス・ウル・ドラク・ラムダ・ガルドバルド・・、そなたにえん・・任務がしもされた・・今をもって・君に出兵命令が出た。家族と・れて、・・・であるシュッツリバーへ・くことを命ずる?どういうこと?ねぇ!メイドさん?これはなんと書いてあるのですか?」ジークは、部屋を通りかかったメイドに声を掛けて紙をメイドに渡した。それを読んだメイドは、涙を流しながら口を押さえて無言のまま紙を持って出て行ってしまった。

紙にはこう書いてあった。「テスタロス・ウル・ドラク・ラムダ・ガルドバルド将軍、そなたに遠征任務が下された。只今をもって貴君に出兵命令が出た。家族と別れて、激戦区であるシュッツリバーへ赴く事を命ずる。」と。


「父上、出かけちゃったのかな・・・帰ってくるの、何時だろう・・・」

悲しい顔をしても父親が帰って来ないと知りながら、ジークは少し涙ぐんでいた。その表情は実に子供らしかったが、それは褒め言葉にはならなかった。


「ねぇねぇ!メイドさん達!父上は・・」

ジークが、メイド達がいるであろうリビングルームの扉を開けると、そこは真っ赤な水たまりになっていた。その隣では先程の紙を持って行ったメイドが立っていた。質問をしようとしたジークだったが、メイドは何もしゃべらず立ったままだった。改めてリビングの中を確認しようとしたジークだったが、メイドが「見てはなりません!」と言ってジークの目を自分の手で覆い隠した。


「・・何処へ連れて行くのですか?」

惨状の現場に長時間いては駄目だと思ったメイドは、ジークに自分のスカートを破いて作った目隠しを巻いて、抱えたまま走り出していた。ジークの質問に、メイドは「安全な所です!」とだけ答えた。


「此処を曲がれば・・っうぁ!」

ジークには、後ろから聞こえた何かを斬るような音と、メイドのうめき声しか聞こえなかった。すると、メイドの手に力が無くなってジークは放り出されれた。空中で目隠しを取って見事に着地したジークは泣き叫びそうになった。ジークの足元では、先程まで自分を運んでいたメイドが、背中から血を流しながら倒れていたのだ。


「メイドさん?!メイドさん!」

ジークがメイドを揺すって呼んでいたが、メイドの目には既に光が失われていた。直ぐに血の流れも停まり、メイドが息絶えたとジークに認識出来た。これがジークの初めて見る死体となってしまった。しかし、ジークに泣く暇など無かった。ジークの前方、誰かがメイドを切ったとしたら立っている方向に何やら獣の様な唸り声が聞こえた。


「グルルゥ・・」

ジークが振り向くと、そこには目が6つもある巨大な猫の様な奇妙な生物が立っていた。


「・君か・・メイドさんをやったのは・・・君かあぁぁぁぁ!!」

怒りに満ちたジークは、怪物に突撃していった。しかし、武器も持っていなかったジークはあっさりと怪物に叩き倒された。その時、ジークは感じた。この怪物が遊んでこんなことをしたと。


「まだだぁぁぁぁ!」

着地したジークは、すかさず怪物にもう一度突撃を掛けようとしたが、ふと怪物が消えてしまった。一瞬死角に入られたと思ったジークだったが、消え方を考えてみた。一瞬で姿が消えたような消え方。それはつい先日学院で習った「召喚獣の戻し方」と酷似していた。それを思い出した瞬間にジークはあれが「誰かが放った召喚獣」と分かった。ようは好き放題された後に逃げられたのだ。


「メイドさん・・」

ジークは、失意と悔しさの念を心に縛りつけてメイドさんを見た。もうとっくに動かなくなっていたのだが、ジークはメイドさんがよみがえると信じて一晩中メイドの顔を抱えていた。



「ウラヌス・・・」

そして今に戻る。因みに、これはジークが聞いただけなのだが、この館の前身「テスタロス邸」で生き残ったのはジーク一人だったらしい。その後の報告兵の報告で、シュッツリバーが落ちたとの報告を手紙で聞いたジークは、父が死んでいたと確認した。


「なんで・・・あんな・・」

その時のメイドの顔が、今目の前でぐっすりと眠っているウラヌスとそっくりだったのだ。いや、そっくりどころか瓜二つだ。その為、ジークはウラヌスの顔を見るたびにメイドの顔を思い出してつらそうな顔をするのだった。さらに、それが原因でウラヌスが好きになれないでいた。


「とにかく、ここから出よう。」

心が静まりきらないジークは、気持ちを落ちつけようとドアのノブに手を掛けた。

館に帰ってきて速攻で嫌な気持ちをさらけ出したジーク

そんなジークを知らずに、館のメイド達は何やら怪しげな行動を取っていた。

この後のジークの運命やいかに!


次回 LAGNNALOK第5説 祝いの館 

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