第16説 ようこそユニバースへ・・・
戦闘も終わり
晴れてタナトスとヴィーナスを迎え入れたジーク
しかし、馬車の中では問題が起きようとしていた
始まり!
タナトスが操る馬の中で、ジーク達は頭を悩ませていた。主に悩ませていたのはジークとヴィーナス、それにアダム位なもので他はジークの馬車内を見まわして眼を輝かせていた。やはり兵士用の馬車と将軍職の馬車とでは雲泥の差があるらしい。
「どうするべきだろうなぁ・・・」
「う~~ん・・どうしたものかなぁ・・」
「どうしましょうか・・」
三人そろって同じようなことを呟いていたのを聞いたウラヌスだが、はっと閃いて人差し指を立てて意思表示をした。それに気づいたジークがウラヌスの方を向き、それに合わせてヴィーナスとアダムがウラヌスを見つめた。それに少し驚いて引きそうになったウラヌスだったが、すぐ隣のジークに当たって後ろが塞がって困り顔をしてジークを見つめたが、首を横に振って「諦めろ」と言いたげな表情をしたジークを見て落ち込んだウラヌスはやっと口を開いた。
「う~んとね?私が思うに、二人にそれなりのシナリオを付けて誤魔化せば将軍である私とジークが居るからパス出来ると思うの。どうかな?」
少々自身無さげに説明したウラヌスだったが、根本的に考えればそれは正解だった。もともと、グリーンホープには関所が入り口にあって侵入者や妖獣が入ろうとしていないか等を観察、および交通させている。しかしそんな人たちでも将軍職には全く頭が上がらないので多少の我が儘は許させるだろう。それに、もしもタナトスたちが通れなさそうな危機になったらウラヌスが「この人達は難民なの!私たちが保護した!」と言うだけで関所の人間は通すことになるだろう。
「なぁるほど。それなら可能だな。」
それに続く様にして賛成の意に辿りついたヴィーナスも、ジークと同じ意見を掴んでいた。その点で考えると、ヴィーナスとジークの頭の良さが手に取るように分かるほどになる。ただ、ウラヌスが考案したのにはそれと言った理由が無く、完全な勘から生まれたものなのであった。
「私が国に住むようになったら・・・どうすればいいのやら・・・」
眼の前の障害が消え去ったヴィーナスは、さっそくその後の事に付いて考察することになっていた。それが自然なのだが、やはり天才は格が違った。考察の手順を幾つかスキップしていたのだ。
「それならさっきも言ったが、ジークフリート邸に身を寄せるといい。俺の認めた者たちだ、歓迎するよ。」
そう言ってヴィーナスに手を伸ばしたジークは、そのまま頭を撫でてあげた。すると、少し恥ずかしそうな表情をしたヴィーナスだった。その隣で、少し妬ましそうな顔のウラヌスの姿があったのを知る者は誰もいなかった。そうこうしている内にグリーンホープへとつながる関所に到達して門番に止められた。
「停止願います!将軍馬車ですね?搭乗者を見させてもらいます。宜しいですね?」
特にこれと言ってタナトスを疑う事もしなかった門番は、そのまま馬車の扉を開いた。そこには予想通りにぎゅうぎゅう詰めになっているのが確認できた。なぜこうなったのか聞こうとした門番だったが、すぐにジークが「馬車を1台パクられただけだ。」と言って簡潔に説明した。その説明で納得した門番は、そこで馬車から下りて門を開いて馬車を通した。
「案外簡単に入れたわね。私の予想だと、一人一人ボディチェック位受けると思ったのだけれど・・」
そう思っていたヴィーナスだったが、なにか一悶着ある訳でも無く通ったので何か煮え切らないような表情になっていた。すると、ぎゅうぎゅうなのにも関わらずスイスイとヴィーナスの元に来たイリアスが、手に提げていたバスケットからミカンを一つ取り出してヴィーナスに「どうぞ?」と言って手渡した。どうやら皆に配っているらしく、既にジークもミカンの皮を剥き始めていた。
「良く膨らんでて美味しそうね・・・いただきまぁす!」
お礼を言って受け取り、ミカンの皮をむいてみたヴィーナスはその大きさに驚いた。皮を剥けば多少は大きさが小さくなるはずなのだが、このミカンは皮を剥いても全然大きさに変化が無かった。しかも膨らんでいる割に柔らかくてすぐにでも口の中で蕩けそうな程だった。
「タナトスぅ!・・ってあぁ!タナトスもミカン食べてる!」
窓から身を乗り出して、タナトスに抱き付こうとしたヴィーナスだがその手に持っていたミカンを見て驚いた。本当は驚くことでもない筈だ。イリアスは、いろんな者に・・それこそ一人に幾つかづつ渡している様な程ミカンを持っていたのだ。何処から持ってきたかは分からないが、とりあえず手元にあるのでタナトスも受け取っている筈だ。
「窓から身を乗り出すな!手綱が操れないだろ!?やめ!・・やめるんだ!」
肩に抱きつかれて、馬の手綱を動かせそうにない姿勢にされたタナトスがヴィーナスに解放を求めたが、ニコニコしているヴィーナスが放すことは無かった。何度か同じことを言ったタナトスが、ため息をついて馬の速度を上げた。その衝撃でタナトスから離れたヴィーナスは、少しばかり寂しそうな顔をしていた。
「あれ?みんな?ミカン食べて眠くなっちゃったの?」
ウラヌスが、食べ終えたミカンの皮をゴミ箱に捨てるとそこでやっとメイドたちを始めとする皆が寝息を立てている事に気づいた。隣ではジークも同じように静かな寝息を立てて眠っていた。起きているのはミカンを食べなかったイリアスと、ミカンの皮をしゃぶってから捨てていたウラヌス。それとミカンを半分しか食べていなかったタナトス&クルスだけだった。
「・・・あれ?・・おかしいな・・・眠く・・なって・・zzz」
起きている人数を確認し終えた直後に眠気に襲われたウラヌスは、薄れ行く意識の中で不敵に笑うイリアスの顔が見えて意識が切れた。同じようなタイミングで眠りに付いてしまったのは、ミカンを半分だけ食べていたクルスとタナトス。これでイリアス以外は全員が眠ってしまったことになる。因みに馬車引きのタナトスが眠ってしまったので馬は足を止めている。どうやら休憩も兼ねて川の水を飲んでいるようだ。
「さて、これで邪魔者は居なくなりましたね?これで思う存分お兄ちゃんと・・キャハッ!」
周りを見回して、全員が眠っている事を確認したイリアスがこれから自分のしようとしている事を思い浮かべて顔を真っ赤にして手で顔を覆った後、胸をドキドキさせながらジークの眠っている顔へ段々と近づいて行った。しかし、キスが成立する直前で誰かの手がイリアスの顔を押さえて引き戻した。
「!?!お兄ちゃん!」
イリアスを止めたのは、寝ている筈のジークだった。何故ジークが起きているかと言うと、ミカンを食べている最中に意識が飛び始めたジークは、反射的に自分の腹を殴って痛みを覚えていたのだ。目を覚ますときはその痛みを目印にして目を覚ましたという訳だ。しかし、計画が失敗に終わったイリアスが体全体をブルブルと震わせて怯えていたのを、ジークはイリアスを抱き締めてなだめてやった。少し予想外だったイリアスは、驚きに目を見開いて心をドキドキさせていた。
「これも子供の悪戯なんだ。きっと女の子だったら少しは垣間見ることもあるかもしれない。それを眼の前でされたってだけだ。お兄ちゃんは怒っちゃいないぞ?怖がらなくていいんだ。分かったか?」
子供をなだめるように優しく澄んだ口調で話したジークは、イリアスの頭を撫でながら説得していた。すると、泣きそうとも嬉しそうともとれるような表情でイリアスは「はい!」とだけ頷いてジークをギュッと抱きしめた。今の彼女にとって、この瞬間は一生忘れられない瞬間になったことだろう。暫くして、皆が眼を覚まし始めたので、タナトスも眼が覚めた時点で馬車は再出発した。因みに、先程の出来事はジークが内緒にするようにイリアスに言ってあった。すぐそこまで来ていた為か、あっという間にグリーンホープに着いたジーク一行は城への報告の前にメイドたちをジークフリート邸へと降ろすべく自宅へと馬車を向ける為にジークがタナトスに的確に指示して言った。そのおかげですぐさま到着したので、メイドたちを降ろしたジークは馬車屋と呼ばれる貸家へと馬を返した。そしてあっという間に玄関口まで来たジークだったが、ウラヌスを家に帰してやっと一息つけた。
「はぁ・・・やっと帰って来たぁ・・」
ため息を吐きながらも階段の最初の段にもたれ掛かったジークは、それぞれにメイドの仕事に取り掛かっている皆を見て少しばかり安心して目を閉じた。しかし、睡眠も取れないうちにイヴに起こされたので少し不機嫌そうな顔をしていた。
「お兄ちゃん!タナトスさんと話をしてあげて?なんだかあの人、凄くオドオドしてるみたいだから。」
ジークが、イヴに手を引っ張られてリビングルームへ行くとそこには、呆れて物も言えないほどに疲れた顔をしたタナトスと、その膝でスヤスヤと寝息を立てているヴィーナスがいた。一見、タナトスがオドオドしているとは思えなかったが、ジークが彼の目を見て少し確信に変わりつつあった。タナトスの目は、全てを見失ったかのような目をしていた。すると、タナトスに歩み寄ったジークがタナトスの頭に触れてこう呟いた。
「・・ようこそ、ユニバースへ・・」
若干カッコつけたセリフの様に聞こえるが、挙動不審に陥りかねない状況になりつつあったタナトスを安心させるにはそれだけで十分だった。そして、そんなこんなで国への報告も済ませたジークは、屋敷でくつろいでいた。
タナトス達がやって来た次の日の朝。
ロミオが目を覚ますとそこにはジュリエットがいた。
そして、ロミオが取った行動とは・・
そして同じ頃、ジークにはアクシデントが起こる。
次回 第17説 愛情
目の前に築かれた!恋への扉を、自分で開けろ!ロミオ!