ブルーバード
「お、押されてる……!」
紅屋を電気ショックで気絶させ、桜木が万全に動けるようにしたものの、それでも桜木は山田に押されていた。
黒斑は考えた。
考えて、その考えに至った瞬間体が震えた。しかしパソコンの中では、桜木が負けそうになっている。急がなければ。
「たった一人の友達が……!」
黒斑は走った。走って、走って、階段を駆け上がり、すぐに息が上がって胸が張り裂けそうになるも、それでもとにかく早く目的の場所まで走った。
そして扉を開くと、沢山の目。目。目。
怖い。
警戒したり、興味津々にこちらを見つめてくる沢山の目。黒斑にとってそれは何よりも怖かった。
しかし一歩、また一歩と踏み出す。
そして目的の人物に話しかける。
「助けて! 青柳さん!」
「ん? お前は、確か最近あの桜木に引っ付いていた?」
巨大なランスを抱いている金髪の少女、青柳麗華。
彼女に黒斑は自分のパソコンの画面を見せた。そこにははんざぎ迷宮の様子が映し出されている。
山田と戦っている桜木の姿。
「えー? なにこれ、どこよここ?」
「桜木と、戦ってるのは山田先生? 訓練中? 確か桜木って弟子だったよね」
「違います!!」
周囲にいる女子達がパソコンを覗き込んできて各々好き勝手言っていた。
黒斑は大きな声を出して、青柳に伝える。
「彼女達は今! はんざぎ迷宮という場所で山田先生と戦っています! 山田先生は沢山の人を巻き込んだ凶悪な企みをしてて、それを止めるために———」
「午前中、【レッドジャケット】が出て行ったってこと?」
青柳の理解は早かった。
なぜなら今の今までずっと桜木の事を考えていたからだ。色んな可能性を考えていて、そしてそれが黒斑の話と合致する事で納得がいくものとなった。
「そ、そうです! それで今ピンチで……!」
「わかった」
「れ、麗華様⁉︎ もしかして桜木を助けるんですか⁉︎」
「桜木を助けるんじゃない」
「え?」
「お前達と同じ、この学校に通う生徒を助ける。そこに助ける相手が誰かなんて重要じゃない」
青柳はランスを肩に担ぐと、屋上の手すりに登った。そのまま直立。
「あ! 待ってください! スマホ、ありますか?」
「ん? あるけど、出せばいい?」
「はい! このアプリを……」
青柳のスマホに【ユーマナビ】が入った。
起動してみるとはんざぎ迷宮と、桜木、紅屋がいる場所がわかるようになっていた。
「へー、こんなのあるんだ」
「自作です……」
「ふぅん、そう。それじゃここに行ってくればいいわけだ」
何をするつもりなのか分からなかった。
青柳は手すりの上で膝を折る。するとその背中にバサッと青く輝く翼が生えた。
「え……⁉︎」
規格外だとは思っていたが、まさか翼が生えるとは思わなかった。黒斑は呆然とする。
周りにいる女子達は歓喜の声をあげていた。『天使様』だと口々に崇め称えていた。
「じゃ、行ってくる」
天使、と言うにはあまりにも暴力的だった。
翼を広げて羽ばたき、浮いたかと思うと、次の瞬間には音速ジェット機クラスのスピードで飛んで行った。あっという間に見えなくなってしまった。
△▼△▼△▼△▼
———青柳が学校から飛んだ頃より十数分前。
小野寺はずっとはんざぎ様を追いかけていた。
「速い! 沼地だとこちらが足を取られて不利だ、追いつけそうにない」
巨体なのにトラック並みの速度で泥の上を走っている。小野寺は向こうがスピードを上げても追いついて、同じ距離を保持しながら追いかけていく。しかしどこかでアイツが止まらないと、どうにも追いついて捕まえられそうにない。
スマホのダンジョンナビで今いる場所を確認する。
「入り組んでいる。曲がり角のところで一気に差を縮めれば、なんとかなるか」
息切れを一切せず、追いかけ続ける。
いずれ追いつくだろうと思われた。
だが———予期せぬものが視界の端に入ってきた。
それは沼地の道から逸れた、小さな洞穴の中。本当に一瞬だった。
何かいる、と認識した。
それはタイの形をしたモンスターだと認識した。
洞穴の中に池があり水面から顔を覗かせていた。顔は向こうを向いているが、背びれとウロコが見えたためタイだとわかった。体は桜色。
そして後頭部から茶色い毛を———と、その毛を見て思わず立ち止まった。ここまで瞬き一つ分の時間。
「あれは……」
はんざぎ様が行ってしまう。
けれど小野寺の直感が、足を止めさせる。
洞穴の中に入り、暗闇の中、そのタイのモンスターをよく見ようとした。そして。
「はー、気持ちよかったー」
気分よく池から上がってきた、モンスター。
その声。
その声は。
「———桜木、ちゃん?」




