夜支度
「「ぶふうぅ!!」」
本日二度目の鼻血。
寮部屋に取り付けられているシャワー室で二人とも裸になった所で鼻血を吹き出してしまった。
向き合うと本当に直視できないので片方は後ろを向くことにした。最初は外に出ていた桜木さんから洗っていく。
手でシャワーを持って綺麗な背中をゆっくりと流していく。お湯は桜木さんの背中からお尻まで流れていく。
むっちりしたお尻を見てしまい、慌てて目を逸らす。ずっと何も持っていない手でシャワーをかけるパントマイムをしている桜木さんも、同じように顔を逸らした。
「「こ、こうやって外から体を見ながら洗えるのは凄い良さそうだけど……」」
なにぶん、女の子の裸なんて洗ったことがない。
慎重に、優しく、撫でるように泡を付けた手で撫でていく。スベスベで柔らかい肌にドキドキする。
同時に紅屋さんの手で背中を撫でられている感覚もしてくすぐったい。
「「それじゃあ次は———」」
体の前。背中側から手を回して肩や腹、それと胸を洗おうとした時だった。
同時に二つの体を動かしているというあり得ない状況。
タイル床で紅屋さんの足を滑らせてしまった。
コケて体が硬直した紅屋さん。
桜木さんの体は運動神経が高いのもあって、振り返ることができた。
だがあえなく二人とも倒れ込んでしまう。
「「いたっ! うう、いてて……コケた………———あ」」
むにゅ、と紅屋さんの手が桜木さんの胸を掴んでいた。
柔らかいのに、固くて、弾力があって、肌が指に吸い付く。
指が食い込んで沈み込む。
さらには倒れた時桜木さんの体を反転させたのが災いして、顔が鼻が当たるくらいまで接近してしまった。
桜木さんの体からはのしかかってくる紅屋さんの全身の感触と、重みを感じる。
「「あ………あ………」」
水が出たままのシャワーの音。
濡れた二人の美少女。
触れ合う二人の体。
ゆっくり、ゆっくり、ダメだと思いつつも、ゆっくりと顔を近づかせて……。
———ちゅ。
瞬間、今日の事を思い出す。
色んな出会いや会話、行動や言葉が脳裏を駆け巡るが、一つ、一番存在感を放っていたのは———母さんの泣いた顔だった。
母さんは言った。もう自分の息子に関わるなと、俺に佐々木一次に関わるなと言った。
———貪る。
———空虚な心を埋めるように。
ダンジョンで暴れただけでは満たされなかった。
俺が失ったものはそれほど大きい。
風呂も、着替えも、歯磨きも、そして布団に入る時も。
ずっと俺は体を引っ付けていた。
布団も桜木さんのベッドに二人して潜り込んだ。
———今日は、人の温もりが恋しかった。
ドキドキする鼓動。
柔らかくて暖かい体と体。
俺は二人の体に癒しを求めた。