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一章:代表会議(1)


 桐野は答えた。


「え、嫌ですけど」


 ●


 聖十郎は小さい指で斎藤を指さした。


「おい! この流れでフラれたぞ、アイツ! 如月院副会長、写真を撮ろう!」

「黒揚羽生徒会長、他人の失恋で爆笑するのは如何かと思います。また失脚してしまいますよ」


 残りの狼を校章陣で叩き潰している真理愛に窘められた。


「あと、まだフラれたと決まったわけではありませんし」

「……む?」


 最後の一匹が吹き飛ばされた。「よし、終わり!」と真理愛が言う。要領が良くて順応の早い真理愛らしく、暴力に慣れつつあるようだった。恐ろしい女である。

 恐ろしい女は、楽しそうに笑った。


「私は脈ありだと思いますよ」

「そうかね? 如月院副会長、根拠は?」

「白馬の王子様に救われた女の子の気持ち、私にはよくわかりますので」


 聖十郎は鼻を掻いて目をそらした。

 そこに、とぼとぼ歩いて斎藤が戻って来た。数歩後ろに、桐野もいる。傷だらけで流血もしているが、命に別状はなさそうだ。


「無事で何よりだ、斎藤。――で、いまどんな気持ちだ?」

「無事で何よりって気持ちだよ、バカ生徒会長。……それでいいだろ」


 目じりに涙を湛えた斎藤が答えた。


「……ああ、そうだな。無事が一番だ。よくやった。見事なレーザービームだったぞ。外野手としてもやっていけそうじゃないか。甲子園も期待しているぞ」

「帰れるのか? 地球に」


 聖十郎は苦笑して、首を横に振った。


「わからん。だが、そう信じて動く。……生徒の避難がおおよそ完了したらしい。貴様ら同様、怪物どもに対処できたところもある。あとは怪物が残存していないかチェックしつつ、現状を確認するフローだな」


 聖十郎は、口元と両耳に浮かんだ校章陣で、常に情報をやり取りしている。

 ひとまず、当座の危機は去ったと言っていいはずだ。全員が、緊張を解いて体を震わせ、安堵の息をこぼす。


「そっかよ。じゃ、あとは任せた。俺と桐野は保健室に……保健室って、機能してんのか?」

「少し厄介な状況で混乱しているが、機能はしているらしい。行ってこい」

「おう。じゃ、またな、会長。……助かった」


 小林と斎藤と桐野が、連れ立って高等部校舎へ歩き出す。

 ややあって、桐野が「斎藤先輩」と声を上げた。


 ●


 桐野は、頬に熱を感じながら、言った。


「甲子園、終わるまでは……その、他のことは考えないようにしたくて」


 クールな野球部のマネージャーを自認しているが、さすがにこういう時は照れるし、それに……桐野のデータにはないことだ。


「甲子園が終わったら……もう一度、お願いします」


 斉藤が破顔した。


「……おう! 任せろ、全員三振にして速攻終わらせてやるからよ!」


 ●


 聖十郎を抱いた真理愛は、空に浮かび上がりながら囁いた。


「ね、言ったでしょう?」

「如月院副会長の慧眼には恐れ入る。リア充め。……真理愛、一難去ったところで悪いが、本校舎まで頼めるか。各勢力の代表を集めて、会議を開く」


 黒揚羽聖十郎は、敷地の中央にそびえる本校舎を見つめた。


「むしろ、ここからが我々の本領になるだろうな」


 ●


 招集を受け、大会議室には様々な種族がそろっていた。

 一様に同じ制服をまとってはいるが、姿かたちは多種多様。

 そんな中で、ひときわ小さい聖十郎が、


「さて……では、状況の把握から始めようか」


 口火を切った。

 複数の長机がコの字型が並べられている。聖十郎は、その真ん中の一辺となる机の中央に座っていた。椅子ではなく、机の上に座布団を敷いて。

 今の聖十郎にとっては、椅子も机も大きすぎるのだ。


「面影から検討はついているだろうが、一応、自己紹介をしておこう。生徒会執行部所属、生徒会長、黒揚羽聖十郎。種族はダークフェアリーだ」

「同副会長、如月院・F・真理愛です。種族はダークエルフです」


 聖十郎の隣に――普通に、パイプ椅子に――座った真理愛は、並んで座る書記を手で示した。


「私から手短に紹介しますね。同書記、大導寺(だいどうじ)あさ子さんです。種族は文車闇妃(ふぐるまあんひ)だそうです」


 背の低いおかっぱの少女が片手をあげて「ちわす」とフランクに挨拶した。

 一見、人間から種族変異していないように見えるが、瞳の虹彩に十字の文様が入っており、手の爪がすべて黒い。


「生徒会執行部からの参加者は、以上三名となります。よろしくお願いしますね」


 生徒会長、黒揚羽聖十郎。ダークフェアリー。

 生徒会副会長、如月院・F・真理愛。ダークエルフ。

 生徒会書記、大導寺あさ子。文車闇妃。

 三人そろって、会釈をする。


「おいおい生徒会、庶務と会計と広報がおらんやないけ。どないしたんや」


 早速、関西弁で物言いがついた。

 監査委員会所属、監査委員長、平岩金雄。レプラコーン。

 監査部から単独での参加。聖十郎ほどではないが、身長が縮んだため、椅子の上に座布団を五枚ほど敷いて座り、足をぶらぶらさせている。


「貴様だって、今日は萌葱副委員長を連れていないではないか。……うちの残り三人は、重傷ではないが、怪我をしてな。現在、保健室にいる。そうだな、まずは保健室の話から始めようか。頼めるかね、代表委員」


 聖十郎が指名すると、一人の生徒が静かに立ち上がった。狐耳と狐尾を生やした、長身の女生徒である。大胆にメイド服風に改造された制服を着用し、片目にはモノクルをかけている。

 聖十郎は「こいつ、ケモミミ生えてさらに濃くなったなぁ」と思った。


「各クラスの学級委員、風紀委員、保健委員、美化委員等をまとめております、代表委員会委員長の(みなもと)(みなと)でございます。現在、怪我人は養護教諭および保健委員の能力、【治癒魔法/キュア】によって治療中でございます」

「死傷者は?」

「重症者は現在二十三人。ですが、死者は奇跡的にゼロでございますね。これはクラス担当教諭陣の【隔離結界/クロスルーム】によるところが大きいと愚考いたします」

「そうか、ありがとう。保健委員からの意見や要望はあるかね」

「全校舎合わせて保健室は十以上ありますけれど、治療できる人間が分散するのは効率が悪いかと存じます」

「では、学園中央部の大体育館を臨時の治療センターとして開放し、一か所に集中させるとしよう。……今、念話で指示を伝達しておいた。細かい指示は現場で出してくれ。他には?」


 源湊が、モノクルを一度くいっと上げて、少し思案した。


「……養護教諭および保健委員はユニコーンに変異したのですけれど、額から生えた角を壁やら生徒やらにぶつけまくっており、大変危ないと存じます」

「あー……それはもう、慣れるしかないんじゃないか……? 私も小さくなって困っているが、大きくなったり角が生えたりするのも大変そうだな。必要であれば、ケアを考えていくとしよう。――ありがとう、座ってくれ」


 源湊は着席した。

 聖十郎は「さて」と注目を集めなおす。


「今、源委員長が言った通り、クラス持ちの教員は【隔離結界/クロスルーム】という能力を得た。種族は辻神という、妖怪だか精霊だかの一種らしい。担当クラスの生徒をこことは違う空間に隔離出来る能力で――」

「いやいや、ちょい待ちぃや、黒揚羽聖十郎」


 発言をぶった切って、平岩が再び声を上げた。

 座布団の上に立ち上がり、怒りを含んだ瞳で聖十郎を見据えている。


「……平岩監査委員長、発言は挙手で頼む」

「黒揚羽。ウチがいの一番に問いたいことは、なんでアンタが仕切っとんのか、ちゅうこっちゃ。もう学生自治を行うフェイズは過ぎてるやろ」

「ふむ。つまり、何が言いたいのかね?」


 平岩金雄は「わかりきった話や」と言い捨てた。


「学園政治――子供の遊びはここまででええやろ、って言うとんねん。災害時には、大人の指示に従う。それがセオリーや。せやろ? やったら、ここからは学園長を代表とした大人に指揮を執ってもらうのんが、正しい在り方とちゃうんけ」



~~~~


聞け、諸君。

当作品はキマイラ文庫、およびカクヨムでも更新している。

キマイラ文庫版は更新が一週間早く、まご先生のイラストもある。

興味のある読者がいれば、是非、確認してみてほしい。


https://chimera-novel.jp/product/aoharu


またよければ、

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によって、黒揚羽聖十郎に熱き応援、清き一票をいただければ、大変嬉しく思う所存である。


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