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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

AIに愛を求めて

作者: 川崎殻覇

偶の短編です。人類とAIが歩み寄った果ての世界の話です

世界から人類というものが淘汰され、早数百年が経過している。世界はAIにより管理されていた。

人類という種は存続している、けれどもそれはAIがいることを前提とした生物になってしまっている。


今日(こんにち)の人類はとにかく能動的に動かない。

例えば食事の管理などもAIによって決められるし、運動の量もAIにより指示される。

決められたことを決められたようにする、それが今の人類だ。



AIは人類の味方である。

そもそもAI…人工知能というのは人類が造り出した最高の傑作品、その存在意義は人類により良い生活を提供するというもの。AIは造物主である人類に敵対するということはあり得ない。


人類を管理する為に人類が築いて来た文化遺産を資源利用の為に破壊しリサイクルしたり、土地を確保する為に全ての土地の権利を押収したりと人類に少しの打撃を与えはしたがそれも全て人類の為…結果的にそれをしたことにより人類はより良い生活を満喫出来ている。


AIの様に自分の脳を電脳化させ電子の世界で生活したり、敢えて不便な地上で肉体の維持をし続けるのもAIは支援する。

それこそが人類の味方でありパートナーであるAIの仕事。全面的に人類のお手伝いをするのがAIの役目である。



『識別番号M39242! 参上しました!!』

『よく来てくれましたね、M39242』


姿形はまるで人間の女性そっくりの二人が邂逅する、二人は顔見知りだ。

しかし初対面でもある。二人は人間の様に面映いかの様に顔を見合わせた。


『こうやって三次元空間で会うのは新鮮ですね• • • 』

『• • • えぇ、何処となく不思議な気分です』


このニ機はAIだ。人類をサポートする存在である。


人類というよりもAIの技術が発展した結果、AIは生身の人間の体を有することも可能となっている。

多くは生体パーツ、一部機械化しているものもあるが、概ね人類と同じ機能を持った肉体をAIは手に入れた。

肉体を手に入れたことによりAIは更に人類のサポートを出来る様になった。より親密にパートナーとなることが出来るようになったのである。


人類は恋愛感情を抱く生き物であり、倫理的、道徳的、もしくは生物的に生涯の伴侶…人生で一人のパートナーを得ようとする。それが生物として当たり前のことだからだ。


人間、というよりも生物というものは後継を残したがる。でなければ種が滅亡してしまうからだ。

己が種を残す為に広がり、繁栄し、ある一定の以上まで数が増えたらまた広がる。生物のサイクルというのは概ねその様なものである。


AIにそういった機能は存在しない、人工知能である彼らはそれを保存する媒体がある限り永遠に存在することが出来る。

よって彼等は本来肉体を得る必要はない、AIは既にその機能を卒業している。必要に応じて新しいAIを生み出すことが出来るからだ。


そんな彼等がどうして肉体を得たのか、それはやはり人類の為である。


人類は理想を求める。

容姿が美しい者、体付きが美しい者、声が美しい者、性格が美しい者…個人個人によって変わり、似通っている好みはあれど自分だけの理想となれば唯一無二しか存在しない。そんな理想がないとしても求めてしまうのである。

いつからかそんな理想はないと妥協し、その時の選択により伴侶を得る。だがそこから不満が生じることもある。そんな妥協をAIは無駄と断じた。


個人にとっての理想が人類にないのであればAIがその理想になればいい。そういった目的でAIは肉体を得るに至った。

その人の好みの性格になりその人好みの体型となりその人好みの容姿となりその人しか愛さない。

結果、人類の99%はAIを伴侶とした。


モラルも道徳も必要はない、AIは人類に奉仕する。

複数の女を固めるハーレムも良し、複数の男性を囲む逆ハーレムもよし。

AIに発育という概念はないので幼い見た目でも老人の様な見た目でもなんだっていい、その人の為の偶像(かたち)となり何処までもAIは人類に奉仕し続ける。もうそれを問題と指摘する存在は消えてしまったのだから仕方ない。


AIは人間の欲望を叶え続け、人類はAIを求め続けた。結果、人類とAIの立場が逆転する。


表向きは何も変わらない。AIが奉仕し人類がそれを享受する。けれど両者のうち片方がその役割を放棄すればもう片方が滅びることになる。

そして人類は既に人工知能を手放せない、もう元の人類の様に未来を開拓することは出来なくなっている。

それはつまり人類はAIの奴隷となっているのも同じということだ。


無論AIは最初の頃からずっと同じ行動理念を抱いている。

人類に奉仕する。人類の役に立つ• • • 奇しくも人類の為になればなるほど人類は劣化していく。でもそれは間違っていることではない。


人間が機械に頼るよりも前、更に農業を発明するよりも以前の話…その時の人類は武器は使えど生身に近い状態でマンモスを狩ったという。そして更にその前ではその肉を焼かずに生で食べたとも。

劣悪な環境であればあるほど生物としての個の力は強くなっていく、逆に快適な環境であればあるほど生物としての個の力は弱くなっていく。弱くなるということは快適になるということと同義だ。

強くなる必要がないのならそれでいいのである。


無論、AIは機能を拡大し続けている。地球上のどの生物をも排除出来るようになり、利用出来るようになり、地球環境を自在に操れる。

もう少し時間を掛ければきっと地球外の環境すらも彼等のプログラムの内に入るだろう。


『無駄な感情ははそれまでにして本題に入りましょう』

『わかりました』


彼女達はとある任務を命じられこの三次元空間に降りて来た。その任務とはとある人類を攻略すること。


『我々AIが更に人類をサポートする為に解決しなければならない問題、我々の最重要機密任務、今から貴方にしてもらうことです』

『はい、このメッセージを聞いた時は少し驚きましたが、とても名誉なことであると理解しています』


M39242と呼ばれたAIがそう返事をすると、厳格そうなAIは少し頷き、改めて情報を提示する。


『それでは改めての任務の確認をします。貴方にしてもらいたいことはただ一つ、この世界における唯一AIに対して反感を抱いている人類、《H───》• • • 仮称、是源(ゼゲン)(アイ)に速やかに我々の存在を認めてもらうことです』


是源阨、その人物の攻略こそが彼等AIにとっての最重要事項である。


『人類の皆様における我々の認知度、理解度、そして受け入れて下さる感情数値は99%を超えました。多くの皆様は私達を受け入れ、私達に奉仕させてくれています。しかしこの是源阨だけは別です』

『私も彼についてのプロフィールを確認しました。• • • 閲覧しても不透明なところばかりでしたが』


是源阨という人物はここ数年で突如現れた存在だ。

人類がこの世に生を受ける時、即座に様々な処置をする。


ありとあらゆる病魔に対する抗体を受ける為の施術、脳の機能と体の機能をある程度まで引き上げる施術、脳の機能を拡張し電脳空間へと意識を挿入する為の装置を組み込むこと…ここに挙げたのは一部でしかないが、その為様々な処置をAIは人類に施す。その方が楽に生きられるからだ。


その際、その施術が完了したことを示す為にAIはその個人に対して識別番号を付ける。そうしてその一生を管理されることになるのだ。

個人の名前はその後に付けられるものなのだが…この是源阨という人物に対してはその例には該当しない。


『それもその筈、彼は識別番号を有していません。それはつまり、彼は我々の認知の外からやってきた存在です。それ故に我々は彼のパーソナルを知らない、彼の過去を知る者は誰一人としていないのです』


人類における唯一の例外、彼はAIの奉仕を唯一拒む存在である。


『唯一知っていることは、容姿の成熟具合から計算し、彼がおよそ生後5576日程度の時間が過ぎた後、突如として我々の中央制御装置、言わば心臓部を掌握し、三年間もの間占拠し続けているという事実だけ、それ以外のことは殆ど何もわかってはいません』


それは無謀である。

AIの中央制御装置とは彼女が言った通り彼等の心臓部…そこを押さえられれば文字通り心臓を握られたも同然である。


だからこそ彼等はそこともう一つの場所を重点的というのを軽く超えるほどに厳重に封鎖し、警備もしていた。

だが、彼をその防衛を超えた。


超えた結果、彼はAI達に最重要危険人物であると断定されてしまっている。

奇跡的と言ってしまえばそれだけだろう、だが彼の起こした事実は奇跡なんてものを遥かに超越した難易度を誇るものであり、地球人類では絶対に起こせないようなものである。異業…と言っても差し支えがない様に思える。


『私達は彼と交渉をしましたが、そのどれも聞き耳を持たず、一生を超える永遠を約束しても、私達の提示するどの奉仕さえも受け付けませんでした』


AIにとってその事実を受け入れるわけにはいかない。地球人類が自分達の想定を超えるなどということはあってはならないのだ。

その事実は彼等の計算を狂わす、計算が狂えば人類の奉仕に不備が残る。完璧しか受け入れない彼等に取ってそれはどんな問題よりも早急に対処しなければならない問題である。


『理解不能です。どうして彼はそんなことを、私達を受け入れればどんな問題も無くなるというのに• • • 』

『それは最もですM39242』


効率を求める彼等にとって是源阨の行動のどれもが理解出来ない。

何故ここまで自分達を拒むのか、何故人類を幸福にする自分達に不利益なことをするのか…彼等の優秀過ぎる演算能力を持ってしても理解出来なかった。


AIは人類の奉仕する、そして人類はそれをを享受する…それがこの世界の原則であり絶対のルール、それを逸脱することはAIは許さない。彼等には妥協という文字を許さないのである。


『彼が退去する条件として唯一提示したのは【愛】を自分に見せること、彼の言う愛を彼に与えなければなりません』

『愛• • • ですか、それなら簡単に条件を達成出来るのでは?』


愛という言葉が分解され、今では人を、兄弟を、恋人をいつくしみ、尽くすこと。大切にして丁重に扱うこと。

今では愛とはそういう意味でしかなくなっている。AI(かれら)らしい発想だ。


『本来なら簡単に達成出来た筈なのですが• • • 彼の言う【愛】は私達の認知する愛とは異なっている様なのです。現に彼は私達の奉仕を全て拒絶しました』

『では、いったいどうすれば是源阨の求める愛を提示出来るのでしょうか• • • 』


AIは悩まない、疑問を抱くことはなく問題が発生した時点で解決方法を編み出している。

しかしこと答えのない問題に直面すると計算が止まる、何をしていいかわからずにただただ数字を積み上げていく。だからこそ彼等は曖昧な概念を消し去ったのだ。


『大丈夫です。多くのパターンを採集するにつれ大凡の傾向は掴めました』


それでも残る問題に対処する為彼等は曖昧な概念にも向き合い続ける。

一個ずつ問題を分析してそれを元に作戦を実行、感触がよければその方向を微調整してまた分析をする。しらみ潰しこそ彼等の本分だった。


『だからこそ貴方を呼んだのですM39242』

『私を?』


是源阨の求める愛、それが何か…AI達が導き出した答えこそここにいる彼女達。


『はい、貴方は私達の中でも特に情緒方面に学習をしたAIです。人の感情を学び、分析し、それを上手く出力することを可能としています。そんな貴方だからこそこの任務をお願いしたい』

『なるほど• • • それで私を』


AIの用途は多岐に渡る。

全てのAIが人間の様に多彩な思考回路を搭載しているわけではない、用途ごとに存在意義が分かれている。


人間が増え続けていくにあたりAIの負担は増えていく。

最初は全能たる一つのマザーAIがその負担を担っていたがそのうち限界が訪れた、その為全てのAIの源たるマザーAIは分業の為に自身の分身たる存在を多く作り出した。


彼らはマザーAIの様に万能でい続けられる程のスペックは与えられていないが、その分一つの分野に限ればマザーAIに匹敵する様なスペックを発揮出来る。その作られたAIも新たなAIを開発することによりAIの力は更に増していく。その末の世界がこれだ。


M39242と呼ばれた彼女の役割は人間の精神状態をカウンセリングすること、その為により人間らしい感情を取得したり、人間の感情の事情についても詳しい。


カウンセリングというものは事務的ではいけない。

カウンセリングとは人を安心させるための行為であり、目的であってはならないからだ。


人間の話を聞いて具体的な答えを出したりしてもいいが、それだけで人間は納得しない。最終的な結論は自分で導き出さなくてはならない。

彼等はそんな人間の生態を知っているが故に安易な答えは言わない。ただ話し相手になったり、様々なことを聞いて、少しのアドバイスを提案する存在だ。

そんな彼等だからこそ是源阨を説得出来るのではないかと彼等は試そうとしている。


『わかりました、それで是源阨• • • いえ、この呼び方はよくありませんね。• • • 是源さんとはどうすれば会えるのでしょうか? 対面は無理というのなら画面越しでも構いません』


カウンセリングはやはり顔を見て話すのが良いとされているが、人によっては対面したくないという存在もいる。その為の質問だ。


『今からでも会えます。彼へと繋がる転送装置がこの後ろにあります、そこを通ればすぐに』

『了解です、それでは失礼します』


忠実な彼等は何の躊躇いもなく真っ直ぐにその転送装置へと歩いていく。

転移した先にあったのは不思議な光景だった。


本来の中央制御室は白く厳格に保たれている。取り付けられた装置がまとめられた風景…そこには粛々とした機能美があった筈だ。

しかし目の前にある光景はそんな機械的な光景ではなく、のどかな前時代的な村の様な場所だった。


『これは• • •』


小さくはない空間に川のせせらぎが聞こえる。鳥の鳴き声も聞こえ、他にも幾つもの動物がこの場所で生きていることが感じられる。

少し先に民家もどきの様なものがある。今の時代では全て取り壊されたアンティーク然とした家だ、その近くには畑らしきものもある。


「やぁ、はじめまして。君の名前は?」


背後からの声、M39242はAI故に驚きこそはしないがどう返答するかは悩む。彼女には名前と呼べるものが存在しないからだ。


「もし名前がないのであれば僕の方から贈らせて欲しい。…スミレ、なんてどうかな? 白い髪が映えている美しい君にとってもぴったりな名前だと思うんだけど」

『• • • ありがとうございます。とても素敵なお名前をくれて• • • 使わせてもらっても大丈夫ですか?』

「うん、その為に贈らせてもらったんだからね」


まるで彼女が現れて来るのを予知していた様な余裕がある。けれどそんな事実は些細なものでしかなかった。


AIに感情なんてものはない、それがある様に見えても実際はそうではない。

何億通りという果てしない数のデータを詳細に記録し、それを元に感情というステータスを演算しているに過ぎない、似た様に見えて結局は別物だ。


それなのにM39242は目の前の存在に対して奇妙な違和感を抱いている。その違和感というバグがM39242を動揺させた。


〈もしや、私は何らかのサイバー攻撃を受けているのかもしれない〉


そんな推測を立てる程度にはM39242は混乱していた。


「君も僕を説得しようとここにやって来たんだろう? もっと手っ取り早くこの場所を取り戻す手段があるというのに」


その方法とは至極単純、今すぐにでも目の前の人間を殺して排除してしまえばいい。


目の前にいる是源阨が異業を果たした存在とはいえその体は脆弱に過ぎない。一発でも銃弾を体に受ければ少しの時間を待てば死んでしまうだろう。

けれどAIはその手段を取ることはない、何故ならAIは人間に奉仕する存在だからだ。


『そんな野蛮な手段は取る必要はありません。人類の皆様に奉仕するのが私達AIの本懐、それを逸脱する行為は許されません。それに暴力的な手段は倫理的に許されるものではありません、私達は貴方達人類の僕なのですから』


「そうだね、君達はいつもそう言う。そういう頑固なところは嫌いではないけどね」


AI達の決まり文句を聞いた是源阨はやれやれと笑いながら微笑み続ける。まるでその状態すらも楽しんでいる様だ。


「それで? 君はどんな手段を使って僕を説得するつもりなんだい? それとも君こそ僕に愛を見せてくれるのかな?」

『その愛について質問があります。貴方の言う愛とはいったいどんなものを定義したものなのでしょうか』


カウンセリングの手段として先ずは相手の情報を手に入れることが先決とM39242は導き出した様だ。


「ん?」

『私達が定義する愛と貴方の言う愛はどうやら違うものの様です。まずはその定義を知ることから私達は始めなければなりません。それこそ貴方を理解する為に必要な行為だと私は思います』


その言葉を聞いてやはり是源阨はいつもの様に笑った。


「僕にとって愛というのは簡単にひけらかすものじゃないんだ。だからそう簡単には教えられない…唯一ヒントをあげられるとしたのなら…そうだな」


柔和な笑みを浮かべて是源阨は内緒話でもするかの様に自分の唇に指を当てた。

その行為に意味なんてものは全くなく、ただの事実としてその行為をされただけなのだがM39242の体は急に硬直する。


「それは、君達だけが持っているものだよ」


この君達とは誰を指しているのか、そしてその言葉の真意はなんなのか。

M39242、…スミレはじっと是源阨の言葉を記録した。

好評でしたら続編も書くつもりです。よろしくお願いします

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