第6ぬこ
「いや全く考えてなかった。なんて言うかもう沙弥はうちに住むみたいな雰囲気だったから」
「うん。私もそう思った。ていうかお兄ちゃんの話からして人間になっちゃって住むとこもなくなっちゃったからそれを相談しに来たのかと思ってたよ」
と先ほど沙弥が言った『私はもうここに住むことになってるんですね・・・』発言に対してそれぞれ考えていたことを話す俺と美雪
実の所沙弥がこの家以外のところに行くなんてことは微塵も考えてなかった(沙弥にどこかに行ってほしくないという意味ではなくもうこの家に住むことになっていると思っていたと言う意味)。
「いえ、ここに住まわせてくれるということに不満があるわけではなくてむしろ嬉しいんですけど・・・。迷惑がかかりませんか?現にお姉さんはアレルギーがあるんですよね?」
沙弥が考えていたのはここに住む事が嫌なのではなく自分がここに住むことによって誰かに迷惑がかかるんじゃないかという心配だったようだ。
「(らしいと言えばらしいんだけどな・・・)」
だがこの家に沙弥が住むことで困るようなことはほとんどないため沙弥の考えていることは正直杞憂だ。
この家はもともと両親も住むように設計されているし使っていない部屋なんていくらでもある。
と言うか両親がいても部屋数は余る。なぜなら両親が一緒に住むのは当たり前としてそもそも兄弟も3人だけのつもりではなかったらしい。
うちの両親は結婚してもう20年以上になるのに未だに仲がいい。と言うか夫婦喧嘩なるものすら見たことがない。小さいころは夫婦喧嘩なんてものは漫画の中だけの話だと思っていたくらいだ。
そんな夫婦仲もあってか兄弟は男も女もあと一人ずつはほしかった(何故兄弟が3人しかいないかと言うと両親曰く『4人目を作ろうとしていたけどそのころにはもうお姉ちゃんは中学生だったし、いい加減仕事も再開したいしね』だそうな)と言っていたのでこの家もそれに合わせてかなり大きいし部屋も使っていない部屋の方が多いくらいある。
食事も一人くらい増えたってなにも問題ないし、食費なんてもっと問題ない。両親は海外で共働きに加え仕事すら趣味(と言うかあの人たちには楽しめないものなんてない気がする)で振り込みもしてくれているし姉も働いているからだ。
俺と美雪は沙弥がいることを迷惑に思ってはいないしむしろ居てくれるといいななんて思っていたりもする。
あとは猫嫌い(暫定)の姉だけだがそこは今からの話し合いで解決しようとしていたところだ。
「迷惑だなんて全然ないよ。私とお兄ちゃんはいて欲しいなーって思ってるし、お姉ちゃんのアレルギーは今は全然ダイジョブだしね」
美雪は俺の考えていることをきちんとわかってくれていてそれをしっかりと沙弥に伝えている。
「それじゃあお姉さんが猫嫌いって言うのは?」
沙弥はなおも遠慮しているのか表情はあまり芳しくない。
「ああ、それならもっとダイジョブだよ。お姉ちゃん猫にかまれないか警戒してるだけで実際は猫大好きだしそれにごはん上げてた時は『この子は噛まないし毛並みも綺麗だし可愛いから大好きだ』って言ってたから」
「でも・・・私がお返し出来る事はほとんどないんですよ?ここに住まわせてくれる事は私にとってむしろ嬉しい事なんですけど・・・本当にいいんですか?」
沙弥はなおも心配そうだ。
「かまわないよ。さっきも言ったけど俺と美雪は沙弥にいて欲しいしね」
「ですけど・・・」
「そこまでうちに住むのに何も出来ないことが心苦しいなら俺の家事を手伝ってくるってのはどう?うちでは俺一人だけが家事担当でさー。手伝ってくれるなら大助かりなんだけど?」
実際にはそこまで大変と言うことはない。3人だけならば言うに及ばず、沙弥が増えたとしても俺一人でも家事くらいならなんとかなる。
が、それでは沙弥が納得できないだろう。どうもこの子は人に迷惑をかけると言うことが出来ないようで(元が猫だからもっと自由奔放でもおかしくないと思うんだが)手伝ってくれて困るという事もないし、それでこの子が家族になってくれるというのなら願ったり叶ったりだ。
「あの・・・。私、家事なんてできないです・・・」
「いや、それは言われなくてもわかってるよ。昼ごはんの片付けの時にお手並みは見せてもらったからね。大丈夫、誰だって最初ってのはあるもんだし、ゆっくり覚えていけばいいよ」
ここまで言っても沙弥はやはりと言うべきか顔を曇らせていたが、それも短い間の事ですぐに顔をあげて俺と美雪に真剣な表情を向け言う。
「わかりました。それではご厚意に甘えてお世話になります」
その言葉を聞いた俺と美雪は同じように顔を綻ばせる。
「はい!お世話させていただきます!」
「沙弥、これからよろしくな?」
美雪と俺もそれぞれに挨拶を返す。
「はい!不束者ですがどうかよろしくお願いします!」
沙弥がうちの家族になると決めた後は最初から言っていたようにどうやって姉を説得するかを話しあった。
「まぁ、説得って言っても沙弥がうちに来ていた猫だって信じてもらえればそれで十分だと思うけどな」
「そうだねー。お姉ちゃんって猫嫌いなわけじゃないし、沙弥ちゃんの事は大好きだって言ってたわけだし」
とまあ、姉の性格を知っている俺と美雪からしてみれば姉を説得するのはそれほど大変なことでもないと思っているのでせいぜい形としての話し合いくらいしかしない。
しかし姉の事を知らず、これからうちに厄介になる身の沙弥にしてみれば不安なようで聞けることは全部聞いて話せることは全部話す、くらい真剣な姿勢のようだ。
「えっと、お姉さんがどういう人なのかはわかりませんけどアレルギーの心配は本当にないんですか?」
「う〜んとね?治った訳じゃないけど大きくなると体力がついてきて風邪を引きにくくなるでしょ?症状はそれと同じくらいのものででよっぽどひどい訳じゃないから」
「そうそう。医者にも大丈夫って言われてるからあとは姉さん次第だね」
「それじゃあお姉さんの体調が悪くなったりはしないんですね?」
「あったとしてもくしゃみが出やすくなるくらいかな」
「あと気にすることと言えば姉さんは機嫌悪い時はホントに機嫌悪いからそれくらいかな」
「そうそう。だから沙弥ちゃんはいかにしてお姉ちゃんに好きになってもらうかだけ考えてればいいよ」
そこまで聞いてどうやら姉の事は大丈夫だとわかったようであとは自分の問題だけだと思ったのかやけに目とか顔とかに私はやる気ですオーラが滲み出ている。
「それじゃあお姉さんはどんな人が好きなのか教えてください!」
沙弥の瞳には闘志すら見えていたような気がした。
その後は沙弥に対するお姉ちゃん講座が開催され対お姉ちゃん情報が渡された。
と言っても姉がどんな人が好みかくらいしか教えていないのでたいして時間は使ってないしどの道姉さんから帰宅をする旨のメールを貰ったのでお開きになってしまった。
それからしばらく姉さんを今か今かと待っていたがバイクの音が聞こえたので、三人全員で玄関まで小走りで迎えに行った。
俺たちが玄関について待っているとすぐに一歩一歩この家に近づいてくる足音が聞こえてきた。
俺たち三人はそれぞれ緊張している。
俺も少しは緊張しているし、沙弥は言わずもがな顔つきからよくわかる。しかも何故か美雪も一緒にどうしてそこまで緊張しているんだというくらいガチガチになっている。
とうとう足音が玄関の前で止まる。
そこでドアがいきなり開くと思いきやピンポ~ンと言うどこの家にも備え付けられているであろうベルの音が鳴った。
「「・・・?」」
姉がわざわざピンポンなんか使うはずないし、そもそも自分の家に入るのにピンポンを押す人間はいない。
俺と美雪は揃ってなんでピンポン?と顔を見合わせている。
ところが沙弥はピンポン文化(?)に疎いのか特になにもなさそうに変わらない姿勢(ちなみにこの時の姿勢は正座江戸時代あたりの女の人がやっていたような旦那様をお出迎えする姿勢だ)で待ち続けている。
「(一体どこで知ったんだろ・・・?)」
それにいつまでその姿勢でいるんだと思っていたがそんな事にはお構いなく返事がない事に疑問を持ったのかもう一度鳴るピンポンの音
「はい!」
さすがに無視しっぱなしと言うのもあれだから返事くらいはしておく。
そして開かれるドア
沙弥はと言えばドアが開かれ始めたあたりからあらかじめ決めておいたのであろう『お出迎えの言葉』を述べている
「お帰りなさいませお姉さん!今日からお世話になります沙弥です。不束者ですがよろしくお願いします!」
おかしい表現が混じっていたような気がするが今は置いておく。
沙弥は口上が終わった後頭を起こしたが最初にキョトンとした表情になり段々と顔が赤くなっていく。
なにせ今目の前にいるのは姉さんではなく
「えっと、新聞の集金なんですけど・・・?」
新聞の集金さんだそうな。
当然集金さん(仮名)はこの状況についていけないのか頭に疑問符を浮かべている。
が、もうここはなかった事にして集金さんにも忘れてもらおう。
「あ、はい。ちょっと待ってて下さいね」
今月の新聞の代金を払うため俺は居間にに自分の財布を取りに行く。
去り際に美雪に目配せをしておく。
「(沙弥の事は頼んだ)」
「(了解おにいちゃん)」
しかし財布を取りに行こうとしたところで後ろから声がかかった。
「なにしてるんだお前ら?」
今までいた4人の中の誰でもない声。
人の事なんてまるで考えていないんじゃないかって言うくらいトゲのある声にさらに不信の色を上乗せしている。
高くもなく低くもないアルトではあるものの、なぜかとても奇麗に聞こえる声
しかし、本人の冷めた雰囲気ででマイナスの印象を相手に与える声だ。
美雪と俺には聞き覚えがある、毎日聞いているし今まで待ちに待っていた人物の声でもある。
あわてて振り返ってみるとそこには想像していた通りの人物がいた。
「兄妹揃ってお出迎えとはお姉ちゃん冥利に尽きるな。やけに殊勝じゃないか?」
玄関で集金さんの後ろにいるにも関わらず集金さんよりも目立つほどのオーラを放っているせいで身長さえ数センチ高く見えてしまう。
「姉さん!」「お姉ちゃん!」
そこにいたのは今現在親がいない我が遠野家で最高の権力を握っている長女、遠野 彩音その人だった。
どうも~おばんどす~flayaどすえ~
今回は前回に比べ早めに投稿できました^^
集金さんて今どき各家に来たりするんですかね(笑)
さてさてとうとう現れました最強のお姉ちゃんこと彩音さん!
ええ最強です(笑)
この人の名前の由来は綺麗な声で歌う人と言う意味で付けますた。
実際に歌がうまいかどうかは秘密です^^
次回はお姉ちゃんと沙弥の邂逅編ですね。
はたしてどうやるやら・・・
これを読んでくださってる方、作者さんでなくても感想を受け付けるようにしましたので感想くださいお願いします。
誤字脱字ありましたらぜひともに教えて下さいません
それではまたの機会に
(^-^)ノシ