第5ぬこ
「うわ、すっごーい!本当に本物だ!」
美雪は目を丸くして沙弥の猫の証である猫耳を触っている。
普通は人間の形をしている人が猫だと言われても信じられないが、美雪も俺と同じで普通だった。当然美雪は猫だと言う証拠を見せてくれと言いだし確認のため触ってもいいかと言う問いに沙弥が首を縦に振ってこたえたので今ここに至る、と言う訳だ。
「(俺も確認のため触らせてくれって言っておけばよかった・・・)」
なんか損した気分になったのであった。
そんな俺の内心などお構いなく、美雪はスキンシップを続けている。
「すごいな~。飾り物かとも思ったけどちゃんと頭に根元から付いてるし、すんごく手触り良くて気持ちいいや」
「わかって、んっ、もらえましたか?」
沙弥は恥ずかしいのか先ほどから少し顔を赤くして時折体をぴくぴく震えながら美雪のスキンシップに耐えている。
「うんうん。これは信じる他ないね。証拠が猫耳だけって言うのもちょっと弱いけど・・・。かわいいからよし!それにこれしか出さないってことは他に出せるものがないんでしょ?」
美雪は沙弥の耳から手を離さずさわさわしながら話している。
「かわいいのくだりはあえてスルーするとして。よくわかったな?これしか出せないって」
「それはわかるよ。疑われてるのに中途半端なことしてたらバレたときもっと信じてもらえなくなるかもしれないじゃん」
我が妹ながらなかなか賢いな。俺がその状況になった時は耳を触って確認もしなければ、そんなことを考えもしなかったんだが・・・。
それをそのまま伝えると
「んー。それはまあ最近推理物のドラマにハマってるからかな~。ってお兄ちゃんこの子の耳が本物かどうか確かめなかったってさすがにそれはどうかと思うよ?この子可愛いし美少女だし人を騙すようには見えないけど、それでもきちんと確認しなかったって言うのは危機感足りなさすぎるよ?」
「・・・どうせ俺はバカですよー。つかさり気に可愛いと美少女って同じだと思うんだけど?」
「じゃあお兄ちゃんはこの子がかわいくないって言うの?」
「いや、かわいい。そして美少女だな」
「でしょ?」
なおもさわさわしながら俺との会話、沙弥はかわいいとか美少女とか言われたせいかさっきよりも顔が赤い。
「(いや、それにしてもさっきからピクピクして震えてるな)」
なんと言うか震えているというよりもモジモジとかそんな表現が似合うようなピクピクの仕方だ。
「どうかしたか沙弥?なんかさっきから妙にピクピクしてるけど・・・」
「いえその・・・。くすぐったいんです」
「(猫って耳触られるのが弱点なんだな)」
どうでもいいが新発見だ。
沙弥が耳を触られて身悶えている?のは分かった。嫌がっているかどうかは分からないがそろそろ止めてやるべきだろう。
ところが、沙弥が顔を真っ赤にして美雪のスキンシップに耐えているのに当の美雪と言えば全く止める気配がない。
「おい美雪。いい加減やめろよ?沙弥も困ってるんだしさ」
「う~ん。困ってるのはわかるし止めてあげないとなーって思ってはいるんだけどね?」
少しもそんなことを感じさせないで言う。(感じさせないと言うよりもそもそも耳を触るのを止めようとしていないからよくわかる)
「いや言ってることとやってること違うだろ。止めようと思ってるなら早くその手を離せ」
「でもね?こんなにかわいい顔を真っ赤にして耳を触られるのに耐えてるんだよ?なんていうかこれはもう触らないと失礼かなーとか思う訳でして」
「なにその使命感!?嫌がってるなら止めるのが普通だろ!」
妹がドSだと発覚した。
それから手が沙弥の耳に吸いついたように離れない美雪を沙弥本人から苦労して引き剥がして落ち付けた後本題だった沙弥の正体についてにを戻した。
「んで、もういい加減沙弥が猫だって言うことは分かってもらえたと思うんけど、それから後の事を説明してもいいか?」
「うん、大ジョブだよー」
美雪にさっきまであった険はない。沙弥の猫耳に癒されてスッキリした表情になっている。
「それでまあ、当然猫の沙弥に頼れるアテなんかないし人間になる前まで通っていたこの家に頼って来たんだよ。よく来てたやけに綺麗な毛並みの猫がいただろ?あれが沙弥だな」
「うっそ!?じゃあこの子って私とお姉ちゃんがよくご飯上げてた子?」
「はいそうです。いつもおいしいご飯をくださってありがとうございました」
沙弥は深々と頭を下げながら美雪に感謝している。
「あはは。そんなに感謝されることでもないよ。どうせ晩ご飯とかの残りものだったしね」
「いえ!たとえ残りものでもごはんはごはんですしそれにすごく美味しかったですから!」
「ふふ。マジメなんだねー。それにしてもよかったねお兄ちゃん?ごはん美味しかったって」
「ああ、喜んでもらえたんならなによりだ」
そのセリフを聞いた沙弥はキョトンとした眼をして俺を見ている。
「えっと、もしかしていつももらってたごはんは・・・?」
「俺が作ったやつだね」
「そうだったんですか!それはそうとは知らずありがとうございました!」
沙弥はあわてて俺の方に向き直り礼を述べる。
「美雪も言ってたけどそんなに律義にならなくてもいいよ?晩の残りモノだったしむしろ片付け手伝ってもらってたようなものかな」
そう、家事は全て俺担当なのだ。
何故俺が家事をするのかと言うと俺が特別料理その他諸々に優れているからではない。俺の家事スキルは練習と言うかやっていれば自然に身に付くようなレベルでよっぽど才能がない限り誰にでもできる。
つまり俺の料理はいわゆる男料理と言うやつで質よりも量だし料理の腕なら美雪はともかくも姉は俺よりも格段にうまい。
本人はめんどくさがって家事をしようとせずもうこれ以上ないくらいに大雑把な性格なのでやる気がでない事と興味がない事を無理にさせようとするとそれはそれはひどい事になるので無理にやらせようとはしてない。
美雪は手先が器用で大体なんでもできるんだが料理が出来ないため台所に立つことはない。
とは言っても料理が出来ないと言うのはなにも味覚音痴だから、ではなくただ単にやったことがほとんどないせいだ。
親が海外に行くようになった頃の美雪はまだ幼く、当時は姉も学生で自分よりも小さい妹弟に家事を任せることに不安もあったのか姉の主導で俺が手伝う、というスタンスだった。
それからしばらくしてある程度俺が料理が出来るようになると姉は段々と台所に立つことが少なくなり、就職してからは俺にまかせっきりになった。
俺一人でも3人分の食事を用意するのは難しくないし美雪は陸上部に入ってしまったため、結局料理をする機会も必要もなくなってしまった。
―――――
余談だが美雪の家庭科の成績は料理の科目が多いと2~3で裁縫のような科目が多いと3~4だ。
なんでそこまで極端なのかと言うと美雪は大体なんでもこなせるくせに初めてのもので料理のように失敗すると無駄ができてしまうような事に取り組むと極端にテンパってしまうからだ。
ゲーム風に言うならば初期値が限りなく0に近いのに成長値が半端なく高いみたいな感じなのだ。
―――――
「でもまあ美味しく食べてくれたんなら嬉しいよ。俺は料理人ってわけじゃないけどそれでもやっぱり自分の作ったもので喜んでくれるのは嬉しいからね」
「はい!とってもおいしかったです!」
沙弥は笑顔いっぱいで応えてくれた。
俺と沙弥はのほほんとした柔らかな空気の中で笑い合っている。
ところがこ美雪の放った言葉でそんないい雰囲気も消えてなくなってしまった。
「いい雰囲気なのはいいけどさ?それよりもどうするのお兄ちゃん。忘れてるのかもしれないけどお姉ちゃんって猫嫌いなんだよ?」
「あ。しまった忘れてた・・・」
「え?お姉さんって私の事嫌いなんですか?ごはんをくれる時はいつも優しくなでてくれましたけど・・・」
沙弥は今の話を聞いて少し不安そうな顔をしている。
「いやいや、沙弥の事を嫌ってるってわけじゃないよ。昔いろいろあってっていうか単純な話なんだけど」
「そうそう。単にお姉ちゃんが小さいころ猫アレルギーだったのと猫好きだったんだけどある時近所のボス猫的なのを触ろうとして噛まれちゃったって事があってね。早い話がそれでトラウマになっちゃったってわけ」
「そうだったんですか・・・。それは、その・・・。ごめんなさい・・・」
「(今の話を聞いて沙弥が謝る所なんてなにもないと思うんだけど、それで謝っちゃうのが沙弥なんだよなあ。今度から直すように言おうかな)」
「あはは、そんなことで謝んなくてもいいよ。今ではそこまで嫌いってワケじゃなくてたんに気を付けてないと噛まれるからって警戒してるからだよ」
美雪も沙弥の謝罪癖が気になるのか若干苦笑いで話している。
「美雪の言うとおり気にしなくていいよ。それよりも美雪も沙弥の事わかったみたいだしこれからの話し合いはいかにして姉さんを説得するかの会議でいいか?」
「うん。私はそれで問題なっしんぐ!」
美雪はついさっきまであった険などどこ吹く風と言わんばかりに意気揚々としている。沙弥はとてもいい子だし美雪としてもこんないい子なら大歓迎、と言うことなのだろう。
「それでは美雪2等兵、早速作戦案を考えたまえ」
「らじゃーです。おにいちゃん隊長!」
美雪は笑顔いっぱいに鋭角に曲げた手を額に当てて所謂敬礼のポーズをとっている。
「あの、ちょっといいですか?」
そこでどうした事か沙弥が困惑した表情で話しかけてきた。
「どうかしたのかね沙弥3等兵、発言を許可する言ってみたまえ」
俺はそれをあえて無視しておどけて先を促す。
「いえ大したことではないですし、そうやって私の事を話してもらえて嬉しいんですけど・・・」
そこで沙弥は少し話を止めて先を言おうか迷っている。
「気になってる事があるなら言っちゃいなよ。あとで忘れてたー!なんて事になっても困るしね」
そんな沙弥に対して美雪も少しでも話やすくしようとしている。
「えっと、さっきも言ったように私は嬉しいんですけど・・・」
そこで沙弥は先ほどと同じように止まるが今度はすぐに続きを話し始める。
「私がこのおうちでお世話になるってのはなんかもう決まっちゃってるんですね・・・」
「「あ」」
沙弥が言ったのは俺たちが全く失念していたことだった。
本当に遅くなって失礼しましたー!
まあ仕事があったのはあったんですがちょっとやりたいことがあってお休みの日を使ってますた。
あとは今回ちょっとだけ書き方を変えてみたのでそれについての考察?ですかね。
この事に関して前よりも読みやすいとか変わらないとか聞きたいので良ければ感想をお願いしたいです^^
今回は合い間の時間の投稿で見直し時間がなかったので誤字脱字があったらぜひ教えてください。
もちろん意見感想もお待ちしております!
アドバイスもお待ちしてます!