三年越しの悪戯 【月夜譚No.325】
本を開くと、間に紅葉が挟まっていた。鮮やかな赤色の形が掌を連想し、作中の赤ん坊が宙に伸ばした小さな手を思わせる。
これを最後に読んだのは、確か三年前の旅行先だ。温泉のついでに紅葉狩りへ行き、妹が読みたいと言うから宿で貸したのだ。
きっと、紅葉は妹の仕業だろう。紅葉狩りで拾って借りた本に挟み、姉がいつ気づくだろうかとわくわくしていたに違いない。思えば、帰りの新幹線の中で妹がやけにそわそわしていたのを思い出す。
しかし残念ながら当の姉はすっかり読了してしまった後だったので、本を開くことはなかったのだ。そして今の今まで、こんなものが挟まっていたとは露も知らなかった。
姉はくすりと微笑んで、同じページにそっと紅葉を挟み直した。
妹に話したら、今更気づいたのかと呆れられるだろうか。それとも「綺麗でしょう」と笑うのだろうか。
姉としては、どちらもありそうな気がする。
次に会う楽しみが増えた。今は離れて暮らす妹の表情を思い浮かべながら、姉はそっと表紙を捲った。