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プラネット大械獣

作者: 弐刀堕楽

登場人物


主要キャラ

テイル・クラフト(14) 獣人の少年(ネコヒト族)

ミミー・ワイス(14) その幼馴染の少女(〃)

インディ(14) テイルの相棒の機械人(コックピット族)


ワイス一家

カール・ワイス(36) ミミーの父

コリーナ・ワイス(33) ミミーの母

テレーヌ&プーシャン(8) ミミーの双子の妹


ピコネコ村の人々

ネモイ村長(74) 老爺(ネコヒト族)

ステイル(68) その相棒(コックピット族)

レザー(25) 肉屋の女店主(ネコヒト族)

ブッチ(20) その店員(コックピット族)


フロンティア商会

クレメンティ(40) 第七機兵隊の隊長(人間)

カペッロ(35) 副隊長(〃)



◯森の広場

   森の広場で、一匹のメタリックな豚が草を食べている。

   と背後から、巨大な熊が現れ、豚にかじりつく。ガキンという金属音。どちらも普通の動物ではなく、機械と生物が入り交じった機械生命体「械獣(かいじゅう)」である。

N『械獣が械獣を喰らう世界』

   近くの低木に隠れ、様子をうかがう機械人、コックピット族の子供インディ(14)。見た目は身長2m程度、丸っこい体つきの人型ロボ。お腹には丸窓付きのドア、中には子供一人が入れる操縦席(コックピット)あり(身体の操作はできない。搭乗者はターゲティングの補助などを行える)。

   インディのお腹の操縦席。その丸窓に猫の獣人、ネコヒト族の少年テイル・クラフト(14)の姿が見える。

   テイル、操縦桿を握り、ニヤリと笑い、

テイル「とらえた! 今だ!」

   と低木から突き出す、機械人用の折りたたみ式クロスボウから矢が発射される。

N『弱肉強食の時代。生き残るすべは……』

   飛翔する矢、熊械獣の背後から心臓をつらぬく。

テイル&インディ「よっしゃー!」

   と喜ぶ二人。

N『種族を越えた、強固なキズナ!』


◯森の道

   テイルとインディ、熊械獣の死体を乗せた荷車を引っ張っている。

テイル「やったな、インディ。このデカさ。記録更新だ」

   インディ、自分の腹を叩き、

インディ「やっぱりテイルがお腹に入ると調子がいいね」

テイル「そうか?」

   インディ、自分の額を指差し、

インディ「うん。獲物がよく見える。もう一個、目玉が増えたような感じ」

テイル「ふーん、よくわかんねえや。逆に身体が重たくなって、動きにくくならない?」

インディ「全然。むしろ力がわいてくる。重さなんてまったくさ」

テイル「重さねぇ……。そういや、インディ。なんだか急に荷物が重くなったような……」

インディ「確かに……そんな気がするかも……」

   とネコヒト族の少女ミミー・ワイス(14)、荷車の熊の上であぐらをかいている。

ミミー「ふう。楽チン、楽チン」

テイル「って、ミミー! そこで何やってんだ!」

ミミー「ニャハハ! 冗談だって」

   と荷台から飛び降り、

ミミー「大変そうだなーと思って、手伝いに来たよ」

テイル「手伝いって。もう村は目の前じゃねえか」

   とテイル、見えてきたピコネコ村の入口を指差す。

   ミミー、荷車の取っ手を引っ張り、

ミミー「まあまあ。そう固いこと言わずに」

テイル「そう言って。本当はインディを口説きに来たんだろ?」

ミミー「エヘヘ。バレた?」

   ミミー、インディの横に移動し、

ミミー「ねえ、インディ。明日は私と狩りに行こうよ」

インディ「うーん、いいけど……」

テイル「騙されるなよ。どうせまた危険なとこに連れ回されるぞ」

ミミー「わかってないなー。危険がない冒険は冒険じゃない!」

   とミミー、胸を張る。

インディ「ミミー。狩りは冒険じゃないよ……」

ミミー「狩りもまた冒険なのです!(エッヘン)」

テイル「ダメだ、こりゃ」


◯ピコネコ村・広場

   ネコヒト族とコックピット族が共存する村。広場の中央に一本の大きな木。その周りを両人種の子供たちがグルグル回っている。

   子供たち、広場に入ってきたテイルたちに気づき、

子供A「あ、テイルだ」

テイル「よう」

子供B「狩りに行ってきたの?」

テイル「まあな。インディと仕留めてきた」

   と荷車の上の獲物を自慢気に指差す。

子供A「すげぇ! やるじゃん、コブなし!」

子供B「コブなし! コブなし!」

   と子供たち、インディの周りでピョンピョン跳ねる。

ミミー「コラ! 人の見た目のこと、とやかく言わないの!」

子供A「だってー。インディって俺らとちがうもん」

子供B「機械人なのにコブがない!」

   と子供たち、インディの左肩を指差す。インディの肩は、機械人なら誰でも付いているコブのような器官がなかった。

子供A「コブがないと夢を見ないって本当?」

インディ「うん。寝ちゃうとすぐに朝になってるよ。だから夢ってのがどんなのか、僕にはわからないんだ」

子供B「えー。かわいそう」

村長の声「かわいそうなもんか。夢なんぞ見ないほうがええ」

   といつの間にか近くに、ネコヒト族のネモイ村長(74)と、相棒のコックピット族のステイル(68)が立っている。

子供たち「あ、村長とステイルさんだ」

   村長、遠い目をしながら、

村長「インディよ。わしはこの歳でいつも思い出すんじゃ。若い頃の夢。わしとステイルは聖域を目指した」

ステイル「目指したなァ」

ミミー「いや、村長。夢ってそういう話じゃ……」

   村長、ミミーを無視して、

村長「ユーラス大陸の大森林。その最果てにあると言われる、安寧の地『機神の聖域』。しかし何度挑戦しても機神界の壁を越えられず、わしらは諦めてしまった」

ステイル「諦めたなァ」

村長「最後の挑戦は二十年ほど前。あれはわしが52歳の頃……」

ステイル「いや、53じゃなかったかァ?」

   ミミー、呆れ顔で、

ミミー「あーもう。また昔話が始まったよ」

子供たち「村長、いっつも同じ話してる」

テイル「なあ、さっさとレザーさんとこ行こうぜ。真面目に聞いてたら日が暮れちまうよ」

インディ「だね」


◯ピコネコ村・肉屋の前

   ネコヒト族の女主人レザー(25)と、コックピット族の店員ブッチ(20)のお店。店頭には切り分けられた肉や金属パーツが並ぶ。

   テイル、店の前で、

テイル「レザーさんいるー?」

   レザー、店の奥から顔を出す。前掛けが血まみれで、ノコギリを持っている。

レザー「いなかったことあるか? 小僧」

テイル「獲物買い取ってくれよ(ニカッ)」

   レザーとブッチ、店の外で荷車に乗った熊械獣を見て、

ブッチ「ウヒョ~! ずいぶんとデケえ獲物! こいつァ最高だ~!」

レザー「喜ぶなよ、ブッチ。あたいらは今からこれを解体するんだぜ?」

ブッチ「ゲェ~! 忘れてた! こいつァ最悪だ~!」

   と頭を抱える。

テイル「それ客の前でする会話じゃねえだろ(ビシッとツッコミ)」

   レザー、店の奥に引っ込み、

レザー「あれぐらいのサイズだと……そうだな……」

   と棚をゴソゴソ漁る。

   レザー、戻ってきて、カウンターにドカンと大きな籠を置く。中には肉や野菜、金属パーツがゴロゴロ。

レザー「ほれ。今回の報酬」

テイル「うげっ。ちょっと多すぎない?」

レザー「インディもいるだろ。育ち盛りなんだからいっぱい食べろ」

インディ「いや、さすがにこの量は……」

テイル「食い切る前に腐っちまうよー」

   ミミー、テイルの横で、

ミミー「ねえ。だったら、うちに来ない? 干し肉とか芋とか、保存食と交換してあげる。お母さんに頼んでみるよ」

テイル「マジで? 助かるぜ! ミミーもたまには役に立つな」

ミミー「うん。やっぱ来なくていいわ」

   とミミー、真顔でスタスタ去っていく。

テイル「ちょっ、冗談だって! 待てよ、ミミー!」

   とテイル、籠を持ってミミーの後を追う。

インディ「あーあ。余計なこと言うから」

   とインディも後を追う。


◯ピコネコ村のワイス家・庭

   ワイス一家(五人家族)が暮らすニ階建て、木造の家。広い庭あり。

   庭でミミーの双子の妹、テレーヌ&プーシャン(8)が遊んでいる。そこにテイルたちがやってくる。

テイル「ミミー様! 本当にありがとうごぜえます!」

ミミー「だからもうわかったってば!」

   テレーヌたち、それに気づき、

テレーヌ「あっ、テイルとインディだ!」

テイル「よっ、テレーヌにプーシャン! 昨日ぶりだな」

テレーヌ「テレは昨日テイルに会ってないよ?」

テイル「昨日広場で遊んでるとこ見たぞ」

テレーヌ「それ会ったって言わない!」

ミミー「プー。お母さんどこ?」

プー「ん」

   とプーシャン、家を指差す。


◯同・玄関

   ミミー、玄関の戸を開け、

ミミー「お母さーん! 緊急事態!」

   ミミーの母コリーナ・ワイス(33)、玄関に立つテイルの籠を見て、

コリーナ「あらー。またたくさん貰ったわね」

テイル「レザーさんの大盤振る舞いで」

インディ「こんなになっちゃいました」

   コリーナ、腕まくりをし、

コリーナ「よし! じゃあ、おばさん張り切って料理するわよ。今日はうちでご飯食べていきなさい」

テイル「え、いいの?」

コリーナ「芋も好きだけ持って帰っていいからね。もちろん干し肉も」

テイル&インディ「ありがとうございます!」

   と二人、頭を下げる。

   ミミー、二人の背後に立ち、背中を叩き、

ミミー「というわけで、お二人さん。今日はお客人としてゆっくりしていきたまえ」

   と玄関を上がって、

ミミー「ちなみに、私はお母様のお手伝いがあるので、あとはガキどもの世話をよろしく~」

   とコリーナの後を追って、台所の奥にピューと逃げていく。

テイル「うっ……なんだか都合よく……」

インディ「利用されたような……」

テレーヌ&プーシャン「あーそーぼー」

   と玄関の外で、テレーヌとプーシャンの目がキラーンと光る。


◯同・庭

   インディはテレーヌを、テイルはプーシャンを高い高いする。

テレーヌ「もっと高く! これじゃ雲に届かない!」

インディ「テレーヌ。これ以上は危ないよ」

   今度はテイルがテレーヌを、インディはプーシャンを背負い、お馬さんごっこ。

テレーヌ「お馬さんなのに! 足が遅い!」

テイル「はいはい、悪かったですねー」

   最後の遊び。

   テレーヌ、地面で丸くなったプーシャンを指差し、

テレーヌ「こうやってテレとプーが丸くなるから、テイルとインディでキャッチボールして!」

プーシャン「して」

テイル「あぶねえな! どんな遊びだよ!」

インディ「子供の発想力……恐ろしい……」

   疲労困憊のテイルとインディ、肩で息をしながら、

テイル「なんだか……狩りより疲れねえ……?」

インディ「激しく……同意です……」

   とテレーヌとプーシャン、お構いなしでテイルたちの手を引っ張り、

テレーヌ「つまんなーい! もっと遊ぶー!」

プーシャン「械獣ごっこ」

   ミミー、玄関の戸から顔を出し、

ミミー「皆ー! ご飯できたよー!」

   全員で、庭の木製テーブルに料理を運ぶ。

コリーナ「天気がいいから外で食べましょう」

   とミミーの父カール・ワイス(36)が野良仕事から帰ってくる。

カール「お、今日は賑やかだな」

テイル&インディ「お邪魔してます!」

   全員がテーブルにつき、

全員「それでは……頂きまーす!」

   と食事会が始まる。楽しそうにはしゃぐ子供達を見て、自然と笑みがこぼれるカールとコリーナ。


◯同・家の前(夜)

   テイルとインディを見送る、ワイス一家。

   ミミー、手を振り、

ミミー「またねー」

テイル「おう。また明日な!」


◯ピコネコ村・帰り道(夜)

   テイルが籠を持ち、インディと並んで歩く。

テイル「いやー食った食った」

インディ「すっかり遅くなっちゃったね」

テイル「ミミーの家は賑やかでいいよな。少しうるさいけど」

インディ「フフッ。でも楽しいよ。家族っていいなーって感じで」

テイル「なんだ。妙にしんみりして」

   インディ、夜空を眺め、

インディ「機械人は親を持たないからさ。余計にうらやましいんだ。とくに僕はあちこちの村をたらい回しにされたから……」

   テイル、その言葉を遮り、

テイル「だけど今はこの村にいる。オレやミミーたちと家族になった。だろ?」

インディ「……うん、そうだね。そうだよね」

テイル「もう六年も一緒にいるんだ。しけた面すんなよなぁ。よっと!」

   とテイル、地面に籠を起き、草の上で仰向けに寝転がる。

テイル「オレさ。インディにはマジで感謝してるんだぜ?」

インディ「そうなの?」

   とインディ、背負っていたクロスボウを置き、同じように寝転がる。

テイル「母ちゃんは幼い頃に病気で亡くなったし、父ちゃんも世界を探検するとか言って、しょっちゅう遠出するからよ。インディがいなけりゃ、オレは今ごろ発狂してたかもな」

インディ「確かに。お父さん戻ってこないね」

テイル「ああ。一年前に出かけたっきりだ。案外もう械獣の腹の中かもな」

   とテイル、大口を開けて笑う。

インディ「大丈夫。きっと帰ってくるよ」

   テイル、目を瞑って、

テイル「そして、またすぐに出かける。結局、村長と一緒さ。夢に取り憑かれた連中は、シワシワになるまで諦めがつかねえんだよ。バカバカしい」

インディ「夢かぁ……夢……。ねえ、テイル。夢ってさ、こんな感じなのかな?」

   テイル、インディを見て、

テイル「急にどうした?」

インディ「見て」

   と夜空を指差し、

インディ「星が……消えていく」

   満天の星空を、黒くて大きい何かがゆっくりと横切っていく。

   と急に空が明るくなる。それは空を飛ぶ巨大な輸送機だった。機体の照明装置が村を明るく照らし出す。

テイル&インディ「な、なんだ!?」

   と二人、驚いて起き上がる。


◯輸送機・操舵室(夜)

   フロンティア商会の第七機兵隊を乗せた輸送機。操舵室には、クレメンティ隊長(40)、カペッロ副隊長(35)、数名のスタッフ。全員、人間である。

   クレメンティ、イスに座り、手元のモニターを眺めている。モニターには地球に似た惑星の地図が表示されている。

   クレメンティ、ぶつくさ言いながら、

クレメンティ「二千年かけて手にした土地がたったの5%未満……。いったい上の連中は何を考えているんだ?」

   カペッロ、クレメンティの横に立ち、

カペッロ「クレメンティ隊長。降下準備、整いました」

   クレメンティ、顔を上げ、

クレメンティ「ご苦労。カペッロ副隊長」

   と通信士の方を向き、

クレメンティ「オペレーター。もう一度各員に通達しろ」


◯輸送機・外観(夜)

   空中で輸送機のハッチが開き、武装した歩兵や戦闘ロボ(全高4~5m)が次々と村に降りていく。歩兵はロープで降下。

クレメンティN『我々の任務は、下等生物の捕獲だ。誰も殺してはならない』


◯ピコネコ村(夜)

   村人たち、何事かと家の外に出て空を見上げる。

   そこに降りてきた兵士達、ネコヒト族に向けて、網を撃ち出すネットガンを発射。

クレメンティN『獣人にはネットガンで対処しろ。一網打尽にできる』

   村に悲鳴が上がる。ステイルが村人をかばって兵士の前に出る。

ステイル「貴様ら! 何をする!」

   と腕を振り上げ攻撃の仕草。

クレメンティN『機械人は力強い種族だが、恐れる必要はない』

   ステイルの前に立つ兵士達の怯えた顔。

クレメンティN『奴らにはたった一言。こう言えばいい――(ひざまず)け、と』

   兵士の一人、声を振り絞り、

兵士A「ひ、跪け!」

   とステイル、力なく膝から崩れ落ちる。

ステイル(な、なんだ!? 身体が動かん!?)

兵士A「うわ! 本当に効いた!」

兵士B「ビビらせやがって。この調子でどんどんいくぞ」


◯同・ワイス家の前(夜)

   テイルとインディ、来た道を戻り、ワイス家へ。

テイル「クソッ! ミミーの家は無事か?」

   と家の前で、兵士CとDがたむろしている。

   兵士C、テイルたちに気づき、

兵士C「逃さねえぞ!」

   とテイルに向けてネットガンを発射。

   テイル、網に捕まる。

テイル「うわ! なんだこれ!」

インディ「テイル!」

   兵士CとD、ネットガンを肩に担ぎ、舐めた態度でインディの前に立ち、

兵士C「オラ、下等生物! 跪けぇ!」

インディ「……?」

   だがインディには何も起こらない。

兵士C「え? いや、跪けよ! 跪けって!」

兵士D「見ろ! こいつ、パラライザーがない!」

インディ「ふん!」

   とインディ、兵士CとDを殴り倒す。

   物音を聞いて、家の中から兵士たちがゾロゾロ出てくる。

兵士たち「あっ! 外で暴れてる奴がいるぞ!」

インディ「マズイな」

   とインディ、網にくるまれたテイルを担いで、

インディ「テイル! いったん逃げるよ!」

テイル「待て、インディ! まだミミーたちが……」

インディ「ダメだ! 僕らが捕まったら元も子もない!」

   と森の方へと駆け出す。


◯輸送機・操舵室(夜)

   カペッロ、クレメンティに報告。

カペッロ「隊長。兵士たちがパラライザーのない機械人を目撃したそうです」

クレメンティ「突然変異体か。噂には聞いたことがある。で、捕まえたのか?」

カペッロ「いえ、逃げられたそうですが……追跡させますか?」

クレメンティ「いや、深追いはするな。こっちには土地勘がない。それより任務優先だ。作業が遅れているぞ」

カペッロ「はい。少し急がせましょう」


◯ピコネコ村・輸送機の下の地上(夜)

   獣人の村人たち、兵士に脅され、次々と檻の中へ収監。戦闘ロボが、ぐったりした機械人を掴んでコンテナに投げ入れる。


◯同・生い茂った低木(夜)

   テイルとインディ、低木から顔を出し、遠くの村人たちを眺める。

テイル「ど、ど、ど、どうするよ、これ……」

インディ「どうするって……どうしよう……」

   と怯える二人。

ミミー「ま、私たちで何とかするしかないっしょ」

   とミミー、テイルたちの隣でニョキッと顔を出す。

テイル&インディ「わっ! ミミー!」

ミミー「しー。大声出さないで」

テイル「ごめん。でもお前よく無事だったな」

ミミー「ま、家族は全員捕まっちゃったけどね。ねえ、それよりなんでインディがここにいるの?」

インディ「え? ここって?」

ミミー「私見たの。あいつらが『跪け』って言うと、機械人が皆動かなくなっちゃった。まるで魔法みたいにね。だから同じ目に遭ったんじゃないかって」

インディ「あ、それ僕も言われたよ。でも何ともなかったな。連中、ビックリしてたよ。僕には『パラなんとか』がないとか言って」

テイル「それって……」

ミミー「コブのことじゃない?」

   とミミー、顎に手を当て、

ミミー「つまり、コブなしには魔法は効かないってことか。ねえ、近くの村にコブのない人いない? いたら仲間にして皆を助けようよ」

   テイルとインディ、考え込む。

テイル「コブのない人ねぇ……。うーん、見たことないなぁ……」

インディ「……あっ!」

   とインディ、何かを思い出す。

テイル「どうした?」

インディ「一つだけ心当たりがあるんだけど……試してみる?」

   テイルとミミー、首をひねって怪訝そうに、

テイル&ミミー「試すって……何を?」


◯同・輸送機の下の地上(夜)

   子供たちが入れられている檻。シクシクという泣き声が「うわーん」「びえええん」「ギャー!(大声)」と変わっていく。

   兵士、檻を蹴り飛ばし、

兵士「ギャーギャーうるせえぞ! 静かにしろ!」

   鉄格子の近くにいたテレーヌとプーシャン。

テレーヌ「テレたちじゃないよ」

兵士「ああん?」

プーシャン「ネコヒトも機械人も、あんな風に泣かない」

兵士「じゃあ、誰が泣いてんだ?」

   テレーヌとプーシャン、抱き合って、

テレーヌ「すぐにわかるよ」

プーシャン「もうすぐここにやってくる」


◯同・近くの森(夜)

   インディ、械獣の卵を抱えて森を全力疾走。お腹の操縦室にはミミー、背中にはテイルが乗る。三人の背後を無数のドラゴンが追ってくる。

テレーヌ&プーシャンN『械獣たちがやってくる!』

   テイル、インディの背に揺られながら、

テイル「心当たりってコレかよ!」

インディ「うん! 械獣の身体にはコブがないんだ!」

ミミー「もっと速く! 追いつかれる!」


◯同・輸送機の下の地上(夜)

   遠くから「ドドド……」という地鳴り。

兵士A「なんだ?」

   とドラゴンの群れが檻の並ぶ場所へとなだれ込む。

兵士B「か、械獣だー!」

   兵士A、目の前の小型ドラゴンに向かって、

兵士A「ひ、跪けー!」

兵士B「ムダだ! 械獣に声は効かねえっての!」

   現場が混乱する中、近くの草むらからレザーとブッチが登場。

   レザー、近くの兵士を鉄パイプで殴り倒す。

   ブッチ、村人の入った檻の鉄格子を腕ずくで破壊。

レザー「さあ、皆! 今のうちにズラかるよ!」


◯輸送機・操舵室(夜)

   カペッロ、モニターで地上の様子を見て、

カペッロ「いったい何の騒ぎだ?」

索敵担当「か、械獣の襲撃です!」

カペッロ「落ち着け。敵は何体いる?」

索敵担当「特A級の械獣が一匹と……その他、無数に飛び交っています。捕捉しきれません」

カペッロ「でかいのから始末しよう。特A級はどこだ?」

索敵担当「特A級は――」

   と前面モニターいっぱいに映る、巨大ドラゴン。

索敵担当「ほ、本艦の目の前です!」

カペッロ「なにィーッ!」

索敵担当「ぶ、ぶつかるー!」

   とドラゴンの首にレーザー光線が直撃。輸送機とドラゴンの接触が回避される。

カペッロ「い、今のは?」

クレメンティの声「あー、頭を狙ったのになー。久々すぎて腕が鈍ってやがる」

   とモニターに、輸送機の外を浮遊する戦闘ロボ(隊長機)が映る。手に持ったレーザーライフルの冷却装置から蒸気が噴き出す。

カペッロ「隊長! いつの間に!」

クレメンティの声「カペッロ。ちょいと留守番頼むぞ」

カペッロ「どこへ行くんです?」

クレメンティの声「変異体を見てくる。この騒ぎ、おそらくヤツの仕業だ。イレギュラーな事態は、イレギュラーな存在が引き起こす」


◯ピコネコ村・上空(夜)

   村へと舞い降りる隊長機。機体のメインカメラがギラリと光る。背中にはレーザーライフルを背負っている。

クレメンティ「今回の任務。下等生物の殺処分は含まれていないが、変異体となれば話は別だ」


◯同・住宅地(夜)

   テイルとミミー、家の外壁の陰に身を隠している。

   テイル、空を見上げ、輸送機の周りを飛ぶドラゴンを見て、

テイル「人の多い方に行ったな」

ミミー「ある意味、狙い通りだね」

   とインディ、二人の元に走ってくる。

インディ「おまたせ」

テイル「卵は?」

インディ「広場に隠してきた。あそこなら見つからないと思う」

ミミー「これでメカドラゴもしばらく大暴れしてくれるってわけね」

テイル「時間が稼げるな。あとは皆を連れて逃げ出そうぜ」

   と三人の頭上から、

クレメンティの声「どこへ逃げるって?」

   と家の屋根の上から、クレメンティの乗った隊長機の顔が覗いている。

テイルたち「うっ……うわああああー!!」

   と三人、悲鳴を上げて逃げ出す。

   クレメンティ、隊長機の右手を構える。手首のパーツが割れ、中から捕獲用のボーラ(投擲武器)を射出する銃口が飛び出す。

   クレメンティ、狙いを定め、インディに命令。

クレメンティ「動くな!」

   とボーラを発射。

   インディ、テイルとミミーを抱えて、ボーラをかわし、走り去る。


◯隊長機・操縦室(夜)

   クレメンティ、モニターに映るインディの後ろ姿を見ながら、

クレメンティ「声が届かない。やはりあれが変異体か。生かすか殺すか、悩ましいところだが……。考えるのは捕まえてからでも遅くない」


◯森の中(夜)

   インディ、森の中をひた走る。お腹にはミミー、背中にはテイルが乗っている。

テイル「インディ。今日の狩りで一番苦労した場所を覚えてるか?」

インディ「泥だらけになったとこ?」

テイル「そうだ。あそこで落ち合おう」

インディ「オーケー。わかった」

   とテイル、インディの背から飛び降りて、別方向へ走っていく。

ミミー「え、何? どういうこと?」

インディ「勝負に出るってこと。それより、また来るよ!」

   とインディの背後からボーラが飛んできて、近くの木に巻き付く。


◯インディの操縦室(夜)

   インディの操縦室には、操縦桿が一本と、背面カメラを映すモニターがある。

   ミミー、真っ黒いモニターを見て、

ミミー「インディ! モニター見てるけど何も映らない!」

インディ「モードを切り替えて。横にボタンがあるから」

   ミミー、モニター横のボタンを押す。モニターが暗視モードに切り替わり、後方を追走する隊長機が見える。

ミミー「見えた!」

インディ「操縦桿で敵をマークして。あとは僕がなんとかする」


◯森の中(夜)

   隊長機、ボーラを数発発射。

   インディ、かわしまくる。

クレメンティ「視野が広いな。反応も悪くない。同伴者による能力の向上。面白い種族だ。おっと、遊んでいる場合じゃなかった」

   と肩のランチャーから小型ミサイルを乱射。

クレメンティ「そろそろ終わりしようか」

   走るインディの周りでミサイルが炸裂。木々がなぎ倒される。

インディ「うわあ!」

   とインディ、大きくジャンプ。

クレメンティ「飛び上がったな。着地点はずらせないぞ」

   とすかさずボーラで追い打ち。

   インディ、着地時の足を狙われる。ボーラに両足を巻き取られ、地面に倒れ込む。

   ミミー、インディのお腹の丸窓から顔を覗かせ、

ミミー「イテテ……。インディ、大丈夫?」

インディ「うん」

ミミー「だけどマズイよ。どうする?」

インディ「ミミー、安心して。僕らはもう……」


◯森の中・木の上(夜)

   高い木の上で、隊長機を見下ろすテイル。クレメンティは気づいていない様子。

インディN『――合流している!』

   テイル、緊張と興奮が入り混じった顔で、ゴクリと唾を飲み込む。

テイル「さあ、反撃開始だ」

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