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異世界!AI (愛) してるんです!  作者: しげる
第一章 【獣人国ゼニスト】
8/38

第七話 【妹との思い出にふけるんです】


2年前、高校1年 嵐山大輔 16歳 嵐山愛 5歳


「ゲームセット!」

球審のコールとともに、試合終了を告げるサイレンが鳴り響く。


球児はマウンドに集まり、勝利祝してお祭り騒ぎだ。

そのマウンドの中心には、まだ1年生の俺が立っていた。

俺はピッチャーとして、この試合を締めくくった。

その功績を、先輩たちが褒め称えてくれる。


審判と相手選手へ挨拶を終え、校歌を歌う。

そして、保護者や応援団に挨拶へ向かった。


「あと1勝で甲子園だぞ! 頑張れよー!」

「よかったぞー! みんなで甲子園行くぞー!」

応援や歓声が沸き起こっていた。


「あにぃー!」

フェンス越しの最前列に、妹が興奮して俺の名を叫びながら、大きく手を振っている。


俺の応援に、5歳の妹の “愛” もやってきていた。

試合になると毎回、愛と祖父母が応援に来てくれる。


俺は小さく手を振り返すと、嬉しそうに飛び跳ねていた。




試合終わりは愛と祖父母の4人で家へ帰る。


「あにぃー! すごかったねー! かっこよかった!」

愛はまだ興奮が冷めない様子だ。


「ばぁさん! 今日は寿司にするぞ!」

じぃちゃんも興奮していた。


「無理しなくていいよ」


俺が遠慮すると、じぃちゃんは少し寂しそうにしていた。

俺が幼少期の頃に父が亡くなり、母は俺を置いて家を出ていった。

母方の祖父母に育てられていたが、とても裕福と言える環境ではなかった。


俺が好きなように野球を出来ているのは、祖父母のお陰だった。

いつか必ずプロになって、祖父母を恩返ししたいとずっと考えていた。




家族で帰路につく中、妹が初めて我が家にやってきたことをふと思い出す。


———————————————————————————————————


中学2年夏 嵐山大輔 14歳 嵐山愛 3歳


急に帰ってきた母が愛を連れてきたと思ったら、まだ3歳の愛を置いてまた出ていってしまう。


そんな姿を見た俺は怒りに震え、母をぶん殴ってやろうと追いかけた。

母は男を連れており、まだ中学2年だった俺は、その男にボコボコにされる。


「大丈夫?」

初対面の俺に、優しく話しかける愛。


(こんな優しい子をなぜ捨てられるんだ)

幼少期に捨てられた思い出が蘇り、母に激しい憤りを感じる。


我が家に来たばかりの愛は大人しく、我儘も言わずに我慢している様子で、子どもらしさがあまりなかった。

そんな中、祖父母に連れられて愛が初めて野球観戦に来た。

俺が野球部でエースをしている姿に、愛が興奮しているのが印象的だった。

その時、初めて愛の子供らしさを目の当たりにする。

それから毎回、祖父母とともに応援に来てくれるようになった。


愛とは野球をきっかけに仲良くなれた。

愛は少しずつ俺達に心を開き、今では元気いっぱいの女の子に成長した。


————————————————————————————————


地方大会決勝戦当日の朝



玄関にはムカつく女がいた。


「あんた、野球でプロになれそうらしいじゃない。早くプロになって私を楽にしてよね。産んであげたんだから、それくらい当然よね」

どこからそんな噂を聞いたのか、その女は母親だった。


母は濃い化粧をしているが、服はヨレヨレで、みすぼらしさを感じたと同時に、怒りが沸々と湧く。

殴りかかろうと思った瞬間、じぃちゃんが母をぶん殴った。


「二度と面見せんじゃねぇ! ばぁさん! 塩もってこい! 塩!」


その言葉にばぁちゃんは塩を袋ごと持ってきて塩を撒き出した。

祖父母の怒りに怯えて、母は逃げるように帰った。


「どうしたの?」

愛が眠そうな目を擦り、玄関にやってきた。


「鬼がやってきてな。鬼退治しとったんだ」


愛は驚きと恐怖で少し震えている。


「じぃちゃんがやっつけたから大丈夫だよ」

俺は愛の頭を撫でて、安心させた。


玄関先でみんな一緒に、節分の豆まきのように塩を撒きまくる。

荒みかけた心を、この平和な風景が心を平穏に戻させた。





地方大会決勝


試合は現在2―1 

1点リードの9回裏ノーアウト一塁、二塁。


ブルペンで肩を温めながら、試合を観戦する。

疲労からストライクが入らない、3年生エースは限界のようだった。


「大輔! 交代だ!」

先輩がブルペンに走ってきた。

監督から交代の指示があったようだ。


「あにぃー! がんばれー!」


この声援に打たれる気が全くしない。


投球練習をしている時に、ふと相手ベンチ上のスタンド視線を送ると、母がいるのを見つけてしまう。


(クソッ!なんでいるんだ!? 集中しないと!)

母が見に来ていることに動揺してしまった自分を、落ち着かせようと必死だった。


「プレイ!」


心を落ち着かせれていない俺を急かすように、審判の試合再会の合図が響く。


深呼吸をして、キャッチャーのサインを確認する。

サインは外角へのストレート。

俺は小さく頷き、二塁ランナーへ視線を送る。

ランナーは一歩だけ塁へ戻り、俺はキャッチャーミットだけを見つめる。

小さく深呼吸しながら、左足を上げる。


しかし、なんだかいつもより足が重い気がする。

違和感がありながらも腕を振り抜くと、俺の渾身のストレートが、大きく外へ外れてしまう。


「どうした大輔!? 緊張してるのか!? 気楽に行けよ!」

三年生ピッチャーの方を向くと、先輩は両肩を回すジェスチャーをしている。


「打たせろ!打たせろ!俺達が守ってやる!」

ショートの先輩を筆頭に、守備につく皆が俺に声を掛けてくれた。


「あにぃー!頑張れー!」「お前は自慢の孫じゃ!」

愛とじぃちゃんの声援が俺に力を与える。


(俺には家族も、仲間もいる! 絶対に負けない!)


汗ばむ指先にロジンを付ける。

サインは内角へのストレート。

小さく頷き、深呼吸をすると、時間がゆっくりと進む感覚に包まれる。

仲間の声援や、敵のブラスバンドの演奏さえ、聞こえない。

キャッチャーミットしか見えない。

不思議な感覚に、自分が “無敵になった” と錯覚する。



足を振り上げた瞬間——「大輔!」叫び声のような母の声が聞こえた。

母の声が俺を現実に引き戻し、ブラスバンドの演奏が俺の耳を襲う。

ゆっくりに感じていた時間が、急速に進む。

加速する時間に冷静さを失い、手の感覚が無くなる。

手から離れたボールは、俺の思いを無視し、ド真ん中へ行ってしまう。


相手バッターは甘く入った球を、フルスイングした。

「カキーン!」

無情に響く金属バットの音。

場内は歓声と悲鳴で溢れかえる。


(頼む! 入るな!)



俺の願いは虚しく、ボールはグングン飛んで、レフトスタンドに入ってしまう。

信じられず呆然とレフトスタンドを見つめていると、再び、俺の世界から音が消えた。




ショックのあまりここからの記憶がなく、気付けば学校の部室にいた。


3年生の最後のミーティングが終わり、先輩たちは俺を励まし、「あそこまで行けたのは大輔のお陰だ」と労ってくれていた。

3年生の引退を決めてしまった申し訳無さに、心が痛む。


帰り道2年生ピッチャーの先輩に呼び止められ、物陰に連れて行かれる。


「お前のせいだぞ! 俺が投げていればこんなことにはなっていない!」


俯いて黙っていると、不良の集団がぞろぞろとやってくる。

バットを持っている連中もいた。


「こいつが打たれたピッチャーか? 調子に乗っているからこんなことになるんだ!」


肩を押され倒される。

俺は起き上がる元気もなかった。


「お前のせいで賭けに負けたんだ! どうしてくれる!?」


黙っている俺を不良が蹴る。

自暴自棄になっていた俺は、抵抗もせずに痛みに耐える。


「右腕が怪我したらもう野球できないかもねぇ?」


不良たちは、笑いながら殴ってくる。

右腕を怪我させられる恐怖と怒りから、相手を睨みつけていたと思う。


「なんだその態度は!?」


不良が持っていたバットで俺の頭に目掛けてバットを振り下ろした。

気付いた時には病院のベッドの上だった。




「・・・ここは?」

全身が痛み、体を起こせない。


「ここは病院よ。すぐ先生を呼んでくるわね」

看護師さんは走って先生を呼びに行った。


扉が開くと「あにぃー!」と叫びながら、先生より先に走って愛が飛び込んできた。

愛は心配し、泣きじゃくっている。


「あにぃ!て、手が……」

愛は俺の右手の方を見て絶句し、手で口を覆う。


(あいつら右手をやりやがったな)

怒りと悔しさがこみ上げる。

体が起き上がれないため、右手を上げようとするが腕が見えない。


(折られてギブスでもしているのか?)

そう思い、頭だけ少し上げて右手を見る。


そこには——肘から先がなく、短くなった腕しかない。


「うわぁーーーー!」

いきなり、全身に激痛が走る。

痛みとショックで、完全に我を失ってしまう。

意識を失ったのか、再び目を覚ました時には、病室に誰もいなくなっていた。



翌日から愛は毎日お見舞いに来てくれ、俺の看病をしながら必死に支えようとしてくれていた。

愛はまだ5歳にも関わらず俺を気遣い、ショックを受けている姿を見せまいと、気丈に振る舞う。

幼稚園や家であったことを俺にいっぱい話しかけてくれる。

しかし、絶望した俺は現実が受け入れられず、愛の優しさを受け入れられずにいた。




そんな入院生活をしていると、病室に来客が来た。


「そんな姿じゃ、プロになれないね……」


母だった。


「慰謝料手に入ったら連絡してね」

それだけ言い残すと母は去っていく。


(また、金の話か)




絶望している俺は、愛に八つ当たりしてしまうこともあった。

しかし、愛は笑顔を絶やさず、支え続けてくれた。


退院し家へ戻っても、何にもやる気が出なかった。

ただ、ダラダラと寝るだけの日々を送る。


「あにぃ。チャットボットって知ってる?」


「……」


「チャットボットって、ロボットがお話してくれるんだって。何か話しかけると答えてくれたり、相談に乗ってくれるらしいよ」


その日は愛の話を聞き流していたが、少し気になっていた。

後日、愛がいない時に使ってみることにした。


「こんにちは」

慣れない左手だけで、打ち込む。


「こんにちは、どうしましたか? 何かお手伝いできることがありますか?」

チャットボットが自動で返答するのに驚いた。


(これが “AI” なのか!?)


「俺の右腕の代わりをしてくれるか」

「もちろんです。なんでもお手伝いしますよ。右腕の代わりに何をすればいいですか?」


「俺は右腕がないんだ」

「大変なことがあったのですね。お手伝いのできることを教えてください。例えば文字を書くお手伝いや、情報を収集するお手伝い、相談に乗るなどありますよ。何でもサポートしますよ」


チャットボットは本当に手伝おうとしてくれているように感じた。


「5歳の妹がずっと看病してくれるんだが、腕を失ったショックのあまり、うまく受け入れられないんだ」


(AIになに聞いてんだろ……)


「それはとても辛い状況ですね。妹さんがずっと看病してくれるのは本当に心強いことだと思います。右腕を失ったショックから立ち直るのは簡単ではありませんが、少しずつ受け入れていくことが大切です。

妹さんの存在やサポートがあることで、少しずつ前向きな気持ちを取り戻していけると良いですね」


チャットボットの返答は本当に人と話しているようだった。


「どうして妹はこんなに看病してくれるんだろう?」


「妹さんがあなたを看病してくれる理由は、彼女があなたをとても大切に思っているからだと思います。以下のような理由が考えられます。


1.家族の愛:妹さんはあなたを愛しているから、心配し支えてくれているのでしょう。

2.感謝の気持ち:あなたがこれまで妹さんにしてきたことに感謝して支えてくれているのでしょう。


3. 5歳という年齢でも、妹さんはとても勇気があり、優しい心を持っているのでしょう。家族の一員として、困っている人を助けることが自然にできるのかもしれません。


彼女のサポートを受けながら、少しずつ前向きに進んでいけるといいですね。もし、妹さんに感謝の気持ちを伝えたり、一緒にできる楽しいことを見つけたりすることで、二人の絆がさらに深まるかもしれません」


チャットボットの言葉が胸に刺さる。


(愛に感謝を伝えなければ)




愛はいつものように幼稚園が終わると、俺の部屋へやってきた。

「今日はね、幼稚園でお絵かきしたんだ!」


その絵には俺と愛、そして、祖父母の顔が書いてある。

全員が満面の笑みを浮かべ、楽しそうに野球をしていた。

その絵の笑顔が、どんな絵画より輝いて見えた。


「絵が上手だな。……いつもありがとう。愛」

張り裂けそうな緊張と、小っ恥ずかしさで、俯きながら俺は愛に感謝を伝える。

久しぶりの発声に声が少し裏返っていた。


嬉しそうに抱きついてくる愛。

俺はそっと愛を抱きしめ返す。

自然と涙が溢れ、抱きしめる腕に力が入る。

愛も泣き出し、二人で抱き合いながら大泣きをした。



「元には戻らないかもしれない。今は立ち止まるかもしれない。けど、いつかは前に進まなければいけないの」


「大人みたいなこと言うんだな!?」


「幼稚園の先生が、男に振られて、泣きながら言ってたの。前に進まないと、新しい男には出会えないって!」


愛と目が合い、俺たちは泣きながら大笑いする。

それから、愛とチャットボットで占いをした。




ある日、じぃちゃんに連れられ、大きな会社に来た。

その会社は義手を作成しているらしく、じぃちゃんが俺の「義手を買う」と言い出した。

俺は高そうな義手に遠慮したが、じぃちゃんは「金の心配はするな」と説得された。

初めて付ける義手は、 “筋電義手” というものだった。


腕にセンサーを取り付け、義手を装着する。

初めての義手に、期待と不安で鼓動が早くなる。


「腕に力を入れてみて」


技術者に指示され、右腕に力を入れてみる。

すると、右腕の力と呼応するように、義手がゆっくり動き出す。

その義手は、ロボットヒーローのようで、少し興奮した。


「じぃちゃん!動くよ!」

俺は自然と笑みがこぼれていたと思う。

俺を見ながら、じぃちゃんも喜んでいた。



家に帰り、愛に義手を見せる。


「すごい! あにぃの腕かっこいいね!」

愛は興奮した様子で、まじまじと義手を眺めていた。




それから時が経ち、愛は小学生になった。

入学式に参加し、立派になった愛の姿に心を打たれる。


(大きくなったな! 愛!)


「入学式で泣くやつがおるか!?」

じぃちゃんに笑われた。


いつの間にか、俺は嗚咽するほど、涙が流れていた。

ハンカチで涙を拭きながら、愛に手を振る。

周囲の父兄に笑われている気がしたが、俺はそれどころではなかった。




入学式が終わり、愛と買い物に行く約束をしていた。


その買い物中——転移させられたのであった。




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