第六話 【ボスに挑んでいるんです】
(リザードマンから獲得した切れ味をまだ付与していなかったな)
《剣にはすでに3つのサブスキルが付与されている為、これ以上スキルの付与はできません》
(そうなのか!?)
《武器の階級により、スキルの付与可能個数は変化します。この剣は初級のため、3個までしか付与できません》
どうやら武器の階級には5段階あり各階級で付与できるスキル個数が決まるそうだ。
(じゃあ、予備の “双剣士” を付与した短剣2本に、相性の良さそうな “切れ味レベル2” を付与しておくか?)
《ボス戦を前に、スキルセットのアイデアがあります。それは……》
(確かに!俺たちならできるな!)
AIのアイデアは、想定外で興味をそそった。
AIのアイデアに乗ることに決め、王子の予備の剣と自分の剣を交換する。
借りた剣にスキルをセットし、ボス戦に備えた。
「準備はできたな!気合を入れろ!行くぞ!」
王子が気合を入れた表情で、皆を鼓舞する。
俺たちは気合を入れ、ついに、階層ボスに挑む。
大木の扉は木製で出来ており、神秘的な模様や文字のような細かな彫刻が施され、長年使用されていないのか、ツタがドアノブや周りに絡みついていた。
ツタを切り払い、重厚な扉を二人がかりで開ける。
内部は広い空間が広がり、木の内部とは思えなかった。
中央に5メートルはありそうな 巨大なスライムがおり、周りには無数のスライムが待ち構えていた。
「バタン!」扉が大きな音を立て勝手にしまった。
《 “モンスタースライム“ です!モンスタースライムは体を変形することができ、ムチのような攻撃を放ってきます。スライムの数が多いので“双剣士”がおすすめです》
AIの魔物情報をみんなに共有し、戦闘体制に入る。
まず、シャルがグラビスで相手の動きを遅くし、俺は短剣の“双剣士”で攻撃を開始した。
手始めに、無数のスライムを攻撃していく。
数は多いスライムだが、一体一体は大した脅威ではなく、簡単に倒せる。
双剣のスキルはスピードと手数が上昇し、まるで、風を纏っているかのような感覚だった。
(剣士とまた違って、双剣のスキルもいいな!)
次々にスライムを倒せる感覚に、双剣の新たな戦闘スタイルに可能性を感じる。
周囲のスライムをあらかた倒し、あたりを見渡すと、王子は順調にスライムを倒している。
一方、王女の打撃は、スライムと相性が悪いようで、パンチを放っても、スライムの柔らかい体が、攻撃の力を逃がしているようだ。
王女は必死にスライムと戦っているが、はたから見るとスライムと戯れているようにしか見えなかった。
シャルは ”サンダーボルト“ でスライムを一掃。
ボルト系統の魔法は威力が高くない分、発射、連射、弾速が速い。
矢のような形をした雷が、スライムを襲う。
直撃したスライムは体が光、ビリビリと震えながら倒れていく。
シャルの雷魔法 “ライデン” は雷雲が発生するため、屋内では使用できないと事前に聞いていた。
(ライデンが使えなくても、シャルは強いな!)
周辺のスライムを倒しながら、モンスタースライムにジワジワ近付く。
モンスタースライムの攻撃範囲に入ったのか、無数の触手のように体を変形した。
その姿は、まるで、巨大なイカやタコのようだった。
モンスタースライムの攻撃は、ムチのようにしなやかで先端のスピードは目で追えないほどだった。
その攻撃は地面ごと破壊し、所々抉られている。
モンスタースライムはスライムの事など、お構いなしに攻撃していた。
俺たちは辛うじて攻撃を避けていたが、近付くことが許されなかった。
シャルは“サンダーボルト“を放つが、モンスタースライムはあざ笑うように変形し、体に穴を開けて器用に避ける。
防戦一方に痺れを切らした王子が、相手の攻撃に合わせて触手を攻撃する。
王子の攻撃で触手は切れ落ち、切れ落ちたモンスタースライムの一部は動くことがなかった。
(スキル無しで、あのスピードに反応できるのか!?)
王子の戦闘能力の高さに驚かされる。
モンスタースライムは切られて短くなった触手を、再び伸ばして王子へ追撃をする。
王子はまた触手を切り落とそうとした——だが、王子の剣は衝撃に耐えきれず、折れてしまう。
王子は冷静に折れた剣を捨て、俺と交換した剣を抜く。
すると、その剣を使用してから王子の動きがかなり良くなった気がする。
触手をバサバサと切り落としていく。
調子を上げた王子の攻撃により、モンスタースライムは触手を失い、体が縮んでいるように感じた。
「行けるぞ!」
王子は自身に満ちた声を上げる。
しかし、モンスタースライムは切れ落ちた触手部分を集めだす。
触手は吸収され、モンスタースライムは元の大きさに戻っていく。
《体の使用許可求む!》
(いいぞ)
モンスタースライムのスピードに太刀打ちできなさそうなため、AIに体の制御を託す。
AIはモンスタースライムの攻撃パターンを解析しているようで、軽やかに攻撃を避けながら近付く。
そして、王子から借りた剣を出した。
剣の刀身は炎で包まれ、揺らめく。
なんと、その剣には—— “火魔法” のメインスキルを付与されていた。
(AIが体を制御するなら、剣士のスキルは必要ないよな!)
AIに提案されたスキルセットは、剣に火魔法を付与することだった。
七瑛さんや王子の剣術を学習し、剣術を模倣できる。
そのためAIには剣士のスキルは必要なかった。
剣と魔法の融合。
(俺も炎の剣を操ってみたい)
俺はこの能力に興奮していた。
モンスタースライムの攻撃に合わせ、炎を纏った“ダブルスラッシュ“で触手を切り落とす。
切られた部分は焼き固められ、再び伸びることがない。
すると、モンスタースライムは触手の数を増やし、俺に向け攻撃する。
(この数を捌けるのか!?)
無数の触手が、俺目掛けて襲ってくる。
俺の不安をよそに、AIはモンスタースライムの攻撃を完全に見切り、触手を焼き切っていく。
モンスタースライムは王子たちへの攻撃を止め、AIへ集中攻撃しだす。
みるみる内にモンスタースライムの体が縮んでいく。
モンスタースライムは慌てたように、切り落とされた部分を回収しようとしだす。
だが、そんなことをAIが許す訳もなく、炎を纏った“斬撃”を放つ。
メラメラと燃える斬撃は、回収しようと伸ばした触手を切り落とす。
AIは触手を切り落としながら、ジリジリとモンスタースライムに近付く。
残り2メートルくらいになった頃には、巨大だったモンスタースライムの体は俺と同じほどの大きさしかなかった。
モンスタースライムは勝てないと思ったのか、逃げようとしていた。
すると、AIは急に剣を納めだした。
(逃がすのか!?)
AIにも慈悲の心があったのかと感心していると、モンスタースライムは好機とばかりに再び触手を伸ばす。
AIは低く構え、集中している様子だった。
攻撃がAIに届きそうになった瞬間、剣を抜刀し—— “一閃” 。
モンスタースライムの本体を切り裂く。
その姿は、抜刀する七瑛さんにそっくりだった。
抜刀の速度は凄まじく、炎は刀身に追いつけず、剣の太刀筋の軌道に揺らめいていた。
モンスタースライムの本体と核と思われる部分が、真っ二つに斬り裂かれている。
(流石だな!)
《当然です》
王子と王女が俺に駆け寄り、ボス討伐を一緒に喜ぶ。
そんな俺たちの方へトボトボとシャルが近寄ってくる。
「どうして泣いてるの!? どっか痛い?」
王女が心配そうにシャルへ駆けていく。
「あれ? なんで泣いてるんだろ?」
「怪我した?」
王女はシャルの涙を拭いながら聞いた。
「怪我はしていないよ。ちょっと昔のことを思い出しちゃって。大輔の戦う姿が昔の主人に似ていてさ・・・」
「昔の主人が大好きだったんだな。俺も転移したことで、家族と離れ離れになってしまった……シャルの気持ちはわかるよ」
俺はシャルの頭をそっと撫でる。
「過去に戻ることは出来ない。今は立ち止まったっていい。でもいつかは前に進まなければならない。これからは俺たちと苦楽を共にして前に進んでいこう!」
俺は少し昔のことを思い出しながら、シャルを励ます。
「みんなありがとう」
シャルは微笑み、涙を拭いながら感謝を伝えている。
シャルの微笑みは少し吹っ切れた様子で、印象的だった。
俺たちはシャルの不安を少しでも解消できるよう、囲んで抱き合い心を一つにする。
シャルが落ち着くとスキルを回収し、出発の準備をした。
今回獲得したスキルは、サブスキル“変幻自在レベル3”が1個と“体当たりレベル2”が7個“斬撃レベル2”が4個、メインスキル“水魔法レベル1”が3個入手できた。
《変幻自在のスキルの情報はありません》
(スキル関係の本を読み漁っていたAIが知らないということは、珍しいスキルなのかな?)
「何か落ちてるよ!」
王女が大きな声で叫んだ。
そこには握りこぶしくらいの、キラキラと光り輝く石があった。
《魔結晶ですね。ボスクラスの強力な魔物が、体内で生成する魔力の塊です》
魔結晶は見惚れるほど美しく光り輝いている。
《この魔結晶を頂けませんか?》
「これは魔結晶みたいです。この魔結晶貰ってもいいですか?」
「もちろん! これは大輔が倒したんだから!」
王女から魔結晶をもらい、義手でそっと魔結晶を握る。
魔結晶はスキルを付与する時のように義手にスーッと吸収された。
(何をやったんだ?)
《付与の要領で魔結晶を吸収しました。これにより、単独行動が可能になりました》
AIは俺から離れ、ひとりでに動き出し、逆立ちするように指で器用に走って見せた。
周囲をグルっと走り回ると、俺の元にやってきて、いつもの定位置に戻る。
今までは義手を取り外すと魔力が無くなり、シャットダウンして動かなくなってしまっていた。
だが、魔晶石のお陰で、AIは義手の姿で行動できるようになったようだ。
(離れられると困るんだけど……)
《夜中、睡眠の邪魔しなくなりますよ?》
(それはいいな!)
そんなことをしていると、出口の扉が開いていた。
出口を出てすぐの所に、石版が立っている
(どこかでこの石版を見た気がするな)
石板には文字のようなものが書いており、文字は少し光っていた。
「なんだろうこれ?」
王女がそう言いながら石版に触れる。
その瞬間、気付くと俺たちはダンジョンの入口にいた。
《あの石板は“転移の石板“です。触れるとダンジョンの入口に転移し、戻ることができます。逆に入口の石版に触れると、一度転移した石板まで移動できます》
(便利な石板だな)
王子たちにも転移の石板の説明をする。
すると、団員が慌てた様子で迎えに来た。
「早いお戻りですね!?」
「ボスを倒した後に誰かが勝手に石板を触れて転移してしまってな」
王子が王女に視線を送り少し睨みつけた。
王女はバツが悪そうに目線を逸らす。
「もう一度、ダンジョンに向かわれてはどうですか?」
「いや、日が暮れるし、今日はここまでにしよう」
「ダンジョン内に日暮れはありませんよ」
団員はダンジョンに行って欲しそうな雰囲気を醸し出している。
「初めてのダンジョンだ。皆も疲れているだろう」
その後夕食を済まし、テントに戻る。
《スキルの研究をしていいですか?》
(いいぞ)
今回獲得したスキルと、持っている武器を全て渡す。
AIは俺の元を離れ、喜々と一人でスキルを弄りだした。
俺が眠りにつく前も、まだスキルの研究をしているようだった。
(研究熱心だなぁ)
AIの向上心に感心しながら、眠りにつく。
翌朝目を覚ますと、目の前には小さな女の子の座った後ろ姿があった。
「誰?」
寝ぼけながら目を擦り、女の子に声をかける。
この声に気付いた女の子は、こちらを向く。
「あにぃ!」
そこにはいるはずのない—— “妹” の姿があった。
まだ夢の中なのか?それとも寝ぼけているのか?
混乱している俺の目から、涙が勝手に溢れだしていた。
現在わかっている所持武器やスキル
☆武器☆
・剣 王子へ貸出中
└剣士レベル5
└斬撃レベル3 ダブルスラッシュレベル2 急所突きレベル2
・杖
└火魔法レベル3 杖からは取り外し王子から借用中の剣に付与
・短剣x2
└双剣士レベル3
└斬撃レベル2 ダブルスラッシュレベル2
・王子の剣
└火魔法
└斬撃レベル2 ダブルスラッシュレベル2
☆メインスキル☆
・剣士レベル1 11個
・剣士レベル2 3個
・剣士レベル3 2個
・重兵士レベル2 4個
・双剣士レベル2 2個
・弓使いレベル1 3個
・斥候レベル1 2個
・氷魔法レベル1 2個
・水魔法レベル1 3個 New
☆サブスキル☆
・斬撃レベル1 7個
・斬撃レベル2 6個 4個追加
・ダブルスラッシュレベル2 2個
・急所突きレベル1 3個
・切れ味レベル2 4個
・ブロウショットレベル2 3個
・変幻自在レベル3 1個 New
・体当たりレベル2 7個 New
今回獲得したスキルは、サブスキル“変幻自在レベル3”が1個と“体当たりレベル2”が7個“斬撃レベル2”が4個、メインスキル“水魔法レベル1”が3個入手できた
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