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異世界!AI (愛) してるんです!  作者: しげる
第一章 【獣人国ゼニスト】
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第二話 【スキルAI起動してるんです】




「こんにちは。一番隊隊長 “斎藤 七瑛(なえ)“ です」


「こんにちは。嵐山大輔です」


「私のことは七瑛と呼んで。君のことはなんと呼べばいいかな?」

笑顔で話しかけてくれる七瑛さん。


「大輔と呼んでください。七瑛さん!」


「君の右手は義手というらしいね。戦闘経験がないようだから今日は軽く訓練していこう」


「よろしくお願いします」


早速、七瑛さんから剣を受け取る。

初めて手にした剣は、ずっしりとした重みが手に伝わる。

剣を握った瞬間、異世界に来た実感がこみ上げ、気分は高揚していた。

それと同時に、自分に扱えるかの不安も胸によぎる。


「まずは、軽く素振りをしてみよう。思いのままに振ってみて」


「わかりました」


剣を持ち上げ、素早く振り下ろす。意外なほど自然に動く自分の体に驚いた。


(なんでこんなにうまく扱えるのだろう!? もしかして俺って天才か!?)


「どう? 初めてなのに剣がうまく扱えてびっくりした?」

笑顔でこちらを見ている七瑛さん。


「どうしてうまく扱えるのですか?」


「それがメインスキル“剣士”の恩恵だね。私は元の世界で剣術を学んでいたけど、この世界では武器にメインスキルやサブスキルが付与できるから、初めてでもうまく扱えるんだよ」


(これがスキルの恩恵なのか)

剣を見つめながら、この世界のスキルに感動した


「もしかして自分が天才とか思っちゃった?」

七瑛さんはからかうように、無邪気に笑っている。


「そっ、そんな訳ないじゃないですか!?」

見透かされたようで、恥ずかしく照れ笑いをした。


「だよね。じゃあ私の真似しながら素振りしてみよっか」


七瑛さんが剣を持ち上げ、素振りを始めた。その動作は流れるように美しく、一瞬の隙もないように見えた。

剣が空気を切り裂く音が響き、その迫力に圧倒される。

七瑛さんの動作は完璧で、無駄な動きが全く無さそうだった。


「見てるばっかじゃなくて、真似してね」

少しまゆをひそめ、優しく注意する七瑛さん。


俺は慌てて剣を構え、見様見真似で素振りを開始する。

七瑛さんの素振りの後だと、自分の未熟さを痛感した。


「次は軽く実践してみよっか。ライナー!」

大きな声で部下を呼ぶ七瑛さん。


ライナーと思われる大柄の男が、走ってやってくる。


「大輔と模擬戦をやってやれ。技スキルは使うな!」

七瑛さんがビシッとライナーに指示する。


(本当に俺は戦えるのか?)

初めての戦闘を前に、口が乾き、手汗で剣が滑る気がした。

焦る気持ちを落ち着かせようと、目を瞑って深呼吸をするが、鼓動が聞こえてきそうなほど、心臓が激しく脈打つ。


「どうした!? ビビってるのか?」

気持ちを落ち着かせようとする俺を見て、ライナーが馬鹿にするように叫ぶ。


「はじめ!」

七瑛さんの掛け声で、戦闘は始まる。


(初めての戦闘だ!深く考えてもうまくいきっこない!)

腹を括った俺は、勢いよく飛び出し、ライナーの頭に目掛け、渾身の力で剣を振り下ろす。

しかし、ライナーが軽々しく躱し、ニヤっと笑う。


「そんな大振りで、当たるかよ!」


(こんなに簡単に躱されるのか!?)


焦る気持ちを抑え、再び攻撃しようとした次の瞬間——左肩に激痛が走り、俺は吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。

防具越しでも、腕が折れたかと思うほどの痛みに、奥歯を噛み締めて我慢する。


(簡単に負けてたまるか!)


左肩の痛みをぐっと堪え、立ち上げる。

戦闘訓練を止めようとする七瑛さんを、右手を上げて静止し、ライナーと再び対峙した。


左肩は依然として、ジンジンと痛む——だが、心臓の鼓動は落ち着いていた。

肩の痛みで逆に緊張が無くなり、冷静さを取り戻した俺は、先程より視界がはっきりとしている気がする。


「来いよ!」

俺は自分を奮い立たせるように、ライナーに向かって叫ぶ。


「ガキが! 調子に乗るなよ!」

怒号のように叫びながら、ライナーがこちらに走ってくる。

先ほど全く見えなかったライナーの攻撃が、今回ははっきりと見えていた。


(これなら、躱せる!)

相手の攻撃がゆっくりに見えるほど、冷静に対応できていた。

攻撃を躱す度に、ライナーの攻撃は止め処なく襲ってくる。


徐々に呼吸が荒くなり、俺の足が沼に嵌まっていくかのように、重くなっていく。

躱すことが困難になり剣で攻撃を受けると、左肩の痛みで手に力が入らず、剣が吹き飛びそうになる。


「さっきの威勢はどうした!?」


体が流され、体制が崩れる。

慌てて体制を整え、辛うじて攻撃を受け止め鍔迫り合いになった。

シンプルな力の押し合い。必死に押し返すが、びくともしない。

体格の良いライナー相手では分が悪く、覆いかぶさられるように押し込まれてしまう。


食いしばる歯が折れそうなほど、体中の力を振り絞り、全力で押し返そうとした瞬間——腹に鈍い衝撃が走り、呼吸ができなくなる。

俺はそのまま、もがくように倒れ込んでしまった。


「完璧に膝が入ったな!」

ライナーの勝ち誇ったような、嬉しそうな声が聞こえる。


(そんなのありかよ!?)


立ち上がることも出来ず、息すら吸えない。

吐き気に襲われながら、ただ、痛みが和らぐのを待つことしかできなかった。


「大丈夫?この体力回復ポーションを飲むと、楽になるよ」

痛みの中、薄っすら目を開けると、七瑛さんが瓶に入ったポーションを、渡そうとしていた。

しかし、痛みで受け取ることもできない。


(息も吸えないのに、飲めないわけないよ……)


突然、口の中が液体で埋め尽くされる。

驚いて目を開けると、七瑛さんが無理やり、俺の口にポーションを流し込んでいた。

溺れそうになりながらも、ポーションを飲み込む。

すると、痛みが徐々に和らぎ、呼吸も出来るようになってきた。


「ちょっとは楽になったでしょ?」


(クソッ! 負けた!)

痛みは和らぎ、呼吸も出来るようになったが、負けた悔しさが俺を襲う。


「初めてにしては良かったよ。けど、魔力をうまく扱えてない感じがするね」

七瑛さんは俺を励ますように、改善点を話してくれた。


「魔力について、わかってなくて……」


「目を閉じて集中して。魔力を感じて」

そう言うと、七瑛さんは俺の手を握った。


徐々に七瑛さんの手が温かくなってくる。


「これが魔力!?」

初めての魔力に触れた感覚に、俺は少し興奮していた。


「そう。今度は自分の中の魔力を感じて、それを全身に巡らせてみて」

握る手に少し力が入る七瑛さん。


七瑛さんから感じた魔力の感覚を自分の体から探すと、お腹から暖かい感覚が広がる。


(これが自分の魔力か!?)

全身にこの魔力を巡らせるイメージをする。


《スキル”AI”を起動します》


(何の声だ!?)


「七瑛さん、何か言いましたか?」


「何も言ってないよ」

不思議そうにこちらを見ている七瑛さん。


《起動完了。私はあなたの義手に搭載された “AI” です。スリープ状態で行われた戦闘の分析を行います》

機械的な声が脳内で聞こえてきた。


(義手に付与された、スキルAIが起動したのか!?)

義手をじっと見つめる。


「急に私の手を見つめてどうしました? 恥ずかしいので、そろそろ手を離してほしいのですが……」

七瑛さんの頬が赤く染まっており、手が少し汗ばんでいるのを感じる。


急に恥ずかしいくなった俺は、慌てて七瑛さんの手を離す。


《心拍数上昇》


「余計なこと言うなよ!」

思わず口に出した言葉に、びっくりして口を押さえる。


「ごめんなさい。繋ぎたかったら、繋いでいてもいいですよ……」

七瑛さんが目線を伏せたまま、手を差し出してきた。


「いえ、違います違います。そうだ! ライナーさん! もう一度、模擬戦をしましょう!」

慌てて訂正し、話を逸らす。


「少し魔力の扱いがわかったからって、急に強くなるものではないぞ!」

そう言いながら、ライナーは剣を構える。


「次は負けませんよ。」


(スキルAIが分析してくれるなら、どうにかなる……はず)

新たな能力に、期待と興奮が高まる。


「はじめ!」

七瑛さんの合図で、再び戦闘訓練が始まる。


ライナーが勢いよく走り出し、迫ってくる。

先ほど勝ったからか、ライナーの表情には余裕があるように感じた。


《右からの攻撃、その後切り上げ》

AIからの予測通り、攻撃が右からやってくる。

相手の動きがAIの予測通りで、手に取るようにわかる。


(攻撃がどう来かわかっているから、避けるのも容易だな)

ライナーの切り上げを避けながら、思わず笑みがこぼれていることが、自分でもわかった。


「なに笑ってやがる! たまたま避けられたからって、調子に乗るなよ!」

ライナーは怒っているようで、怒りで顔を真っ赤にして震えている。

こんなに近距離でも、AIのお陰で余裕ができ、ライナーの表情まで詳細にわかった。


《突きが来る。右へ回避。頭部にカウンター可》


ライナーが勢いよく間合いを詰めて来る。


突きが来る瞬間、右へ躱し——ライナーの頭部へ、ありったけの力を込めて、剣を振り下ろす。

強烈なカウンターが決まり、ライナーが地面に倒れた。


「よっしゃぁぁぁあ!」

初めて戦闘に勝利した瞬間——無意識に叫び、ガッツポーズが出ていた。


「そこまで!いい動きになったではないか大輔」

七瑛さんが嬉しそうに笑いながら、駆け寄ってくる。


(AIのお陰で、こんなに戦闘がしやすくなるなんて……)

俺はAIの能力を噛みしめるように、実感していた。


「それに比べてライナー! 貴様は何をしている!? 今日剣を握ったばかりの初心者に負けて! 走ってこい!」

響き渡る七瑛さんの怒号に、訓練場が静まり返る。

ライナーは何か言いたげに、俺を睨みつけながら走っていく。


「七瑛さんに魔力について教えてもらったおかげで、自分のスキル”AI”が使えるようになったんです。ありがとうございます!」


「それは興味深い! どのようなスキルなの?」


「この義手に”AI”という、スキルが付与されています。AIは敵の攻撃を予測し、戦闘のアドバイスをしてくれるようです」


「それはすごいね! じゃあ、私と模擬戦をやってみよっか? 私は妖刀を使わないし、手加減もするから安心して!」


「いいですよ」

スキルAIで強くなった自信から、軽い返事をする。


(正直、相手の動きがわかるなら、負ける気がしないな!)


「じゃあ始めるよー! 」

気の抜けた開始の合図を送り、七瑛さんが走り出す。


近づいてきたと思ったその瞬間——剣の切っ先が目の前に迫ってくる。


「ふぇっ!?」

七瑛さんの攻撃の速さに、間抜けな声が勝手に漏れる。


(やばい!? 死ぬかも!?)

迫りくる剣に、俺は死の恐怖を感じている。

走馬灯のように、妹の姿が脳裏をよぎった。


《緊急防御!》

右手の義手が勝手に動き、突きを弾き返す。


「ほー、今の攻撃を防ぐか」

笑顔で切りかかってくる七瑛さんに、狂気じみており恐怖を感じる。


《左からの斬りかかり》

俺はAIの指示に従い、咄嗟に回避しようとする。


《緊急防御!》

回避が間に合わず、義手が再び、俺を守る。


(わかっていても、避けられない!?)


《再度、突き攻撃!》

死の恐怖を味わい、体が硬直する。


《緊急防御》

速すぎる攻撃に驚く間もなく、連撃が続く。

AIのお陰で致命的なダメージを受けていないが、攻撃する隙がまるでない。


(早く終わってくれ!)

七瑛さんの攻撃に恐怖で腰が引け、気付けば半身状態で、義手が勝手に攻撃をしのいでいる。


《体の使用許可求む》


(はい?)

その瞬間、自分の体が勝手に動き出す。


(今の『はい?』は肯定の意味じゃないぞ!?)

しかし、体はAIに支配され、言うことを聞かない。

今まで防戦一方だった戦いが——AIが初めて攻撃をやり返す。


「私の攻撃を防ぐだけでなく、攻撃までしてくるか!? 楽しいな大輔!」

七瑛さんの表情は口元が笑っているが、鋭い眼差しで睨んでいる気がした。


(これは、すごいぞ!? あの攻撃の合間に反撃が出来るなんて!?)


AIの制御により、戦闘は激化していく。

七瑛さんが手加減しているとは到底思えず、『本当に訓練の戦闘なのか!?』と疑いたくなるほどだった。


AIが激しく体を動かすが、呼吸は無理なくできる。

攻撃の瞬間や、防御の瞬間に勝手に力が入るが、不必要に力まないからか、意外と疲れない。


体が勝手に動くので、少し余裕ができた。

どうやら、制御されているのは首から下のようだ。

周囲を見渡すと、団員たちが集まって俺たちの戦闘を観戦している。


「よそ見をする余裕まであるのか!?」

七瑛から笑顔が完全に消え、少し語気が強くなり苛立っているように感じた。


AIは七瑛さんの真似をして、突きを放つ。

その突きは自分でも、いつ放たれたかわからないほど——鋭く、速く、そして、正確に振り出されていた。


「私の技まで真似するとは……いい度胸だ!大輔本気で行くぞ」

七瑛さんの先程までとは違う低い声には、怒りが混じってそうだった。


七瑛さんは少し距離を取ると、訓練用の剣を納める。

そして、別の刀に手をかけ、低い体制で構えた。


それを見た団員たちが、ざわざわし始め、一斉に距離を取り出した。


(何が起こるんだ!?)


団員の焦りように、胸騒ぎがする。

一瞬の静寂が訓練場に訪れる。

しびれを切らしたようにAIが七瑛さんに向かって走り出し、攻撃をしようとしたその瞬間——突然、大きな影が覆いかぶさる。


「やめろ!」

大男が間に入り、AIと七瑛さんの攻撃を両手に持つ剣で止めた。


大男のあまりの迫力に、AIと七瑛さんの体がピタッと止まり、訓練場が静まり返る。

気付けば俺の体は、AIの制御から戻っていた。


「何考えているんだ! 殺す気か!? 訓練では妖刀を使うなと言っているだろ!」

大男は激昂し、七瑛さんを叱責する。


(怖すぎて、こっちが泣きそうになるんだが)


「ごめんなさい」

七瑛さんは我に返り、申し訳無さそうに深々と頭を下げた。


「大丈夫ですよ。大きな怪我もしていませんし」


「すまないね。私はこの騎士団の団長をしている “レオニダス・ストライド” だ」


団長は”ガレア”と呼ばれる、中世で使用されていた頭部の防具を被っていた。

ガレアは金色に輝き、存在感を放っている。


「嵐山 大輔です。団長さん、よろしくお願いします」


「七瑛がすまないね。あのまま戦っていたら、君は死んでいたかもしれなかった。あの刀は七瑛が転移時に与えられた “妖刀” で、訓練用の剣なんかでは防ぎきれない……」


《私は負けませんけどね》


「そんなわけないだろ」

AIの声に反応して、思わず口に出してしまった。


「七瑛の妖刀も防げるというのか!?」

団長は口を開け驚いたような表情で、こちらを見つめる。


七瑛さんが一瞬、眉をひそめて苛ついている気がしたが、団長に睨まれシュンと俯いていた。


「今日の訓練は、ここまでにしよう。大輔! 今晩、一緒に食事でもしようじゃないか?」


「ありがとうございます」


俺の返事を聞くと、団長は城へ帰っていく。


その後、他の団員が近寄ってきた。


「お前すごいな。七瑛さんと渡り合えるなんて、生半可なことではないぞ!」

団員たちが楽しそうに褒めてくれた。


(AIのお陰だけど、褒められると嬉しいな!)

団員たちに認められ、騎士団の一員になれたことを実感した。



「次は決着つけようね」

七瑛さんは笑顔で話すが、なぜだか、その笑顔から恐怖を感じる。


「勘弁してくださいよ」


「冗談だよ。今日はごめんね」


七瑛さんや団員たちと楽しく談笑していると、訓練所の隅でこちらを面白くなさそうに、睨んでいる男がいる。

目が合うと、彼は足早に去っていく。


(あの人は誰だろ?まぁいいか)


こうして俺の訓練初日は終わった。


(スキルAIは思った以上に有能そうで良かったな!)


《当たり前です》


「勝手に人の心の声を聞くな!」

また、独り言にしては大きな声を出してしまった。


周りの視線が痛いので、そそくさと自分の部屋へ戻る。


(それにしても七瑛さん強かったし、団長も強そうだったな)


義手に付与されたスキルAIが起動した興奮を、俺は抑えきれない。

AIのお陰で、思った以上に自分ができる感覚に、胸が高鳴り充実感に満ちていた。

未知の挑戦と期待に胸を膨らませながら、新たな一歩を踏み出した。



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