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異世界!AI (愛) してるんです!  作者: しげる
第一章 【獣人国ゼニスト】
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第一話 【異世界へ転移してるんです】

目を覚ますと、距離感がわからなくなるほど、真っ白な空間にいた。

壁がどこかも、地面があるのか、それさえ、わからないほどの白さ。

まるで、宙に浮いているかのような、錯覚に襲われる。


「……ここは、どこなんだ!?」


「ここは、転移の間じゃ!」


唐突に、知らない声が聞こえてくる。

周囲を見渡すが、そこには、真っ白な空間が広がっているだけだ。


(なぜ、こんな所にいるんだ? 妹と買い物に、行っていたはずなのに)


「“嵐山(あらしやま) 大輔(だいすけ)”!お主はこれから、異世界へ転移するのじゃ」


「なん、だと!? 元の世界には戻れないのか!?」


「それは、無理じゃな!」


ふと、家族の顔が浮かぶ。

(まだ、祖父母に恩返し出来ていないのに。それに、……妹のことが心配だ)


妹と過ごした日々が、頭をよぎる。

彼女の笑顔、楽しかった日々。そして、妹に支えられ立ち直れた時のことを。


「お主が転移する世界は、武器や防具にスキルを付与できる世界じゃ。魔物を倒すことでスキルを集めて、強くなれるファンタジーな世界じゃな」


「ファンタジーな世界だと!? ……ちなみに、魔法もあるのか?」


「魔法もあるぞ!少しは興味が湧いてきたか?」


ファンタジーな世界に興味が無い、と言えば嘘になる。

しかし、家族と会えなくなった状況で、異世界に興味を持つ自分に嫌気が差す。


「今から行く世界は、様々なスキルがある世界じゃ!もしかすると、“願いが叶う神具”もあるかもしれんの」


「どうやったら、見つかるんだ!?」


「さぁ、それは自分で探すのじゃな」


かすかな希望が、俺に光をもたらす。

(絶対に元の世界へ戻ってやる)


「お主、右手は義手か? そうじゃの、今流行りの『AI』を、特別なスキルとしてを付与してやろう!AIが勝手に学習して、お主を助けてくれるじゃろう」


義手に視線を送ると、薄っすらと義手が光った気がした。

すると、俺の“筋電義手”が、いつもより、スムーズに動く。

それはまるで、自分の手と遜色ないほどに。


(俺の義手にスキルAIだと!?)


新たな可能性に、俺の胸が高鳴る。

そして、義手に自然と力が入り、異世界でもやっていける気がした。


「あなたは、神様ですか?」


「まぁ、そんなもんじゃな!じゃあ、そろそろ行くか!」


神様がそう言うと、俺を光が包み込む。


「神様!AIが学習する為のネット環境は、異世界にあるのですか?」


「・・・あっ、やっべ」


神様の焦った声をかき消すように、俺を包む光が増していく。


(もしかして、AIはネットが無いと使い物にならないのか!?)

強烈な光に包まれながら、神様の焦った声が俺を不安にさせる。


(それでも、妹と再会するために、前に進むしか無い!)

俺は『絶対に元の世界へ戻る』と心に誓い、自分を奮い立たせた。





光が弱まり目を開けると、高そうな服を着た男性とその部下と思われる人が立っていた。


「転移は成功のようですね。転移者様、この方はこの国の宰相、“ドミニク・モルドレッド”様です。」


「……ここは?」


「この国はゼニスト。獣人の国でございます」


(獣人がいるのか!?)

ファンタジー感ある展開に胸が踊り、体が熱くなった気がする。


「嵐山大輔と申します」

俺が挨拶すると、宰相はニコニコしながら握手を求めてきた。


「お主、この手はなんだ?」

宰相は握手した手を、不思議そうにまじまじと見ている。


「昔、事故に会いまして、手の代わりになるものです」


「なッ!腕が無いのか!?」

宰相の顔色が、一瞬で曇る。


「そうか、大変だったなぁ。説明は部下から聞いてくれるか」

そう言うと、宰相はそそくさと部屋から出て行ってしまった。


「宰相様は忙しい方ですので」


「大丈夫ですよ」


平常心を保ちながら微笑み答えたが、宰相の対応に、内心では少し悲しさを感じていた。



「私は、宰相様の家臣“エドガー・ノックス”でございます」

「よろしくお願いします。ところで、あなたも獣人なのですか?」


(どう見ても、獣人には見えないな)


「いえ、宰相様とその部下、騎士団長と騎士団の上位の方は人間の方が多いです」

「獣人の国なのに、人間の方もいるのですね」

「左様でございます。」


「獣人の国でも獣人と人間は手を取り合って暮らしているのですね」

「……。まずは、お部屋へ案内いたしますね」


廊下を歩いていると、前から騎士のような甲冑を着た人が、向かいからやってくる。


彼はまるで人間と犬が、融合したような姿をしていた。

甲冑の隙間から見える体は、筋肉質かつ、しなやかな体つきで、顔には犬らしい鋭い目と尖った耳がある。


彼らは我々を発見すると、廊下を開けて隅へ寄った。


(この人たちが獣人か!?)

初めて見る獣人の姿に釘付けになった。



「こんにちは」

俺は獣人の方たちに挨拶をすると、彼らは少し驚いた表情をし、笑顔で会釈する。


「彼らは?」

「彼はゼニスト騎士団の騎士ですよ。獣人の中では強い方々ですね」


「そうなのですね。獣人の方は初めて見ました。カッコイイですね」

「……」

エドガーは聞こえていないのか、返事もせずに歩き続けてしまう。


「こちらが、大輔様のお部屋となります」


部屋に入ると、質素ながら異世界らしい独特な雰囲気が漂っている。

天井にはシンプルなランプが吊るされ、電気ではなく、鉱石のようなものが光っていた。

窓際にはステンドグラスがはめ込まれ、外の光が淡い色彩で部屋に差し込む。

その柔らかな色彩が、異世界の雰囲気を強調していた。


「この国にはすでに、二名の転移者様がいらっしゃいます。彼らは騎士団長と、一番隊隊長をしています」


「そうなのですね。どのような方々ですか?」

俺は他の転移者に興味が湧いた。


「“レオニダス・ストライド”様は騎士団長としてこの国の騎士団をまとめ上げておられます。たしか転、移前はコロッセオという、闘技場で戦闘をしていたようですね。コロッセオでは、無敗で無類の強さを見せたそうです」


(コロッセオということは、古代ローマか!?)



「“斎藤 ()()“様は一番隊隊長です。彼女は妖刀という、特別な刀を転移時に授かった方で、その剣術はこの国で一番とされています」


(転移者は、時代や場所にとらわれないのか?)

転移者の異なる経歴と能力に驚くと同時に、彼らの力と存在に対する深い興味が、心をくすぐる。


「お二方とも強そうですね。私は戦闘経験が無いのでどうなることやら・・・」

転移者の経歴に、自分が本当にやっていけるのか、不安が押し寄せる。


「転移された方はどなたもお強いことで有名ですから、大輔様もきっと強くなれると思いますよ」


「頑張ります」

彼の言葉に、少し勇気づけられた。


「後ほど、王様との謁見がございます」


「王様と謁見!?緊張しますね」

緊張にソワソワし、手のひらには冷や汗が滲む。


「今後の大輔様のお話は、謁見の場で行われますので。

それまで、部屋でお寛ぎください。では、私はこれで」

エドガーはお辞儀をして部屋を後にした。



「まずは、義手の“スキルAI“でも試してみるか」


(しかし、どうやって使用するのだ?)

義手に力を込めるイメージしてみる。


「ダメだ。何も反応しないな」

次に、義手を凝視するが何も起きない。


「スキルAI起動!」

大きな声で叫んでみたが、何も変化がない。


(何も反応しない……だと!?)


「まさか、ネットに繋がってないから使えないのか!?」

不安が俺を襲う。

(神様、焦った顔していたからなぁ)


「このままではスキルAIがただの飾りになってしまう」


一度義手を取り外してみると、義手の構造が変化していることに気づいた。


元々筋電義手は脳からの電気信号を、神経を通りセンサーで感知される。

感知した電気信号を分析し、手や指を動かすことができた。

しかし、今の義手はセンサーやモーター、バッテリーなどの機器が無くなっている。

それにもかかわらず、以前より素早く滑らかに手指を動かせるようになっていた。


(転移時に神様が異世界仕様に変更してくれたのか!?)


指が1本ずつ外せるようになっており、関節などがメンテナンスしやすくなっている。

それでいて、取り外そうと意識しない場合は、簡単にパーツがバラけることもなかった。




一時間後


「あー、全く使い方がわからん。ハズレスキルか!?」

初めてのスキルの使用で、使い方が全くわからない焦りが胸をかすめる。


(まさかスキルAIは、“義手が動かしやすくなっただけ”じゃないだろうな!?)

義手を眺めながら神様が焦った顔をしたのを思い出し、少し怒りが湧いてきた。




その時、ドアを「コンコン」とノックされた。

「今から王様との謁見が始まります。謁見の間へご案内いたします」

エドガーに連れられ、謁見の間へ足を運ぶ。


大きな扉の前へ案内され、扉が開かれる。

扉が開かれると、広々とした謁見の間が目の前に広がった。

石造りの壁には古びたタペストリーが掛かっている。高い天井からはシャンデリアが下がり、柔らかな光が室内を満たす。窓からは自然光が差し込み、温かく厳かな雰囲気が漂っていた。


王様と思われる獣人は、人間とクマを融合したような見た目で、厚い茶色の毛皮で全身を覆っている。その顔は丸くて、大きな鼻と丸い目が特徴的だ。鋭い牙が口元から覗き、逞しい顎が力強さを象徴していた。

俺は王様の迫力に圧倒される。


「お主が、転移者か?」

「はい。嵐山大輔と申します」


「獣人国ゼニストの王、ライゼル・フェンリスだ。」

「よろしくお願いします」


「まず、なぜ大輔を召喚したか話をしよう」

少し重苦しい雰囲気で、王様は話を始めた。


「魔人がこの大陸に、襲撃を仕掛けてくることが頻発しているのだ。我が国は魔大陸とは離れているから被害は無いが、各国魔人に対抗するため、転移者を召喚しているのだ。」

王様の眉間には深いしわが寄り、口元は厳しい緊張で引き締まっている。


「騎士団長や一番隊隊長も同じ理由で召喚されたのですか?」

「そうだ。転移者は魔力量も多く、転移時にスキル付きの装備を与えられるのだ」


「私は、右手の義手にスキルを付与して頂きました」

王様に見せるように、右手を突き出す。


「義手とはなんだ?」

「実は昔”事故”で右手を失いました。義手は筋電義手という物で、ゆっくりですが指を動かすこともでき腕の代わりになります」


「では、お主が授かったスキルは義手で、手の代わりをもらったということか?」

「いえ、筋電義手は前の世界での技術です。スキル”AI”を頂きました」


「AI?聞いたことないのう?どういうスキルなのだ?」

不思議そうに義手を見つめる王様。


「AIとは人工知能なのですが、まだ私も使い方がわからず、困っています……」

先程スキルを使えなかった不安が、再び襲いかかってくる。


「そのうち使えるようになるだろう。早速、魔力量を計測でもしようか」

王様は頷きながらも若干の疑問を抱いている様子だが、俺に不安を与えないように話を変えたようだった。

そして、王様が獣人の家臣へ合図を送る。


「こちらに触れるだけで魔力量が計測できます」

獣人の家臣が水晶のような物を運んで来た。


「転移者は、魔力量が多いことで有名だから楽しみだな」


俺が魔力計測器に手を当てると、計測器が光り輝く。


「おぉ!すごい魔力だ。覚醒者並、あるいはそれ以上の魔力があるのう」

王様は喜々としている様子だ。


(魔力量が多いということは、魔力不足でスキルが使えないということではなさそうだな)

スキルが使えない謎が、さらに深まる。


「覚醒者とは何ですか?」


「人間は通常魔力量に大きな差はないのだが、鍛錬により覚醒することがある。覚醒すると魔力量が大幅に上がるのだ」


「王様も覚醒者ですか?」

「いや、ワシは覚醒者ではない。獣人の魔力量は通常の人間くらいあるが、スキルを使うことができないのだ。スキルを使えないから魔力を使うことがほぼ無いので獣人に覚醒者はおらん」

王様は俯き、表情が暗くなる。


(獣人はスキルを使えない!?)

意外な真実に、俺は驚きが隠せない。


「その代わり、獣人は人間より遥かに身体能力が高く、スキルを使わない人間に負けることはまず無い」

王様は再び前を向き、強さを誇示するような微笑を浮かべた。


(逆に言えば、強力なスキルには勝てないということか?)


「一つ質問よろしいでしょうか?」

「良いぞ」


「”願いが叶う神具”をご存知でしょうか?転移した時に、神様から少し聞いたのですが……」

「魔王が持っているという噂は聞いたことがあるが、詳細は知らんのう」

腕組みをして、首を傾げる王様。


その後、王様にこの国について、教えてもらう。

現在、周辺国の戦争による余波で、難民受け入れ、食糧問題があるらしい。

魔人だけでなく、人間同士の争いが、この国にも影響が出ているようだ。




「明日から騎士団で訓練を行うのだ。この国の為に力を貸してくれないか?」

「わかりました。尽力させていただきます」


(これから俺の異世界生活はどうなるのだろう)

期待と不安で、俺の胸は高鳴った。




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