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98話

 あれから数日。アルヴィースに関する収穫もないまま、授業にも復帰。丁度魔法戦闘の訓練で、体を動かすには丁度いいと思っていたんだが…………


「はっはっはっ!聞いたぞノイン!接近戦を禁止されたんだってな!!」

「てめカイン………!!自分の得意な間合いからチクチクと………!皇族としての誇りはねぇのかッ!?」

「関係ない!僕は勝利至上主義だ!!」


 そう言って高笑いをあげるカイン。偉そうに言ってるけどそれマジ最悪だからな。

 迫る暴風の弾幕を炎で掻き消して、火炎の球体から熱線を放つ。だが、機動力と攻撃性を両立してるカインには容易く避けられ、果ては巨大な竜巻を作り出していた。


「ふん、動きにキレがないな」


 更に風の弾幕は数を増し、着弾と同時に鋭い旋風を巻き起こすようになっていた。隙を伺いながら躱していくが、一発が頬をかすめて小さな切り傷が刻まれた。


「そりゃな………!」


 右手に火球を灯し、走り出す。迫る暴風の弾幕の間を掻い潜り、弾幕範囲の外へと離脱して炎を7つに分裂させて放つ。それらはカインが作り出した竜巻とぶつかって、風の弾幕を巻き込むほどの大爆発を起こす。その間に両手を地面に付け、俺は大きな魔法陣を展開する。


「熾天」


 魔法陣から上空へ炎が立ち昇り、焔が雲のように場内を覆い隠していく。烈火の雲による光と熱で一気に砂漠並みの灼熱へと変貌し、見学者も含めて皆が空を見上げ、中にはうんざりとした様子で着こんでいた上着を脱いでいる奴もいる。


「焼き尽くせ」


 直後、烈火の雲から炎の雨が無数に降り注ぐ。機動力が厄介だというのなら、全面攻撃をすればいいだけのことだ。炎の雨が地面を焦がし、周囲を炎の海へと変えていく。

 銀世界とは程遠い、地獄のような光景を作り出すのは一瞬だった。


「はっ、そうこなくてはな………!」


 好戦的な笑みを浮かべ、カインは暴風の鎧を纏って降り注ぐ炎を吹き飛ばしていく。ただ、別の風を纏うという性質のせいか風の翼はやや勢いが衰え、その機動力は明らかに落ちたように見える。

 火炎を両手に纏わせて重ねる。そうして大火へと昇華したそれを剣へと型取って振るう。同時に放たれた炎の斬撃がカインの風の鎧へと直撃し巨大な爆発を巻き起こした。


「こんなもんか」


 俺がそういうと、爆炎の中からカインの姿が現れる。加減はしたから大した傷ではないが、見て分かるほどの火傷は負っていた。カインはそれを気にするよりも、1本取られたことに悔しそうな表情を浮かべていたが。


「ちっ………遠距離でも隠し玉はあったわけか」

「別に隠してたつもりもないし、そもそも今のも思いつきだけどな」

「その場で思いついた魔法を咄嗟に使う?………やっぱりお前、接近戦なんて最初からするべきじゃなかったんじゃないか?」

「そうか?………うーん………」


 結局無駄に苦戦してた気がするしな。周囲一帯を爆炎で吹き飛ばすなんて方法もありはするが………まぁ、そんな勝ち方をしても俺の経験にはならないしな。そんな一発芸に頼りきりじゃ、通用しない相手に為す術が無くなるし。


「また対策しなきゃいけない技が増えたか………さて、お前に勝つまでにあと何戦必要かな」

「負けるつもりはねぇからな」


 軽口を叩きながら場内から出る。今のところ、戦闘訓練では全戦全勝。成績は文句なしのトップだが、周りもただでやられてるわけじゃない。日に日に通用しない技は増えていたし、その度に戦い方を変えたり、今日みたいに咄嗟に思いついた技を試したりしていた。最終的には火力でごり押しのほうが多かったが。


「おつかれさま。接近戦を禁止されたばかりだけど、特に問題はなさそうじゃないか」

「慣れたらもう少しスマートにやれそうなんだけどな。今は戦い方を制限しなきゃいけないってのがノイズになって思うようにいかない感じだ」

「その辺りは仕方ないさ。今なら僕でも1本取れるかな」


 悪戯っぽく顔を覗き込んでくるエリー。いつもの軽口に、俺は水で喉を潤した後に言葉を返す。


「お前が相手だと否定できないな。ま、その分いい経験になりそうだけど」


 当然だが、エリーとは互いの動きの癖を大体把握している。だからこそ純粋な魔法のぶつかり合いになることが多いし、そこでギリギリの戦いになることもあった。


「まぁ、今の君に勝ったところで僕としては何の意味もないからね。早く慣れてくれたまえ」


 エリーは肩をすくめて言う。俺はエリーの隣に腰掛け、次のペアの戦いを見ていた。とはいえ、実際はほとんど流し見てるだけで、全く別のことを考えていたが。

 頭の中を過るのは、アルヴィースとの戦い。思い返せば、アルヴィースも魔法は遠距離主体だったよなぁと思う。威力だけなら負けない自信があったんだが、レンジの差で苦戦するのは当然なんだが………はぁ。心の中でため息をつきつつ、俺は近くにいた無表情の少女に声を掛ける。


「イレーナ、俺の戦いはどうだった?」

「戦闘評価、A。機転の利いた見事な戦いでしたが、動作に不慣れな隙が見受けられました」

「へぇ………」


 案外しっかり見てるもんだな。それに、そんな細かいところに気づけるなんて流石というべきか。こいつと戦ってみてもいいんだが………人前でこいつを戦わせていいものか。

 そもそもこいつはアルヴィースの被害者なわけだが、このまま戦いの道に置かせていいのだろうか。自我が殆どない以上、自由に生きさせるのも難しいんだが。


「随分と辛辣な評価だ。ノインと戦ってみたときどうなるのか気になるところだよ」

「先ほどの戦闘を参考にした場合、マスターと私が対峙した際は私が勝利するでしょう」

「………はっきり言われるとは思わなかったな」

「おや、言われっぱなしでいいかい?」

「ふむ………ま、やってみてもいいんだけど」


 頭の中で考えるだけならまだしも、こうもはっきり言われると俺のプライドが刺激されないわけではない。とはいえ、やるなら校外だな。ついでに先生にも見てもらいたい。あとはフェリスも念のため呼ぶか。

 なんて、いつの間にか既にやるものとして俺の頭の中では予定が作られていたが………あとは最悪父さんに怒られるのは覚悟しなきゃな。


「んじゃ、今度やってみるか?」

「マスターがお望みならば」

「決まりだな」



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