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23話

 手紙に書いてあった内容は俺の予想通りであり、驚きはなかった。ルーナの身柄を拘束した。話し合いをしたければ、近日開催される式典に出向け。簡潔に、それだけが書き連ねてある手紙を読んで、俺は小さなため息をついた。


「何故陛下は………いえ、これは愚問ですね」

「左様。下手に広めれば、奴らがその時点で手を下さんとも限らなかった。故に、ごく一部の近衛以外には知らせていない」


 ちらりとルーナ様………めんどくせ。ルーナの傍にいる二人の騎士を見る。フルプレートで顔は見えないが、肩に掛けた深紅のマントが他の騎士とは違うのだと証明していた。

 ルノジスの事を考えればあまり期待は出来ないような気もするが。それを顔に出したら失礼になるため、すぐに目を逸らす。


「………」


 ただ、まだ俺の中では全ての点が繋がらなかった。今の話を聞く限り、国王陛下はルーナの身を案じていたように聞こえる。だが、取引を決裂させた国王陛下は、あの時にはっきりと答えたのだ。

 『構わない』と。あの発言と今の発言が繋がらず、思わず黙ってしまい………


「簡単な事だ。我はこの娘を目に掛けている。それは事実だが………そのために、国を犠牲にすることは出来ん。我が奴らの要求を呑み退位したとして、国民の混乱は免れんだろう。そうなれば、遠くない未来にこの国は安寧を失う」


 俺の考えを読んだかのように答える国王陛下。なるほど。顔に出やすいとはエリーに言われていたが、ここまでとは思わなかった。だが、それならばもう隠さなくていい。気になったことを聞こう。


「………辛くはないのですか?」

「我は生まれながらにして王である。その責務の天秤に釣り合う物はない」


 ………そもそもの根っこが違ったわけだ。そして、ルーナも今の発言を聞いて尚平静を保っている所を見るに、最初から国王陛下の考えを知っていたのだと。国王陛下の前に出されていた時も、最初から分かっていたんだろう。自身が切り捨てられることを。だからこそ、あそこまで無抵抗だったわけだ。

 そこで、ルーナが初めて口を開いた。


「私は、父が私を切り捨てる事を分かっていました。死ぬ覚悟も………あったわけではないですけど。だから、ノイン様が居なかったら、私はここにはいません。その、今更言うのも遅いと思うのですが………助けていただき、本当にありがとうございました」


 丁寧に頭を下げるルーナ。俺やエリーとそう歳は離れていないように見えるが、その所作からは王の血を継いだと言うのも納得の優雅さがあった。俺達よりも随分と大人っぽい雰囲気だ。彼女が綺麗なドレスを着ているのもあるかもしれないが。

 だが、俺としては感謝をしてほしいと思っていたわけではないし、そこまでかしこまられなくても良いと思った。勿論、感謝をしてもらって迷惑なわけではないから、それを無碍にする理由もないが。


「いえ、感謝をして頂けるだけでも嬉しいですよ。私はただ見ていることが出来なかっただけなので。助けることが出来て良かったです」

「っ………その、本当に貴方は話に聞くような本物の英雄です。貴方と出会えて、とても光栄です。本当に………その」


 そう言いつつ、俺から顔を背けるルーナ。やっぱり怯えてるよなこれ。まぁ、目の前で大人を殴り倒す光景を見せられたら、子供には刺激が強いだろうしなぁ………言っちゃあれだけど、国王の娘として温室育ちだろうし。ああいう血生臭………くはなるべくしないように心掛けたけど、荒事に慣れているとは思えないし。

 ま、気にしてもしょうがない。そう思って国王陛下に視線を戻すと………


「我と話す時とは違い流暢だな?随分と女子(おなご)の扱いに慣れていると見える」

「あの………すみません。失礼ながら、大変悪い印象を与えてしまったようなので弁解の余地を頂きたいのですが………」


 こんなところで国王に女好きとか思われたらとんでもない事になる。もしふらっと家臣に漏らしでもしたら、俺の評価が………主に縁談が増えてしまいそうという実害が出てしまう形で落ちそうだ。それだけは避けなければいけないために、なんとか弁解をしようとしたが。


「ただの冗談だ、真に受けるな。貴様の話は聞いている。エリシアと言うエンゲル家の幼馴染と四六時中共に居て、慣れているのだろう」

「はい………まぁ、その通りでございます」


 別に四六時中も一緒にいるわけではないが、この際そんなことは些細な話だ。

 質の悪い冗談に、この国王が意外と厳しいだけの人ではないと言う事を理解した。いや、基本的には想像通りの人だけど。さっきの話を聞く限り、ルーナにも父として慕われてはいるようだし。そういう側面も、確かにあるんだろう。


「それに、女に慣れることを悪い事だとは思わん。我は10人の妾を娶っているが故にな」

「………」


 そりゃ国王様だからなぁ………。普通の貴族なら、多くても3人くらいだろう。ただ、俺は前世の常識があるからそう言うのはちょっと遠慮したいけど。え?じゃあ人を殺すな?それとこれとは話が別だよ。何が別なのかは説明できないけど、とにかく別だ。


「話が逸れたな。では、貴様の褒美について話をしよう」

「あの………お言葉なのですが、本当に私はそういうつもりでやったわけではなく………」

「分かっている。だが、娘を救った英雄に何の褒美も無いようでは、我が信用に関わる」

「………えっと。そうですね………だったら………」


 何かないかなぁ。欲しいもの。何でもいいから欲しい物言ってって言われたら、意外と出てこないんだよな。しばらく俺を王都とかに呼ばないで、平和に暮らさせてください………俺の首が飛ぶな。うん。でも、娘を助けたくらいで国宝とか要求するのは身の程知らず過ぎるし。実際あんま興味ないし。


「しょ、少々お待ちください」

「では、ルーナとの婚約する権利を褒美とする。それでよいか?」

「そちらで用意していただけているとは思いませんでし………今何と仰いました?」


 ん?聞き間違いだよな?そうであってほしい………いや、そうであってほしいとか心の中に閉じ込めておけよ。マジで首が飛ぶぞ。それはともかく。いまなんつった?

 流石に冗談にしては質が悪い。いや、質が悪いどころの話ではない。一応王家の血を継ぐ者の縁談を、そんな軽いノリでしていいはずがないのだから。


「ルーナとの婚約する権利。それが貴様への褒美だ」

「………えっ?いえあの、流石にそれは………………………畏れ多いのですが、とても私には身に余ります。そのような高貴な褒美は、私より相応しい方がいるかと」

「それは誰だ?言ってみよ」


 俺が長考の果てに考えた、必死の遠慮。だが、そんなハッキリと誰とか訊かなくていいじゃん。知る訳ねぇよ。


「………………今後現れるかもしれないと言う話でございます」

「貴様のような英雄が多くいるのであれば、このような式典は催されん。そして、ルーナはあくまでも庶子であるが故に、王家としては扱われることはない。最後に、これはルーナ自身が望み、納得したことでもある。貴様が遠慮する必要はない」


 え?なんで?さっき目を逸らしたじゃん。そう疑問に思ってルーナを見たのだが………逸らされた顔の頬に差した微かな朱に気が付き、ようやく理解した。

 あーね?分かる分かる。確かに、そういう展開よくあるわ。知らんけど。けど………………うーん。いや、分からないことにしよう。

 なるべく平静を装って、俺は首を横に振った。切り札………と言う程でもないが、取り敢えず今日のところはこれで凌いだ、俺の中で最強のカードを切る。


「畏れ多いのですが………………そういう話は、父の言いつけで父を通すように言われているので。申し訳ありませんが、ここでそれを受け取る訳にはいきません」

「勘違いをしているようだが、これは縁談ではなく褒美だ。それを理解しているのか?」

「それでも、私の将来に関する事なので。私を今まで育て、今も私の将来を考えてくれている父に対して不義理な行動は出来ません」

「…………左様か。では仕方があるまい」


 なんとか納得してもらえたらしい。ここで不敬である。処断。とか言われたら泣いてた。取り敢えず、褒美の件はいったん持ち帰らせてもらって………


「では、その通りに貴様の父を通すとしよう。それでよいな?」

「………………はい。お願いします」


 ごめん父さん。後は任せた。






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