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17話

 それから、俺がベッドから解放されたのは4日ほどしてからだった。ソフィアが様子を見に来て、もう魔力も安定しているとお墨付きを得てようやくだった。ただ、その際俺の魔力の変化にやはり思うところがあったのか、怪訝そうな顔を一瞬だけ浮かべていたのを見逃さなかったが。

 そして、俺とエリーは暫くの間また日常に戻った。面会だとかそういうのは、全部王都に行った後にしてくれと父さんに伝えておいた。どうせ、貴族はそっちで面識を得ようとするだろうし。

 俺達はいつもの庭で、まずはまた変質してしまった俺の魔力を感知するために、エリーと俺の魔力を繋げる。ここ数年はやっていなかったから、久し振りに手を繋いで互いに一瞬微妙な雰囲気になったのは秘密だ。


「………やっぱり、前とは全く違う。以前も特異な性質ではあったけれど………もう、魔力をこうして繋げても、僕では操ることも出来ない程に別の物になってしまっている」

「ソフィアが微妙な反応していたのもこれのせいか」

「だと思う」

「………バレたよなぁ」


 エリーがここまで言うのだから、魔力の鑑定も行う聖女なら気が付かないはずがない。魔力関係の知識も豊富だし、エリーのように気が付いている可能性も否定できない。寧ろ、そうじゃなきゃおかしいと言うべきかもしれない。


「かもね。でも、ソフィアなら大丈夫だと思うよ。彼女はいたずらに火種となるようなことを広めたりはしないはずだ」

「そこは心配してないけどな。ま、わざわざ自分から言いに行くこともないし、黙ってくれてるならそれでいいか」

「だね。僕としては………父君にくらいは、話しておいた方がいいんじゃないかと思うけどね」

「いや………このことを知ってるのは、出来るだけ少数が良い。だから、エリーも黙っておいてくれ」

「ふむ。君がそう言うのなら、これは僕と君の秘密だ」


 そう言って明るく輝くような笑顔を浮かべるエリー。こういう表情を浮かべているときは、年齢相応に見えるんだけどな。取り敢えず、俺達は繋げていた手を離し、互いに庭の端に立つ。


「ここ最近、運動不足でフラストレーションが溜まっていたんだ。僕の気が済むまで付き合ってもらうよ」

「望むところだっ!」


 互いに魔力を解放し、向き合う。すると、エリーは少し緊張した面持ちをしながら汗を流す。


「………なるほど。確かに以前とは比べ物にならないね」

「もう少し抑えるか?」

「………ノイン。僕たちの間に遠慮はいらない。だから」


 エリーは背後に十を遥かに超える数の魔法陣を出現させる。この数は流石に俺でも予想していなかった。圧巻の光景に驚いた俺をよそに、エリーは笑みを浮かべる。


「僕も、本気でいくよ」












 そんなひと時の日常を過ごしながら、1ヶ月ほどが経った。そしてついにやってきてしまった。俺史上最大のビックイベントが。胃が痛いです。

 憂鬱な気持ちで朝に起きる。今日の天気は………晴れだな。俺の心の天気とは真逆だ。確か午前中には王都から迎えが来るらしい。ため息をついて部屋を出ると同時に声を掛けられた。


「ノイン、おはよう。中々起きてこないから、起こしに来たんだけど」

「あぁ、エリーか。おは………人の家でなんつー恰好してんだ」


 エリーは着崩れた寝間着を羽織っていた。はだけた肌のせいで、一瞬目のやり場に困ってしまった。変に意識しすぎるのもあれかと思って、ため息をついてエリーの方に向き直るが。


「着替えは後で良いと思ってね。先に朝食を食べようと思ったんだ」

「いや、そういうことを聞きたいんじゃなくて………」

「今更僕と君の仲で気にする事じゃないだろう」


 どういう仲だよ。恥じらいくらい持ってくれ………まぁいいや。


「………エリーも王都に一緒に行くんだろ?」

「うん。ただ、その後の王城には君と父君だけで向かうことになるから、僕と父上は一足先に宿に入っているけどね」

「………」

「そんな恨めしそうな目を向けられても………」


 まぁいいや。取り敢えず、父さんが同席してくれることになってるし。やべー事にはならないはずだ。一応、この日の為に最低限の礼節は学んだし。これでだめだったら、一応まだ10歳って事を盾にしよう。子供のちょっとした無礼を許せんとか言うような器の狭い人じゃないだろう。知らんけど。


「取り敢えず、朝食を食べたらすぐに支度をしたほうがいい。飛行船は君が思っているよりずっと早いよ」

「おう………ん?飛行船?」











 数時間後。俺達は街の近くにある雪原にいた。街中じゃ飛行船が着陸する場所がないかららしいが………これは納得だわ。こんなん街に降りてきたら家が2つくらい潰れる。ポカーンとしている俺を、父さんが笑みを浮かべて声を掛けてくる。


「ノインは飛行船を見たのは初めてだったね」

「寧ろ、今朝エリーの話を聞いて初めて知ったよ………こんなのあったのか………」


 飛行船と聞いて俺が思い浮かんだのは、前世にもあった気球だが………こっちの世界じゃ、本当に空飛ぶ船だった。厳密には、こっちにも気球は付いているが………どう考えても、気嚢でこの船を浮かせれる浮力は作れないよな………?いや、十中八九魔法なんだろうけどさ。いいなぁ。俺もそういう便利な魔法使いたかった。


「ほら、ノイン行くよ」

「え、あちょまっ」


 エリーが俺の手を引いて飛行船に乗り込む。彼女も自分の目で飛行船を見たのは初めてらしい。それでこのテンションの上がり方なんだが………この小柄な少女に引っ張られているのが、魔龍を討伐した子供だとは誰も思うまい。いやまぁ、俺の外見の特徴も広まってるから、そんなことはないんだが。

 飛行船の乗組員も、気球に乗り込んできた俺達を驚いたように見ている。俺は乗組員たちに軽く頭を下げようとするが、それよりも早く引っ張られて甲板に向かう。


「ほら、見てみなよノイン。外から見るよりもずっと広い」

「そうだな。それは分かったけど、ちょっとはしゃぎすぎじゃないか?」

「そりゃあ、楽しみにもなるよ。君が拓いたこの空を、もっと近くで見ることが出来るんだから」

「………そうか」

「ほほほ。我らが誇る飛行船。お気に召して頂けたかな」


 俺達に掛けられた声。それに振り返ると、そこには他の乗組員とは明らかに違う威厳に満ちた風貌と、厳格な制服を着こなした男性が立っていた。その口調に違わず、年齢は60~70代のように見えるが、老いている、という雰囲気はあまり感じられなかった。


「あ、その………申し訳ない。迷惑だっただろうか」

「いやいや。そのように喜んでもらえれば、我らとしても嬉しい限りだ。君達の思い出に残る旅になるよう、私達も頑張らねばならないな」


 男性は穏やかにそういうと、近くにいた部下に何か指示を出す。そして、再び俺の方を見ると。


「お会いできて光栄だ。熾炎の貴公子」

「………ん?私の事ですか?」

「勿論だとも。君の活躍は聞いている。大火を以て吹雪を焼き払い、龍を打倒しこの地に熱を取り戻したと。その偉業に相応しい異名だ」


 なんだそれ。初めて聞いたぞ。かっけぇ。けど、ちょっと厨二っぽくて恥ずかしい。自分で名乗るのはやめておこう。


「私、そんな風に呼ばれてたんですね」

「知らなかったとは思わなかった。今や街はその話題で持ち切りだ。覚悟をしておくといい。君程の人間は、周りが放っておかないぞ」

「ははは………」


 もう放っておかれてないから王都に行くことになってるんですけどね。すると、ようやく父さんとフレジオさんが追い付いて来た。


「エリー。ノイン君を困らせたらダメだろう」

「ノイン、初めての飛行船はどうだい?」


 あれ?フレジオさんと会う時、大体エリーが注意されている気がするな。まぁ、冷静なように見えて実はお転婆だから、そうなるのも仕方ないのかもしれないが。


「広いな」

「ははは。そうだね。きっと空を飛ぶところを見たらもっと驚くと思うよ」

「やっぱ飛ぶのかこれ」


 小さな声で呟く。魔法ってスゲー。俺が言う事でも無い気がするが。すると、艦長が懐から時計を取り出し、頷く。


「ふむ。時間だな。総員、発艦用意!」


 その声と共に、船内が慌ただしく動き始めた。初めての空の旅。この青い空に近づける日が来るとは思わなかった。前世でも飛行機には乗ったことないし。


「………楽しみだね。ノイン」

「あぁ、そうだな」







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