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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
一章

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⑧暗闇に紛れ



 (……間違いないんだろうな、そこにモルフが連れと一緒に隠れてるってのは……)


 使い慣れた曲刀(シミター)を提げながら、背後に続くグリアに先頭のロレンが尋ねる。


 (……ああ、夕暮れ前にでかいカバンを担いだモルフが、背の高い新参者と一緒に入って行ったぜ)


 グリアが答えると、ロレンはほんの僅かだけ考えて間を空けてから、


 (……田舎の村のクセに足元ばかり見やがるせいで、滞在費もバカにならねぇ。おまけに手ぶらで戻るよりは……なぁ?)


 三人組の二人は言い交わしながら階段を登り、後ろで松明を掲げて歩く青年が無言で見守る。


 (……でもよ、横取りするって言ってもモルフに手を出すのは……)

 (……ビビるなって。そこのミリオ坊やでも交渉位なら出来るだろ。なあ、そうだろ?)


 ロレンが振り返りながら尋ねると、呼ばれたミリオは小さく頷く。


 (……割って入ったが既に新参者がご乱心、モルフを殺してお楽しみ中で間に合わず……さ)

 (……っ!? ……で、でも……何も殺さなくても……)


 血相を変えたミリオがロレンに訴えるが、彼はシミターの切っ先をミリオの喉元に突き付けながら、


 (……ガキが知った口を叩くな、ここは【迷宮】なんだぜ? ……お宝は早い者勝ちで、バカは生き残れねぇ。モルフにゃ悪いが、口封じで死んで貰わなきゃ俺達が飢えちまうのさ)


 凶器を突き付けられながらロレンに凄まれ、ミリオは黙り込む。暗闇で松明の光に照らされ、ロレンの顔が皮の張り付いた骸骨のように見えたミリオは、それ以上抵抗する気力を失うが、


 (……お前、女を知らねぇだろ? 俺とグリアの後で良けりゃモルフを抱かせてやるよ。但し、死体になっちゃいるがな)


 そう言って微笑むロレンの顔を、ミリオはそれ以上見る事は出来なかった。




 先頭を進むロレンが手を上に上げて、後ろに続く二人を止める。


 (……追い付いたな、床の上に足跡が見える……)


 階段の下から上の階を睨みながら、ロレンはシミターを構えて慎重な足取りで、一歩一歩進む。グリアは松明を持つミリオを更に後ろに下げさせ、ロレンの直ぐ後ろに付く。


 (……なあ、あのガキはどうする?)

 (……そんなん決まってるだろ、この湿気た敗戦国を出たら……な)


 二人はそう囁き合い、ロレンの言葉を合図にシミターを構え、巻き上げたクロスボウに矢をつがえた。


 (……ちっ、用心深い野郎だ。床に砂利を撒いてやがる……)


 薄く積もった埃に刻まれた足跡を辿って進んでいたロレンは、一歩進んだ際にブーツの底が鳴ってから感付く。だが、ロレンは慎重に後退し、壁際に張り付くと足音を抑えながらドアに近付く。


 (……砂利は撒く時に壁で弾かれるからな、手口さえ知ってりゃどうって事無ぇ……)


 自分の後ろに続くグリアに得意気に言いながら、ロレンは目的の扉の前に到着する。


 (……なあ、その新参者とモルフが(さか)ってるってのは無いよな?)


 そろそろと指先をドアノブに近付けるロレンに、しゃがみながらクロスボウを構えたグリアが囁くが、


 (……へっ、それならそれで、油断してるだろ。仕事がやり易くて助かるってもんだ……)


 平然と言い返しながらロレンはドアノブの回し、グッと力を籠めて向こう側へ押し込んだが……


 (……くそっ、開かねぇ。何か向こう側に置いてやがるか?)


 忍び込むつもりだったロレンは当てが外れ、ガチャガチャとノブを回しながら身体ごと押してみる。だが、開く筈のドアはびくともしない。このままでは埒が明かない、と他に入る所は無いかとロレンが通路を見回した瞬間、


 「やあ、不審者共。夜中に何の用だ?」


 闇の中から突如、膝まで掛かる長いコートを羽織り、肩からショットガンを提げたリチャードがロレンに話し掛ける。無論、二人はもとより階段の下に居るミリオにも彼の言葉は判らない。


 「くそっ!! 他に出入り口があったのかよ!」


 リチャードの言葉を無視したままロレンはシミターを構え、グリアも遅れてクロスボウをリチャードに向ける。だが、二人より早く反応していたリチャードがライトを構え、ロレンとグリアの顔めがけて光源で照らした。


 「……ぐあっ!? くそぉ……見えねぇ……」

 「ぎゃっ!! 目が……目が……」


 一瞬で二人の視界を奪ったリチャードは、そのまま悠然とロレンに近付いて行く。


 「……うちのお姫さんが寝てるんでね、騒がしくされても困るんだよ」


 そう言いながらバヨネットを握ると、目を押さえて苦しむロレンの髪を鷲掴みにし、顎から頭蓋骨内に深々と突き刺した。瞬く間に気道と頸椎を切断され、ゴボッと息苦しい声を出しながらロレンは事切れた。


 「……ショットガンは駄目だな、うるさ過ぎる……」


 絶命したロレンからバヨネットを引き抜き、視界を取り戻しよろけながらクロスボウを構えるグリアを眺めると、リチャードはそう言いながらバヨネットをショットガンに装着し、一気に駆け出す。


 「この……人殺しがあぁっ!!」


 仲間を刺され、グリアは激昂しながらクロスボウを放つが、矢はリチャードの頬をかすめて僅かに逸れ、彼の突進を防げない。直後、リチャードとの距離は見る間に縮まり、腹の真ん中をバヨネットで突き刺されたグリアの身体が、ミリオの前に転がる。


 「があぁぁっ!! い、痛ええぇ!!」


 腹を抱えながらジタバタと苦しむグリアの背中を、リチャードはブーツの底で踏みつけながら、


 「……今、楽にしてやる」


 ショットガンのストックを真っ直ぐ突き降ろし、グリアの頭を打ち砕いた。




 ミリオは、ロレンに続いてグリアが殺される光景を、身動き一つせず見ていた。だが、それは恐ろしさで動けなかったのではない。


 (……凄い、この人……!!)


 リチャードの無駄の無い洗練された動きと、巧みで容赦無い殺し方に目が離せなかったのだ。無論、ミリオも探索者に付いて回り、荷物持ちとして生計を立てて来た。グールを始め様々な化け物にも遭遇し、それを目の前で倒す探索者に、憧憬に近い感情を抱きながら接してきた。だが、目の前のリチャードは、そんなミリオから見ても異質だった。


 探索者同士の小競り合いは、【迷宮】に於いて日常的に起きる。強い者が弱い者から奪い、時には命すら奪い合う。だが、大抵は強者の恫喝に弱者が怯み、物資を置いてそそくさと立ち去るのが大半で、殺し合いに発展する事は滅多に起きない。


 だが、目の前のリチャードはどうだ。二人組の襲撃に全く臆せず、それどころか剣で武装した相手を一方的に殺したのだ。そんな者をミリオは、見た事も聞いた事も無い。いや、以前噂でデルペトボリとの戦争の際、一人で何百人も倒した豪傑が居た、と聞いた事がある。もしや、それが彼なのではないか、そんな思いが頭の中を巡っていたが、


 「……一人、残ってたか。でも若いな……モルフさんと同じ位か?」


 二人をみなごろしにした男は、全く理解出来ない言葉でそう呟いてからミリオへと近付く。だが、男が発した言葉の中にモルフの名前が出た瞬間、ミリオは現実に引き戻される。


 「あ、その……俺、モルフの知り合いなんです!! 彼女の事、知ってます! だ、だから殺さないでください!!」


 咄嗟に口から漏れた出任せの嘘にも関わらず、リチャードの足はピタリと止まった。しかし、当然だがリチャードはミリオの発した言葉は判らない。


 「お前、モルフさんを知ってるのか? ……それ以外は何言ってるか全然判らん」

 「とにかく、俺を殺したらモルフが悲しみますから、どうか助けて!!」

 「……参ったな、こいつ何言ってんだ? まあ、いいか。放っておこう」


 武器を持たず只の松明持ちに徹していたミリオは、こうして一命を取り留めた。だが、ここは弱肉強食が日常の探索者達と、血に飢えた化け物がうようよ居る【迷宮】である。皮肉な事ながら、人殺しを平気でする男と一緒に居ない限り、彼の身の保証は一切無いのである。




 (……リチャードさん……その人は?)


 殺した男二人の亡き骸を、少し離れた物陰に隠してから戻ったリチャードは、モルフの言葉に振り向く。無論、彼の背後には松明を持ったミリオが緊張して立っている。


 「ああ……実は、ここに忍び込もうとした奴が二人居てな、その……」

 (……殺した、んですね。仕方ないですよ、ここは……過酷な所です)


 二人の会話を見守るミリオだが、その内容は判らない。だが、今直ぐにでもモルフに取り入らないと、果たして彼の運命はどうなるか。


 「……あの! その……俺に話を合わせて貰えませんか! そうしないと……俺まで殺されちゃいそうで……」


 間に立つリチャード越しに、ミリオはモルフにそう持ち掛ける。そう言われてみると、モルフも探索者の荷物持ちを生業にしているミリオの姿を、何度か見たような気がする。


 (……まあ、良いですよ。あなたが私達に悪さしなければ、ですが……)

 「うんうん! しないさ、そんな事は!!」


 仕方なく話に乗る事に決めたモルフに、ミリオは何度も頷きながら約束した。


 (……彼は、同じ村の若者です……だから、リチャードさん……殺さないでくれませんか?)

 「……ああ、君がそれでいいなら構わない。但し、言う事を聞かなかったら置いていくぞ?」

 (……はい、そう伝えておきますね)


 二人の会話を見守っていたミリオだったが、モルフが大人しくしてくれるなら連れていく、と伝えた瞬間、彼なりに真面目な顔で何度も頷いた後、ようやく命が助かった事が実感出来た拍子に、糸が切れた人形のようにくたりと座り込んだ。






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