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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
一章

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⑥一つ屋根の下



 当座の収入兼食料を手に入れた二人は、まだ見ぬ魔物から身を守る為、日が落ちる前に安全な夜営地を見つけたかった。頑丈な壁に囲まれていて、最低二ヵ所は出入口が有り、尚且つ丈夫な扉で封鎖出来れば良いのだが。



 「……あれは、建設途中の建物かな」


 林を抜け、建物が並ぶ界隈まで戻って来たリチャードは、背の高い塀で囲まれた鉄骨が剥き出しのまま放置されたその建物を見つけ、モルフを連れて近付いて見る。


 それは大きなショッピングモールらしく、緩やかな曲線と格子模様で彩られ、完成すれば立派で美しい外観になるのだろうが……今は、突き出た鉄骨が天に伸びる廃墟にしか見えない。


 足音を忍ばせながらリチャードは進み、大きく開いた一階の吹き抜けまで辿り着く。無論そこもがらんどうの空間だが、いずれガラスで覆われる筈の開いた天井から、雑草の種が入り込んだのか膝丈まで青々と繁っている。


 「……モルフさん、大丈夫そうだ」

 (……はい、よいしょ……)


 彼の後ろから小さな歩幅で進むモルフは、傍らまでやって来ると橙色に染まる空を見上げた。


 (……こんな、大きな建物……どうやって建てるんでしょう……)


 木造の家屋しか知らないモルフはそう言うと、想像を遥かに越える建築技術にため息を吐き、


 (……はぁ……リチャードさんの国って、ここよりもっとすごいんでしょう? ……まるで、神の国みたいです……)


 そう言って首を振った。


 「いや、そうでもないよ。ここは俺の知るどんな所よりも遥かに進んでる。ただ、誰も住んでいないけど……」


 リチャードも故郷の教会がすっぽり収まる吹き抜けを眺め、同じ文化を発展させたこの場所が、どうして打ち捨てられて無人なのか、全く判らないもどかしさを感じた。


 「……まあ、今は寝床を探そう。厄介な奴に出会わなけりゃいいが……」

 (……そうですね、行きましょう……)


 二人は気分を入れ換え、再び探索を始める。一階の吹き抜けから弧を描いて続く幅の広い通路を抜け、エスカレーターが設置される予定の段差を通り過ぎ、その先から通用口を経てバックヤードに繋がるドアに辿り着いた。


 「……さて、ここからは静かに行こう」


 リチャードが後ろを振り向いてモルフに告げると、彼女は神妙な顔で頷く。


 ギッ、と軋みながら両開きのスイングドアが開き、無人の通路が口を開く。やはり、電気は通っていないが突き当たりに階段が見え、射し込む弱々しい光の中で二階へと続いている。


 「……よし、これで閉じなくなるか。それじゃ、行くよ……」


 落ちていた瓦礫でドアを固定し、光源を確保したリチャードは再び静かに進み、その後をモルフも黙って付いていく。二人の足音が僅かに響く中、階段に辿り着くと先行するリチャードがショットガンを構えながら一歩一歩慎重に上がっていく。


 (……二階は明るいな。壁に窓があるからか……?)


 上の階は予想より暗さは無く、バックヤードにも点々と窓がある為、視界は保たれている。だが、日が落ちれば闇に包まれるだろう。


 階段を上がってきたモルフと合流し、建築資材が積まれたバックヤードの通路を抜けて行くと、管理室と休憩所の広い二室に辿り着いた。管理室は窓ともう一つの出入口があるが、休憩所はそこより広いが出入口は一つしかなかった。


 「……おっ、こっちは非常階段に繋がるのか。しかも内側から鍵が掛けられるみたいだ」


 管理室の奥のドアをリチャードは確認し、泊まるならここにしようと決めた。入ってきたドアは内側に何か積み上げれば封鎖出来るようで、まずは一安心と言えるだろう。


 (……リチャードさん、ここに泊まるんですか?)

 「ああ、ここなら問題無い。非常階段で下に抜けられそうだし、立て籠っても逃げ道は確保出来るよ」


 そう太鼓判を押すと、モルフは担いでいた荷物を降ろして腕を回し、


 (……それは良かったです……肩が抜けちゃうかと思いましたから!)


 そう言って笑うと、建築資材の上に腰を降ろした。



 「……非常階段は下で外に繋がっていたよ。それにこんな物も有った。たぶん、懐中電灯じゃないかな」


裏口を偵察してきたリチャードは、見つけてきた作業用のバッテリーライトを床に置き、スイッチを入れてみる。それは夕闇に包まれた室内をパッと照らし、部屋の隅々まで明るくする。


 (……すごい! でも……目立ちませんかね?)

 「そうなんだよな……じゃあ、シートか何かで窓を隠すか」


 モルフにそう指摘され、リチャードは資材を覆うブルーシートを引っ張って窓枠に近付き、何度か折り重ねて窓枠の上に載せ、木材を当てて即席のカーテンに仕立て上げた。


 「これでよし……他にも何か無いか、探してくる」

 (……なら、私はここで待ちますが……)

 「そうだな……だったら、合図を決めておこう」


 管理室に残るモルフと探索に行くリチャードは、彼が戻った際に鍵を開ける為、ノックは三回、一回、三回叩くと言い交わした。


 「とりあえず、水と毛布が有ったら持ち帰るよ」

 (……はい、気をつけて……)


 そう告げて非常階段に繋がるドアを開け、次第に目が暗闇に慣れてくるのを待ってから、リチャードは階段を降りていった。




 既に闇があちこちに蔓延り、がらんとした建物の中は目を凝らさないと見通す事は出来ない。しかし、夜戦の過酷な戦場も幾度と経験してきたリチャードは、暗闇は敵が見えない代わりに、自分の姿も相手に見えない事を理解していた。


 ……チィッ、とネズミの鳴く声を聞き取りながら、ショッピングセンターの外に出た彼は、身を低くしながら通りを横切り、反対側に並ぶ商店の軒先まで小走りで進む。そして店の脇に身を潜め、辺りに動く者の居ない事を確認してからゆっくりと立ち上がり、隠れていた店の中に入っていく。



 一軒目は、小さな電気屋だった。荒れ果てた町の中に在るが、略奪や破壊された形跡は無い。無論、人の気配は無い。


 電気屋に探す物は見つからないだろう、そう諦めて店を出ようとしたが、ショットガンのストックが何かに当たり、棚から埃を被ったトースターが床に落ちた。即座にカウンターの裏側まで走り、誰かが音を聞き付けて接近しないか、と耳を澄ませたが……近付く足音は聞こえない。


 ……俺は何に怯えているのか、と呆れながらカウンターを出るリチャードだったが、彼はレジの脇に懐中電灯(ライト)が置かれているのに気付き、手に取って確かめてみる。どうやら電池は入っているらしく、レンズと反対側のキャップを開けて封印を取ると、それまで暗闇だった店内が黄色い光で照らし出された。だが、彼は直ぐにスイッチを操作して明かりを消すと、ポケットの中に納めて店を出た。


 そして、次の寝具店で見つけた二枚の毛布を丸めて束ねて背負い、そこから何軒か探し回り最後に入った事務所の片隅で、透明な水の入った軽いボトルをコートのポケットに入れて、モルフの待つショッピングセンターに戻った。




 真っ暗な事務所の中で、カーテン代わりのシートの端を少しだけ捲って通りを眺めていたモルフは、その視線の先で何かが動いているのに気付く。


 一瞬、魔物かと思い心拍数が高まったが、それは暗い闇の中を進みながら、時折止まって周囲の気配を探るかのように動きを停め、再び動き出すと真っ直ぐ彼女が隠れているショッピングセンターを目指して近付いて来る。そしてそれは建物に沿って非常階段の付近まで来ると、唐突に見えなくなった。


 それから暫く間を置き、階段を登る規則的な足音がドアの向こうまで続き、


 ……コンコンコン、コン、コンコンコン、とリズミカルにドアが叩かれた。


 (……リチャードさん、おかえりなさい!)


 ドアの鍵を開けると同時に、モルフはそう言いながらリチャードを迎え入れようとするが、


 「……ああ、ただいま。でも、いきなり開けちゃダメだ。見えない所で怪しい奴が身構えているかもしれん」


 彼にそう諭されて、モルフは少しだけ表情を暗くする。だが、そんな彼女の顔色の変化にリチャードが、


 「……でも、待たせて済まなかった。色々と持ってきたから飯にしよう」


 そう告げて毛布と水を見せると、モルフはふわりと和らぐような笑顔を取り戻した。




 (……うわぁ、うちの毛布より触り心地が良いです……♪)


 直に床に寝るより良い、とリチャードが隣の休憩所から持ち込んだテーブルをベッドに見立てて幾つか並べると、横になりながらモルフは気に入ったようだ。


 「ほら、降りてきて食事にしよう」

 (はい、今行きます……!)


 降りてきたモルフは同じく運び込んだ椅子に座ると、テーブルの上に並んだ箱や袋を眺めながら、


 (ところで……その、お食事の前に……少しだけ一人になりたいんですが……)


 そう言ってリチャードの様子を窺う。それで小用を済ませたいと直接言うのが恥ずかしいと気付き、


 「いいよ、その代わり、こうしよう。俺と一緒に少しこの中を歩いて、良さそうな所があったら、そこから少し戻って待ってるよ」


 そう言ってから非常階段と反対の出入口を塞いでいた建築資材を動かすと、ドアを開けてバックヤードの通路の先を少しだけライトで照らしてから、


 「……大丈夫そうだ、何も居ない」


 そう告げて先に外に出てから、彼女を手招きした。




 戻って来たリチャードとモルフの二人は、出入口を塞ぐバリケードを元の場所に戻し、水を節約しながら手を洗った後、携帯糧食の封を切った。


 「……ほぉ、今度のは絵が描いてあるな。これは……袋を開けて水を入れると……熱くなるのか?」

 (……そんな事が出来るのですか?)


 その袋には様々な物が入っていたが、特に目を引いたのは、発熱袋サーモパックと呼ばれる、火を使わずに化学反応を利用して温める物だった。しかも、字の読めない者でも使えるように、使用法を簡略化したイラストが印刷されている為、誰でも簡単に温められそうだ。


 イラストを見ながらリチャードが使おうとしたが、まず温める物を決めなくてはいけない。今回の糧食も印刷された字は読めなかったが、ありがたい事に内容物が判るよう料理の絵が貼ってある。


 「……これは、具の入ったスープ……だろうか」


 ずしり、と重みのあるそれは一番大きな袋で、茶色い外見と膨らみ方で二人分はありそうだ。これはよさそうだ、と一つ目が決まった。


 (……これは、以前食べたクラッカーに似ていますね……他のにしましょう)


 モルフは相変わらず透明な袋に入った褐色の板を手に取り、見た目と袋越しの手触りで温める候補から外した。


 「これは……豆と肉っぽいな。丸い粒々と、大きな塊が入ってるみたいだ」


 リチャードはこれもスープかと思ったが、先程のより一回り小さく赤い袋で違うようだ。これも温めてみるか、と候補に。


 (……この箱は、牛の絵が描いてあります。牛ですが……小さいですね)

 「いや、それは牛が入ってる訳じゃないよ。たぶんチーズかバターなんだろう」


 モルフは缶詰めと知らず中身を吟味するが、リチャードは彼女より早く中身が判ったようだ。これはクラッカーに塗る事にして、温めない方が良さそうだ。


 こうして二つの候補が決まり、早速リチャードは図解の通り内封されていた発熱パック、袋入りの水、そして両方を入れて温める為の透明な袋を取り出し、各々を順番通りに入れて水を注いだ。


 ……そして、水に浸った発熱パックからジワジワと小さな泡が吹き始め、やがてボコボコと湯気を出しながら中の水が沸騰し始める。


 (……すごい! まるで魔導そのものです!!)

 「いや、こいつは大したものだな……どんな理屈かは全く判らんが」


 縦に立てた袋の中で沸く水、そしてその中で温められていく二つの袋を眺めながら、リチャードとモルフは感心しながら眺めていたが、やがて沸騰しなくなり湯気も立たなくなる。火傷に気を付けながら二つの袋を取り出すと、入れる前よりやや膨み素手で持てない程熱い。


 早速、同封されていたアルミの皿に開けてみると、茶色い大きな方は具入りのパスタらしく、マカロニとベーコン、そしてコーンやニンジンが次々と出てきた。そして、赤い袋からはリチャードの予測通り、豆と鶏肉がゴロゴロと湯気を上げながら皿に転がり落ちる。


 だが、何よりその二つが以前の糧食と決定的に違う点は……温かい湯気が立ち上ぼり、そして良い匂いを漂わせてる所だ。ニンニクや鶏肉、そしてトマトの香ばしい薫りが鼻を突き、嫌でも食欲が刺激されていく。


 「……これは、なかなか旨そうだなぁ」


 ここ最近、食べたのは冷たい物ばかり(戦場では簡単に火を使えなかった)のリチャードはそう呟き、


 (……もう、堪りません!!)


 モルフも切なげに身を捩りながらそう言うと、手に持ったフォークを強く握り締めた。




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