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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
三章

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救われし者



 「……す、素手で……トロールを、撃破してしまうとは……」


 レイビリートは目の前で繰り広げられた惨劇に圧倒され、ただそれだけ言うと畏怖の表情を浮かべる。今、彼女の前に平然と立つアンの華奢な姿から、あのトロールと死闘を繰り広げた同一人物とは到底思えなかったが。


 「ひあぁ……まるで、攻城鎚そのものでしたねぇ!!」


 それとは反対にニーシェは感極まったようにそう呟くと、まだ悪足掻きするかのようにブジュブジュとしぶとく泡立ちながら再生を試みるトロールの死体に近付き、しげしげと観察する。


 「……このままだと、また復活するんじゃないの?」

 「そうですね……確かに、一時的に行動停止していますが、いずれ再生してしまうかもしれません」


 アンはニーシェの傍らに立ちながら思案し、何か策は無いかとリチャードの方を見ると、彼は暫く考えてから無線を介してモルフ達に声を掛ける。


 【 ……あー、済まんが車両に積んできた()()()()を持ってきてくれ…… 】




 「……さてと、まさかこいつを使う羽目になるとはな……」


 リチャードはミリオが持ってきた物を背負いながら使い方を思い出し、パイプ状になった放出部のレバーを握ってトロールの死体に向ける。そして、カチカチッと何かが打ち鳴らされる音が響くと同時に連動したバルブが開かれ、ブフォッという音と共に紅蓮の炎が細長く伸びる。そして、あっという間にトロールの身体は炎に包まれ、肉と皮膚が焦げる嫌な臭いを放ちながら燃えていく。


 「火炎放射器か……まあ、こんな事にしか使いたくはないな」


 ビュオォーッ、と勢い良く吹き出る炎の帯を動かしながらリチャードは呟き、ガソリンの燃焼ガスを吸わない為に着けた防毒マスク越しに燃えるトロールの姿を眺める。引火性の高いガソリンとタールを混合させた燃料を、圧縮ガスを介して噴射する火器だが、時には生きた人間に向けて用いられる事もあった。だが、今のリチャードはそうした悲惨な過去に対する思いは無い。ただ、しぶとく再生するトロールを燃やして消滅させるだけだった。


 (……どんな武器でも、使用する者の思惑で結果は左右される。悲劇の引き金になれば、こうして処理の道具として活用される事もある。まあ、間違っても生きた人間に向けるつもりは無いが……)


 防毒マスクを着けたままリチャードはそう思い、再生する可能性の無くなったトロールに少しだけ憐憫を感じたが、それは僅かな時だけだった。これから工房に戻り、残されている筈の作業員を探し出し、銃の生産を止めなければ来た意味が無いのだ。




 「……クリア、やはり残りの傭兵は逃げてます」

 「そうだな、後は作業員が詰め込まれた奥の部屋か……」


 ミリオ達と合流し六人揃った一行は、二階に続く階段が崩落していた為、投げ縄を窓に掛けて再度二階に上がった。そして床の抜けなかった部屋を見て回り、残すは大部屋のみである。


 「……さて、どうなって……?」


 リチャードが呟きながら扉の取っ手を掴むが、奇妙な気配に感付きその手に思わず力が籠る。


 「……な、何だ……これは……」


 だが、危険な兆候は感じなかったリチャードが扉を開けて踏み込むと……そこには、


 「わあぁ!! はじめまして!」

 「お外、おっきな音がしてましたが、僕たちおとなしくしてました!」

 「しんぷさんの言ってたこと、ちゃんとまもってました!!」


 そこには、幼い子供から青年未満といった若さの男女が揃いの白い服を着て、リチャード達に好奇と従順そのものといった眼差しを向けながら出迎えた。


 「い、いや……俺達は神父じゃないし……」

 「はい、それは存じてます! 僕たちは教会の神父さまがとくべつに与えてくれたお仕事をして、お迎えにきたら自由になれるって教わりました!」

 「ほらっ、みんなお兄さんお姉さん達を困らせない!! ちゃんと言い付け通りお行儀良くしましょう!」

 「は~い!」


 一度に話し始める子供達に苦慮するリチャードが戸惑うと、年長の少年がハキハキと答え似た若さの少女が幼い子等を纏め始める。奴隷が働く環境と聞いて劣悪な状況を予測していた彼は、その状況と今の落差に戸惑いを隠し切れない。


 「……見た所、部品や組み立て済みの銃器は運び出された後みたいだな……」

 「生産拠点としては、それ程大きな場所ではないようです。推測ですが、こうした小さな工房を分散させて稼働し、最終的に一ヵ所に集めて製品化しているかもしれません」

 「……なあ、君達は此処で何をしていたんだ?」


 どうやら束ね役になっているらしい少年にリチャードが訊ねると、相手は全く警戒する素振りも無く、


 「はい、僕たちはここでどれい商人から助けてくれた神父さまのいいつけに従って、役に立つ道具をつくってました!」

 「……でも、それはもう此処には無いんだろ?」

 「はい、ある程度つくったら神父さまのお使いが来て、運び出すのを手伝い終わったらしばらくおやすみになるんです! それに、近いうちにお迎えのひとが来るから、それまでみんな待っていてって言われました!」


 素直にそう答え、リチャード達が自分達を迎えに来てくれたんだと心から信じきっているようである。一階の少女とは余りにも対比的な子供達の扱いに、リチャードは天地の差かと思わせられる。見たところ血色の良さそうな彼等は、きちんとした食事や寝る場所、そして清潔な衣服を与えられて働いていたらしく、その表情に暗さや悲壮感は無い。だが、その厚待遇そのものにリチャードは違和感を覚える。


 「ほらっ、みんな! お迎えのお兄さんお姉さん達が来たら、神父さまがとくべつな贈り物を開けていいって言ってたから、早く集まって~!」

 「は~い!」

 「うん! なんだろうねぇ!」


 そんな彼を尻目に、元奴隷の子供達は驚く程の規律正しさを見せながら十人づつ集まり、年長の少年がそう言いながらその輪の中に小さな包みを一つづつ置いていく。


 「……僕たち、私たちは神さまのおちからによって幸せに暮らせました! ありがとうございます!」

 「……ありがとうございます!」

 「ありがとうございます!!」


 だが、子供達が楽しげにそう繰り返し、包みに結ばれた紐を解こうとした瞬間、彼は自分が感じていた違和感の正体について考えてみる。


 (……何故、人里離れた場所に隔離して子供等に武器を作らせた? どうして、どうして……そうか、子供なら与えられた待遇に満足して、余計な詮索はしない! 余計な詮索をしないから、自分達が何を作っていたか知らなくてもいいし、簡単に口封じが出来る!!)


 「……止めろっ! そいつは自殺爆弾(スーサイド・ボム)だっ!!」


 だが、止めようとしたリチャードを嘲笑うように紐は解かれ、密集していた子供達の中心に置かれた包みがバンッ、と音を立てながら破裂した。そして包みは爆発の際に鋭利な破片を撒き散らし、取り囲んでいた子供の身体を容赦無く切り刻んだ。


 「ああ、くそっ……間に合わなかったか……」

 「リチャードさん! 怪我は無いですか!」

 「……ああ、大丈夫だ……でも……」


 その包みから放たれた爆発は十分過ぎる効果を発揮し、子供達の小さな身体を引き裂いて一瞬で命を奪った。口封じの為、子供達に集まって囲むようにと予め指示を与え、効率的に殺傷した首謀者の用意周到さと残忍さ、そしてそれを止められなかった自分の至らなさに、リチャードは言い知れぬ怒りを覚える。


 「硝煙反応はやはり有りません、これはこちらの世界の技を使った兵器かと思います」

 「……生存者は?」

 「残念ながら、一人も居ません」

 「そうか……仕方ない、ここは引き払おう」


 子供達の状況を確認したアンから報告を受け、リチャードは苦い表情でそう告げる。修羅場に慣れたモルフとミリオの二人は彼の言葉を聞いて踵を返したが、レイビリートとニーシェの二人は目の前で起きた惨劇に震えが止まらなかった。




 「……もう、大丈夫です……」

 「済まない、君達まで巻き込んでしまって……」

 「いえ、志願して来たのは自分の意思ですから……」


 アンに介助されながら一階に戻ったレイビリートは、白い顔を更に青ざめさせながら健気にそう答えるが、やはりその足取りは覚束無い。だが、ニーシェの方はやはりと言うべきか、


 「……死んでしまった子供達は、私が悔やんでも還って来る訳じゃありませんし……それより、さっきの子が大丈夫か見てきます!」


 そう言って担いでいた魔槍をミリオに渡し、唯一の生き残りの娘の元へと歩いていった。


 「……ふぅん、あのニーシェっての案外図太いんだなぁ」

 (……そうね、きっと私達が思うより、ハーフエルフとして育ってきた環境のせいで……強くなったのかも……)


 ミリオは俺達も行こうと言いながら魔槍を担ぎ、モルフを伴いながらニーシェの後を追って行った。



 「……治癒は終わりました。身体に受けた狼藉の痕はそのうち癒えるでしょうが……心の傷は、何とも言えません」


 ニーシェ達の手で救い出された娘を治療したレイビリートはそうリチャードに告げると、娘の短く切り揃えられた髪を指先で漉き解かしながら撫でてやる。すると、彼女はほんの少しだけ安堵した表情になり、レイビリートの手に頬を押し付けた。


 「申し訳ありませんが、私とニーシェは先に戻ります。この娘は……」

 「……このまま置いていく訳にもいかないからな、暫く我々が保護するよ」

 「そうですか……ところで、リチャードさん。一つだけ伺っても宜しいですか」

 「ああ、構わないが」


 撤退の準備を終え、元工房の廃墟の各所に火炎放射器を用いて火を放つ事に決めたリチャードへ問い掛ける。


 「……もし、銃を作っていた奴隷達が、武器を取って抵抗してきたら……貴方は、彼等を撃ち倒すつもりだったんですか」

 「ああ、そうだな……正直に言うと、そのつもりだった。まさか子供だけだとは思わなかったが」

 「……そうですか」


 リチャードの返答を聞いた彼女は小さく頷き、娘の様子も気になるからと再び会う事を約束し、繋いでいた馬の手綱を解くと軽やかに跨がり、ニーシェの手を引いて自分の後ろに乗せた。


 「……綺麗事だけで、全てが解決するとは思っていません。けれど……私は貴方程、冷徹に物事を判断する自信も有りません……」

 「……俺も、同じだよ。何でも殺せば済むとは、思っていない」


 レイビリートの言葉にリチャードは苦々しげに呟き、もっと良い解決策が有ればそっちを選ぶさと付け加えた。


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