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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
三章

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魔人同士



 「……うおっ!? は、派手にやってんなぁ~っ!!」


 眼下に見下ろす工房の一角から埃の煙が上がり、ミリオはその激しさに思わず声を洩らす。


 (……屋根はまだ、無事ですが……一向に、銃声が聞こえてこないのが、逆に気掛かりですね……)


 そんなミリオに対し、冷静にスコープ越しに観察し続けるモルフはそう言って呼吸を整え、再びスコープを覗き込む。その優れた暗視機能は彼女に鮮明な画像を見せてくれるが、流石に壁の向こう側まで見える訳ではない。だが、時折横たわるモルフの腹越しに地鳴りに似た振動が伝わり、工房の中で何が繰り広げられているかうっすらと想像出来た。


 (……何にしても、本気になったアンさんを相手にするのって……私には出来ないな)


 モルフは言葉にしなかったが、そう考えただけで背筋が凍りそうになった。




 現在は工房と呼ばれているその場所は、本来幾つかの部屋が連なる典型的な構造だった。だが、今は二階の一部を残して床は半壊し、その影響を受けた一階も天井と梁の半分以上を失っていた。そして、その原因は戦っているアンとトロールが引き起こしていた。



 もし、トロールに内省的な面が存在していたならば、きっとこう思っていたに違いない。どうしてこうなったのか、或いは何故こうなってしまったのか、と。


 その小柄な女を前にしてトロールは当初、軽く嬲ってやれば直ぐに終わるだろうと思っていた。相手の背丈は自分の腰元にすら及ばす、その手足は自分の指の太さ程度しかない。一掴みにして壁に叩き付けてしまえば、簡単にしてしまえる筈だった。


 トロールはその巨躯きょくを生かして一気に距離を詰めると、アン目掛けて襲い掛かった。窮屈な思いをしながら身を押し込んでいた工房など、彼にしてみれば藁細工の小屋に等しく、その本来の動きを制限する事は有り得なかった。だが、トロールは目の前に迫ったアンの姿を見失うと同時に、それまで一度も体験した事の無い強烈な痛打を後頭部に受け、勢い良く建物の外まで転がされていた。


 「……ぶ、ぶふぉっ? な、何がおごっだんだぁ……」


 顔面で地表を掘り起こしながら停止したトロールは、両手を付けながら身を起こしてアンの姿を探すが、やはり彼女の姿は捉えられない。


 「……巨体と打たれ強さで、防御や牽制の一切を覚えてこなかった訳ですか……実に、不甲斐ないです」


 だが、アンはその身を常にトロールの至近距離に置き、相手の筋肉の動きや関節の可動範囲を見極めながら攻撃の機会を窺っていたのだ。


 「……おめぇ、匂いがじねぇぞぉ……まるで、人形みでぇなやづだなぁ……」


 だが、トロールも決して視覚のみに頼って行動していたのではない。嗅覚や聴覚もリチャードやエルフ達より優れている上、逆に遠く離れていても一度覚えた匂いを辿って追尾出来る程だが、アンはそれを更に上回る程の俊敏さを備えていたのだ。


 「そろそろ終わりにしましょう。リチャードさんを待たせる訳にはいきませんし」


 そう言いながらアンが跳躍する為に地面を蹴った瞬間、トロールは巨体の利を活かし建物の外に向かって前転しながら身を捻り、背後から迫るアンの姿を捉えた……筈だったが、


 「遅過ぎますね」


 たんっ、とトロールの鼻先に足を乗せた彼女はそう言いながら身を踊らせ、空中で華麗に身体を翻しながら踵を上げて振り降ろす。その足の後端が見事にトロールの鼻を捉え、ゴシャッと軟骨を砕く音を響かせながら派手に血を撒き散らす。


 「びゃあああぁっ!?」

 「どうせ直ぐ回復するのでしょう? でしたら、何度でも繰り返すだけです」


 長く伸びた鼻をひくひくと痙攣させながら再び地面に顔を付けるトロールの真正面に立ち、アンは無表情のまま拳を握り締める。そして、以前に見せた零距離用の腕部内蔵兵装を起動させ、引き絞った上腕を一気に加速させながら打撃の瞬間と同時に、装填したカートリッジを爆発エネルギーへと転換させる。


 パキョッ!! という派手な破裂音と共に、鼻筋を蛇腹のように縮めたトロールの身体が仰け反り、回復しかけていた顔面の骨が再び砕かれる。そして打撃時に伝播した衝撃波がその巨体全身を突き抜け、遅れて拳で圧縮された空気が見事なレンズ状雲を形成する。それこそが、大気中で超音速が達成された際に生じる特有の現象だった。


 「……ばぁ、ばぁがなぁ……おでの、ばながぁ……っ!?」

 「相変わらず、酷い面相ですね。叩かれて少しは男前になるかと思ってましたが」


 鼻から上を吹き飛ばされ、更に頭皮を左右に裂かれ頭蓋骨を露出させたトロールだが、彼はまだ生きていた。しかし、そんな惨状を目の当たりにしながらアンは手を休めない。即座に腕の内側から排莢を済ませ、まだ熱く燻るシリンダー内に新たな薬莢を装填した彼女は、今度は低く身構えながら後ろに右足を下げ、左足を外側に開きながら大きく振り被る。そして、無情な拳は容赦無く剥き出しになった頭蓋骨目掛けて突き出された。


 ゴグシャッ、という堅牢な骨を叩く異様な音が鳴り響き、再びインパクトの瞬間にレンズ状雲が発生する。だが、それはアンにとって目標に対しコンビネーションを合わせる行為に過ぎず、右の拳による打撃から流れるような左足の蹴りへと繋がる。無論、脚部にも同じ機能が装備されていた為、分厚く形成されたカルシウム主体の頑丈な頭蓋骨といえど、容易く蹴り砕かれた。


 正面からの超音速打撃(ソニック・インパクト)、そして右側面からの超音速蹴波(ソニック・シュート)を受けたトロールの頭部は完全に爆発四散し、ほぼ肩から上を失った身体は暫く四つん這いの姿勢を維持していたが、


 「頑丈でしたが、所詮は()()()()です」


 額に掛かった髪の毛をはらりと指先で払いながらアンが呟くと、その言葉を待っていたかのようにトロールの四肢から力が抜け、左右に目玉を垂らしながら糸の切れた人形のように弛緩した。



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