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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
三章

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⑩乱戦



 エルデとアンが臨戦態勢に入ったその瞬間、周囲の茂みを揺らしながら軽装の兵士達が次々と姿を現す。無論、エルデの表情から察すれば相手はアーカイバの軍勢とは思えず、リチャード達も何度か遭遇したデルベトポリの兵士達とは何処か雰囲気が違って見える。デルベトポリの軽装歩兵なら揃いの武具に身を包んでいたが、今目の前に現れた兵士達は革鎧や胸当て等から小剣や手斧に至るまで、余りにも統一感に欠けていた。


 「貴様ら……ここがアーカイバの所領と知っていての狼藉かっ!?」


 ここ一番の要所だからか、ガンクが周囲の兵士を見回しながら声を荒げるが、相手から返答は無い。しかし、そんな反応もリチャード達には何の影響も無かった。


 「リチャードさん、交戦規則はいつもと変わり有りませんね」

 「ああ、捕虜になるな捕虜は取るな、だ」


 そしてリチャード達は平然とそう言い交わしながらUSPを構え、威嚇無しで焚き火に照らされた相手を端から次々に撃ち始める。向こうから仕掛けて来たのであれば、実力行使で排除する。


 タンッ、タンッ、タンッと狙いを定めながらリチャードがUSPで相手の肩や太股を撃つと、撃たれた兵士達は身を震わせながら未経験の痛みに悶絶する。しかし、アンの射撃は彼を更に上回っていた。


 身体の正面で拳銃を構えるリチャードに対し、アンは半身になり右手で保持し左手を外側から添えるようにし、アンドロイド特有の精密な動きで構える。そしてタタタタタタタタッ、と軽快なリズムでトリガーで引き、真横に体軸を回しながら周囲を取り囲む兵士達を掃射する。そして空になった弾倉を真下に落とすと上着の裾に取り付けたポーチから新たな弾倉を取り出して、薬莢が全て落ち切る前に装填する。そして再び新手に向かって短機関銃のような速さで連射し、間近に居た相手を瞬く間に殲滅してしまった。


 「お、おいっ! あんな奴が居るなんて聞いてねぇぞ!!」

 「くそっ! アーカイバの密偵二人とデルベトポリの脱走兵じゃねえのかよ!?」


 話が違うと騒ぎ始める男達だが、リチャードの傍らで片手持ちのUSPに弾倉を装填したアンがその一人に狙いを定める。


 「慈悲深いリチャードさんはきっと、今すぐ逃げれば見逃すと仰有るでしょう。しかし私は彼の命を脅かす者は、一人残らず狩り尽くしたいと思っています。なので、居残る愚か者から殺します」


 そう聞こえよがしにアンが宣言すると、一瞬の戸惑いから男達は負傷者を捨てて我先に逃げ出してしまい、急所を外された怪我人も呻きながら彼等の後を追って逃げていった。


 「……本当に、退けてしまうとはなぁ……」

 「ガンク様、だから何度も言った通りでしょう?」


 ガンクが広い額に手を当てながら呟くと、エルデが呆れ顔になりながら短剣を鞘に戻す。


 「それにしても……抜き付ける隙も有りませんでした。よもや倍以上も居た奴等をこうも容易く……」

 「倍以上ね……そんなものか?」


 エルデの言葉にリチャードが返すと、アンの表情がにわかに曇る。


 「リチャードさん、あの程度の人数で私達二人を害するつもりなら、その者は無能過ぎると思いませんか」

 「んっ? まあそうだが……銃の事を知らなきゃそんなもんじゃ……いや、待てよ……」


 そう答えるリチャードだったが、そこでアンの言葉の裏に秘められた真実に気付かされる。


 「まさか、本命はこちらじゃなかったってのか」

 「相手方がどう思っていたにせよ、出掛けた私達と居残った二人は、どちらも男女二人組みです。もし、相手がどちらかに重きを置いたなら……容易く退けられたこちらの方は陽動かもしれません」

 「なら、モルフ達が危険じゃないか!」


 漸く事態の深刻さに気付いたリチャードが戻ろうと身構えたが、


 「……リチャードさん、慌てなくても宜しいと思います。モルフさんにせよ、ミリオにしても……何処の誰が鍛えたとお思いで?」


 アンはそう言いながらまだ火の燃えている竈にヤカンを載せ、コーヒーを沸かす準備を始める。


 「お二人とも、教えられた事を良く覚えていますから……問題は有りません」


 そしてそう言いながらカップを取り出し、各々に手渡すとにこりと笑った。




 同時刻、リチャード達の拠点で留守を任されていたモルフとミリオの二人は、各々の部屋で寝る準備をしていた。だが、丸太造りの壁越しにゴブリン達の声を聞き取ったモルフが、何か異常が起きていると逸早く察知し、扉を開けて外の様子を窺う。


 (……っ? こんな夜に……何かありましたか)


 するとゴブリン達が五人程暗闇の中から現れ、モルフに向かって次々と頭を下げる。


 (……やっ、あの……何かあったんですか?)

 「……おれたち、こわいやつ見つけた。おれたちの、よわいやつ森のなかかくした……それで、ここきた……」


 彼等は夜でも眼が見える為、不審な者がここに近付いている事を報せに来てくれたらしい。彼らゴブリンは集団で行動し、狩りも行える。しかし、どうにも相手が強そうに見えたか人数が多かったかで断念し、報告を優先したのだろう。


 (……判りました、でしたら……皆さんにも協力して頂きたいのですが……)

 「おれたち、たたかえるっ!!」

 「いやなやつら、たたきだすっ!!」

 (やっ! 今はもう少し静かにして……)


 モルフの提案に色めき始めるゴブリン達に、彼女は口元に指を当てて静かにするようお願いする。


 「……何なんだよ、こりゃ何の騒ぎなんだ?」


 そこに騒ぎを聞き付けたミリオがやって来ると、モルフは状況から戦う準備が必要だと説明する。


 「……イヤな奴等ねぇ……ま、リチャードさん達が居ないんだから、俺達だけで何とかするかぁ」


 モルフの女性らしい体型が若干窺える夜着から視線を剃らしつつ、ミリオは自らを奮い起たせるようにそう呟く。そしてランプを手に持ちモルフと共に頑丈な錠前を掛けた扉を開けると、中に入って並んでいる銃器類を手早く身に付け始めた。



 (……気付かれていると思うか)

 (ああ、たぶんな……しかし、夜目の利くゴブリン共を歩哨に立たせてるとはな)


 拠点を包囲する兵士の後方で、屈強な二人の男がそう言い交わす。アーカイバの北に位置する列強国、ダニシンから派遣された彼の任務は対デルベトポリに注力するアーカイバの脇腹を衝き、均衡しているバランスをダニシン側に傾ける事。つまり、デルベトポリ弱体化に依り強気の交渉をアーカイバが行えぬよう、リチャード達のような不確定要素を排除する為である。彼等に善悪の基準は存在せず、有るのはダニシンの国益を最優先する事だ。


 (それにしても……もう少しましな連中は集まらなかったのか)

 (仕方ないだろ、こちらが金の詰まった袋の音を鳴らして集まった連中がこいつらなんだからな……)


 リチャード達の拠点を夜襲する為、彼等は金さえ払えば何でもする連中を雇い入れた。表向きは無所属の傭兵や兵役逃れの流れ者という触れ込みだが、どうせ裏側では女子供をかどわかして無法な奴隷商に売っている屑ばかりだろう。そんな風に死んでも心が痛まない連中だが、武器を扱えて人数もそれだけ揃えられるのは有り難い。


 (……それで、中にどの位居ると思う)

 (探りは入れさせているが……若い男女二人とゴブリンが少しだけらしい)

 (……若い男女か……例のデルベトポリの騎士を倒した方なのか)

 (判らん……ただ、先に向かわせた方は、まだ首尾の報せは届いていない)


 わざわざ二手に人数を割いたのは、彼等がリチャード達を過小評価していたからだった。廃墟でデルベトポリの兵を退けた事は彼等も知っていたが、強力な魔導の使い手も居ないリチャード達が勝てたのは偶然程度にしか考えていなかった。だからこそ寄せ集めに等しい連中だけで夜襲を決行し、容易く葬れると思い込んでいた。


 (……連中に、包囲を狭めて逃げ漏らさぬよう伝えろよ)

 (ああ、その代わり若い女って方は……ま、死んでしまうなら同じだろう)


 戦利品が奪えるか判らない状況だからこそ、若い女が居るとわざと伝えてある。多少の非道に眼を瞑らなくては、ああいった連中を上手く扱えないのだ。


 (但し、火を放つのだけは止めさせておけ。噂じゃ竜の吐く炎に似た武器も有るらしいからな……)

 (何だよそりゃ……)


 そう言い交わしながら、ダニシンの間者二人は夜襲が始まる頃合いを見計らい、拠点との距離を詰めた。



 闇に閉ざされた森の中を、足音を忍ばせながら男達が進む。彼等は身に付けている武具が鳴らないよう固定用のベルトをきつめに締め、一歩一歩慎重に近付いていく。


 丸太造りの家屋に近付いた男達は、先ず息を殺して中の物音に耳を澄ます。すると、明かりの灯った窓の向こう側から男女の話し声が聞こえてくる。どうやら、まだ相手は起きているようだが、こちらの襲撃に気付いている様子は無い。


 手慣れた動きで四人の男が扉に近付き、一人がそっと手を伸ばして扉を向こう側に開くと同時に三人が一気に雪崩れ込んだ。


 「いやぁ~、それにしても困ったなぁ~。夜中に変な奴等がやって来るとかさ!」


 若い男の声に反応し、四人は手に持っていた短剣や手斧を構える。だが、肝心な声の主の姿は全く見当たらない。


 「でもこうやってわざと大きな声で話すだけでさ、大きな魚が釣れるんだから楽だよな!」


 と、真ん中に鎮座するテーブルの上で、見慣れぬ奇妙な形の何かから若い男の声がする。それは丸い耳当てのような物が対になってカーブを描く板で繋がっていて、その耳当てから声が流れていたのだ。それが無線で声を送るヘッドフォンだと彼等が理解するより早く、ミリオの声が男達に別れを告げたのだ。


 「……ま、おもてなしって言うには何だけどよ!」


 細く開けた反対側の扉の隙間から、ミリオが消音器付き短機関銃を覗かせながらトリガーを引く。三点射スリーバーストで放たれた銃弾が四人に次々と到達し、皮鎧を穿うがち血の華を咲かせる。銃創による傷に男達は自分の身に何が起きたのか理解出来なかったが、


 「オッサン達よ、そのままだと血が止まらなくて死ぬぜ? さっさと逃げた方が身のためだと思うけどなぁ……」


 扉の裏から現れたミリオがそう言いながら銃口を向けると、悲鳴じみた叫びを上げながら逃げていく。


 「……さてと、後はモルフと合流して残りを追い出すかぁ」


 ミリオはそう言いながら弾倉を外し、残弾数を確認してからバシャッと戻す。


 「ま、そこまで残ってればだけど……」


 その言葉を裏付けるように、モルフの配置場所から低く籠る発砲音が四回鳴った。




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