⑤屠殺者
銃が主役の現代戦に於いて、交戦距離が様々に変化してもその戦法は全く揺るがない。銃を構え、冷静に狙いを定め、引き金を引く。自らの身体を遮蔽物の陰に隠し、時には大胆にその身を曝しながら、相手が攻撃するよりも早く撃てば全てが終わるのだ。
(……人間は、こうまで残酷に生き物を殺せるのですね……)
リチャード達と出会ったエルフのリーダー【レイビリート】は、彼等の為した破壊と殺戮の嵐を目の当たりにして言葉を失った。だが、そう感じながらもその冷徹さに興味を引かれてもいた。
氏族を護る為、選ばれた姉妹達(血縁は無いが同じ集落出身者から選定される)を率いて【守りの森】と呼ばれる故郷から彼女は旅立った。その目的は、エルフ達の有する様々な技術とは全く異なる【魔槍】という射出武器が、本当に必要か否かを確かめる為だった。
【魔槍】とは、エルフ達が有する魔導の術と、人間が培ってきた魔導付与の技を融合させて造られた武器である。槍の形状に似た筒の尾底部に様々な魔導術式を施したカートリッジを挿入し、簡易呪文で様々な術式を組み合わせながら発動させる。すると氷の矢を撃ち出す為に火の術式が尾底部で炸裂し、その膨張する圧力を利用して氷の矢が筒内を滑空しながら放たれる。そして大気を操る術式で氷の矢を速く飛ばし、目標へと到達させるのだ。
エルフ達は、得意な弓矢の技を魔導の術式を駆使し更に高めてきた。だが、それは大気の術式で矢を操作し加速させたり、火や氷の術式を載せて目標を燃やすか凍らせる程度である。矢自体に一つの術式は施せても、エルフの長い歴史に於いて更に上掛けさせようとはしなかった。魔導を練りながら矢を構えるより、直接発動させた方が速いからだ。
しかし、エルフ達の【守りの森】を度々脅かしてきた凶暴な異種族と戦う為、今までとは異なる戦術を模索し始めた矢先に現れた一人の人間が、彼等の常識とは全く違う技術を持ち込んだのである。
【魔槍】はその人間が組み上げた武器で、構造は風と氷と火の術式を付与したカートリッジを使用する。魔導に疎い者でも簡単に扱え、威力も案外高い。だが、矢を次々とつがえながら射てる弓と異なり、【魔槍】は使用後のカートリッジを外して新たなカートリッジを装着し、改めて狙いを付けなければ撃てないのが不評だった。
レイビリートは四人のエルフ達を率いながら【魔槍】の試験的な運用を模索していたが、彼女達の結論は弓矢より劣る方に傾きかけていた。そして、ホブゴブリン五体を討伐して帰路に着こうとした矢先にリチャード達と遭遇したのだ。
彼女達は、血と臓物の臭いが漂うような戦況を敢えて避けてきた。ホブゴブリンを倒した際は、出来る限り単独の相手だけに狙いを定め、姿を隠しながら襲撃と離脱を繰り返していた。その戦法は個々の犠牲は出さず確実に相手を倒せたが、弓矢による狩りと同じ隠密行動の延長でしかない。つまり、弓矢を【魔槍】に代えて扱っていただけなのだ。
「……御免なさい、もっと気丈にならなければ……」
「気にせずとも良いですよ、この状況を受け入れられる程……私達は修羅場を経験していないですから」
腰が退けて座り込んでいた仲間に手を差し伸べながら、レイビリートは今しがた起きたばかりの惨状から眼を逸らす。
見た事の無い兵器が生み出した結果は、彼女達が今まで経験した事の無い惨たらしいものだった。確かに弓矢や細剣を用いて戦う事は有るが、人族と根本的に体格が違うエルフ達は男女問わず力づくの解決策を選びたがらない。
(……だが、それを避け続けても平穏な暮らしを営めるとは限らない)
そう思うレイビリートの視線の先には、駆逐されて地面に転がるホブゴブリンの亡骸があった。ゴブリン達より遥かに好戦的で、尚且つ個々の戦闘能力と集団戦に秀でた種族である筈の彼等が、成す術無く屠殺されたのだ。しかも、相手はたった四人で苦もなく対処し切っている。
「……あの者達も、魔槍を用いたのでしょうか?」
「いや、あれは違う武器でしょう。でも……戦術そのものが異質過ぎるのです」
血の臭いに堪えきれず鼻を覆いながら呟く仲間の声に、レイビリートは自らの分析を交えて答える。彼女の目の前で行われた戦法は、魔槍より遥かに高い連射機能を備えた武器を巧みに操り、左右に展開した仲間が先頭に陣取る男の前方を隈無く掃射する。そして、撃ち漏らした敵を後方と中央から交互に狙い、効率的に相手の数を減らしていく。その結果、短時間で死体の山を築き上げたのだ。
「……これが、人間の戦い方か……得る物も多いが、私達は同じ手段で戦うべきなのか?」
そう言うとレイビリートは掌中の魔槍を握り締め、リチャード達に礼を言う為に歩み寄った。
「……成る程ね、その武器の試験運用の為に来たって訳か」
リチャードはモルフを介してエルフ達の話を聞き、納得しながらショットガンを肩から降ろした。
(……はい、エルフの方々は敵対するつもりは無いそうですが……出来れば、戦術的な助言が欲しいそうです)
「うーん、それは別に構わないが……その魔槍ってのは、簡単に言えば君のライフルと大差無いんだろう? それで制圧射を行おうっていうなら、再装填する者を一旦後ろに下げさせて、装填を終えた者と交互に撃てば済むだろう……こんな風にな」
リチャードはそう言って足元に五個ショットガンの弾を置き、レイビリートに身振り手振りを交えながら後退しつつ距離を保って行えば、相当な数の相手と対等に戦えると説明する。
「……撃ちながら退き、退きながら撃つ、か……確かにこれなら、魔槍の残弾にだけ注意すれば効率的に戦えそうです」
レイビリートはそう言って頷き、リチャードの肩に手を載せて礼を述べる。
「……貴方達と出会えて、私達は新しい戦い方が判った気がします。この礼はいずれ日を改めて……」
「あ、いや……ええっと……モルフ! こういう時は何て答えるんだ!?」
感極まってそう言い始めるレイビリートに、リチャードは咄嗟に答えられずしどろもどろになる。戦闘時の屈強な態度から一転する姿に、モルフもつい笑ってしまいそうになった。
エルフ達はリチャードに何度も礼を言い、何か有ったら【守りの森】を訪ねて欲しいと告げながら去っていった。
「なあ、モルフ。あの人達は少し変わっていたが、よく会ったりするのか?」
(……いえ、エルフは私達よりも長命ですから、いつも戦だと言って争っている人間とは、積極的に交わらないらしいです)
リチャードの問いにモルフがそう答えると、つまり野蛮な人間とは関わり合いたくないって訳かと納得する。だが、それでも新しい武器の運用法や戦術を模索しているのは、それだけエルフ達も何らかの窮地に立たされているのだろう。
(……リチャードさん、ゴブリン達が何か見つけてきたらしいです)
「……おっ、そりゃあ良かった。さて、どんな物が出てくるのやら」
リチャードはそう答えながら、しかし自分達が戦っている隙に目敏く物資を漁っていたのかと思い、それはそれでいかがなもんかと考えたが……それ以上詮索するのは止めにした。
ゴブリン達が迷宮から探し出してきた物は、リチャードには余り魅力の無い物ばかりだった。しかし、だからといって愚図だの愚鈍だのと罵る気も起きず、大半の物はそのまま彼等に持ち帰れば良いと伝える。
だが、一人の壮年に近い見た目のゴブリンが運んで来た物を見て、リチャードは思わず声を漏らしてしまった。
「……それを、何処で見つけてきたんだ?」
驚いた拍子に言葉が通じない事を忘れ、モルフを介さずついそう尋ねてしまったのだが、リチャードは彼が持ち込んだ物を手に取っただけで記憶の中に埋もれていた何かが鮮明に浮かび上がる。
「……アンさん、これが何か判るか?」
「……燃料タンクと、ホースに見えますが」
「ああ、そうだが……これは塹壕戦で毒ガスと共に厄介な武器だったよ」
そう言いながら燃料タンクの脇に貼られたプレートを指先で触り、その表面に刻印された文字を読み取った。
「……くそっ、こいつは火炎放射器だ……」




