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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
三章

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④姿を隠す者



 リチャードとアンがモルフ達と合流すると、二人は先程鍋を炊いていたゴブリン達に囲まれて何やら騒々しい。


 「……何かあったのか?」

 (……あ、リチャードさん……実は、ゴブリンさん達が、糧食について知りたがってたみたいで……)


 聞けばゴブリン達は、見つけた戦闘糧食を開封したはよいが中身が全く理解出来ず、全て一纏めに鍋の中に放り込んでいたらしい。


 (……それで、試しに幾つか中身の取り出し方と、食べ方とかを教えたら……)

 「あ~っ! 判った判ったっての!! 順番だよお前らっ!!」


 モルフの隣ではミリオが次々とゴブリン達が差し出す戦闘糧食を手にし、開けたり移し換えたりと大忙しである。


 「……まあ、楽しそうでなによりだなぁ」

 「リチャードさんっ! 他人事みたいに言わないでくださいよ!!」


 どうやら最初は一つの鍋にチョコやオートミールやミートパテまで入れていたらしく、食えりゃ同じだと気にせず頬張るゴブリン達に親切心で教え始めたら、結果的にそうなったらしい。だが、リチャードはそんな騒ぎを眺めながら何か閃いたらしく、


 「……なあ、モルフ。ゴブリン達に銃器や弾丸を見つけたら、糧食と交換しないかと言って貰えないか?」

 (……あ、そうですね! ……では、後で交渉してみます)


 別にリチャードはゴブリン達を恐れている訳でもない上、探し手が多い方が効率的に探索が進められると思ったのだ。そして鍋を囲むゴブリン達にモルフが話しかけると、彼等は興味深げに話を聞き、旨いものが食えるならとリチャードの提案を引き受けた。


 「これで少しははかどると良いな……」

 「そうですね、でもリチャードさん……その前に片付けないといけない事が起きそうです」


 リチャードの呟きに応じながらアンがMG4のグリップを握り、その銃口を自分達が辿って来た道の方へと向ける。その動きにゴブリン達もそちらを見ると、唐突に騒ぎ始めて一目散に廃墟の中へと駆け込んでしまう。


 「……誰か隠れているのか?」

 「ええ、先程の場所から尾行してきたのでしょう。敵かどうかは判りませんが」


 姿を確認出来ないリチャードがアンに尋ねると、アンは答える代わりに足元に落ちていた糧食の入っていた袋を蹴り飛ばす。その袋が廃墟の片隅に向かって飛んで行くと、空中で何かに貫かれて宙に浮く。


 【 ……妙な者達だとは思っていましたが、やはり相応に知恵は回るようですね 】


 糧食の袋の背後から聞き慣れない言語が飛び、その直後にローブを纏った五人の人影が姿を現した。だが、リチャードとアンは相手の言葉が判らない。しかし声で女性だと判ったリチャードは、モルフに通訳を任せる事にした。


 「モルフ、あの連中が何を言っているか判るかい」

 (……大陸共用語では無いみたいです……こちらに敵意が無いと伝えられると良いですが……)


 モルフは言語に長けた訳では無く、一種の念話と呼べる能力がある。だからゴブリンや他言語を使う種族と会話出来るのだが、


 (……私達は、迷宮の物資さえ入手出来れば、そちらの敵になるような事はしません)


 そう自らの意思を伝えてみる。無論、相手の思考が読める事は無いので向こうに意志疎通の思考が無ければ伝わらない。今回の相手は果たしてどうだろうか。


 「……変わった能力ですね、人間にしては珍しいです」


 相手はモルフの意図を汲み取ってくれたようで、大陸共用語を用いて返答してくれる。だが、その一言目は彼女の予想とは全く違う問い掛けだった。


 「……貴方達は人間……なのですか?」

 (……えっ?)


 その女達は被っていたフードを取って顔を露にするが、揃って整った端正な顔立ちと切れ長で美しい眼、そして金色の長い髪と長い耳は彼女等も人間と呼ぶには余りにも欠け離れていた。


 (……貴女達は、エルフでしょうか?)

 「ええ、ここから遠く離れた森の都からやって来ました。皆さんがエルフと呼ぶ種族に相違無いですが……そちらのお二方からは一切の魔素(オド)が感じられないのです」


 モルフに答えながらリチャードとアンを手の平で差し、困惑した表情を見せる。


 (……魔素(オド)……ですか?)

 「ええ、人間であれゴブリンであれ、多かれ少なかれ必ず魔素は必ず存在します。生き物の根幹を成す組成に含まれていて、それが無いと生き物は生命を維持出来ないのです」

 (……あの、そちらの女性……アンさんは、ゴーレムに近いらしいんですが……リチャードさんは、普通の人間の筈ですよ……)


 そう言って説明するモルフに、エルフのリーダーは諭すように丁寧な口調で繰り返す。


 「……そちらのリチャードさんですが、彼からは魔素が感じられません。ええ、勿論見た目は貴女と同じように見えますが……彼は本当にヒトなのですか?」


 そう繰り返すリーダーの言葉に残りの四人は警戒心を見せながら例の槍を構え、いつでも応じられるよう狙いを付ける。その仕草にモルフは、リチャードに聞こうか迷いながら説明する事に決めた。


 (……あの、そちらのエルフの皆さんは、リチャードさんが本当に人間なのか、疑っているようです……)

 「……やれやれ、アンさんはともかく、俺が人間じゃないって? 仕方ないな……」


 そう言いながらリチャードはゆっくりと腰に提げたナイフを抜き、エルフ達に見えるようにしながら手の甲に当てて少しだけ動かす。チッ、と鋭い痛みと共に赤い血が滲み、ポタリと雫になりながら地面へと落ちる。身体を傷付けてでも自分は人間なんだと態度で示したリチャードに、エルフ達は表情を強張らせるが、

 

 「……不思議なものです……貴方からは一切の魔素は感じられない筈なのに、その血からは確かに魔素の気配が感じられます。リチャードさん、と言いましたか? 貴方はヒトの姿でありながら、この世界の法則とは若干異なる存在なのでしょう」


 エルフのリーダーがそう言いながら片手を挙げると、他のエルフ達は槍を下げて構えを解いた。それが敵意の無い意思の現れだとモルフは理解し、ほっとした表情になりながら頭を下げた。


 (……ご理解頂けた事、感謝いたします……)

 「いえ、こちらこそ礼節を欠いた事をお詫びしましょう」


 ようやく和解に漕ぎ着けて安堵したモルフがリチャードに向かって振り向いて微笑みかけたが、その表情は彼の発言と共に凍り付く。


 「……モルフ、そのお嬢さん方にご忠告して貰えないか? こちらの交戦規約は《捕虜は捕らず捕虜にならない》ってね」


 言葉と共にそれまでの平穏な空気を一掃する手際でショットガンを構え、エルフ達の背後に向けて引き金を引いた。


 ドンッ、ガシャッ、と射撃と装填を繰り返す独特の動きでショットガンを三連射し、彼の周囲が音圧と衝撃波で三度みたび揺れ動く。小口径の銃とは圧倒的に違うショットガンの発砲音がエルフ達に戦場の空気を否応無しに伝え、その迫力はエルフの一人の腰を抜かしてへたり込ませてしまう程だった。


 「なっ!? 何を……したんですか……ホブゴブリン!? いつの間に!!」


 流石に腰は抜かさなかったものの、リーダーは若干震え気味の声でリチャードに詰め寄る。だが、彼の突然の狼藉が背後に忍び寄っていた大鬼(ホブゴブリン)に向けたものだと知った彼女は、直ぐに仲間へ戦う準備をするよう指示を飛ばす。リチャードはショットガンから三発目に排莢されたカートリッジが地に落ちると同時に、彼女の傍らを駆け抜けて滑り込むように膝立ちの姿勢になり、


 「……アンさん! ミリオ!! 左右に展開して扇状陣形! モルフは俺の後ろで援護待機!!」


 そう叫びながら撃ち放ったショットシェルを素早く装填する。


 (……説明は、後で……今は私達流の戦い方をお見せしますから、前線からお引きください……)


 リチャードの指示通りにモルフは動きつつ、エルフ達に下がるよう伝える。


 「しかし、相手はホブゴブリンですから、容易く倒せるような者ではありません!」

 (……私達は、相手の耐久力は存じませんが……見ていれば、判ります……)


 言われるままに退く事を躊躇いながらエルフのリーダーが訴えるが、モルフは膝立ちの姿勢でライフルを構えながら引き金に指を添える。そしてリチャードの牽制射撃に怯まず躍り出たホブゴブリンの一人目を狙い、指を引き絞る。


 モルフの放ったライフル弾でバシャッ、という音と共に先頭のホブゴブリンの頭部が砕け散り、下顎のみ首の上に残した身体が揺れて前屈みに倒れる。だがその背中を鱗状鎧(スケルアーマー)越しに踏みつけ、後続のホブゴブリンが武骨な剣を振り翳しながら突進する。


 「仲間が撃たれても怯まんな……流石に勇猛果敢な連中って訳か」


 だが、そんな修羅場にもかかわらずリチャードは悠然とショットガンを構え、次々と現れるホブゴブリンを眺めている。そして大きな歩幅を活かして一気に距離を詰めた二人目のホブゴブリンが肉薄し、リチャードの身体を一刀両断にしようと分厚い刀身を横凪ぎに構える。


 「……剣ってのは、確かに威力は有るんだろうが……間合いに入らなきゃ斬れないだろ?」


 そして、リチャードがそう呟いた瞬間。


 【 ……ミリオ、射角にリチャードさんを入れないでください 】

 【 はいはい、判ってるって! 】


 ヘッドホン越しにアンとミリオの会話が交差し、間髪入れず左右から正確無比な銃弾の旋風が彼の前を通り抜ける。そしてホブゴブリンの着ている鎧を無差別に貫き、強靭で厚い筋肉や骨をベニヤ板のように撃ち砕いていく。


 「……がっ!? あぐぁ……」

 「痛いか? ……心配するな、直ぐ楽にしてやる」


 目の前で蜂の巣になったホブゴブリンをなだめるようにリチャードが呟き、ガランと音を立てながら握っていた剣を落とす相手の額にショットガンの銃口を押し当てる。


 ドンッ、と重苦しい音と共に放たれたスラグ弾がホブゴブリンの頭を砕く。そして糸の切れた人形のように真横に倒れる相手の背後にリチャードは狙いを定め、三人が放つ制圧射撃から漏れたホブゴブリンに無慈悲な鉛玉を送り込んだ。





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