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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
三章

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③難民



 「……グールが火を使うかな」

 「まず有り得ないと思います」


 遮蔽物から飛び出す直前にリチャードがアンに訊ね、彼女が答えるとだろうな、と言いながら次の遮蔽物へと素早く走る。そのリチャードの背後からアンが射線を動かして構え、彼が飛び込むまで支援する。派手に発砲しない分、言葉を交わしつつ一瞬の隙を衝くような無駄の無い動作を繰り返し、二人は着実に目標地点へと近付いていく。


 「……探索者の可能性は?」

 「彼等は迷宮で火を使いません」


 残り僅かな距離まで詰めたリチャードとアンは、薄い煙が昇る建物の隣まで近付いていた。一触即発の近さだったが、二人に緊張感は無かった。


 「……子供か? いや違うな」

 「……たぶん、小鬼ゴブリンの類いだと思います」


 二人の視線の先には、数人の緑色の肌をもった小柄な人間が鍋を囲み、何かを入れて煮込んでいた。その鍋から蒸気と煙が漂い、空に向かって伸びていたのだ。


 【 ……狙撃ポイントに着きましたが……撃つ必要はないみたいですね 】


 モルフの無線がリチャードに届くが、彼女にも戦闘時のピリピリとした雰囲気は無い。モルフも過去にそのゴブリン達と遭遇した経験は有るが、見た目の不気味さに反し彼等は大概敵意は無く、こちら側が襲い掛からなければ害の無い連中だと知っているからだろう。


 「……何だか肩透かしだなぁ」


 ショットガンを構えるのを止め、リチャードはそう言いながらモルフに合流するよう指示を出す。


 「言葉が判れば平和な連中だし、無駄な弾は使わない方が有り難いしな」


 リチャードがアンにそう言うと彼女も同意し、銃口を下げて警戒する意図が無い事を示した。



 「……で、こいつらは何て言ってるんだ?」


 リチャードがモルフに尋ねると、彼女は小さな声で自分と同じ背丈の小鬼(ゴブリン)と肩を並べながら話し、


 (……あの、行くあてが無くてここに辿り着いたから、出来れば居させて欲しいって……言ってます)


 そう彼女が語るとゴブリン達は一様に頷き、ギャキギャキと耳障りな声で何かを訴えるように叫んだ。


 (……あと、おっかない大きな奴が沢山来て、あんたらみたいなのと戦ったけど、追い払われたって、言ってます)

 「うーん、おっかない奴らってのは……?」

 (……はい、はい……自分より大きな奴らだって……)

 「大きな? ……見た目だけじゃ判らんな」

 (……で、あんたらみたいな奴らってのは、銃を持ってたんだと思います)

 「……銃? そりゃ面倒だな……」


 今まで遭遇した事の無い者の登場に、リチャードは表情を曇らせる。今までの相手は剣を振り回す連中ばかりだったが、本当に銃を扱える者だと事情はかなり違ってくる。不規則遭遇の際、突如銃撃戦になるかもしれないのだ。更に言えば、銃を扱える者が他に居るという事はこちら側の戦法が通じないかもしれない。


 「アンさんのご同類って可能性は?」

 「同じ規格で製造された場合、フレンドリーファイヤを防止する為、互いの位置をマーカーで表示する機能が有ります」

 「つまり?」

 「お互いの居る場所は近ければ判ります。今は全く感じません」

 「なら、その可能性は低そうだな」


 リチャードはそれ以上詳細は聞かず、モルフを介してゴブリン達に接敵場所を訊ねると、彼等は近付きたくないからと前置きした上であの辺りだと指差す。


 「行って見て直ぐ戻るから、モルフとミリオはゴブリン達と一緒に居てくれ」

 「え~? こんな連中のお守りしなきゃならないの!?」

 「そう邪険に扱うなよ、友好的な奴ならそれなりの対応しとけって」


 浮かない顔のミリオに言い含めてから、リチャードはアンと共に再び偵察に向かう。さっさと物資を集めたいが、少しでも情報が多い方が良いのだ。



 ゴブリン達が戦いを見た現場に到着したリチャードは、その状況を理解するまで若干の時間を要した。


 先ず、大柄なリチャードより更に身体の大きい巨体が五つ、既に絶命して地に転がっていた。用心深く近付きながらリチャードがショットガンの先で身体を突っついてみるが、事切れているから微動だにしない。


 「……確かに死んでるな」

 「そうですね、それにしても銃で撃った筈なのに、硝煙反応が有りません」


 靴の爪先で頭を軽く小突きながらリチャードがそう言うと、アンが地面に手を触れながら彼の顔を見上げて報告する。


 「……硝煙反応が無い?」

 「はい、この場所で発砲が行われたにせよ、周辺に硝煙反応はみられません。結論から言えば、この死体は銃以外の何かを使って殺傷されたのでしょう」


 アンの言葉にリチャードは改めて死体を眺め、彼女の言う通りなら何を使って殺されたのか考えてみる。


 一見すると銃で撃たれたようにしか見えず、射出された何かが肉体を穿ち内部を貫通したとしか思えない。頭を撃たれた亜人は正面から撃たれたのか、小さな穴の空いた入り口と派手に開いた出口の直進方向の二ヶ所に穴が有る。


 「……銃弾が何処かにある筈だが……」


 死体の向こう側を見てみてもそれらしい痕跡は無く、やはりアンの指摘通り銃を使った訳では無いようだ。だが、どうにも腑に落ちない。


 「うーん、これだけの戦闘で全弾外さずに撃ったのか? そうなると相当な使い手だった事になるが……」

 「リチャードさん、ちょっと来てください」


 死体を眺めながら思案するリチャードだったが、アンに呼ばれて彼女の傍に近寄ると、


 「……この周辺だけ、周囲より冷えています」


 そう言ってアンが指差す先の地面は、何かが撃ち込まれたからか小さな穴が開き、僅かに盛り上がっている。その中に何か残されていないかとリチャードはナイフを挿し込み、刃零はこぼれしないよう慎重に掘り返してみる。だが、やはりその中には何も埋まっていなかった。


 「……骨折り損だな、何も無いか」

 「いえ、そうとも言い切れないですよ」

 「……えっ?」

 「……正確な事は判りませんが、何者かが我々の扱う銃とは違う原理で殺傷したかもしれません。例えば氷の粒を撃ち出せば、弾丸は現場に残りません」

 「氷の弾ね……でもそんな物だと撃った際の熱で溶けてしまわないか?」

 「火薬を用いた射出武器ならば、氷は使えません。しかし、モルフさんのように物の構成そのものを変える能力が有れば、実現性は高いでしょう」

 アンの説明を聞いてリチャードは納得したが、それは今まで考えてこなかった狙撃される可能性を含んでいる為、急に恐ろしさを感じて首をすくませる。


 「もし、相手が我々を狙うにせよ、氷の弾では射程距離は短いでしょう。撃ち合いになればこちらの方が有利だと思います」

 「そうならいいけど、ボディーアーマーを貫通する威力じゃない事を祈っとくよ」


 アンの言葉にリチャードがそう答えると、彼女は気を付けましょうと言いながら先に立って歩き始める。だが、アンの耳は姿の見えない誰かの呼吸音を捉えていた。


 (……用心深いですね、こちらの間合いには入って来ない。勘が鋭いのか、それとも銃の事を熟知しているからか判りませんが……)


 アンはそう思ったものの、リチャードには何も告げずにそこから立ち去った。




 二人がその場を立ち去った後、アンが察知した方向の建物の壁がじわりと滲むように揺らぎ、その靄のような空間から五人の女性が姿を現す。全員同じ暗褐色のフード付きローブを纏い、丈の長いブーツを履いている。


 「二人のうちの一人には気付かれていましたね……」

 「目が良いのか、それとも勘が異常に働く奴でしょう。どちらにせよ、警戒しなければいけません」


 その女達は口々にそう言い交わしながら、手に持っていた槍の穂先をポーチから取り出した新たな物と交換する。差し込む形状のそれは一見すると円筒形の短い物だったが、良く見ればそれは槍の穂先にしては先端の鋭利さに欠け、槍の長さも各々の体格に合わせて変えられていた。


 「試験運用は上々と言えますが、まだ練度の低さは否めません。武器として扱うには慣れも必要ですが、それ以上に連発出来ない点等、まだ改良の余地はあるでしょう」


 先頭のリーダーらしき人物がフードを降ろしながらそう言うと、長い金色の髪の毛がはらりと襟元から垂れ、同時に長く伸びた耳が現れる。


 「……士族長が命じるように武力の増強も必要でしょうが……【迷宮】を閉じる事を優先すべきでは?」

 「皆、そう思っている。だが森の直ぐ傍まで魔物共が寄ってきている今は……いや、ともかくあの二人を追いましょう」


 リーダーの女性がそう言いながら手を挙げると、残りの四人は口々に詠唱を発して姿を消す。同じようにリーダーも自らの姿を隠すと、足跡の残る砂地を避けて下草の上を風のように走り抜けていった。




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