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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
三章

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①新たな拠点探し



 明るい室内のベッドに横たわったワイルズは、今まで一度も挑戦した事の無い子供用衣類を少しづつ縫い貯めしていた。軍に所属しベリテに仕えていた時期も長く、その初め頃から制服の修繕で裁縫を覚えたのだが、今の彼女が扱っている服は信じられない程小さい。ニット編みで作る靴下など指二本程の幅と丈しか無く、作った本人ですら本当に着られるのか心配になってしまう。


 しかし、そんな疑問が霧散する程にお腹の中の子供は順調に育っていた。



 「……赤ちゃんの心音は規則的ですし、特に異常は無いと思います」


 無表情のままワイルズの腹部に手を当てていたアンがそう言うと、彼女はニコリと笑いながら上掛けを元の位置に戻した。


 「……本当にお世話になりっぱなしで申し訳ありません……」

 「リチャードさんはああいう方ですから、身重のご婦人を見放すような事はしませんよ?」

 「ええ、それは良く判ってます。でも、何かお役に立てるならその方が……」

 「残念ながら、妊婦の貴女に任せられるような仕事は特に有りませんね。だから今はお子さんを無事に出産出来るよう、気を付けて頂ければそれだけで十分です」


 定期的にお腹の子供の様子を診ているアンだったが、ワイルズは毎回同じように恐縮し、そしてアンにやんわりとたしなめられている。決まりきった遣り取りだったが、それがワイルズなりの誠意の見せ方なのだろうとアンは受け取っていた。



 身重のワイルズが安定期に入るまで、リチャード達は拠点の移動を先延ばしにしてきた。そして、アンの見立てで流産の心配はほぼ無いだろうとなった今、本格的に新たな拠点を探す事になった。しかし、今の所は特に目立つ候補地が無い為、ジルデアンタ村の周りでも良いかとリチャードは考えていた。


 「……その方が利便性は良いと思うし、交易所のマーシュが居る限り、余計な手間を取らずに補給も出来るからね」

 「確かに、合理的だと思います」

 「……ん? 何か気になるのかい」


 彼の提案にアンも同意するが、何か気に懸かるような言い方にリチャードが尋ねると、


 「……マーシュさんは、リチャードさんを大層気に入っているご様子ですから……宜しいのではないでしょうか」

 「あー、そういう意味か……」


 流石に鈍いリチャードといえど、彼女が嫉妬していると判りはしたが、かといって積極的に介入するつもりもない。どちらか一方を取れと強制されている訳でも無いのに、わざわざ自分から火種を燃え上がらせても仕方ないのだ。


 「……あのね、アンさん」

 「はい、リチャードさん」

 「……君は、とても優秀なパートナーだよ」

 「……有り難う御座います」

 「だからね、急に君を捨て置いてマーシュさんと一緒になるとか有り得ないからね?」

 「……そうでしょうか?」


 ああ、面倒だなと内心で思いつつ、リチャードは如何にアンが自分達を取り巻く環境維持に必要か熱弁した。


 「君は何かの代わりではなく、君自身が我々に本当に必要なんだ。それは判ってくれるよね?」

 「ええ、理解しています」

 「……本当に?」

 「……では、行動で示してください」


 む、そうきたかとリチャードは暫し考える。ここは拠点内でもそれなりに隔離された個室である。いつも自分の銃のメンテナンスをしたり睡眠を取ったりする、そんな私的な空間である。つまり、多少大胆な事をしても誰かに咎められたりはしない空間なのだ。


 「……あっ……はぁ……」


 彼はおもむろに、アンを抱き締めてみる。すると彼女はアンドロイドとは思えないひそやかな声で呻き、吐息を漏らした。


 「……リチャードさん、これは……抱擁でしょうか……」

 「そうだよ、君が必要だから……」

 「……どちらとも受け取れる言い方ですね」

 「あのねぇ……」

 「……冗談です、でも……貴方の温かみが感じられます」


 部屋の真ん中でリチャードがアンを抱き締めると、彼女はそう言いながらゆっくりと眼を閉じる。


 「……貴方の心音も、脈拍も全て全身で感じられます。これはとても……心地好いです」


 再び眼を開きながらアンはそう言うと、彼の身体を抱き返す。無論、全身を強固な合金と強化筋肉で覆い尽くしたアンの抱擁はややパワー超過だったらしく、


 「うっ!? ち、ちょっと強過ぎるのでは……」

 

 眼を白黒させながらリチャードが本気で呻き、アンは微笑みながらそんな彼を自分の身体から解放した。




 「……そんな事があったんですか。だから、そのアザがついたんですね……」

 「ああ、お陰で背骨が軋む音を久々に聞いたって訳さ……」


 机の椅子に座りながら話を聞いていたベリテが彼の首筋に眼を向けると、リチャードは頭を振りながらそう答える。


 アンから解放されたリチャードはベリテの所へ行き、事の顛末を話しながら彼の作業を眺めていた。


 ベリテは自分にも何か出来ないかと助言を乞い、アンはその気があるならと彼に銃のメンテナンスと改造の仕方を教えた。いわゆる【ガンスミス】と呼ばれるカスタマイズの技術をレクチャーされたベリテは、案外向いていたのか要領よく覚えてリチャードを驚かせた。


 「でも、ジルデアンタ村か……元デルベトポリの者として、周辺に居座っても平気なのかな」

 「それは大丈夫だろう。何せベリテさんは俺より多く交易所に行って貰ってるし、村の連中も近くに住む程度は気にしないさ」


 そう気楽に答えるリチャードだったが、ベリテはならいいんだがと言いながら拳銃のネジを回して上部のスライドを外し、銃身を取り替えて元に戻した。


 「随分と長いマズル(銃身の先端)だなぁ」

 「……モルフさんに頼まれて、跳ね上がりを抑えるつもりでバランスを変えたんだ。マズルブレーキは短いから期待出来ないが、それでもかなり狙い易くなったと思う」


 そう言ってリチャードにその拳銃を手渡すと、彼の手の中に収まったそれは中心に重さが纏まり確かに狙い易そうだった。


 「……うん、なかなか良さそうだ」


 両手で保持しながら壁に掛けられた標的の紙に向け、照準の中心で中央の点を狙い引き金に指を掛ける。だが、勿論発砲はせずそのまま拳銃はクルリと手の中で向きを変え、ベリテの元に戻される。


 「引っ越しが決まったら、手伝わせて貰いたい」

 「うーん、それはワイルズさん次第かな……予定日はまだ先だろうけど、何か有った時の為に一緒に居て貰いたいしね」

 「……判った、ありがとう」


 拳銃を受け取りながらベリテはリチャードにそう話し、返答を聞いた彼は拳銃をケースに仕舞いながら頭を下げた。



 結局、新しい拠点は村の人手を借りて建造される事になり、開墾した土地に丸太組みの平屋が建てられた。勿論、土地の整備にはチェーンソーやショベルカーが使われたのだが、何も知らない村人達は積み上げられた丸太の山と綺麗に切断された断面を見て、リチャードが木こりだったのかと誤解したのは仕方ないだろう。


 「……本当に手伝わなくても大丈夫で?」

 「ああ、後は自分達で出来るから心配に及びませんよ」


 大量の丸太で材料に事欠かないせいで建造は直ぐに済み、まだやる事は無いかと気遣う村人をリチャードは帰らせた。出来れば資材や銃器を運び込むのは見せたくないし、更に言えば余計な詮索をされたくもなかった。


 「……ミリオ、日が落ちたら暗視ゴーグルを着けて運び込もう」

 「慎重だねぇ……でも、まあ仕方ないか」


 彼等を見送ったリチャードはミリオにそう告げ、拠点に残してきた物資を重機を使い移送した。何日かに分けて旧拠点から新たな拠点に様々な物を動かし、全ての物資と発電機を運び出した後、リチャードは旧拠点の入り口を塞いで別れを告げた。




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