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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
二章

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幕間・01



 交渉という名の脅迫を済ませた二人は、自分達の拠点を目指してベルデトポリの土地を歩いていた。その道すがら、なだらかな勾配の丘を越え、視界の隅まで続く畑の連なりを眺めながらリチャードは隣を歩くアンに向かって尋ねてみる。


 「……ねぇ、アンさん。あのドローンに人は乗れないのかい?」


 彼の視線の先には先刻の襲撃に用いられた大型ドローンが飛翔し、予めプログラムされている帰投地を目指して次第に小さくなっていく姿があった。


 「いえ、無理です」

 「……でもあれだけの武装と弾薬が積めるんだろう?」


 即答するアンに身も蓋もないなと思いつつ、それでも諦め悪くリチャードは食い下がるが、


 「……良いですか、リチャードさん。あのドローンの積載量(ペイロード)は非常に限られています。人間が乗るスペースどころか、予備バッテリーすら搭載出来ない欠陥品だと先程お伝えしたと思いますが」


 アンにきっぱりと断られ、リチャードはやっぱりそうかと諦めるしかなかった。


 「うーむ、これからの道のりを考えたら乗れた方が楽なんだがな」

 「確かにそうかもしれませんが、私はこうして二人で歩ける事が……」

 「……事が? って、何かあるのかい」


 彼の言葉に答えようとするアンだったが、彼女の返答は途切れて曖昧になり、リチャードはつい問い直してしまう。


 「……リチャードさん、貴方こそ私とこうして歩いている時間が貴重だとは思わないのですか?」

 「うん、そうか……そうだな」


 リチャードはアンにそう促され、この穏やかな時間をもう少し満喫するのも悪くない、そう思う事にした。元居た世界から移り、今日この日まで様々な出来事に遭遇し、あっという間に過ごしてきたが、良く考えると平穏な時間など寝ている時しかなかったのだ。


 「……じゃあ、ゆっくり帰るとするか」

 「……ええ!」


 言葉と共にさりげなく差し出された手を握り返しながら、アンは満面の笑みを浮かべる。その表情に曇りは一切見当たらず、リチャードは人ならざるアンながら実に良い笑顔だと思った。




 「……つまり、在庫していた貴重な弾薬は全て使い果たしてたって訳か……」


 それから数日後、リチャードは一転し表情を曇らせていた。事の次第は実に明確で、デルベトポリ遠征時にドローンが搭載していた銃弾は、今まで貯めてきた中でも特に貴重な種類の軟芯破砕弾で、誰も再現出来ない特殊な弾頭だったのである。


 「うーん、他にも12,7ミリ弾はほぼ空で、新たに手に入れないと暫くは何も出来ないか……」


 書面に纏められた資料に眼を通したリチャードはそう言って椅子の上で上体を伸ばし、地下拠点の天井を眺める。


 彼等が居る地下施設以外の地上建築物はあらかた消え去り、入り口を偽装していた廃バスも消滅した今は、何とか岩の割れ目から出入りしている状態である。もし誰かに見つかれば直ぐ判るような場所に居続けるのは危険だが、他に良い拠点が無いのがもどかしい。しかも、二度に渡る対抗戦で消耗した弾薬はまだ補充もままならず、モルフが作り補充出来た銃弾も四人分と少しだけ。現状は自治と独立権限を勝ち得たのはデルベトポリだけであり、まだまだ彼等が自由に行動出来る場所は限られていた。


 「……仕方ない、ここはやはり手離して新たな場所に拠点を作るしかないな」


 地上の迷宮を失ったリチャード達は、この場所に留まり続ける意味は無かった。だが、まだ身重で動けないワイルズと夫のベリテの二人が居る今、彼等を残して行くのも流石にはばかられる。


 「……暫く、物資集めに専念だな。迷宮を見つけても出来る限り衝突は避けるか……」


 リチャードの言葉にアンは頷き、ドローンで最近見つけた幾つかの迷宮を記した書類を手渡した。




 【迷宮】は無機質な建築物の集合体に過ぎず、そこに巣くう者の大半は死にながら動く連中ばかり。だが、もし【迷宮】に意思が有るならば、明らかに他者を招き寄せようとするかの如く物資を内包している。その多くは多大な富や利益を与えるが、その代償として命を落とす危険性が常に存在する。



 【 ……こちらリチャード、今回は時間と勝負だ。出来る限り衝突は避け、物資の回収に専念してくれ…… 】


 イヤーパッドに装着されたマイクを介し、無線で各自に指示を飛ばす。使い慣れたポンプアクションショットガンを構えつつ、廃墟の町を歩く。


 「時間と勝負とは、貴方らしくない言い方ですね」

 「……んー、確かにそうかもしれんが……万が一、迷宮が消失するのに巻き込まれたらどうなるか判らんからなぁ」

 「でも、まだ消失するまでの予兆は見当たりませんし、可能性は低いと思いますが」


 彼にしては随分と慎重な言い回しに、コンビを組むアンはやんわりと否定する。


 「そうかもしれんし、違うかもしれん。ただ俺は、不確定要素は出来るだけ避けたいだけさ」

 「……もしかしたら、元の世界に帰れるかもしれませんよ?」


 そんなアンの嘘か本気か判らない言葉に、リチャードは真面目に返答する。


 「……それは避けたいね。きっと俺の身体は元の世界に戻ったら……粉々に砕け散ってるからな」

 「それは有り得ますね、しかも同じ世界に戻れる保証も有りませんし」

 「……だろう? だから……おっ、こりゃ何だろう」


 話の途中でリチャードは廃墟の片隅に注目し、木箱の上に置かれた弾薬箱の留め金を指先で弾くように上げる。するとバチッ、と固い金属が跳ねる音と共に留め金が外れ、箱の蓋が開く。


 「……9ミリと5,56ミリか。悪くないな」


 ジャラリと真鍮製の薬莢と弾頭が組み合わされた銃弾を鳴らしながら、リチャードは手に取って中身を確認する。


 「ホローポイントとFMJフルメタルジャケットですね。多くても困らない弾種ですから持ち帰りましょう」


 アンも彼の横から身を乗り出して手を伸ばし、鑑定を終えると銃弾を手早く纏めて自分の背負っていたリュックの中に押し込んでいく。


 「……後は通信用のブースターや発電機が見つかれば、次の拠点作りも楽になりますね」


 銃弾で結構な重さになったリュックを背負い、アンはそう言いながら立ち上がる。


 「……なぁ、アンさん。ワイルズさんの子は男かな、それとも女かな」

 「……さあ、それはまだ判りません。超音波(エコー)測定器が有れば画像を解析して男女どちらかが判りますが」

 「いや、そういう訳じゃないんだが……」

 「じゃあ、どういう訳なんですか?」


 付近に動く物も見当たらない状況もあり、リチャードとアンはそんな他愛ない話を続ける。無論、リチャードは本気でベリテとワイルズの子供が男女どちらか知りたかった訳ではないが、何故かアンは食い下がる。


 「……でも、女の子だったらワイルズさんに似そうだな」

 「では、私は男の子が生まれる方に賭けましょう」

 「ふむ? ……じゃあ、俺は女の子の方にするか」


 二人はそう言いながら路地を抜けて通りに出ると、向こう側から近付いてくるモルフとミリオの二人と合流する。


 「……はぁ? なら、そうだなぁ……俺も女の子かなぁ……」

 (……ミリオ、根拠が無さ過ぎです……それに、男の子でも可愛いかもしれませんし……)

 「いーや、女の子の方が可愛いに決まってる!」

 (……だから、根拠が無いでしょう……)


 四人で一列に並び、そんな事を言いつつ廃墟の中を進む。銃を構え、不規則戦闘に備えながら慎重に進む筈なのに、何故か平凡で穏やかな雰囲気に包まれながら……。





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