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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
二章

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⑱致命傷



 「……リチャード・ハイマンっ!!」


 それまで重火器を構えながら二人の状況を見守っていたアンだったが、彼が斬られた瞬間、即座に武装を身体から離すと叫びながら走り寄った。そして【忍耐の甲冑】を纏った騎士が倒れると、噴水広場に集結していたデルベトポリの兵士達に動揺が広がっていく。無論、リチャード達を取り囲んでいた兵士の中には敵討ちを狙い剣を抜く者も居たが、モルフの放つ牽制射撃に撃ち抜かれる。


 「リチャードさん……直ぐに気道を確保します。ミリオさんは、現場の安全確保を。モルフさんは、そのまま牽制を続けてください」


 アンは彼を抱えながら的確に指示を出すと、周囲の兵士には目もくれずリチャードの口に顔を近付け、自分の口を重ねて血を何度も吸い出す。


 「……私の声が聞こえますか」


 口からリチャードの血を滴らせつつ、アンは彼に声を掛ける。リチャードは答える代わりに弱々しく頷くと、アンは腰のポーチから注射器を取り出して先端の封印を指先で取り、


 「これはモルヒネです。痛みを和らげますから、気を楽にしてください」


 言葉と共に、リチャードの上腕にコートの上から針を刺してモルヒネを打つ。続けて二本、彼の知らない薬品を同じように打ち終わるとモルヒネが効き始めたのか、リチャードはアンの言葉の意味が、良く理解出来なかった。


 「……野戦手術を開始します。薬品と治療キットが尽きない限り、()()()()()()()()()()()()()()


 そう言うと同時に右腕の外装を引き抜き、手術用精密作業用アームのパッケージを破り捨てて交換を済ませる。そして、そのままリチャードの外科手術を始めたのだが、その動きは余りにも速過ぎて、眼で追う事は不可能だった。


 「先ず、壊死した胸部筋組織と肋骨の破片を除去し、血管を縫合しつつバイパス処置を行います。血圧上昇剤を投与しながら手術しますので、一時的に出血が増えますが、ご心配なさらずに」


 無数の精密作業用マニピュレーターを展開し、切開と縫合手術を同時に行いながら、彼女はそう説明する。だが、彼はアンの言葉を聞いても余り良い気分にはならなかった。彼女は精緻な手術を、埃が舞う中デルベトポリの兵士の目の前でしているのだ。しかも彼の世界で手術と言えば、平均で五分五分以下の成功率にも届かない上に時間も掛かるのが常識だった。それに輸血は一体どうやってするつもりか……と、肝心要な事を考えながら、リチャードの意識は途切れた。




 「……あ、眼を覚ましたぞ」


 自分の顔を覗き込むミリオの声で瞬きを止め、リチャードはベッドの上で身を起こした。どうやら手術後、地下施設の部屋まで運ばれたのだろう。


 (……リチャードさん、何か食べますか?)

 「いや、まだ腹は空いてない……と言うか、そんなに早く飯なんて食える筈が……?」


 モルフが彼を気遣うと、リチャードは胸に穴が空いたばかりで、と身体の痛みを意識してみるが、何も感じない。


 「いや、でも確かに奴の剣が俺の身体に……ほら、穴も開いた跡が……って、塞がってるだと!?」


 服を開いて突き刺さった剣が抜けた箇所を見てみると、そこに有る筈の傷は確かに存在していたが、治癒が進み新しい皮膚が覆った傷跡は、只のベージュ色の菱形でしかなかった。


 「なあ、モルフさん! 俺は何ヵ月も寝ていたんだろ!?」

 (……いえ、決闘したのは、昨日ですが……)

 「はぁ? じゃ、じゃあ……俺はたったの一晩で治っちまったのか!?」


 余りにも突拍子無い話にリチャードは困惑し通しだが、右腕の傷も綺麗に縫合されていて、胸の傷同様に治癒していた。流石に切り傷が一晩寝れば塞がる訳も無く、アンが何か特殊な治療を施したに違いない。きっとそうだ。


 「おはようございます、リチャードさん。傷は治ったようですね」


 と、彼が目覚めた気配を察したようにアンが部屋の中に入ってくる。いつもの野戦服姿の彼女に変わりは無いが、リチャードは何処かいつもと違うような気がしてならない。


 「モルフさん、ベリテさん達にお話があるので、御知らせして先に食堂で待っていてください。ミリオさん、リチャードさんと混み入った話がしたいのでお察しください」

 (……判りました、ぷふっ……)

 「……あー、はいはい! 判りましたって!!」


 小刻みに肩を揺らすモルフと、お邪魔虫扱いされたミリオが部屋から出ていく。



 「……さて、リチャードさん。幾つか、ご確認しておきますが……」


 彼の横たわるベッドの傍らに椅子を置いて腰掛けると、アンは丁寧な口調で話し始める。


 「痛みはありませんか?」

 「ああ、お陰様で全く無いよ。で、一体俺の身に何をしたんだ?」

 「それは良かったですね。先ず【忍耐の甲冑】を纏った騎士は、亡き骸と鎧をデルベトポリの兵士に引き取って頂きました」

 「ああ、判った。ちょっと鎧は惜しかったが仕方ないな。で、俺の身体に何をしたんだ?」


 「兵士達は素直に従って貰えました。きっと、リチャードさんの獅子奮迅な戦い振りに、畏怖を覚えたのでしょう」

 「ねえ、アンさん聞いてる?」

 「はい、良く聞こえていますよ。肺の穴も塞がってますね」

 「……やっぱり穴が空いてたのか。でも激しく出血もしていたし、良く死ななかったな……」

 「出血ですか? リチャードさんの血液は、全て濾過し体内に戻しました」


 「……濾過? いや一体どうやって……あ!!」


 リチャードは、アンの話を聞いている内に、その仕組みを理解した。自分の唇にヒルのようにぴったりと重なったアンの唇、そして身体に突き刺さった何本もの針と、彼女の機械仕掛けとは思えない身体の温もり。つまり、出血は全て彼女の身体の中で濾過され、再び彼の身体の中に戻されていたのだ。


 「……私は、言いましたよね。貴方を、絶対に死なせません、と」


 機械仕掛けの擬似人間のアンの言葉は、喉の奥のスピーカーを介して発声している。その言葉に感情的な意味は含まれていない、その筈である。


 「……私は、少し壊れてしまっているようです。だから、本来なら保安対象に含まれていない、リチャードさんをこうして……助けて、いるのです」

 「ああ、それは感謝しているよ。で、どうやって傷口を治したんだ?」


 「きっと、私は壊れたんだと思います。リチャードさんの事を考えると、思考回路プログラムが堂々巡りし始めるので」


 相変わらず、話は噛み合わないアンとリチャードだっが、彼は諦める事にした。彼女の言葉を信じるなら、きっとアンはリチャードに害を成す事は無いのだから。


 「……これも、きっと機械の神の思し召しでしょう」


 彼女の最後の言葉を聞いたリチャードは、ちょっと自信がぐらついた。




蛇足ですがタイトルの致命傷は、アンの思考回路に起きた事象も意味しています。

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