⑭銃と剣の戦い
「……凄ぇな、これ全部無人なのかよ……」
「……何てぇ所なんだよ、全く……」
デルベトポリの兵士達は噂に聞いた巨塔の連なる廃墟に足を停め、暫しその異様な光景に眼を奪われていた。だが、
「足を止めるな! ここは死の蔓延る魔窟である!! 油断して不名誉な死を選びたいか!」
【忍耐の甲冑】に身を包んだ騎士に一喝されると、頭を下げて黙々と歩き始める。しかし、先の派遣兵から八十人余りの犠牲が出たのは周知の事実だが、一部の兵士達の間では無策に人員を投入した支配者層のせいだと囁かれていた。
「……聞けば死者の大半はバラバラになっててよ、亡き骸も拾えなかったって言うじゃねぇか……」
「……千人居れば問題無いだと? じゃあ、お偉方が先陣切って行けばいいだろうに……」
ヒラリエとの戦争で出世を逃した兵士達は、この探索と討伐を兼ねた派兵を不満げに言い合いながら、せめて自分だけは助かりたいと心の内で呟いていた。だからこそ、最初の接敵は余りにも悲惨なものだった。
【 こちらリチャード、始めるぞ…… 】
インカム越しに彼の声が伝わると同時に、無慈悲な散弾の嵐が先頭を進む兵士達の頭上から降り注ぎ、鎧を着けていない手足から血を噴きながら次々と倒れていく。
「で、出たぞっ!!」
「敵は何処だっ!?」
遮蔽物に乏しい大通りを進んでいた先遣隊がバタバタと撃ち倒され、散弾を浴びなかった兵士が盾を掲げながら後退しようとするが、
「へっ、足元がお留守だぜ……?」
六十連装のドラムマガジンを装填した短機関銃を構え、膝立ちの姿勢で呟きながらミリオが瓦礫の陰から引き金を引く。パパパパパパッ、と軽快な音と共に低い位置から発射された弾丸は、兵士達の腿やふくらはぎを撃ち抜き、被弾した者は苦悶の表情と共に悲鳴を上げた。
「あああぁ!! 俺の足があぁっ!!」
「くそぉ……何でこんな目に……っ!!」
集団の外縁に居た兵士が撃たれ、被弾を免れた者が彼等を引きずって前線から離そうと手を貸せば、その箇所に綻びが生じる。そうして崩壊した前線の隙間を縫うように、リチャードがショットガンを構えながら突進する。
「なっ、何だこいつ!?」
「敵だっ!! 切り殺せ!!」
仲間を救おうとしていた兵士達が慌てて剣を構えようとするが、
「乱戦で振り回すつもりか? 精々気を付けなよ」
単騎の有利を生かし、彼は散弾を連射しながら新たな犠牲者を増やし、銃身に着けたバヨネットで兵士を突き刺すと、引き抜く勢いをそのままストックに載せて、反対側から迫る相手の顔面に叩き付ける。
「そーら、プレゼントだぜ?」
周囲の敵が怯んだ隙にコートの中から手投げ弾を取り出すと、ピンを歯で噛みながら引き抜いて目の前に投げる。地面に落ちると同時に強烈な破裂音と光が発生し、付近に居た兵士の大半は音と光で我を失ってしまう。だが、リチャードはイヤーパットを装着している為、音の影響は殆ど受けず、
「実に便利な代物だな、爆破の音だけ遮断するなんてね……」
そう言いながら悠々とショットガンに弾を込め、完了と同時に特徴的な動きで初弾を装填すると、再び散弾で掃射し始める。そうして彼は幾度か掃射と装填を繰り返し、大通りに展開していた兵士達の大半を戦闘不能へと追い込んでしまった。
【 ……リチャードさんに伝えてくれ! 通りの向こうから新手が来る! 】
【 ……リチャードさん、西から新手が来ます……直ぐ撤退してください…… 】
ミリオがモルフにインカム越しに叫ぶと、彼女はリチャードにその情報を伝達する。
【 判った、ミリオに牽制射しながら下がれと伝えてくれ 】
【 ……判りました…… 】
こうして二人が連携しながら大通りから下がる間、モルフは高所の狙撃ポジションから状況を随時報告しつつ、ミリオとリチャードの撤退を支援する為に単独で突出している兵士の肩や足を撃ち抜き、デルベトポリの侵攻を阻止していく。
【 リチャードさん、予定の位置に来ました 】
「ああ、判った。それじゃ第二段階といくか」
アンの報告を受け、退くミリオを先に進ませながら再び手投げ弾を取り出すとピンを抜いた。
「鬼ごっこも楽しいが、もっと面白い事して遊ぼうぜ?」
そして追い縋る兵士達に向かって投げ付けると、彼等は警戒して盾を構えながら後退する。だが、それは派手な音や光を出さず、ただシューシューと煙を出すばかりである。
「馬鹿にしやがって……何なんだよこれは!」
「逃げ回るばかりで卑怯な奴だ!!」
騙されたとばかりに罵りつつ、兵士達は煙を払いながら果敢に進んで行く。だが、姿を追って飛び込んだ路地のその先にリチャードは見当たらない。ロングコート姿の男を探す兵士達は視線の先の見慣れない服装の人影に気付き、彼が待ち構えていたのかと身構えるが、
「残念ながら、私はお探しの方ではないです」
偏光バイザー越しに聞こえる流暢な共用語と、その奇妙な服装に彼等は思わず足を止めたが、膨らんだ胸元から相手が女だと判った瞬間、周囲の空気がじとりと湿度を増したように男達の雰囲気が変わる。しかし、見た目は女らしさそのものと呼ぶべき身体付きにも関わらず、手に持っている物が奇妙である。長く突き出た筒が束ねられて四角い箱に繋がっているのだが、その箱から銀色の太い帯が背中の大きな箱に伸びているのだ。
「……なあ、あんた。何者か知らんがこっちに男が来ただろう?」
それでも今は、呑気に女と戯れている場合ではない。先頭の兵士が型通りの質問をすると、相手は小さく肩を揺らしてから、
「ええ、来ましたよ。私が貴方達を屠る段取りですから、当然お見送り致しました」
丁寧な口調でそう言うと、右手に掴んでいたレバーのスイッチを入れる。途端に左手で支えていた箱と筒の境目から甲高い駆動音が鳴り、束ねられていた筒が高速で回転し始める。
「……私は女に似せて作られた偽物です。今際の際に見るとしては、さぞや無念でしょう」
そう告げながらアンは、スイッチの脇に設置されたトリガーを引いた。
狭い路地に、ヴヴヴヴヴヴヴオオオォッと言う重低音が木霊し、筒の先端から赤い炎が噴き出す。だが、その炎より更に先に居た筈の兵士達が、炙られた飴細工のように一瞬で砕け散り、後続の兵士の身体や路地の壁に血の飛沫が飛び散った。
「あ、ああ……!?」
「一体何が起こった……?」
全く状況が判らない兵士達が次第に正気に戻り始めたその時、アンは強化スーツ用の携行型集束機関銃を構えたまま、一歩踏み出した。
「装甲ヘリを撃墜する為の兵器ですから、人間が射線上に居た場合は照準をロック出来ない筈なんですが……私の論理回路は故障しているのでしょう」
淡々と語るアンに恐れを覚えて逃げ始める兵士達だが、彼女はその背中に銃口を向けたままトリガーを引く。再び発射炎が長く伸び、その先端から怒涛の勢いで飛び出す炸裂徹甲弾が最後尾の男を貫き、不規則に回転しながら更なる犠牲者の体内にめり込み爆発する。
路地に犇めきながら我先に逃げる兵士達だったが、大通りまでの距離一杯に徒党を組んでいた為、中にはつまづき倒れ仲間に踏み潰される者も現れるが、アンの無慈悲な銃口が向けられると一瞬で粉々になり骸と化した。




