⑫ガン・レクチャー
ベリテとワイルズの二人がリチャード達に捕らわれて、一週間が過ぎた。その間に何度か抜け出せる機会は有ったが、二人は逃走を選ばなかった。それはリチャードの真意を知りたかったからであり、そして銃がどのような物か更に詳しく知りたかったからである。
二人が逃げない事を理解したリチャードは、拘束する事は止めて地下施設内を自由に行動させていた。だが、武器庫だけは立ち入らないよう施錠している。
「まあ、いつ寝返るか判らぬからな」
「けれどベリテ様も私も、デルベトポリには戻れません」
「……それもそうだが、君も気になるだろう」
「それは……否定出来ません」
こうしてベリテとワイルズは地下施設を歩き回る自由を得て、未知の物資と銃を擁した彼等の観察を続ける。
(……あ、ワイルズさん。それとベリテさんも、こんにちは……)
作業机で何かを作るモルフを見つけた二人は、彼女が何をしているのか尋ねてみる。
(……これですか? これは、銃の弾を作っています)
彼女は掌に載せた沢山の小さな粒を握り締め、それを漏斗状に丸めた紙を使い薬莢に入れると金属の弾を載せ、プレス機に似た器具を使って圧縮し、一発一発手作りで銃弾を製造していた。
「この粉は……炭かな」
(……はい、これを変換して火薬に変えて、着火雷管を充填すれば出来上がりです)
「炭を燃やして玉を飛ばすのか?」
(……いえ、炭のままでは弾は出ないので……)
「では、どうやって……」
(……詳しくは判りませんが、私が炭を火薬に変えているからだと、思います……)
モルフはそう答えながら掌に載った炭粒を見詰め、ぎゅっと握り締める。すると、掌の隙間から光が溢れ出て二人は彼女が何らかの魔導を使用し、炭から火薬に変換していると気付く。
(……これでは、外部に銃を持ち出してもいずれ使えなくなりますね)
(ああ、彼女が作り出せる数は余り多くなさそうだからな)
小声で言い交わしながらそう結論付けた二人は、銃と銃弾を同時に入手する事を諦めた。そしてそのまま銃に触れる事すら出来ず、時が過ぎるかとベリテ達は思っていたが……
「……何だ、この格好は……いや、動き易いか?」
「ベリテ様、良くお似合いですよ」
ワイルズに続き、ベリテにも例の野戦服を与えたリチャードは、あろうことか二人に銃の試射に行こうと声を掛けたのだ。無論、Gパンにタートルネック姿のベリテは着替えさせられた後、そのまま地下施設内の試射場へと二人は案内された。
「……これはハンドガン。ごく一般的な口径の拳銃で誰でも簡単に撃てます」
非常に長細い部屋にやって来た二人は、まだ現地語に不馴れなリチャードの通訳兼案内役のアンに説明を受けながら、テーブルの上に並んだ銃を見せられる。
「最初に銃の安全装置を外し、弾倉内の銃弾をスライドを引いて装填したら……」
簡単に説明しながらアンはハンドガンを操作し、部屋の奥に立てられた鉄板の丸印に照準を合わせる。
「……最初は、身体全体で衝撃を受け流す為に、身体の正面に構えて撃ってください」
と、言いながらアンが引き金を引くと、乾いた破裂音と共に銃口が跳ね上がり、やや遅れて鉄板から甲高くカンッ、と音が鳴る。アンは銃口から硝煙の立つ銃をクルリと回してからベリテに向け、
「決して、相手に銃口を向けてはいけません。こうして相手から外して渡してください」
「……ああ、判った」
大人しく従いながら、アンから銃を受け取る。当然ながら掌にズシリと重みが伝わり、ベリテは思わず身体に力が入る。
「そんなに力んでは当たる物にも当たりません。肩の力を抜いて、身体全体で風を受け流す気持ちになって構えて狙ってください」
撃つ際に予測以上の衝撃が発生する為、アンはそう説明しながらベリテに持ち方と撃ち方、そして発射の際に生じる衝撃の逃し方を肘や手首に手を添えて教える。そして、ベリテは生まれて初めて銃を撃った。
「……当たらないな」
「撃つ瞬間、眼を瞑っては当たる物も当たりません」
アンにぴしゃりと言い放たれながら、ベリテはもう一度照準を鉄板に合わせて、引き金を引いた。
カンッ、と再び甲高い音が鳴り、鉄板の端に小さな凹みが刻まれる。
「……当たった……!」
「当たりましたね!」
「……当然です」
三者三様の感想を述べながら、ベリテは再度照準を合わせて引き金を引き、弾倉が空になるまで鉄板の丸印を狙い続けた。
「は、はは……う、腕がガクガクします……!!」
短機関銃をテーブルの上に置くと、ワイルズは半笑いの顔になりながらグローブを外した。彼女の右側には無数の薬莢が転がり、部屋の反対側に置かれた鉄板はボコボコに凹んでいる。
「最初より上手に狙えるようになりました。では、安全装置を掛けて弾倉を外し、スライドレバーを引いて銃身から弾丸を抜いてください」
ワイルズの脇に立ちながらアンが教授し、ようやく銃のレクチャーを終えたベリテとワイルズは、半ば放心状態になる。二人とも掌はジンジンと痺れ、聴力保護のイヤーパットを当てていたにも関わらず、残響のせいか頭がぼーっとしている。
「少し休みましょう。根を詰め過ぎても仕方ありません」
アンに諭されてテーブルから離れた二人に、リチャードは座って飲むといいと言いながら、コーヒー入りのカップを差し出す。当然、彼の言葉は判らないベリテとワイルズだったが、二人は素直に受け取ると椅子に腰掛けながら、一口啜る。
「……苦いな、しかし……悪くない」
ベリテがそう呟くと、ワイルズは小さく頷きながらもう一度飲み、ほうと吐息してからアンに問い掛ける。
「……あの、あなたとリチャードさんは……どうして銃の扱い方を教えるのですか?」
「……リチャードさんは、お二人が銃と自分達の事を知った上で、それでも御協力して貰えるなら、自分達と共にいて欲しいと願っています」
アンはリチャードの通訳を務めながら、ワイルズにそう答える。そして、彼の真意を二人に要約しながら話した。
銃の扱い方を教えられたベリテとワイルズは、その後も地下施設に留まり、更に様々な機械や設備を見て回った。電気、水道といったインフラ設備や、洗濯機や浄水器といった生活向上機器。それらは二人に新鮮な驚きを与えると同時に、今まで心中にわだかまっていた小さな疑問を膨らませていった。
「……リチャードは、あの銃や武器を使って国盗りを目論みはしないのか?」
ある日、ベリテは朝食の支度をしているアンに尋ねてみる。彼女は掛けていた白いエプロン(下は当然ながら野戦服のままだが)を外すと、立ったまま彼に答えた。
「それは有り得ません。リチャードさんはそうした野心は持っていませんし、それを成し遂げるだけの人員と資源も持ち合わせていないのですから」
「……ならば、あの武器をどうするつもりなんだ?」
ベリテの問いに、アンは簡潔に答える。
「銃とその他の武器は自衛と自治の為のみに使い、この世界に広めるつもりは無いでしょう」
「……自衛は判るが、自治とは一体……」
ベリテの疑問に、アンは更に簡潔に答える。
「それは直に判ります。あなたの故国から必ず、探索の兵隊が再びやって来ますから」




