⑪武器庫
「……ちょっと待ってくれ、武器だと?」
ベリテは余りにも突飛な説明に驚くが、アンは意に介さず、
「ええ、ここにリチャードさん達が集めた武器を保管しています。お二人に是非見て欲しいと思いましたので」
そう説明されたものの、彼はアンそしてリチャードの意図が理解出来なかった。だが、わざわざ見せてくれると言うなら従った方が良いだろう。そう考えてベリテは部屋の中へ一歩踏み込んだ。
「……これは……何と言うことだ」
部屋の中は照明が無く真っ暗だったが、ワイルズと共に中に入ったアンが傍らのスイッチを操作すると、明るく照らされた室内が隅々まで見えるようになる。だが、そこは黒と銀の二色に埋め尽くされていた。
壁際に並べられたテーブルの上に同型の拳銃が種類ごとに置かれ、鈍い光を放っている。そしてその横には短機関銃も同じように種類で分けられていたが、こちらは拳銃より若干少ない。そして部屋の中心に置かれた木枠には長短様々なライフル銃が立て掛けられ、その数は百丁以上有りそうだ。
「……こんなに沢山あるのか」
「ええ、良く集めたと言えます。但し、まだ調整を済ませていない物も沢山有りますが」
アンはそう言って別のテーブルを指差すと、そこには バラバラに分解されたライフル銃が置かれ、その内部構造が一目で判るようになっていた。
「こうして分解し、故障の元になっているパーツを同じ型の銃から移植して修理しています」
そう言いながらアンはテーブルに近付くと、下からガングリスのスプレーを取り、バネ部分に噴霧してから貯めていたパーツを取り出して組み付ける。
「そのままで使えないのか?」
「ええ、無理に使おうとすれば故障や噛み込みの原因になります。金属で出来ていますが、銃は繊細でデリケートな精密機械です」
手を拘束されながら、ベリテは部屋の中を歩きながら様々な銃を眺める。どれもアンの手によって磨かれ艶を帯び、綺麗に手入れされているようだ。無論、見た目だけではなく内部も整備されているのだろう。
「どうして油を吹くのですか?」
「これは錆止めと潤滑を兼ねています。錆は銃に致命的な損傷を与えますから」
話をしながら手元も見ず器用に整備をするアンに、ワイルズも質問する。その答えに感心しながら二人は銃の中身を見て、改めてその精巧さと構造に溜め息を漏らす。もし、この機械の図面を手に入れたとしても、同じ物を作り出す為に何年掛かるだろう。況して量産するなど夢のまた夢である。
「そう言えば、これは鉄の玉を打ち出すキカイなんですよね」
「ええ、銃弾を用いますが多種多様です」
そう言ってアンが指し示した区画には、拳銃を始め様々な銃の弾丸が積み上げられていた。小さい物は小指の先程度だが、大きい物は薬莢込みで指先から手首までの長さとそれに比類する太さである。もしそれが撃ち込まれたらと思うだけで、ワイルズは血の気が引く思いがした。
だが、そんな物見遊山気分が更に消え去る物が、銃弾の脇に置かれていた。それは長方形のたわんだ箱で、艶消しで緑色や茶色に塗られた弾薬箱に見えなくも無い。だが、それは二対の棒で屹立し、似た形式の物は見当たらない。
「これは何ですか?」
ワイルズが尋ねると、アンは実に素っ気なく答える。
「ええ、それは対人地雷です」
「……たいじん、じらい?」
「はい、人を殺傷する為の兵器です」
更に続けてアンが説明した内容は、ベリテ達の想像を上回るものだった。
「その箱は、中に鉄球が二千個入っています。それを電子着火で起爆させれば、放射状に爆風と鉄球がばら蒔かれます。その範囲内の人員は、確実に肉体を破壊されます」
「……銃より、強いんですか」
「そうとも言えます。起爆は遠隔で離れて行えますから、設置した者は安全な場所まで離れて操作出来ます」
要するに罠と同じ構造に、曲がりなりにも上級騎士を拝命していたベリテは絶句する。騎士としての誉れは何処に、と思う程、彼は殺傷の効率化に特化した兵器の数々に戦慄する。
「……何故、ここまで冷徹に人を殺す武器が作られたんだ……」
「それは単純です、相手より威力の高い兵器を用いて、戦争を早く終わらせようとしたからです」
「……早く終わらせる為に?」
「殺傷効率という発想が有ります。例えば一人の人間が五人を殺傷出来れば、その比率は一対五です。一人で百人殺傷出来れば比率は一対百。そして相手が五万人居るなら、自分側は五百人居れば相手を殲滅させられます」
「……つまり、一人が一万回戦うより、五百人で一対百の武器を使った方が早く終わる、と言う結論か……」
「その為の銃、そして対人地雷や他の大量殺傷兵器が必要なのです。早く戦争が終われば、資源や人命の浪費は抑えられます」
表情を変えず淡々と話すアンに、ベリテは再び不気味さを覚える。見た目は美しく見えるが、その中身は鉄のトゲを詰めた非情の兵器に等しい、そんな何かが言葉の裏に存在しているのだ。
「……お二人が抵抗を覚えるのも致し方無いでしょう。この世界はキル・レートの低い戦争が一般的ですから」
「……君は、どこから来たと言うんだ」
「その質問は答えられません。何故なら私は自分がどのようにして此処に来たのか、知らないのですから」
ベリテはそこで初めて、アンやリチャードが【迷宮】と同様に、自分達の世界に飛ばされて来た異端な存在なのだと確信した。遥かに進んだ文化が生み出した廃墟と化した巨大な建造物、そしてそこに残された様々な物資と武器。そして相手を冷徹に殺傷するリチャードとアンは【迷宮】と化した都市と共にやって来たのだ。その経緯は依然として判らないが。
「……但し、リチャードさんは私とこの都市とは違う世界から来たと思います」
「一緒にやって来たのでは無いのか?」
「違います。私がこの都市が無人の状態になってから初めて遭遇しましたが、彼は間違いなく異邦人です」
「……そうなのか……しかし、そこまで様々な事を、捕虜に吹聴して構わないのか」
「……ええ、リチャードさんは問題無いと言っています。お二人はこの事実を知ればきっと、脱走しなくなると」
武器保管庫から外に出たベリテとワイルズは、アンの手で拘束を解かれた。そして簡素な家具の揃った部屋に案内され、
「少しの間、ここで待ってください。食事の準備が整いましたら迎えに参りますから」
そうアンは言い残して去っていった。残されたベリテとワイルズは、ついさっき目の当たりにした武器の数々について話し合った。だが、短い時間で結論を着ける事は出来ず、二人の会話はアンの訪れにより、それきり途切れた。




