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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
二章

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⑥探索ニ日目



 デルベトポリ軍の派兵隊を率いて【迷宮】に挑む為、上級騎士のベリテは王都から遠く離れた元ヒラリエの北部領地に赴いた。百人の部下と部隊主従者達と共に【迷宮】へと到着した彼は、与えられた魔導具【忍耐の甲冑】を纏い、化け物がうごめく廃墟の踏破を目指した。




 「……おい、ありゃあデルベトポリの兵隊じゃねーか?」


 仲間の一人が気付き、農夫達は作業の手を休めながら、北に向かう街道を逸れて更に僻地へ続く寂れた道を目指す一団を眺める。農夫達は支配者層がヒラリエからデルベトポリに変わったが、彼等にとって領主が変わろうと生活や環境に然して変わりは無い。税を納める相手が、ヒラリエからデルベトポリに変わっただけだ。


 「……ふぅん、だからデルベトポリは【迷宮】に行く連中を足止めしてるのか」

 「何なんだ、そりゃ」


 農夫同士の世間話とはいえ、デルベトポリの執政者が彼等のような一般的な人々に行き渡る程、十分な情報統制と拡散を行えているのだろう。


 「ほら、【迷宮】に向かう為に寄れる最後の村があっただろ。で、今は周回馬車に荷運びしか許していないらしいぞ」

 「……そりゃ本当か? それじゃ探索者の連中は荒れてるだろ」

 「あー、そりゃ無いさ……逆らえば国から追い出されるからな」

 「じゃあ、あの兵隊は何しに行くんだ?」

 「さぁなぁ……大方、演習か何かじゃないか。それに先頭の馬車に長い羽根飾りが付いてるから、お偉いさんは上級騎士様だ。どちらにしても、関り合いにならない方が身の為だな……」


 そんな世間話を交わす農夫達に見送られながら、重武装の兵士達が【迷宮】を目指して行軍していく。無論、兵士達が命懸けで【迷宮】に挑む事を農夫達は知らなかった。




 ……ベリテ達が【迷宮】に到着し、半日が過ぎた。朝早く出発し日が暮れるまでに探索は終わる、そう信じて挑んだのだが。


 「ベリテ様、このままでは日が暮れてからの行軍になります。兵士達の損耗もありますし、士気が下がれば更に犠牲が増えるかと……」

 「……止むを得ん、一度野営地に戻るしかないか」


 ベリテは血を吐く思いで、部隊を退かせる事に同意する。夜になればグールによる兵士達への襲撃の他に、罠や仕掛けも見つけ難くなる。ベリテ達は【迷宮】の化け物だけでなく、元ヒラリエの残党と思われる者からの襲撃にも対抗しなければならないのだ。


 「しかし、あれだけ派手に襲って来たグールも、妙に静かだ……更に、残党の魔導も品切れになったか、急に止んだな」

 「その通りですね……きっと大掛かりな術式を施す為に時間が必要なんでしょう」


 ベリテと補佐官はそう言葉を交わしながら、グールの死体が散乱する通りを抜け、【迷宮】の西に向かって引き返していった。無論、野営地に戻っても帰れる訳ではない。明日再び【迷宮】に挑み、踏破を目指す事に変わりは無い。


 (……化け物連中はまだしも、一番犠牲を出したのが卑劣な魔導とは……)


 【忍耐の甲冑】を纏ったベリテには、並みの魔導の類いは効かない。稀少な魔導具に付与されている【豪腕】の術式は、装着者の腕力を著しく増加させると共に、身体全体の耐久力も常人を遥かに凌ぐ領域へと引き上げる。その付与効果は強大で、魔導に依る熱や電撃すら低減させてしまうのだ。だが、部下の兵士達は生身の人間で、彼のように魔導の加護も無い。


 (……遠征を早く終わらせないと、全滅も有り得る。例え自分一人が生き残っても……)


 当初は楽観していたベリテだったが、今や帰路を辿る彼の意識に一切の余裕は無かった。




 野営地に戻って来た兵士達は、部隊付きの従者が用意してくれた温かい食事に歓声を上げ、装備を外し身体を拭き浄めた後、各々の部隊は疲れを癒し、明日に向けて英気を養っていく。


 デルベトポリの戦場糧食は、この世界でごく一般的な物である。他の国と同様にレンガを馬車で運搬し素積みで簡易(かまど)を組み上げれば、煮炊きやパン焼きも行える。何故、そこまで手を掛けるのか? 答えは簡単で、軍隊は常に糧食の配給に神経を尖らせていないと、兵士達の士気低下に繋がりやがて厭戦気分に至る。そうなると脱走兵も増え、最悪になれば部隊ごと敵側に寝返る事すらあるのだ。


 それはさておき、竈を利用して彼等に供される料理は、塩漬け肉を水に晒して塩抜きして刻み、日持ちする野菜のタマネギやニンジン、そしてジャガイモをメインに使う。極めて一般的な煮込み料理だが、一般的な物と違うのが香辛料をふんだんに使い、疲れ切った時でも食欲を掻き立てる香りに満ち溢れていた。


 正に寝食を共にする仲間と、下らない冗談や猥談を言いながら囲むそれは、町で食べる食事とは比較にならない程旨い。因みにそれを供しているのは料理番と呼ばれる軍隊従事者であるが、彼等は負傷して前線から身を引いた者や調理経験を買われて請け負う兵士等である。


 部下達がそうしながら食事を採る様子を、離れた士官専用の天幕の前で眺めながら、ベリテは懐かしい思いに浸る。彼もそうして仲間と共に戦線を渡り歩き、生き延びて今の地位に就いた。無論、かつての仲間達は殆どが引退したか、命を落として姿を消していった。彼もそうして戦場から身を退く時が来るかもしれないが、それが何時かは判らない。


 (……だが、今回の遠征は……果たして命を賭けて成し遂げる意味があるのか? ……あの化け物だらけの廃墟に、それ程の価値が有るのか……)


 ベリテは誰にも告げられぬ苦悩に、手に持ったままの木匙きさじを浮かせて動けなくなる。そんな彼と篝火かがりびに照らされて揺れ動く天幕の間を、冷たい夜気に満ちた風が通り抜けていった。




 明くる朝、ベリテ達は再び【迷宮】を目指して進軍を始める。初日と違い、減った人数を加味し一団に纏まりながら進んでいく。無論、先頭はベリテが担い、部下を率いて挑む事になるが……。



 「……やはり、例の大将が先陣を切るか。もうグールで足止めしても効かないな……」


 双眼鏡で彼等の動きを眺めていたリチャードは、兵士達を先導する騎士をどうやって討ち取るか考える。だが、その一手は自分が担うべきではないかと思い、憂鬱な気分になる。


 「……グールを素手で倒すような奴だぞ、全く……」


 しかし、言葉と裏腹にリチャードは、沸々と沸き上がる戦意も同時に感じていた。あいつさえ倒せれば、俺の考える理想的な状況にまた一歩近付ける、と。


 「……それじゃ、後で化け物大将には退場してもらうか。勿論死んで、あの世にだけどな」


 彼はそう呟いて壁に近付き、吊るしてあったコートに袖を通す。そして使い慣れたショットガンを担いで、リチャードは戦場へと戻っていった。





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