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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
二章

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④戦場の食事



 「……成る程なぁ。あんな奴がウヨウヨ居たら、そりゃ戦争で負けやしない訳だ」


 【迷宮】でも群を抜く高さの廃墟。その上に陣取りながらリチャードは双眼鏡を覗き、遠く離れた通りの真ん中を進むベリテの姿に溜め息混じりで呟く。三ヶ月の間、彼は路地を走り回ってグールを誘導し、ある程度の障害として配置するまで漕ぎ着けたのに、たった一人の騎士のせいでその苦労が水の泡である。だが、相手の戦力が判ったのは有難い。


 「注意すべきは、あの大将か……それ以外は普通の連中みたいだな」


 最初の混乱から立ち直った配下の兵士達も、彼等なりに良くやっているように見える。無論、ベリテが押し寄せるグールを引き付けているからであり、個々の戦力としてみればモルフやミリオ達にも劣るだろう。


 「さて、それじゃ鞍替えするか。アンさんも気をつけてくれ」

 「……では、また後で」


 リチャードはそう言いながら高台の縁まで近付くと、心底嫌そうな顔をしながら吊り下げられたワイヤーに滑車を懸け、悲鳴を押し殺しながら滑り降りていった。




 「……四隊が、全滅した?」


 ベリテは【迷宮】の西に位置する元図書館跡地に陣地を築き、そこで各隊からの報告を聞いて表情を強張らせる。


 「はい、全滅した部隊は小隊長を含め全員……」

 「そんなにグールが湧いたのか?」

 「いえ、大半は魔導の類いでしょう。全身をズタズタに引き裂かれて黒焦げにされていたり、跡形も無く吹き飛ばされたようです……」


 補佐官から説明されたベリテは、相手の残酷なやり方に怒りを覚える。問答無用で皆殺しにするなど、正に血も涙もない連中の仕業としか思えなかった。


 「……やむを得ん。一度、各隊を集めて一団で進もう。これ以上の犠牲は最小限に止めたい」

 「了解しました、速やかに部隊を再編しましょう」


 冷静に答える補佐官を見送ると、ベリテは地面に曲刀を突き立てながらいきどおる。


 「……姿を隠したまま、卑怯な真似ばかりするとは……ヒラリエの残党め、全員生きたまま手足を落としても収まらんぞ……」


 兜の奥から殺意に満ちた眼差しを外に向け、ベリテは全身から異様な魔力を迸らせる。だが、魔導に疎い兵士達にその魔力が見える事は無いのだが、彼の発する気配にされて声を潜めた。



 「……撤退は有り得ん。いいか、我々は一刻も早く【迷宮】を踏破し、後続部隊を速やかに迎え入れられるようにつかわされたのだ!!」


 四つの部隊がついえ、意気消沈する生き残りの兵士達にベリテは、今日中に【迷宮】の東端まで到達する為に檄を飛ばす。無論、指揮下の兵士達は自ら志願した者のみ。だが、誰もが死にたい訳では無い事はベリテも理解していた。


 「……だが、我々も生きて戻らなければ、遠征する意味も無かろう。その為には腹を満たすのも必要だ。今は糧食を摂って英気を養おう」


 その言葉に兵士達は同意し、各々の部隊内で交代しながら食事を摂る事になった。だが、ここは悪名高い【迷宮】の只中である、悠長に食事を楽しむようなゆとりは無い。二人一組で片方が食事をし、もう片方が見張りをする。戦場では常にこうして時間と戦いながら、流し込むように食べる。


 デルベトポリの戦闘糧食は、水に葡萄酒を少し混ぜた物と固く焼き締めたパン、そして大型の塩漬け魚を干して短冊状に切った物。それらを交互に口に含み、良く噛んで水で流し込む。無論、味に文句を付けようも無い。行楽気分で味わえない環境で、空腹感を満たすだけだ。野営地に戻れば炊事担当が温かい食事を用意しているのだから、今はこれで我慢するしかない。




 「向こうは食事だな。なあ、こっちも食おうぜ?」

 (……そうですね、リチャードさんは構わないと言ってましたし)


 廃墟の上で双眼鏡片手に監視を続けていたモルフとミリオは、持ち込んでいた戦闘糧食の中からクラッカーにチョコスプレッドとピーナッツペースト、そして水筒(勿論これもこちら側の物ではない)に詰めたココアを取り出す。


 「どっちにする? 俺はピーナッツでいいよ」

 (……チョコの方が、良かったのでは……?)

 「いや、モルフが食べなよ」


 モルフに気を遣うミリオに、彼女は軽く頷くとクラッカーを二枚取り出し、両方に薄く塗ってからもう二枚で挟み、


 (……じゃ、半分づつ……でいい?)

 「ああ、いいよ」


 そんなやり取りを交わしながら、各々の手にクラッカーが渡る。勿論、二人ともチョコスプレッドを塗ったクラッカーは大好きだ。


 (……あむっ、……んん、美味しい……♪)


 サクサクと軽い歯応えのクラッカーと、チョコの甘く染み渡るような香ばしさが、モルフの舌の上で弾けるように広がっていく。思わず声を洩らすモルフに、皮肉抜きでミリオは呟いてしまう。


 「……いつ見ても、旨そうに食べるよな」

 (……だって、美味しいから……!)

 「ああ、そうだよな……俺もリチャードさんと出会うまでは、こんな旨いもん食った事ないし……」


 ミリオもそう言いながら口に運ぶと、これ以上の組み合わせがあるかと思う程の旨さだった。村でも似たような焼き菓子ですら、そう簡単に手に入らない上、甘い物なんて高級過ぎて見た事もない。そんな暮らしから一転、それまで痩せていたモルフがちょっぴりふくよかになる程の環境の変化である。


 「なあ、俺達さ……リチャードさんが居なかったら、どうなってたんだろ?」

 (……そうですね、きっと……何も、変わらなかったでしょう……)


 モルフはそう答えて、リチャードが現れてから我が身に起きた変化を思い出してみる。数を習い、十分な食事を与えられ、温かい寝床にも恵まれている。以前から比べれば夢のような生活だ。


 ……でも、引き換えに、私達は……


 そう思いながら、眼下のデルベトポリの兵士達を見る。グールに追われ、自分達が手を下し仲間を失い、それでも【迷宮】に向かって進み続けている。そう、今はモルフが彼等を討つ側に回っているのだ。身を隠し、死神の大鎌に等しい狙撃銃で狙いを定め、スコープ越しに命を奪う。


 ……マーシュさんが、私のしている事を見たら、何て言うだろう……


 リチャードに導かれたとしても、自分はデルベトポリの兵士を撃った。もしかしたら、自分はもうグール達と同じ存在なんじゃないか。そう思うとモルフはクラッカーの味が急に判らなくなる。慌てて水筒を開けてココアを一口飲むと、じわりと甘くほのかに苦い液体が喉を滑り降りていく。


 (……生きていれば、きっとどこかで、生き物を殺して食べてるのだから……)


 ココアの味に元気づけられたモルフは、自分に言い聞かせるようにそう思い、クラッカーの残りを口の中に入れた。やがて麻痺していた味覚が次第に戻り、再び甘さが口の中を満たす内に、じんわりと指先から血の気が湧き出して四肢へと巡っていく。


 ……誰だって、生きる為には何かを引き換えにしないと、いけないんだ。あの時と、同じように。


 モルフは初めて銃でグールを撃った時の記憶を思い出し、掌に力を籠めてギュッと握り締めた。







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