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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
二章

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20/64

①デルベトポリ



 「……十人がことごとく、か……」


 隣国との戦後処理に当たっていた士官の一人、ベリテは補佐官の報告を聞いた後、そう言って窓の外を見る。指揮下の兵員達が訓練を終え、宿舎に戻っていく姿が視界に入る。


 「……所詮、逃亡履歴の有る連中だ。事幸いと逃げた可能性も無くは無い。だが、問題は何処かだ」


 ベリテの言葉に補佐官は頷くと、彼の前に広げられた資料の一枚を手に取り、目を通す。そこには寒村のジルデアンタの文字、そして未知の土地を現す現地語を振られた【迷宮(ジ・メルデ)】の名称が記されていた。



 【迷宮(ジ・メルデ)】の存在が報告されたのは、デルベトポリの隣国、弱小国家のヒラリエを掌中に収めてから数ヵ月後の事だった。戦略的に軽視され積極的な併合を免れていた元ヒラリエのジルデアンタ村から離れた山中に、突如未知の街が現れた。当初は無人で有りながら害を成す化け物も確認され、わざわざ足を踏み入れるのは無駄だと国内では見向きもされていなかったのだが、ヒラリエの首都から北に離れたジルデアンタ村に持ち込まれる物資を見て、デルベトポリの支配者層の者達は息を飲んだ。


 しっかりと密閉され、中身の溢れない不可思議な袋。素手で開けるのは困難な頑丈な容器に詰め込まれた、出来立てに近い食品。そして使い方も判らぬ精密な機械と、それを封じ込めた透明で曇り一つ無い奇妙な箱。全てが未知の存在でありながら、決して模倣品が作れない様々な品は、その場所が現世と幽世の狭間に有るかと思わせられる程だった。


 そんな品々が人の行き交う事も希な寒村を基点に持ち出され、デルベトポリの富裕層の間で話題になっていたのだ。果たして自分達の技術で同じ物が作り出せるのか否か、そして戦争に負けた筈のヒラリエにはどれだけ持ち込まれていたのか。


 戦争に勝利し、国土併合も果たした。人的資源も増え税収も上がり、デルベトポリは過去に見ない活気を見せていたのだが、支配者層は満足出来なかった。確かに勝ったが、技術では負けているのではないか? 本当の力をヒラリエは隠しているのではないか? と疑心暗鬼に陥っていく。


 そして、その疑念を払拭すべくデルベトポリは小規模な派兵を決定する。その【迷宮(ジ・メルデ)】には何が有るのか、そしてジルデアンタの村にはどのような物資が持ち込まれていたのか。それらを調査すべく第一陣が十名送り込まれた。


 第一陣の兵士達は、先ず【迷宮】を迂回してジルデアンタ村に赴き、かの地でどのように物資が運び込まれているのかを調査した。結果、探索者と呼ばれる様々な国から集まった連中が危険を省みず【迷宮】に踏み入れ、その中の一握りが物資を持ち帰っているのだと理解出来た。その報告がデルベトポリ中枢に届くと、第二陣の派遣が決定された。その第二陣の目的は【迷宮】に侵入し、物資を持ち帰る事だった。


 だが、第二陣の兵士達は戻らなかった。先の戦争に参加した実戦経験者を選んで送り込まれたにも関わらず、彼等は一人も帰らなかったのだ。



 ……その後、第三そして第四陣まで投入され、未帰還で終わった事を切っ掛けに、デルベトポリはようやく重い腰を上げたのだ。派遣する兵士の数を十倍に増やし、更に指揮官を担当する者は対ヒラリエ戦争で戦果を上げた有能な者の中から選抜し、戦争の勝利すら左右する、貴重な魔導具を所持する許可まで与えたのだ。


 「……これで、やっと【迷宮(ジ・メルデ)】の真相が判ると言う訳か。全く、戦争に勝った国のする事と思えんが……」


 ベリテはそう言いながら立ち上がり、背後に置かれたキャビネットに近付くと、中に納められた魔導具を確かめるように触れながら、


 「……【迅速】と【鉄腕】の術式を施した甲冑か。これ一つで王都に屋敷が買える代物だと言うのに……」


 彼はそう言うとキャビネットの引き出しを閉め、補佐官に向き直って静かに伝える。


 「……明朝、指揮下の兵士を率いて【迷宮(ジ・メルデ)】に行くぞ。上の連中はとにかく結果を欲してる、そして俺も……知りたいものだ。そこに何があるのか……をな」




 明くる朝、隊長のベリテを先頭に馬車の車列が動き出し、一路ヒラリエの領地にある【迷宮(ジ・メルデ)】を目指して出発した。その数は百人、全員がヒラリエ攻略戦争の出兵経験者である。


 「……ベリテ様、三日後には到着しますが……」

 「ああ、勿論橋頭堡は確保する。相当な広さの上、人を喰らう化け物も居るらしいからな。一歩づつ着実に進むしか道は無いだろう」


 屋根付き馬車の上でベリテと補佐官は言葉を交わし、二人は長々と続く車列に見入る農夫を眺めながら、


 「……戦争が無かったら、俺達もああして眺める側だったかもしれんな」


 と、同じ郷里出身のベリテが呟き、補佐官の女性も静かに頷いた。



 それから三日掛けて馬車は進み、漸く【迷宮】が望める山並みの麓まで辿り着いた。無論、険しい山道を馬車は進む事は出来ない為、山麓に待機所を設けて野営の準備を進めていく。


 「……さて、残りの水と食料はどれだけ有るか」

 「……はい、百人の兵士を賄うなら、一週間が妥当かと思われます」


 たったの一週間か、とベリテは呟いてから、山の向こう側に待ち受ける【迷宮】を睨みつつ、 


 「……もし、ヒラリエの残党が野盗に扮して夜襲を掛けてくるとしたら、今が一番危険だな。周辺を良く偵察して報告させろ」

 「判りました。野営を進める傍ら、手の空いた者は順次見回るよう徹底させます」

 「ああ、そうさせてくれ。もし、俺がヒラリエなら……自分達の復興に関わる技術は漏洩させたくはないからな」


 そう言い交わし、一番先に設置された士官用の天幕へ足を向けた。




 ベリテの懸念は当たらず、夜になってもヒラリエの残党は一切襲ってこなかった。一見すると吉兆とも思えるが、ベリテの胸中は穏やかではない。


 (……俺達が思う程、ヒラリエの連中は重視していないのか、それとも……危険視すらされていないのか)


 彼はキャビネットの蓋を開けて甲冑に触れ、その独特な紋様と僅かに滲み出る魔力を指先で感じ、


 (……いや、杞憂か。これが有れば、俺が最後の一人になっても帰還は果たせるだろう。だが……)


 不意に持ち上がる恐怖の念に、ベリテは身をすくませる。


 (……百人の兵士を退けるような奴がもし居たならば、先の戦争に何故、その身を投じなかった? 母国の滅亡より優先する事が、果たして有るのか……)


 彼の持つ少ない情報では、そこまで考えるのが限界だった。そしてそれは、この世界での常識に囚われたベリテの限界でもある。しかし、その疑問に答えが出た時、彼は自らの常識を全て覆される。





 黒地に金色の紋様を施された魔導具、【忍耐の甲冑】を身に着けたベリテは、馬上から指揮下の兵士達に発令する。


 「……全員、剣を抜け! これより我々は【迷宮】を踏破する!!」


 おおおおぉっ!! と、応える男達の声に背中を押されながら、ベリテは馬の手綱を引き絞る。動き出した兵士達は彼の脇を抜けて瓦礫を避け、倒壊した廃墟が立ち並ぶ【迷宮】の入り口から侵入し、周辺から何者かが襲い掛かるのを警戒しつつ、ゆっくりと進んでいった。




 【 ……リチャードさん、約百名のデルベトポリ兵が指揮官と共にやって来ます…… 】


 モルフの報告にリチャードは頷き、引き続き監視を続けてくれと彼女にインカムを通して声を掛ける。


 「……さて、歓迎会を始めようか」








 

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