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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
一章

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2/64

①暗い建物



 (……デルベトポリ? どこの町の名前なんだろう)


 リチャードはそう思いながら挙げていた腕を下げ、改めて向き合っていた彼女を観察する。


 相変わらず薄汚れた上着とぶかぶかのズボン、それに革袋より僅かにましな靴を履いたその娘は、左右で違う瞳の色が特徴的な以外、特に目立つ点は無い。しかも、この殺伐とした場所に居るような人種には見えず、どちらかと言えば街中のパン屋で働いているような大人しい印象である。


 「悪いが、ここは何処なんだい? どうにも自分が居る場所が判らないってのは、ひどく居心地が悪いもんでね」


 彼女を安心させようとしてリチャードは話し掛け、ついでに掴んでいたショットガンをスリング(肩掛け紐)で肩に掛けてから壁に囲まれた通路を見回してみる。


 足元には踏み潰された空き缶や砕けた木箱が散乱し、この場所が人の出入りしていた空間に繋がっているのだと判る。壁の照明も良く見れば細い電線で繋がり、その線は垂れ下がりながら視界の隅まで延々と続いている。軍事施設の地下壕か、地下室同士を繋ぐ手掘りの通路の類いだろうか。


 (……本当にデルベトポリの人じゃないんですね。でも、あなたのような格好の人はジルデアンタには居ないんですが)


 彼女がそう小声で呟き、また知らない土地の名前が出てきたかとリチャードはため息が出そうになった。だが、今は少しでも情報が欲しい彼は彼女に話を合わせる事にした。


 「ジルデアンタってのは、君が居る町の名前かな。俺はリチャード・ハイマンっていって……」


 自分からそう名乗ってから、どこまで話して良いのかと暫し考える。だが、少なくとも目の前の娘が敵国の兵士には見えない。かといって、全て話せる程信用出来るか判らない。


 「……まあ、今は所属する部隊がどこに居るのか判らなくてね。はぐれ者だって事だけは確かさ」

 (……はぐれ者、ですか。でしたら、ジルデアンタに来ても問題は有りませんよ)


 相変わらず小さな声の彼女だが、どうやらリチャードの返答で警戒心を強める事は無いようだ。そう安心した彼に向かって、娘は初めて表情を和らげて答える。


 (……私は、ジルデアンタに住むモルフといいます。さっきまで他の方々と一緒だったんですが、はぐれてしまったので……)


 ようやく身の安全が確保出来た安堵感からか、少しだけ饒舌になったモルフは、


 (……あの、もし宜しければ……ジルデアンタまで戻れるよう、一緒に行きませんか)


 そう提案し、彼の返答を不安げな顔になりながら待つ。無論、地の利に疎いリチャードにしてみれば承諾するに越した事はない。だが、詳細な状況が判らないままジルデアンタに行き、敵性分子だと疑われて捕まるのも願い下げだ。


 「ああ、それは構わないんだが……もう少し、ここらの事を話しながらでいいかい?」

 (……はい! それでしたら道々お話いたします!)


 モルフにそう伝えると、彼女は嬉しそうに宜しくお願いしますと言いながら手を差し出した。その手は細く頼り無げで弱々しかったが、リチャードが握り返してやるとほんのりと温かく、その体温をてのひらに感じた彼はモルフを守ろうと心に誓った。



 薄暗がりの通路を二人で進むと、曲がり角の先で緩やかな登り坂へと変わり、やがて大きな建物の中に出た。だが、リチャードの記憶の中に似たような構造物は全く無く、軍事施設というより倉庫か何かに近い場所だった。


 その建物の中を抜けながら、モルフから様々な状況を教えて貰う。先ず、ジルデアンタと呼ばれる場所は二人が居る場所から歩いて一日程の長閑(のどか)な農村らしい。だが、属する国が長く続いた戦争で壊滅し、今は頼るべき後ろ楯を失っている状態なのだとか。そして、デルベトポリとはその戦争で勝利した敵国で、時折ジルデアンタに使者を寄越しては自分達の属領になるよう促して来るそうだ。


 「……そりゃあ難儀だな。それでジルデアンタの人は、デルベトポリに併合されても良いって思っているのかい?」

 (……いえ、住人の大半は未だ戦争で犠牲になった肉親の仇敵だと言って、要求に応じるつもりは無いそうです)


 そんな複雑な状況を知り、リチャードは何処でも戦争の火種は尽きないものだな、と思いながら歩みかけ、足を停めた。


 (……何かありました?)

 (……静かに、この先に何か居るみたいだ)


 モルフに尋ねられたリチャードは、小声で答えながら彼女を下がらせて姿勢を低くするよう伝え、自分だけ先に進むと大きな空の木箱の陰でしゃがみ、向こうの様子を窺う。


 (……っ? 何だあいつ……人の死体を食ってるのか!?)


 すると、半裸に近い格好の何者かが、地面に転がる死体に群がりながら肉を貪り、互いに威嚇し合いながら恐ろしい食宴に耽っていた。どうやら相手は二体居るようだが、人間の表皮を全て裏返し血管を剥き出しにしたような醜悪な見た目に、リチャードは視線を逸らしたくなる。


 (……リチャードさん、あれは悪鬼(グール)です……食われているのはデルベトポリの派兵ですが、あんな死に方だけは……)


 彼の後ろまで近付いたモルフから告げられたリチャードは、まるで地獄絵の中から抜け出してきたようなグールの姿に吐き気を覚えつつ、しかしデルベトポリの兵士の傍らに落ちていた時代がかった剣が目に入り小声で囁いた。


 (……なあ、モルフさん。あの剣は何なんだ? 随分な骨董品が地面に転がってるなんて珍しいが……)

 (……えっ? リチャードさんはデルベトポリの……いえ、剣を見た事が無いんですか?)


 驚く彼女の様子に、彼は改めて剣と元デルベトポリ兵の死体を交互に見比べていると、兵士は前時代的な鉄板を組み合わせた甲冑の胸当てを着けていた。


 「……何なんだよ、ここは……産業革命はどこにいっちまったんだ?」


 思わずそう呟いたその時、彼の声に勘づいたのかグールの一体が冷えきった死体から視線を離し、二人が隠れていた木箱の方を睨むと、牙を剥いて喉から絞り出すような雄叫びを上げた。


 「グ、グオオオォッ!!」

 「くそっ、見つかっちまったか!」


 どうやらグールは冷めた死体より、まだ温かい肉の方に興味が移ったらしく、リチャード達目掛けて一体、また一体と駆け寄ってくる。だが、つい先程まで敵と遭遇する事を予想していた彼にしてみれば、食欲のみに支配されて無警戒に駆けて来るグールは、正に良い的でしかない。


 「モルフ、下がってろ!」


 そう叫びながら彼女を守る為に立ち塞がり、肩に提げていたショットガンを構え、ポンピングを行い弾丸を詰めた薬莢を装填し、近付くグールの首元に狙いを定めて発射した。


 ……グゥオンッ!! と、強大な炸裂音と共に飛び出した四発の鋼鉄弾は、吸い込まれるようにグールの胸部を貫通し、更にその背後に続く二体目のグールの頭と腹に拡散しながら着弾する。一体目のグールは前向きの姿勢から叩き上げられたように宙を舞い、二体目のグールもやや威力を削がれたものの、身体の半ばまで到達した鋼の弾に臓器を破壊され、血を吐きながら歩みを止めて膝を突いた。


 「……全く、化け物に絡まれるなんて思ってもみなかったな……」


 ジャコッ、と再びポンピングして排莢と装填を行いながら、リチャードは襲い掛かってきたグールが死んだと判断し、モルフの方に身体を向け掛けた。だが、振り向いた彼の視線の先で彼女は、立ち上がる二体目のグールに悲鳴を上げかけ、その様子に気付いたリチャードが振り返るのと、仕留め損ねたグールが血を吐きながら彼に飛び掛かるのは同時だった。


 しかし、一気に距離を詰める為に跳躍しながら牙を剥き、リチャードの喉元に食らい付こうとするグールを、彼は冷静にショットガンの銃床(ストック)で殴り払うと、先に着けた銃剣を頭に突き立てて止めを刺した。


 (……あっ、ええぇっ……!!? はわわぁ……)


 モルフは彼のショットガンの威力と、その後の鮮やかな手捌きに言葉を失い、腰を抜かしてへにゃりと座り込んだ。


 「おいっ、大丈夫か!? ……あっ……」


 思わず彼女の元に駆け寄ったリチャードだが、モルフが顔を赤くしながら俯いて眼を伏せる姿と、そして僅かに漂う臭いで全てを察した。そんな彼にしてみれば、彼女の粗相を処理する方が、襲い掛かって来たグールを倒す事よりも遥かに難題だった。




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